行政書士 民法 問110:民法債権各論
契約の成立に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- ア申込みは相手方に到達した後は、原則として撤回することができないが、申込みに撤回権を留保した場合はこの限りでない。正答
- イ申込者が申込みの通知を発した後に死亡した場合、常にその申込みは失効する。
- ウ承諾の通知は、申込者に到達した時点から遡って申込みの時点で契約が成立する(発信主義)。
- エ申込みを受けた者が申込みの内容を変更して承諾の通知を発した場合、それは申込みの拒絶と新たな申込みではなく、元の申込みに対する一部承諾として有効である。
- オ申込者が申込みに「一定の承諾期間」を定めた場合、申込者はその期間内に承諾の通知を受けなければ、申込みの効力を失わせることができる。
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アが正しいです。民法523条1項は「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない」と規定しつつ、2020年改正(民523条2項)では「申込者が撤回をする権利を留保したときはこの限りでない」とする特則が設けられています。この撤回権の留保がない限り、申込みは相手方到達後は撤回できません(到達主義)。イは誤りで、申込み後の申込者の死亡は必ずしも申込みを失効させません(民526条・相手方が知らなかった場合は申込みの効力継続)。ウは誤りで、現行民法は「到達主義」を採用しており、承諾の通知が申込者に到達した時に契約が成立します(民522条・526条等参照)。エは誤りで、内容を変更した承諾は新たな申込みとみなされます(民528条)。
アが正解です。民法523条1項は「承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない」と規定し、承諾期間を定めない申込みについても民法525条1項が「承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない」と規定しています。いずれの場合も、申込みは相手方到達後は原則として撤回できず、撤回権を留保したときに限り撤回できます。アの「撤回権を留保した場合はこの限りでない」という記述は両条に整合し、正確であり、正答です。
イは誤りです。民526条は「申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない」と規定しています。つまり死亡を相手方が承諾通知前に知った場合や意思表示があった場合にのみ失効し、「常に失効」は誤りです。
ウは誤りです。現行民法(2020年改正後)は「到達主義」を原則とし、承諾の通知が申込者に到達した時に契約が成立します(民522条・民97条)。「発信主義」(承諾の発信で契約成立)は廃止されました(旧526条1項が削除)。
エは誤りです。民528条は「承諾者が申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす」と規定しており、条件変更のある承諾は「申込みの拒絶+新たな申込み」とみなされます。
オは部分的に正しい記述ですが(承諾期間を定めた申込みは期間経過後に失効・民523条1項の反面)、アがより正確に正しい。
【理論的背景】
契約の成立(申込みと承諾の合致)に関する民法の規律は、2020年施行の改正民法(債権法改正)によって大きく変更されました。最も重要な変更は、旧民法526条1項が規定していた「承諾の発信主義」が廃止され、「到達主義」(民97条・民526条改正後)が原則となったことです。これにより、承諾の通知は申込者に到達した時点で効力を持ち(民97条1項)、契約の成立時期が明確化されました。また、申込みに関する詳細な規律(撤回・失効・条件変更)も整理されました。
【条文構造】
契約の成立に関する現行規律を整理します。
民521条:契約の締結(当事者の合意で成立・書面不要が原則)。
民522条:申込みと承諾(承諾の通知が到達した時に契約成立)。ただし書:意思表示が到達したと認められない場合は別の方法で認識時。
民523条:承諾期間の定めのある申込み(期間内に承諾なければ失効・原則として撤回不可)。ただし撤回権の留保があれば撤回可。
民524条:遅延した承諾(期間経過後の承諾→新申込みとみなす)。
民525条:承諾期間の定めのない申込み(「相当な期間」内に承諾なければ失効)。
民526条:申込者の死亡等(相手方が知った場合または意思表示があった場合は失効)。
民528条:条件変更のある承諾(申込みの拒絶+新申込みとみなす)。
民97条1項:意思表示の到達主義(相手方に到達した時から効力発生)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における契約の成立の典型論点は、①承諾の到達主義(2020年改正で発信主義廃止)、②申込みの撤回制限(期間定めあり→原則撤回不可・撤回権留保は例外)、③申込者の死亡と申込みの効力(相手方が知らない場合は継続・民526条)、④条件変更のある承諾=申込みの拒絶+新申込み(民528条)の4点です。特に「発信主義から到達主義への変更(2020年改正)」は頻出であり、「承諾を発信した時点で契約成立」という旧法の論点を正答にしてはなりません。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正答。民523条1項・2項の規律。撤回権留保付き申込みの典型例:「この条件で購入するか1週間以内に返答を。ただし当方は1週間以内でも撤回できます」という申込み。撤回権を留保せずに期間を定めた申込みは原則として撤回不可(申込者の信頼保護)。
- イ: 誤り。民526条の規律。相手方が承諾通知を発する前に申込者の死亡を知った場合は失効。相手方が知らなかった場合は申込みの効力が継続(取引安全の観点から相手方保護)。「常に失効」という記述が誤り。
- ウ: 誤り(最重要改正点)。2020年改正前は旧526条1項により「承諾の発信で契約成立(発信主義)」だったが、改正後は「承諾の到達で契約成立(到達主義)」に変更。「遡って申込み時に成立」という記述も誤り(到達時に成立)。改正前の論点を正答にしてはならない。
- エ: 誤り(民528条)。条件変更のある承諾は申込みの拒絶+新申込み。例:「100万円で売ります」という申込みに対して「90万円なら買います」という回答は承諾ではなく新たな申込み(カウンターオファー)。元の申込みは拒絶・消滅。
- オ: ほぼ正しい(民523条1項・承諾期間内に承諾なければ失効)が、アの方が核心的な正答。なお「申込みの効力を失わせることができる」という能動的表現は不正確(承諾なければ当然に失効)。
【根拠条文】
民法 第522条(契約の成立・到達主義)、第523条第1項・第2項(承諾期間付き申込みの撤回制限)、第526条(申込者の死亡等)、第528条(条件変更のある承諾)
【補足】
2020年改正で承諾の発信主義(旧526条1項)が廃止→「到達主義」が原則(民522条)。条件変更のある承諾は申込みの拒絶+新申込み(民528条)。申込みの撤回権留保の許容(民523条2項)も改正で明文化された。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第521条(契約の締結)、第525条(承諾の期間の定めのない申込み)、第526条(申込者の死亡等)、第528条(申込みに変更を加えた承諾) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。