行政法78国賠法1条・違法性・過失の判断基準

行政書士 行政法 問78:国賠法1条・違法性・過失の判断基準

国家賠償法第1条第1項の「故意又は過失」および「違法」に関する次の記述のうち、判例・通説の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。

  • 国賠法1条の「過失」は、加害行為をした特定の公務員個人の主観的な認識・注意能力を基準とするため、その公務員が新任であり職務に不慣れであった場合は過失が否定されることがある。
  • 公権力の行使が客観的に違法であれば、国賠法1条の「故意又は過失」は当然に認められるため、違法性と過失は実質的に一体として判断される(違法・過失一元論)。
  • 最高裁判例によれば、国賠法1条の「違法」は、当該公務員が職務上尽くすべき注意義務に違反したかどうかを基準として判断されるとされている。正答
  • 判例上、規制権限を有する行政機関が権限を行使しなかった(不作為)場合、その不作為は常に国賠法1条の違法とはならないとされている。
  • 国賠法1条における「違法」の有無は、行政行為が取消しうべき瑕疵を持つかどうかと同じ基準で判断されるため、取消訴訟で取消し判決が確定した行政行為の被害者は、常に国家賠償請求が認容される。
正答:最高裁判例によれば、国賠法1条の「違法」は、当該公務員が職務上尽くすべき注意義務に違反したかどうかを基準として判断されるとされている。

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ウが正しい記述です。最高裁は国賠法1条の「違法」の判断基準として、「当該公務員が職務上通常尽くすべき注意義務に違反したかどうか」という職務行為基準説(行為不法説)を採用した判例を積み重ねています。アは誤りです。「過失」は特定の公務員個人の主観的能力ではなく、当該職務に通常要求される客観的な注意義務の水準(客観的過失・抽象的過失)を基準とします。新任かどうかで基準は変わりません。オも誤りです。取消訴訟での取消しと国賠法上の「違法」は必ずしも同一の概念・基準ではなく、取消判決があっても国賠の違法・過失要件が常に満たされるわけではありません。

標準試験対策の基準レベル

国賠法1条の「違法」と「過失」の解釈は、行政書士試験での頻出論点です。違法の判断基準については、①行為不法説(客観的な法違反があれば違法:取消訴訟の違法と連動)、②結果不法説(違法は被侵害利益・侵害態様等の総合評価)、③職務行為基準説(職務上尽くすべき注意義務への違反が違法かつ過失を構成する)が対立しています。判例(最判平成元年11月24日等)は職務行為基準説に親しい立場を採用することが多く、ウの記述はこれを正確に反映しています。

過失の判断基準については、客観的・抽象的過失(当該職務に通常要求される注意義務水準への違反)が基準であり、特定の公務員の個人的な主観的能力や経験年数は関係ありません(アが誤りの根拠)。違法と過失の関係については、職務行為基準説のもとでは両者が事実上一体的に判断されるという見方もありますが(イが記述するような「一元論」的処理)、理論上は「違法」と「過失」は別要件として維持されています。エは「規制権限の不行使は常に違法とならない」としていますが、判例は一定要件のもとで不作為型の国賠責任を認めています(筑豊じん肺事件等)。オは「取消し判決=国賠認容」としていますが、両者の「違法」概念は別個であり直結しません。

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【理論的背景】

国賠法1条の「違法」概念は行政法学上の最難関論点の一つです。行政行為の取消訴訟における「違法」(法規の客観的違反)と、国家賠償における「違法」が同一かどうかについて、判例・学説は長年議論を重ねてきました。取消訴訟の違法(行為不法)と国賠の違法を同一に解すれば、取消判決さえあれば国賠の違法も自動的に認められることになります(オのような誤解を生む)。しかし最高裁は、取消訴訟での取消しがあっても国賠の「違法」・「過失」が常に認められるわけではないとした判例(在宅投票制度廃止事件・最判昭57.4.1等)を示しており、両者の「違法」概念は必ずしも同一でないことを示唆しています。

【実務・条文構造】

職務行為基準説が実務上重要な理由は、行政庁の行為が形式的に法令に違反していても、職務上通常期待される注意水準を尽くしていれば過失なし(国賠不成立)となりうる点にあります。逆に、明確な法令違反がなくても、職務上の注意義務を著しく怠ったと評価されれば国賠責任が成立しうる点も含意します。不作為型国賠責任の成立要件(最判平16.4.27筑豊じん肺等)としては、①規制権限を行使する法的根拠・権限が存在すること、②被害の発生・拡大を防止するためにその権限を行使することが、社会通念上合理的に期待できる状況にあったこと(作為義務)、③それにもかかわらず権限を行使しなかったこと(不作為の違法)——が必要とされます。

【試験での位置づけ】

本問が問う論点は「過失の客観的基準(アの誤り)」「職務行為基準説(ウの正しさ)」「不作為の国賠(エの誤り)」「取消判決と国賠の関係(オの誤り)」の4つを一問でカバーする複合問題として出題されることがあります。特に「取消し判決があれば国賠も当然認められる(×)」という誤解は頻出の引っかけです。行政書士試験では記述式でも「不作為の国賠責任が成立するための要件」が問われることがあります。

【各選択肢の発展補足】

  • ア(誤): 過失の判断は客観的・抽象的基準(reasonable public official 基準)によります。新任・ベテランで基準が変わらない点は民法上の一般的な過失の概念(善良な管理者の注意)と同様です。特定人の個人的能力・経験値で判断するのは主観的過失論で、採用されていません。
  • イ(誤): 違法・過失一元論的な処理も実務上ありますが、理論上は別概念です。「客観的に違法であれば当然に過失も認められる」という命題は成り立たず、違法行為でも過失なしと判断されることがありえます。
  • ウ(正): 職務行為基準説の正確な表現。「職務上通常尽くすべき注意義務に違反したか」という基準で「違法性」を判断する学説・判例の立場を反映しています。
  • エ(誤): 不作為型の国賠責任は一定要件のもとで成立します(常に違法とならないわけではない)。筑豊じん肺訴訟(最判平16.4.27)・水俣病事件(最判平16.10.15)等が重要判例。
  • オ(誤): 取消訴訟の「違法」と国賠の「違法」は概念が異なります。在宅投票制度廃止事件(最判昭57.4.1)は、立法行為の違憲性があっても国賠法上の違法・過失となるには別途の要件が必要としました。取消し判決と国賠認容は自動的に連動しません。

【根拠条文】

国家賠償法 第1条第1項(故意又は過失・違法要件)

【参照判例】

在宅投票制度廃止事件(最判 昭和57年4月1日・立法不作為と国賠違法)、筑豊じん肺訴訟(最判 平成16年4月27日・規制権限不行使の国賠責任)

【補足】

「過失は客観的注意義務基準(主観的能力は問わない)」「職務行為基準説が判例の立場」「取消し判決=国賠認容ではない(別概念)」の3点を確実に押さえること。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国家賠償法 第1条第1項 判例: 最判昭和57年4月1日(在宅投票制度廃止・「過失」の判断基準)、最判平成元年11月24日(税務署長の課税処分・職務行為基準説) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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