民法32債務不履行・履行不能と損害賠償

行政書士 民法 問32:債務不履行・履行不能と損害賠償

AはBに対し、甲土地(特定物)を代金500万円で売却する契約を締結した。その後、Bの責めに帰することができない事由により甲土地が滅失した場合の法律関係に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。

  • Bの責めに帰することができない事由によって甲土地の引渡しが不能になった場合、Bは履行不能を理由とする損害賠償を免れることができない。正答
  • 甲土地の引渡しが履行不能となった場合、Aは催告を要せず直ちに契約を解除することができる。
  • Aの責めに帰すべき事由によって甲土地が滅失した場合、BはAに対して代金の支払を拒むことができない。
  • 履行不能となった場合にBがAに対して損害賠償を請求するためには、Bに損害が発生していることが必要である。
  • 甲土地の引渡債務が履行不能となった場合で、その不能がAの責めに帰すべき事由による場合、BはAに対して損害賠償を請求することができる。
正答:Bの責めに帰することができない事由によって甲土地の引渡しが不能になった場合、Bは履行不能を理由とする損害賠償を免れることができない。

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現行民法(2020年改正後)では、「債務者の責めに帰することができない事由」によって履行不能となった場合、債務者は損害賠償責任を免れます(民415条1項ただし書)。よってアが誤りです。「Bの責めに帰することができない事由」で不能になったのであれば、BはAに対する損害賠償を負いません。イは正しく、民542条1項1号により、債務の全部履行不能の場合は催告不要で解除できます。ウは民536条2項の規律で正しい(債権者帰責の場合は反対給付請求権を失わない)。エ・オも基本的な要件として正しい記述です。

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アが誤りである理由を条文から精確に確認します。民法415条1項は「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と規定します。Bの責めに帰することができない事由で不能になった場合は「この限りでない」すなわち損害賠償を免れるため、アは「免れることができない」として誤りです。イは民542条1項1号(全部履行不能の場合の無催告解除)により正しい。ウは民536条2項により「債権者の責めに帰すべき事由によって」不能になった場合、債務者は反対給付(代金支払)を請求でき、かつ債権者(A)はその履行拒絶ができないという意味で正しい。エは損害賠償の一般要件として損害の発生が必要なのは当然であり正しい。オも反対に、Aに帰責事由がある場合はBが損害賠償請求できる基本的規律(415条1項本文)として正しい。

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【理論的背景】

2020年改正前の民法(旧法)では、「履行不能」と「危険負担」と「解除」の三者の関係が複雑で、特に「特定物の売買における危険の移転時期(旧534条の債権者主義)」が重要論点でした。現行法は旧534条を削除し、危険負担制度を「反対給付の履行拒絶権」として再構成(536条)するとともに、解除に帰責事由不要の原則(542条)を採用することで体系を整理しました。これにより、「帰責事由がなければ損害賠償は免れるが、解除はされうる」という構造が明確になりました。

【条文構造の精密な理解】

本問に関連する現行法の条文構造を整理します。

  • 415条1項本文: 債務不履行=損害賠償請求権発生の原則。
  • 415条1項ただし書: 債務者に帰責事由なし→損害賠償免責。
  • 536条1項: 当事者双方に帰責事由なく履行不能→債権者も反対給付義務を免れる(危険負担の一般規律)。
  • 536条2項: 債権者の帰責事由により履行不能→債務者は反対給付請求権を失わない(債権者が反対給付の履行拒絶もできない)。
  • 542条1項1号: 全部履行不能→催告不要で解除可(帰責事由不問)。
  • 541条: 不完全履行・一部不履行→催告後解除(ただし軽微なら不可)。

536条2項のポイントは、「Aの帰責事由で甲土地が滅失した場合、BはAに代金を支払う義務(反対給付)を引き続き負い、かつ支払拒絶もできない」ということです(ウは正しい)。

【試験での位置づけ】

行政書士試験で本論点から出題される典型パターンは、(a)「債務者に帰責事由がないと損害賠償を請求できない」という正しい理解と、「帰責事由なくても解除できる」という現行法の特徴の対比、(b)危険負担の旧法(債権者主義・旧534条)が廃止された点(旧論点ブラックリスト)、(c)無催告解除が認められる要件(全部不能・542条1項1号)と催告解除の区別です。特に「解除に帰責事由が必要か」という点は、旧法では「解除は債務者の帰責事由が要件」とされていましたが、現行法では不要であり、この変更を問う問題が高頻出です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 正答(誤りの選択肢)。「Bの責めに帰することができない事由」ならBは415条1項ただし書により免責される。設問が「誤っているもの」を問うため、アを選ぶ。
  • イ: 正しい。民542条1項1号は「債務の全部の履行が不能であるとき」に催告不要の解除権を認める。帰責事由の有無を問わず解除できる点が現行法の特徴。
  • ウ: 正しい。民536条2項の規律。Aに帰責事由がある場合、Bは代金支払義務を引き続き負い、AはBに代金を請求できる。Bが「代金を払わなくてよい」とするのは誤り。
  • エ: 正しい。損害賠償請求権は「損害の発生」が要件(415条1項本文「これによって生じた損害」)。損害がなければ賠償は認められない(但し金銭債務は419条2項で損害証明不要という特則あり)。
  • オ: 正しい。AがBに対して甲土地引渡義務を負い、Aの帰責事由で不能になった場合、BはAに損害賠償を請求できる(415条1項本文・ただし書の反面)。

【根拠条文】

民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償・帰責事由による免責)

民法 第536条第1項・第2項(危険負担)

民法 第541条(催告による解除)

民法 第542条第1項第1号(催告によらない解除・全部履行不能)

【参照判例】

(本問は主に条文問題のため省略)

【補足】

2020年改正前の旧534条(特定物の危険は債権者が負担)は削除済み。「特定物売買の危険は引渡前から買主(債権者)が負担する」という旧論点は現行法では出題してはならない。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第415条・第536条・第541条・第542条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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