商法・会社法40株主代表訴訟・多重代表訴訟

行政書士 商法・会社法 問40:株主代表訴訟・多重代表訴訟

株主による取締役の責任追及に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 株主が取締役の責任を追及するための訴えを提起するには、原則として事前に会社(監査役)に対して書面で提訴を請求し、会社が60日以内に訴えを提起しない場合に自ら提訴することができる。
  • 株主代表訴訟において株主が勝訴した場合、認容された損害賠償額は会社に帰属するのではなく、提訴した株主に帰属する。正答
  • 令和元年会社法改正(2021年施行)により導入された多重代表訴訟制度は、完全親会社の株主が、子会社の取締役の責任を追及する訴えを子会社に代わって提起することを認めるものである。
  • 株主代表訴訟において、取締役側から訴訟参加した会社が株主の請求を棄却する判決を求めることができるかについて、会社法は「株主の側への補助参加」のみ認め、取締役側への補助参加は禁止している。
  • 株主代表訴訟を提起した株主が、会社の損害を回復する目的によらず、専ら取締役を害する目的で訴えを提起した場合、その訴えは不適法として却下されることがある。
正答:株主代表訴訟において株主が勝訴した場合、認容された損害賠償額は会社に帰属するのではなく、提訴した株主に帰属する。

AI解説(初心者・標準・上級)

理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。

初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

株主代表訴訟に関する問題です。イが誤りです。株主代表訴訟(847条以下)で株主が勝訴した場合、認容された損害賠償は会社に帰属します。株主代表訴訟は「会社が提訴すべき責任追及訴訟を株主が会社に代わって行使する」という会社の権利の代位行使であり、株主自身の損害賠償請求権を行使するものではありません。したがって認容額は会社に帰属し、株主は費用の補償(852条1項)を受けるにとどまります。アの60日待機・ウの多重代表訴訟・エの補助参加の限定・オの訴権の濫用による却下はいずれも正しい内容です。

標準試験対策の基準レベル

イが誤りの根拠(株主代表訴訟の法的性質)

株主代表訴訟(847条1項)は、会社(法人)が本来持つ取締役への責任追及権(423条の損害賠償請求権)を、株主が会社に代わって行使する制度です(民事訴訟法の「法定訴訟担当」に類する構造)。そのため訴訟の効果(判決・和解)は会社に帰属し、賠償金も会社に入ります。株主は「会社への賠償を実現した」という間接的な利益(保有株式価値の回復等)を得るにすぎません。

株主への直接の経済的報酬として認められるのは「訴訟費用・弁護士費用等の相当額の補償請求」(852条1項)のみです。これは株主が自己の利益ではなく会社の利益のために提訴するコストを、会社が一定範囲で負担するという仕組みです。

他の選択肢の確認

  • ア: 正しい。847条3項(60日の待機期間)。急迫の場合は即時提訴可(847条3項ただし書)。
  • ウ: 正しい。多重代表訴訟(847条の3):完全親会社の株主が完全子会社の取締役の責任を追及できる。
  • エ: 正しい。849条1項(株主側の補助参加)・849条3項(会社の取締役側への補助参加禁止)。
  • オ: 正しい。847条1項(不正の目的・濫用的提訴の否定)・訴権の濫用法理による却下の可能性。
上級誤答論破・条文/判例まで深掘り

【理論的背景:株主代表訴訟制度の設計と機能的限界】

株主代表訴訟制度は、会社が取締役を訴えることを避ける(仲間内のかばい合い等)場合に、株主が直接経営監視機能を発揮するための制度です。1950年代にアメリカのデリバティブ・スーツ(derivative suit)を参考に導入され、1993年(平成5年)の商法改正で提訴手数料が一律8200円になったことで利用が急増しました(現行会社法では訴額の計算方法が変わっている)。

制度の機能的限界として「訴権の濫用」問題があります。株主が私怨・経営支配の奪取・外部圧力のために代表訴訟を提起するケースがあり、847条1項は「不正の目的(自己もしくは第三者の不正な利益を図り、または当該株式会社に損害を加えることを目的)」の場合は提訴を認めない旨を規定しています。

【実務・条文構造:多重代表訴訟(847条の3)の要件と射程】

令和元年改正(2021年施行)で導入された多重代表訴訟(847条の3)の要件:

提訴権者:完全親会社(A社)の株主(Aの株式を保有)。ただし公開会社では6か月前から引き続き保有・非公開会社は期間制限なし。

対象会社:A社の完全子会社(B社)。「完全子会社」とは親会社が発行済株式の全部を保有する場合(「総株主の議決権の100%を直接・間接に保有」する場合に限る)。

対象取引:B社(完全子会社)の取締役の責任追及。

B社株式の重要性:責任原因事実が生じた日において、最終完全親会社等(A社)およびその完全子会社等が保有するB社株式の帳簿価額が、A社の総資産額の5分の1を超えること(847条の3第4項・「特定責任」の重要性要件)。※「B社の総資産」ではなく「A社が保有するB社株式の帳簿価額」とA社総資産の比較である点に注意。

多重代表訴訟の目的は「グループ企業の組織再編(完全子会社化)によって株主代表訴訟の提訴機会が失われること(子会社の株主でなくなるため)を防ぐ」ことにあります。

【試験での位置づけ:株主代表訴訟の手続の詳細】

行政書士試験では株主代表訴訟の手続の各段階が問われます。

1. 事前請求(847条3項):株主は会社(監査役設置会社では監査役)に書面・電磁的方法で提訴請求。

2. 60日待機(847条3項):60日以内に会社が提訴しない場合に自ら提訴可。急迫の場合(消滅時効の完成が迫る等)は即時提訴可(847条3項ただし書)。

3. 担保提供命令(847条7項):被告取締役の申立てにより、裁判所が株主に担保提供を命じることがある(悪意による濫用的提訴の抑止)。

4. 補助参加(849条):株主・監査役等はいつでも株主側に補助参加可(849条1項)。会社は「取締役の側」に補助参加することはできない(849条3項)。

5. 勝訴後の費用補償(852条1項):勝訴(または一部勝訴)した株主は会社に対して弁護士費用等の合理的な額の補償を請求可能。

【各選択肢の発展補足】

  • イ: 「認容額が株主に帰属しない」理由の理解:株主代表訴訟は会社の訴訟担当による代位行使であり、損害賠償の受取人は本来の債権者である会社です。株主が直接「自分への賠償」を求める制度ではありません。これが株主の「間接損害」が429条1項によっても直接には回収できない理由の一つでもあります(株主は429条1項では直接損害分のみ回収可能とする判例の理解との連関)。
  • ウ: 多重代表訴訟の「重要性要件」(親会社が保有する子会社株式の帳簿価額が親会社総資産額の5分の1超・847条の3第4項)は実務上重要。要件を満たさない小規模子会社については多重代表訴訟を使えないため、通常の親会社の取締役(子会社管理を怠った点での責任)への代表訴訟で対応することになります。
  • エ: 会社が「取締役側に補助参加できない」(849条3項)理由:会社が被告取締役を支援する補助参加をすることは、会社が自ら提訴義務を怠って株主に代わりに提訴させた趣旨に反し、制度の実効性を失わせるためです。

【根拠条文】

会社法 第847条第1項・第3項(株主による責任追及等の訴え・事前請求・待機期間)

会社法 第847条の3(完全親会社の株主による特定責任追及の訴え=多重代表訴訟)

会社法 第849条第1項・第3項(訴訟参加)

会社法 第851条・第852条第1項(費用補償)

【補足】

代表訴訟の「認容額は会社に帰属・株主への費用補償のみ」(イが誤り)が最重要。多重代表訴訟の要件(完全子会社・重要性5分の1超・847条の3)は新設規定として必須知識。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 会社法第847条(責任追及等の訴え)・第849条(訴訟参加)・第851条(費用補償) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

関連論点

株主代表訴訟・多重代表訴訟頻出度B

商法・会社法の他の問題

1
商人の意義・固有の商人と擬制商人
2
商行為の種類・絶対的商行為と営業的商行為
3
商業登記の効力・登記事項の対抗力
4
商号・商号選定の自由と制限
5
支配人の権限・表見支配人
6
商事売買の特則・売買の目的物の検査・通知義務

全365問・科目別に解いて、行政書士に最短合格

行政法・民法・憲法を科目別に攻略。各問に根拠条文・判例とAI解説(3レベル)付き。