行政書士 行政法 問77:国賠法1条・公務員の故意過失・職務行為性
国家賠償法第1条第1項の成立要件に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア国賠法1条の「公務員」には、国・地方公共団体の職員だけでなく、法令に基づいて公権力の行使に当たる身分を有する者(みなし公務員を含む)も含まれるとするのが一般的な解釈である。
- イ公権力の行使に当たる公務員が職務を行うにあたり故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合、被害者は加害公務員個人に対して直接損害賠償を請求することができる。正答
- ウ公務員個人が故意・重過失で違法な公権力の行使を行った場合であっても、被害者に対しては国または公共団体が賠償責任を負い、加害公務員個人は被害者に対して直接の賠償責任を負わない。
- エ国賠法1条の「職務を行うにあたり」という要件は、客観的・外形的に職務の執行と認められる行為であれば足り、公務員が個人的な利益を図る意図で行動していたとしてもこの要件を満たしうる(外形標準説)。
- オ国賠法1条の「違法」の意義については、当該公務員の行為が客観的に法に違反していることで足り、職務行為に通常要求される注意義務基準への違反(職務行為基準説)でとらえることもできるとされている。
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イが誤りです。国家賠償法1条に基づく損害賠償責任は、加害行為を行った公務員個人ではなく、国または公共団体が負います。判例(最判昭和30年4月19日)は、被害者は加害公務員個人に対して直接損害賠償を請求することはできないと判示しています。これは国賠法の「代位責任」的構造(国・公共団体が公務員に代わって責任を負う)を示すものです。一方、ウは正しい記述です。公務員個人が故意・重過失であっても、被害者への責任は国・公共団体が負い、公務員個人はあくまで国・公共団体に対する求償(国賠法1条2項)の問題となります。
国賠法1条の構造を整理します。被害者への賠償責任の主体は国または公共団体であり、加害公務員個人は被害者に対して直接の賠償責任を負いません(イが誤りの核心・最判昭30.4.19)。これに対し、国・公共団体が賠償した後、加害公務員に故意または重過失がある場合には、国・公共団体は当該公務員に対して求償することができます(国賠法1条2項)。この「故意または重過失」という要件が、求償の場合にのみ登場する点が重要です(単なる過失では求償できない)。
各選択肢の正誤を確認します。アは「みなし公務員も含む」として正しい。国や地方公共団体の職員だけでなく、法令に基づいて公権力の行使に当たる場合(公証人・収用委員会の委員等)も「公務員」に含まれます。エは外形標準説を正確に説明しており正しい。公務員が個人的動機であっても、外形上職務執行と認められれば職務行為性が肯定されます。オは「違法」の解釈として職務行為基準説を挙げており、その記述自体は学説の一つを正確に紹介しています。違法の解釈については行為不法説・結果不法説(違法性の相関関係説)等の対立がありますが、本選択肢は「職務行為基準説」という有力説を誤りなく紹介しています。
【理論的背景】
国家賠償法1条の法的性質については、自己責任説(国・公共団体が自ら責任を負う)と代位責任説(公務員の責任を国・公共団体が代わって負う)の対立があります。判例は、被害者は加害公務員個人に対して直接請求できないとする立場(最判昭30.4.19)から、実質的に代位責任説的な結論を採用しているとも評価できます。ただし学説上は「自己責任説の方が論理的に一貫する」とする見解も有力です。公務員個人への直接請求を否定することで、公務員が職務を萎縮なく遂行できるという政策的意義もあります。
【実務・条文構造】
1条責任の成立要件(5要素)を整理します。①公権力の行使に当たること、②公務員であること(みなし公務員含む)、③「職務を行うにあたり」の職務行為性(外形標準説)、④故意または過失、⑤違法性、⑥損害・因果関係——これらが揃って1条責任が成立します。求償(1条2項)の要件は「故意または重過失」であり、単純な過失では求償できない点が重要な区別です。この求償制限は公務員が「軽過失程度では個人財産を持ち出さなくてよい」という保護を与え、職務遂行の積極性を確保する設計です。
【試験での位置づけ】
行政書士試験では「被害者は加害公務員個人に直接請求できる(×)」「求償要件は故意または重過失(○)・単純過失でも求償できる(×)」「外形標準説の内容(公務員の主観的意図を問わず外形で判断)」が繰り返し出題される核心論点です。特に「イの誤り(加害公務員への直接請求可)」のような誤肢は、民法709条の不法行為責任の常識(加害者本人に請求)と混同させる典型的な引っかけです。国賠法は民法の特別法であり、この点での差異を意識的に区別する必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア(正): 国家公務員・地方公務員のほか、公権力の行使を付与された私人(特定郵便局長時代・会計検査院検査官等)も「公務員」に含まれます。身分よりも「公権力の行使を担っているか」が判断基準です。
- イ(誤・正答): 被害者は国・公共団体にのみ賠償請求できます(最判昭30.4.19)。加害公務員個人への直接請求は国賠法上認められません。民法の不法行為(709条)との決定的な差異です。
- ウ(正): 1条2項の求償は「故意または重過失」が必要。故意・重過失がある公務員に対しては求償できますが、「被害者への直接責任」は依然として国・公共団体が負います。
- エ(正): 外形標準説により、公務員が職務と無関係の個人的目的で行動していても、外形上職務執行と見える場合は職務行為性が認められます(例:警察官が私的喧嘩に拳銃を使用した場合等を外形から判断)。
- オ(正): 違法性の解釈として職務行為基準説(当該職務に通常要求される注意義務に違反したか)は有力な学説の一つです。客観的行為不法説(法規違反の客観的存在)との対比で理解してください。
【根拠条文】
国家賠償法 第1条第1項(公権力の行使による損害賠償)、国家賠償法 第1条第2項(求償権)
【参照判例】
最判 昭和30年4月19日(公務員個人への直接の損害賠償請求を否定)
【補足】
「被害者→国・公共団体に請求(○)」「被害者→公務員個人に直接請求(×)」「国・公共団体→公務員に求償(故意・重過失要件)」の3方向の請求構造を図として整理すること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国家賠償法 第1条第1項・第2項 判例: 最判昭和30年4月19日(公務員個人の賠償責任否定に関する判例) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。