行政書士 商法・会社法 問32:監査役・監査役会の権限と独立性
株式会社の監査役および監査役会に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア監査役は、取締役会の決議事項について議決権を持たないが、取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければならない。
- イ監査役の任期は、原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされ、公開会社では定款によっても短縮することができない。
- ウ監査役は、会社と取締役との間の訴訟において会社を代表し、また取締役が法令・定款に違反する行為をするおそれがある場合、その行為の差止めを請求することができる。
- エ監査役会は、監査役全員で組織され、その半数以上は社外監査役でなければならず、監査役会は監査報告の作成や常勤監査役の選定・解職を行う。
- オ監査役の報酬等は、定款または株主総会の決議によって定められるが、監査役が複数いる場合の各監査役への配分は取締役会の決議によって行われる。正答
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監査役の権限・地位に関する問題です。オが誤りです。監査役の報酬等は定款または株主総会の決議によって定められますが(387条1項)、監査役が複数の場合の各監査役への配分は「監査役の協議によって」定めます(387条2項)。取締役会の決議によるのではありません。これは監査役の独立性(取締役・取締役会から独立して監査を行う)を確保するための規定です。取締役会が各監査役への報酬配分を決定できるならば、報酬をちらつかせて監査役を支配できるからです。ア(意見陳述義務)・イ(4年任期・公開会社での短縮不可)・ウ(代表権・差止請求)・エ(半数以上社外監査役・監査報告作成)は正しい内容です。
オが誤りの根拠(387条2項の「協議」)
387条は段階的に規律します。①387条1項:監査役の報酬等の「総額」は定款または株主総会の決議で定める。②387条2項:監査役が複数の場合の各人への配分は「監査役の協議によって定める」。つまり配分の決定権は「監査役自身の協議」にあり、取締役会には委ねられません。これは監査する側(監査役)が監査される側(取締役会)に報酬配分を決定させると独立性が失われるためです。
他の選択肢の確認
- ア: 正しい。383条1項。
- イ: 正しい。監査役の任期は選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで(336条1項)。取締役(332条1項ただし書)と異なり、監査役の任期は定款・株主総会決議によっても短縮できないのが原則(独立性確保のため)。非公開会社に限り、定款で10年以内まで伸長可能(336条2項)。「公開会社では定款によっても短縮できない」とするイは正しい。
- ウ: 正しい。会社と取締役間の訴訟における会社代表(386条1項)、取締役の違法行為差止め請求(385条1項)。
- エ: 正しい。監査役会の構成(390条1項)・半数以上社外監査役(335条3項)・常勤監査役の選定(390条3項)・監査報告の作成(390条2項1号)。
【理論的背景:監査役の独立性確保の多層的な仕組み】
会社法が監査役の独立性を確保するために採る制度は複数あります。①任期の長期固定(4年・原則短縮不可):任期中に解任されれば正当な理由なき解任として損害賠償請求可能(339条2項)。②解任の特別決議要件(309条2項7号):通常の役員解任(普通決議)より厳格な要件。③報酬の協議制(387条2項):取締役会が報酬配分を決定できない。④辞任した監査役の意見陳述権(345条1項):辞任理由を株主総会で述べる権利。⑤取締役からの選任候補の同意権(343条1項):監査役の選任に監査役会の同意が必要。これらが重層的に機能することで、監査役が経営陣の意向に左右されることなく独立した監査を行える環境を整えています。
【実務・条文構造:監査役の権限の四類型】
監査役の権限は大きく四つに分類できます。
1. 調査権限(381条2項・3項):いつでも取締役・使用人に事業報告を求め、業務・財産の状況を調査できる。子会社にも必要な報告を求め調査できる(子会社は正当な理由がなければ拒絶できない)。
2. 報告受領権・是正権限(382条):取締役が法令・定款違反や著しく不当な事実を発見したときは監査役に報告する義務があり、監査役はこれを受けて行動する。
3. 差止め請求権(385条1項):取締役が法令・定款違反の行為をするおそれがある場合、会社に著しい損害を生じるおそれがあるときは、その行為の差止めを請求できる。仮処分との連動も実務上重要。
4. 訴訟代表権(386条1項・2項):会社が取締役に対して(または取締役が会社に対して)訴訟を提起するとき、監査役が会社を代表する。これは取締役同士が訴訟相手方になる場合の利益相反回避のための規定。
【試験での位置づけ:監査役と取締役会の関係の頻出比較】
行政書士試験では「監査役の権限」と「取締役会の権限」の区別が頻出です。①会社と取締役間の訴訟における代表→監査役(386条)vs 代表取締役(349条4項の原則)。②差止め請求→監査役(385条)vs 株主(360条)の比較(監査役は著しい損害のおそれで足りるが、株主の差止めは回復困難な損害を要する:360条1項)。③報酬の決定→監査役は「協議」(387条2項)、取締役は「取締役会または委任された取締役の個別決定」(361条2項・3項・4項)という違い。④任期→監査役は4年(短縮制限あり)、取締役は2年(公開会社)で定款・総会決議で1年に短縮可(332条1項ただし書)という違い。
【各選択肢の発展補足】
- イ: 監査役の任期は4年が原則で、取締役のような「定款・総会決議による短縮」は認められません(336条には短縮規定がなく、伸長規定(2項)のみ存在)。非公開会社では定款で10年まで伸長できる(336条2項)一方、公開会社・非公開会社いずれも定款による短縮はできない点が、1年に短縮できる取締役(332条1項ただし書)との大きな違いです。これは監査役の独立性を任期面から保障する趣旨です。
- エ: 社外監査役の「半数以上」要件(335条3項)は監査役会設置会社(大会社の公開会社等)に適用。常勤監査役の選定(390条3項)は監査役会の権限であり、監査役会の全員が出席する会議で行います。監査報告の作成(390条2項1号)も監査役会の権限ですが、各監査役は独自に監査報告書を作成する義務もあります(381条1項)。
- ウ: 386条の「取締役と会社との間の訴訟」には、会社から取締役への責任追及訴訟・取締役から会社への訴訟(報酬請求等)が含まれます。株主が訴訟担当として提起する株主代表訴訟(847条)では監査役が会社を代表して応訴・判決を受けます。
【根拠条文】
会社法 第335条第3項(監査役会の構成・社外監査役の要件)
会社法 第336条第1項(監査役の任期・4年・短縮不可)・第2項(非公開会社での10年伸長)
会社法 第385条第1項(監査役の差止め請求)
会社法 第386条第1項・第2項(会社と取締役との間の訴訟における監査役の代表)
会社法 第387条第1項・第2項(監査役の報酬等)
会社法 第390条第1項〜第3項(監査役会の権限・常勤監査役)
【補足】
報酬配分が「監査役の協議」(387条2項)で取締役会ではない点が最重要。差止め請求(385条・著しい損害のおそれ)と訴訟代表(386条)は権限の核心。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第387条(監査役の報酬等)・第390条(監査役会の権限) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。