問題
株主による取締役の責任追及に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
えらぶと、この端末に記録します(登録はいりません)
解説
株主代表訴訟に関する問題です。イが誤りです。株主代表訴訟(847条以下)で株主が勝訴した場合、認容された損害賠償は会社に帰属します。株主代表訴訟は「会社が提訴すべき責任追及訴訟を株主が会社に代わって行使する」という会社の権利の代位行使であり、株主自身の損害賠償請求権を行使するものではありません。したがって認容額は会社に帰属し、株主は費用の補償(852条1項)を受けるにとどまります。アの60日待機・ウの多重代表訴訟・エの補助参加の限定・オの訴権の濫用による却下はいずれも正しい内容です。
イが誤りの根拠(株主代表訴訟の法的性質)
株主代表訴訟(847条1項)は、会社(法人)が本来持つ取締役への責任追及権(423条の損害賠償請求権)を、株主が会社に代わって行使する制度です(民事訴訟法の「法定訴訟担当」に類する構造)。そのため訴訟の効果(判決・和解)は会社に帰属し、賠償金も会社に入ります。株主は「会社への賠償を実現した」という間接的な利益(保有株式価値の回復等)を得るにすぎません。
株主への直接の経済的報酬として認められるのは「訴訟費用・弁護士費用等の相当額の補償請求」(852条1項)のみです。これは株主が自己の利益ではなく会社の利益のために提訴するコストを、会社が一定範囲で負担するという仕組みです。
他の選択肢の確認
- ア: 正しい。847条3項(60日の待機期間)。急迫の場合は即時提訴可(847条5項)。
- ウ: 正しい。多重代表訴訟(847条の3):完全親会社の株主が完全子会社の取締役の責任を追及できる。
- エ: 正しい。849条1項(当事者の一方を補助するための参加)・849条3項(会社が取締役側に補助参加するには監査役等の同意が必要)。
- オ: 正しい。847条1項(不正の目的・濫用的提訴の否定)・訴権の濫用法理による却下の可能性。
【理論的背景:株主代表訴訟制度の設計と機能的限界】
株主代表訴訟制度は、会社が取締役を訴えることを避ける(仲間内のかばい合い等)場合に、株主が直接経営監視機能を発揮するための制度です。1950年代にアメリカのデリバティブ・スーツ(derivative suit)を参考に導入され、1993年(平成5年)の商法改正で提訴手数料が一律8200円になったことで利用が急増しました(現行会社法では訴額の計算方法が変わっている)。
制度の機能的限界として「訴権の濫用」問題があります。株主が私怨・経営支配の奪取・外部圧力のために代表訴訟を提起するケースがあり、847条1項は「不正の目的(自己もしくは第三者の不正な利益を図り、または当該株式会社に損害を加えることを目的)」の場合は提訴を認めない旨を規定しています。
【実務・条文構造:多重代表訴訟(847条の3)の要件と射程】
令和元年改正(2021年施行)で導入された多重代表訴訟(847条の3)の要件:
①提訴権者:完全親会社(A社)の株主(Aの株式を保有)。ただし公開会社では6か月前から引き続き保有・非公開会社は期間制限なし。
②対象会社:A社の完全子会社(B社)。「完全子会社」とは親会社が発行済株式の全部を保有する場合(「総株主の議決権の100%を直接・間接に保有」する場合に限る)。
③対象取引:B社(完全子会社)の取締役の責任追及。
④B社株式の重要性:責任原因事実が生じた日において、最終完全親会社等(A社)およびその完全子会社等が保有するB社株式の帳簿価額が、A社の総資産額の5分の1を超えること(847条の3第4項・「特定責任」の重要性要件)。※「B社の総資産」ではなく「A社が保有するB社株式の帳簿価額」とA社総資産の比較である点に注意。
多重代表訴訟の目的は「グループ企業の組織再編(完全子会社化)によって株主代表訴訟の提訴機会が失われること(子会社の株主でなくなるため)を防ぐ」ことにあります。
【試験での位置づけ:株主代表訴訟の手続の詳細】
行政書士試験では株主代表訴訟の手続の各段階が問われます。
1. 事前請求(847条3項):株主は会社(監査役設置会社では監査役)に書面・電磁的方法で提訴請求。
2. 60日待機(847条3項):60日以内に会社が提訴しない場合に自ら提訴可。急迫の場合(消滅時効の完成が迫る等)は即時提訴可(847条5項)。
3. 担保提供命令(847条の4第2項):被告取締役の申立てにより、裁判所が株主に担保提供を命じることがある(悪意による濫用的提訴の抑止)。
4. 補助参加(849条):株主等・株式会社等は当事者の一方を補助するため参加可(849条1項)。会社が「取締役の側」に補助参加するには、監査役設置会社では各監査役の同意が必要(849条3項)。
5. 勝訴後の費用補償(852条1項):勝訴(または一部勝訴)した株主は会社に対して弁護士費用等の合理的な額の補償を請求可能。
【各選択肢の発展補足】
- イ: 「認容額が株主に帰属しない」理由の理解:株主代表訴訟は会社の訴訟担当による代位行使であり、損害賠償の受取人は本来の債権者である会社です。株主が直接「自分への賠償」を求める制度ではありません。これが株主の「間接損害」が429条1項によっても直接には回収できない理由の一つでもあります(株主は429条1項では直接損害分のみ回収可能とする判例の理解との連関)。
- ウ: 多重代表訴訟の「重要性要件」(親会社が保有する子会社株式の帳簿価額が親会社総資産額の5分の1超・847条の3第4項)は実務上重要。要件を満たさない小規模子会社については多重代表訴訟を使えないため、通常の親会社の取締役(子会社管理を怠った点での責任)への代表訴訟で対応することになります。
- エ: 会社が「取締役側に補助参加する」には監査役等の同意を要する(849条3項)理由:会社が被告取締役を支援する補助参加は、取締役同士のかばい合いにより制度の実効性を失わせるおそれがあるため、取締役から独立した監査役等の判断を経させるものです。
【根拠条文】
会社法 第847条第1項・第3項(株主による責任追及等の訴え・事前請求・待機期間)
会社法 第847条の3(完全親会社の株主による特定責任追及の訴え=多重代表訴訟)
会社法 第849条第1項・第3項(訴訟参加)
会社法 第851条・第852条第1項(費用補償)
【補足】
代表訴訟の「認容額は会社に帰属・株主への費用補償のみ」(イが誤り)が最重要。多重代表訴訟の要件(完全子会社・重要性5分の1超・847条の3)は新設規定として必須知識。
- 会社法第847条・第847条の3・第849条・第851条e-Govで原文を読む
- 民事訴訟法e-Govで原文を読む
- 商法e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第847条(責任追及等の訴え)・第849条(訴訟参加)・第851条(費用補償) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

