行政書士 商法・会社法 問30:取締役の任期・欠格事由・登記
株式会社の取締役に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされるが、非公開会社においては定款によって10年以内まで伸長することができる。
- イ法人は取締役になることができず、法人の代表者等の自然人であっても、その法人を代表して行動する限り取締役になることはできない。正答
- ウ取締役は株主でなければならないという規定は会社法にはなく、定款に別段の定めがない限り、株主以外の者が取締役に選任されることがある。
- エ取締役の選任は株主総会の決議によって行われるが、設立時取締役は、設立時の発起人全員の同意(または創立総会)によって選任される。
- オ取締役の氏名および代表取締役の氏名・住所は、会社の登記事項とされており、取締役が就任・退任した場合は、2週間以内に登記の変更を申請しなければならない。
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取締役の資格・任期に関する問題です。イが誤りです。会社法331条1項は取締役の欠格事由を定めていますが、「法人は取締役になることができない」と定めています(331条1項1号)。しかし「法人の代表者等の自然人が取締役になることができない」という規定は存在しません。つまり、ある法人の代表者である自然人個人が、別の会社の取締役に就任することは当然可能です。イは「法人の代表者等の自然人であっても…取締役になることはできない」と述べており、これは明らかな誤りです。アの非公開会社の任期伸長(332条2項)・ウの株主資格不要・エの設立時取締役の選任・オの登記義務はいずれも正しい内容です。
イが誤りの根拠(331条の欠格事由の正確な理解)
会社法331条1項が定める取締役の欠格事由:①法人(法人は取締役になれない)、②会社法・一般社団財団法人法(等)の特定の罪を犯し刑に処せられた者で一定期間を経ていない者(刑事欠格)、③その他特定の欠格事由に該当する者。
「法人はなれない」が「法人の代表者(自然人)もなれない」ではない点が重要です。たとえば株式会社Aの代表取締役田中という人物が、個人として株式会社Bの取締役に就任することは何ら問題ありません。これは「法人の代表として取締役に就任する」のではなく「田中個人として取締役に就任する」という理解です。
各選択肢の確認
- ア: 正しい。公開会社は2年以内(332条1項本文)、非公開会社は定款で10年以内に伸長可(332条2項)。監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員でない者)は1年以内(332条3項)。
- ウ: 正しい。取締役に株主資格は不要(332条は株主性を要件としていない)。定款で「株主でなければならない」と定めることは可能(331条2項・公開会社は不可)。
- エ: 正しい。発起設立では設立時取締役は発起人全員の同意で選任(40条1項)、募集設立では創立総会で選任(88条)。
- オ: 正しい。登記事項(911条3項13号等)と変更登記期間2週間(915条1項)。
【理論的背景:取締役の欠格事由の立法趣旨】
会社法が「法人は取締役になれない」(331条1項1号)と定める理由は「自然人でなければ取締役としての職務を現実に執行できないから」です。取締役は会社と委任関係に立ち(330条)、善管注意義務・忠実義務を負うほか、総会への出席・説明義務(314条)、取締役会への出席・意見表明等の職務を直接に行う必要があります。法人はこれらを自ら行うことができず、必然的に自然人たる代表者を通じて行動しますが、そうなると責任の所在が曖昧になります。そのため法人の欠格を明記し「誰がどの職務に個人として責任を負うか」を明確化しています。
【実務・条文構造:任期の変形パターン一覧】
取締役の任期は会社の種類・設定によって大きく異なります。
| 会社の種類 | 原則任期 | 短縮・伸長 |
|---|---|---|
| 公開会社(取締役会設置) | 2年以内 | 定款・総会決議で1年に短縮可(332条1項ただし書) |
| 非公開会社(取締役会設置) | 2年以内 | 定款で10年以内に伸長可(332条2項) |
| 監査等委員会設置会社の取締役(監査等委員でない者) | 1年以内 | 332条3項 |
| 監査等委員である取締役 | 2年以内(定款・総会決議で短縮不可) | 332条4項 |
| 指名委員会等設置会社の取締役 | 1年以内 | 332条6項 |
非公開会社の10年伸長は「家族経営等の中小会社で、毎回総会での選任コストを省く」という実務上のニーズに対応したものです。
【試験での位置づけ:登記義務と不実登記の問題】
取締役の登記(911条3項13号)とその変更登記(915条1項・2週間以内)は行政書士試験で出題されます。重要な関連論点として「不実登記と第三者保護」があります。会社法908条2項は「不実の事項を登記した者は、善意の第三者にその事項が不実であることを対抗することができない」と定めます。たとえば「辞任した取締役が登記上まだ取締役として残っている場合、善意の第三者はその者を取締役と信じて行動することができ、会社はその責任を問われうる」という問題が生じます(表見取締役・不実登記の問題)。実際、最判昭47.6.15はこのような場合に一定の条件で会社の責任を認めています。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」という表現は条文(332条1項本文)の正確な引用。2年ちょうどではなく「最終事業年度に関する定時総会の終結時」であることに注意(途中で任期が来ることはない)。
- イ: 「法人の代表者が別の会社の取締役になる」ことは現実に多くあります(たとえば親会社の取締役が子会社の取締役も兼任する場合)。利益相反の問題(365条・356条)は生じうりますが、欠格事由にはなりません。
- オ: 915条1項の「2週間以内」は変更があった日から起算します。代表取締役の就退任は経営の中枢情報であり、取引安全・公示の観点から迅速な登記変更が義務付けられています。正当な理由なく怠ると過料の制裁(976条1号)があります。
【根拠条文】
会社法 第331条第1項(取締役の欠格事由)
会社法 第332条第1項・第2項(取締役の任期)
会社法 第911条第3項第13号(株式会社の登記事項)
会社法 第915条第1項(変更登記の期間)
【補足】
「法人はなれない」≠「法人の代表者(自然人)はなれない」の区別が最重要。任期は公開会社2年・非公開10年まで伸長可・監査等委員会設置会社は監査等委員でない取締役は1年、の三パターンを整理。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第331条(取締役の資格)・第332条(取締役の任期) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。