民法60不法行為・名誉毀損・プライバシー侵害・差止め

行政書士 民法 問60:不法行為・名誉毀損・プライバシー侵害・差止め

AはインターネットのSNS上に、B(会社員)の実名と住所を掲載したうえで「Bは詐欺師だ」という虚偽の情報を継続的に投稿している。BのAに対する法的請求に関する次のア〜オの記述のうち、現行民法の規定および判例の趣旨に照らして**正しいもの**はどれか。

  • BはAに対して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償(慰謝料・財産的損害)を請求することができるが、投稿の削除や将来の投稿の差止めを民法上の請求として求めることはできない。
  • Aが「Bは詐欺師だ」という投稿が真実と信じた相当の理由があった場合でも、Bの名誉を毀損した事実そのものにより損害賠償義務が生じる。
  • BがAに対して名誉回復措置(謝罪広告の掲載等)を求めることは、民法上の根拠があり認められる場合がある。正答
  • Aが虚偽の事実を述べて名誉を毀損した場合、Aに対する刑事上の処罰と民事上の損害賠償は同時には問題とならず、どちらかのみが適用される。
  • BはAに対して、Aが投稿した個人情報(実名・住所)の削除を請求するためには、個人情報保護法に基づく請求のみが認められ、民法上の不法行為に基づく削除請求はできない。
正答:BがAに対して名誉回復措置(謝罪広告の掲載等)を求めることは、民法上の根拠があり認められる場合がある。

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ウが正しい記述です。民法723条は「名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」と規定します。「名誉を回復するのに適当な処分」の典型例として謝罪広告の掲載等が認められ(謝罪広告事件・最大判昭31.7.4)、ウは正しい。アは誤りで、判例上、侵害行為が継続する場合に差止め請求が認められる場合があります(人格権に基づく差止め)。イは誤りで、名誉毀損の損害賠償には故意または過失(相当の理由ある信頼は過失の否定につながりうる)が要件であり、真実と信じる相当の理由がある場合は免責される場合があります(真実性・相当性の法理)。エは誤りで、刑事処罰と民事損害賠償は並立して問われます。オは誤りで、民法上の不法行為(709条)に基づく削除請求も認められます(プライバシー侵害の差止め)。

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ウが正しい根拠を確認します。723条は「名誉を毀損した者に対しては、裁判所は…名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」として、名誉毀損の場合に損害賠償(金銭賠償)とは別に「名誉回復処分」を命じる権限を裁判所に付与します。典型的な名誉回復処分は「謝罪広告」の掲載であり、謝罪広告事件(最大判昭31.7.4)では謝罪広告を命じることは合憲とされています(ただし良心の自由との関係で限界あり)。アについて、不法行為に基づく差止め請求(投稿の削除・将来の投稿の禁止)については、民法上は金銭賠償が原則ですが、判例は人格権(名誉権・プライバシー権)に基づく差止め請求を認めています(北方ジャーナル事件・最大判昭61.6.11等)。「差止めを民法上の請求として求めることはできない」は誤り。イについて、名誉毀損の不法行為成立に「故意または過失」が要件であり、「真実と信じる相当の理由」があれば過失が否定されて損害賠償義務が生じない場合があります(刑事の名誉毀損罪においても「真実性・相当性の法理」が適用されます)。エについて、刑事上の名誉毀損罪(刑法230条)の処罰と民事上の不法行為損害賠償(民法709条)は並立します(双方の責任を問うことができる)。オについて、個人情報保護法上の請求と民法上の不法行為請求(プライバシー侵害)は並立して認められ、民法上の請求のみを不可とする根拠はない。

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【理論的背景】

名誉毀損・プライバシー侵害に関する民法上の請求は、(1)金銭的損害賠償(709条・710条)、(2)名誉回復処分(723条)、(3)差止め請求(人格権に基づく・明文なしに判例が認める)の三層構造で理解します。インターネット上での名誉毀損・プライバシー侵害は継続的かつ拡散が速いため、損害賠償だけでなく差止め(削除・新規投稿禁止)の必要性が高く、判例・学説が人格権に基づく差止め請求を積極的に認めてきました。名誉毀損の法理には真実性(公共の利害に関する事実で真実であれば免責・刑法230条の2類推)・相当性(真実と信じる相当の理由がある場合の過失否定)があり、表現の自由(憲法21条)との調整を図る法理として重要です。

【条文構造の精密な理解】

  • 709条: 不法行為の一般要件(名誉毀損・プライバシー侵害は「法律上保護される利益の侵害」に当たる)。
  • 710条: 財産以外の損害(慰謝料)の賠償義務。名誉・プライバシー侵害による精神的損害に適用。
  • 723条: 名誉毀損の名誉回復処分(損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、裁判所が名誉回復に適当な処分を命じる)。
  • 人格権に基づく差止め請求: 民法に明文なし。しかし判例(北方ジャーナル事件・最大判昭61.6.11・出版物の事前差止め)・下級審判例(インターネット投稿の削除・差止め)で認められている。
  • 謝罪広告事件(最大判昭31.7.4): 謝罪広告を命じることは723条に基づき合憲(良心の自由との関係で限界がある旨も判示)。
  • 刑法230条の2(真実性・相当性の法理): 公共の利害に関する事実で真実であれば名誉毀損罪不成立→民事においても類推適用して過失否定の根拠とされる。

【試験での位置づけ】

行政書士試験における名誉毀損・プライバシー侵害の典型的な出題パターンは、(a)723条の名誉回復処分(謝罪広告等・ウのような問題)、(b)真実性・相当性の法理(イのような誤りを問う問題)、(c)名誉毀損と表現の自由の調整(差止め請求の可否・アのような問題)、(d)刑事と民事の並立(エのような問題)の4パターンです。特に(a)の723条(名誉回復処分・名誉毀損には金銭賠償のみならず名誉回復処分も認められる)は一般不法行為との差異として重要です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 誤り。人格権に基づく差止め請求(投稿削除・将来投稿の禁止)は判例上認められる。名誉・プライバシー侵害が継続・反復される場合に、金銭賠償だけでは被害の実効的な救済にならないため、人格権を根拠とした差止め請求が認められる(北方ジャーナル事件等の判例法理)。
  • イ: 誤り。名誉毀損の不法行為の成立には故意または過失が必要(709条)。「真実と信じる相当の理由」がある場合には過失が否定されて損害賠償義務を免れる場合があります(真実性・相当性の法理)。「相当の理由がある場合でも損害賠償義務が生じる」は誤り。
  • ウ: 正しい(正答)。723条の名誉回復処分。謝罪広告の掲載が「名誉を回復するのに適当な処分」として認められる(最大判昭31.7.4)。ただし謝罪の強制が良心の自由・思想の自由に抵触しない範囲での名誉回復処分(単なる事実の知らせ程度にとどまるものは可)という限界あり。
  • エ: 誤り。刑事上の名誉毀損罪(刑法230条・233条)の処罰と民事上の不法行為損害賠償(709条・710条)は並立する(刑事責任と民事責任は独立した制度)。「どちらかのみが適用される」は誤り。
  • オ: 誤り。民法上の不法行為(プライバシー侵害・709条)に基づく削除請求は判例上認められる。個人情報保護法上の請求(開示・利用停止等)と民法上の請求は選択的にまたは並立して行使できる(法的根拠の選択は請求者の自由)。

【根拠条文】

民法 第709条(不法行為・名誉毀損・プライバシー侵害)

民法 第710条(慰謝料)

民法 第723条(名誉毀損の名誉回復処分)

【参照判例】

謝罪広告事件(最大判 昭和31年7月4日):謝罪広告命令の合憲性

北方ジャーナル事件(最大判 昭和61年6月11日):出版物の事前差止め・人格権に基づく差止め請求の判例

【補足】

723条は名誉毀損に特有の「名誉回復処分(謝罪広告等)」を認める規定。一般不法行為(709条)の金銭賠償に加えた名誉回復の手段として重要。人格権に基づく差止め請求(インターネット投稿の削除等)も判例上認められることを確認しておくこと。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第709条・第710条・第723条、最判昭31.7.4(謝罪広告事件) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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