行政書士 行政法 問67:取消訴訟の管轄・審査請求前置主義
行政事件訴訟法が定める取消訴訟の管轄および審査請求前置主義に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア取消訴訟は、被告である国または公共団体の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所(国の場合は東京地方裁判所)にのみ提起することができる。
- イ国を被告とする取消訴訟は、常に東京地方裁判所に提起しなければならない。
- ウ取消訴訟は、法律に審査請求に対する裁決を経た後でなければ訴えを提起することができない旨の定めがある場合(審査請求前置)には、裁決を経た後でなければ提起できないことが原則であるが、正当な理由がある場合や裁決が著しく遅延している場合は、裁決を経ずに提起することができる。正答
- エ取消訴訟における審査請求前置は、全ての行政処分について法律で義務付けられており、取消訴訟を提起する前には必ず審査請求を経なければならない。
- オ行政事件訴訟法上、取消訴訟は処分または裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所にのみ提起することができる。
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ウが正しいです。法律が審査請求前置を定めている場合でも、行訴法8条2項は例外を認めています。①審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき、②処分・裁決・執行等により生ずる著しい損害を避けるために緊急の必要があるとき、③その他正当な理由があるとき、は裁決を経ずに取消訴訟を提起できます。アは誤りで、取消訴訟は被告の普通裁判籍(国の場合は東京)だけでなく、処分・裁決をした行政庁の所在地の裁判所にも提起できます(12条)。イも誤りで、国を被告とする場合でも原告の所在地の裁判所に提起できる場合があります(12条4項)。エは誤りで、審査請求前置は法律が特別に定めた場合のみであり、一般的な原則ではありません(自由選択主義が原則)。オは誤りで、12条は複数の管轄を認めています。
取消訴訟の管轄(12条):
取消訴訟は以下の裁判所に提起できます(いずれかを原告が選択可):
1. 被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所(国の場合は東京地裁、地方公共団体の場合はその所在地の地裁)
2. 処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所
3. 不動産・土地に関する処分の場合、その不動産・土地の所在地を管轄する裁判所(12条2項)
4. 国または独立行政法人等を被告とする場合、原告の所在地(住所・主たる事務所等)を管轄する高等裁判所の所在地の裁判所(12条4項・特定管轄裁判所制度)
審査請求前置主義の例外(ウが正しい根拠・8条2項):
法律が審査請求前置を定めている場合の例外(裁決を経ずに訴えを提起できる場合):
1. 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
2. 処分・裁決・執行等により著しい損害が生ずるおそれがあって緊急の必要があるとき
3. 裁決を経ないことについて正当な理由があるとき
自由選択主義が原則(エが誤りの根拠): 原則として、処分の相手方は行審法上の審査請求と行訴法上の取消訴訟のいずれを先に提起するか(または同時並行するか)を自由に選択できます(自由選択主義)。審査請求前置は例外であり、個別法が特に定める場合(国税通則法・土地収用法等)に限られます。
【管轄裁判所の詳細(12条の全体構造)】
行訴法12条は取消訴訟の土地管轄を柔軟に設定することで、原告の訴訟提起の便宜を図っています。
12条1項(基本的な管轄):被告の普通裁判籍の所在地または処分・裁決をした行政庁の所在地のどちらかを管轄する裁判所に提起できます。これにより原告は①被告(行政主体)の所在地と②処分した行政庁の所在地のどちらかを選択できます。
12条2項(不動産・土地関連処分):その不動産または土地の所在地を管轄する裁判所でも提起できます。土地に関する処分(農地転用許可・都市計画事業認可等)で、現地の裁判所が紛争内容の調査に便利という趣旨。
12条3項(関連請求の移送):関連する請求を異なる裁判所で提起した場合の移送規定。
12条4項(特定管轄裁判所制度・国または独立行政法人等が被告の場合):国または独立行政法人等を被告とする取消訴訟は、原告の所在地(住所・居所・最後の住所・法人の主たる事務所・営業所等)を管轄する「特定管轄裁判所」(当該住所地を管轄する高等裁判所の管轄内の地方裁判所)に提起できます。これにより地方在住の原告が東京地裁まで出向かずに訴訟提起が可能になります(2005年の特定管轄裁判所制度の導入)。
アの誤りの詳細:「東京地方裁判所にのみ」という限定は誤り。国を被告とする場合でも処分した行政庁の所在地(例:大阪にある財務局の処分→大阪地裁)や特定管轄裁判所(原告の住所地を管轄する地裁)への提起が可能です。
【審査請求前置の政策的意義と批判】
審査請求前置主義の採用根拠(立法者の意図):
1. 行政の専門性活用:複雑な行政判断(税務・土地収用等)について、行政内部の専門的審査を経させることで訴訟の整理・絞り込みができる
2. 司法負担の軽減:行政段階での解決により取消訴訟の件数を削減
3. 迅速な解決:行政審査で解決できれば訴訟より早い
審査請求前置への批判:
1. 国民の司法救済へのアクセスを制約する(裁判を受ける権利(憲法32条)との緊張)
2. 行政が「自分の行為を審査する」不公正性(もっとも2016年の行審法改正で審理員・行政不服審査会による公正性向上がなされた)
3. 審査請求期間(3か月)の徒過や裁決の遅延により、取消訴訟を提起できなくなる不利益
8条2項(例外規定・ウの根拠)はこの批判への制度的対応です。特に「審査請求から3か月経過しても裁決なし」という規定は、審査請求前置が原告を「裁決待ち」の状態で長期間放置することを防ぎます。
【自由選択主義と審査請求前置の適用場面】
自由選択主義(原則):行審法7条2項「審査請求をすることができる処分につき処分をした行政庁が定める法令の規定がある場合を除き…審査請求と訴訟を選択できる」(正確な条文は行訴法8条1項の趣旨)。処分の相手方は審査請求と取消訴訟を自由に選択(並行提起も可)できます。
審査請求前置の主な適用場面(個別法が定めている場合):
- 国税に関する処分(国税通則法115条・ただし審査請求→国税不服審判所の裁決を経ること)
- 土地収用法上の裁決(土地収用法133条)
- 健康保険法上の処分
- 介護保険法上の処分
これらは法律が「裁決を経た後でなければ訴えを提起できない」旨を明記している場合です。
自由選択主義が原則であることの帰結:審査請求前置の定めがない処分については、①審査請求のみ、②取消訴訟のみ、③審査請求と取消訴訟を並行して提起(二本立て)のいずれも選択できます。ただし審査請求中に取消訴訟を提起すると、裁判所は審査請求の裁決が出るまで訴訟手続を中止することができます(行訴法8条3項)。
【根拠条文】
行政事件訴訟法 第8条第1項(自由選択主義・審査請求前置の定めがある場合の原則)、第8条第2項(審査請求前置の例外:裁決なしの訴え提起が許される場合)、第12条第1項(基本的管轄)、第12条第2項(不動産関連処分の管轄)、第12条第4項(特定管轄裁判所制度)
【補足】
審査請求前置は「法律が特別に定めた場合のみ」(一般原則は自由選択主義)。前置があっても3か月裁決なし・緊急・正当理由があれば裁決前提起可(8条2項)。管轄は被告所在地・処分庁所在地・特定管轄裁判所(国被告の場合は原告所在地の管轄地裁も可)の複数から選択可。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第12条(管轄)・第8条(審査請求前置主義の例外) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。