行政書士 憲法 問55:憲法
違憲審査制(憲法81条)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア最高裁判所は違憲審査権を有するが、下級裁判所は違憲審査権を有しないとするのが日本の通説・判例の立場である。
- イ日本の違憲審査制は「抽象的違憲審査制」を採用しており、具体的な事件・紛争の解決とは切り離して、法律の違憲性を抽象的・独立的に審査することができる。
- ウ違憲判断の方法には「法令違憲(法律そのものが違憲)」と「適用違憲(法律の特定の場合への適用が違憲)」があり、裁判所はどちらの判断方法も採ることができる。正答
- エ最高裁判所が特定の法律を違憲と判断した場合、その判決の効力はその事件の当事者間にのみ及ぶ(個別的効力説)というのが日本の判例の通説的な解釈であるため、国会は別途立法措置を講じる義務は一切負わない。
- オ条約は内閣が締結し国会が承認する国際法規範であるため、裁判所は条約の違憲審査を行うことができず、最高裁判所は条約を違憲と判断した事例は現在に至るまで存在しない。
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日本の違憲審査制(憲法81条)は、具体的な事件の解決に付随して違憲審査を行う「付随的違憲審査制」を採用しています。ウの「法令違憲と適用違憲のどちらの方法も採ることができる」という記述は、判例・通説が認める違憲審査の方法を正確に表現しており正答です。アは「下級裁判所は違憲審査権を持たない」としている点が誤りです(下級裁判所も違憲審査権を行使できると解されています)。イは「抽象的違憲審査制」という点が誤りです(日本は「付随的違憲審査制」を採用)。エは「国会は立法措置を講じる義務が一切ない」という断定が強すぎ、誤りです(違憲判決後の立法措置が事実上求められます)。
違憲審査制の基本論点を整理します。①付随的違憲審査制(日本の採用方式):具体的な事件・紛争の解決に付随する形で、その事件の解決に必要な限りで法令の違憲性を審査します(イの「抽象的違憲審査制」は誤り)。②下級裁判所の違憲審査権:81条は「最高裁判所は終審裁判所として違憲審査権を有する」と定めますが、これは最高裁が終審であることを示すものであり、下級裁判所も違憲審査権を有すると解するのが通説(アが「下級裁は違憲審査権なし」とする点が誤り)。③法令違憲と適用違憲の区別:「法令違憲」は法律それ自体が憲法に違反するという判断。「適用違憲」は法律自体は合憲でも、その法律を特定の事案に適用することが違憲という判断。両者の選択は裁判所の裁量であり、最小限の違憲判断(法令全体ではなく適用場面に限定する)という観点から適用違憲の方が慎重なアプローチとも言えます(ウが正答の根拠)。④違憲判決の効力:最高裁が法律を違憲と判断した場合、その効力は「その事件の当事者間にのみ及ぶ」(個別的効力説・対世的効力なし)とするのが通説・判例です。ただしエが「国会は立法措置を講じる義務が一切ない」とするのは誤りで、違憲判決後は事実上立法改正が求められます(民法上の違憲規定削除等の立法例)。⑤条約の違憲審査:付随的違憲審査制のもとでも条約は審査の対象となりうると解されています(「条約を違憲と判断した事例が存在しない」こと自体は事実ですが、審査権がない訳ではない。オが「審査できない」とする点が誤り)。
【理論的背景】
違憲審査制には①付随的違憲審査制(アメリカ型・日本型)と②抽象的違憲審査制(ドイツ・オーストリア型)があります。①は具体的な事件の解決に付随してのみ違憲性を審査できる(「事件性の要件」を必要とする)。②は具体的事件なしに独立の機関(憲法裁判所)が法律の抽象的違憲性を審査できる(日本にはない)。日本が①を採用するという根拠は、最高裁(最大判昭27.10.8・警察予備隊事件)が「我が裁判所は具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するものではない」と明示したことにあります。
【実務・条文構造】
法令違憲と適用違憲の区別(ウが正答の根拠)について詳述します。
| 種別 | 内容 | 効果 | 例 |
|---|---|---|---|
| 法令違憲(文面違憲) | 法律の条文そのものが違憲 | その条文の効力が失われる | 尊属殺重罰(旧刑200条)・非嫡出子相続分(旧民900条4号) |
| 適用違憲 | 法律は合憲だが特定の事案への適用が違憲 | その事件への適用のみ無効 | 猿払事件での第一審・函館地判昭43年での適用違憲(後に最高裁が法令合憲) |
81条(最高裁の違憲審査)の解釈として「下級裁判所も違憲審査権を有するか」について:通説・判例は81条を「最高裁が終審であることの確認」と解し、下級裁判所も76条の「一切の法律上の争訟を裁判する」権限の一部として違憲審査を行えるとします(アが誤りである根拠)。違憲判決の効力(個別的効力説):最高裁が違憲判決を出しても、その判決の形式的効力は当事者間のみに及ぶ(対世的な法律失効効果は生じない)というのが個別的効力説であり通説です。しかし実際上は、違憲判決後に国会が該当規定を削除・改正する立法措置をとることが事実上求められており(エの「義務が一切ない」は誤りといえる側面)、日本の違憲審査制の運用では違憲判決→立法改正という流れが定着しています。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での違憲審査の出題ポイントは次の4つです。①付随的違憲審査制(抽象的審査制の否定)。②下級裁判所も違憲審査権あり(最高裁のみではない)。③法令違憲と適用違憲の区別。④違憲判決の効力:個別的効力説(当事者間のみ)・しかし事実上立法改正が要請される。「抽象的違憲審査制(誤り)」「下級裁は審査権なし(誤り)」「違憲判決で即座に法律失効(誤り・対世的効果なし)」が典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。通説・判例(警察予備隊事件など)は、最高裁のみならず下級裁判所も76条1項に基づく司法権の行使の一環として違憲審査権を有するとしている。「下級裁は違憲審査権を有しない」は誤り。
- イ: 誤り。日本の違憲審査制は「付随的違憲審査制」であり「抽象的違憲審査制」ではない(警察予備隊事件・最大判昭27.10.8)。具体的事件を離れた抽象的違憲審査は日本では認められていない。
- ウ: 正答。「法令違憲」と「適用違憲」の両方の手法を裁判所が採ることができるというのは判例・通説が認めるところであり、正確な記述として正答。
- エ: 誤り。個別的効力説(違憲判決の効力は当事者間のみ)は正しい。しかし「国会は立法措置を講じる義務が一切ない」という断定は誤り。憲法上明文の義務規定はないが、法治主義・法の下の平等の観点から、違憲状態の是正のために立法改正が事実上求められており「義務が一切ない」は不正確で誤り。
- オ: 誤り。条約は国際法規範であるが、日本の憲法秩序の下で適用される以上、違憲審査の対象となりうると解されている。砂川事件(最大判昭34.12.16)では条約の違憲性が問われたが、最高裁は統治行為論を適用して実体審査を回避した(違憲審査「権限がない」とは述べていない)。「条約を審査することができない」という命題は誤り。
【根拠条文】
日本国憲法 第76条第1項(司法権・下級裁判所)、第81条(最高裁の違憲審査権・終審)
【参照判例】
警察予備隊事件(最大判 昭和27年10月8日):日本の違憲審査制は付随的審査制(具体的事件を離れた抽象的審査は不可)
【補足】
「付随的違憲審査制(具体的事件が必要)」「下級裁も審査権あり」「法令違憲と適用違憲の両手法が可能」「違憲判決の効力は個別的(対世的失効効果なし)」の4点を整理して押さえること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第81条(最高裁判所の違憲審査権)、第76条(司法権) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。