行政書士
法令の確認日 2026年9月13日e-Govと照合済み

行政書士 民法 問59|不法行為・過失相殺・損益相殺

問題

行政書士 | 民法

Aは自動車を運転中、信号無視をして道路を横断していたBに衝突し、Bに重傷を負わせた。Aの過失は80%、Bの過失は20%であった。不法行為の損害賠償における過失相殺および損益相殺に関する次のア〜オの記述のうち、正しいものはどれか(現行民法に基づいて答えること)。

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答え合わせ

正解は エ
  • ア
  • イ
  • ウ
  • エ
  • オ

自信の3択

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解説

エが正しい記述です。被害者に「素因(既往症・心因的要因・体質的疾患等)」があって損害の発生・拡大に寄与した場合、最高裁は722条2項の過失相殺規定を「類推適用」して損害賠償額を減額することを認めています(心因的要因について最判昭和63年4月21日、被害者がり患していた疾患という身体的素因について最判平成4年6月25日)。これを「素因減額」といいます。アは誤りで、722条2項の過失相殺は「裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」という裁量規定(「しなければならない」ではない)。イは誤りで、722条2項で考慮されるのは被害者Bの過失(20%)であり、過失割合どおりに減額すれば1,000万円×(1-0.2)=800万円となります。Aの過失割合(80%)分を控除して200万円とするのは逆です。ウは誤りで、被害者が自分で保険料を払って入っていた生命保険の特約による入院給付金は、払い込んだ保険料の対価であり、損益相殺として差し引かれないのが判例の立場です。オは誤りで、710条は身体を侵害した場合か財産権を侵害した場合かを問わず、財産以外の損害についても賠償しなければならないと定めています。

エが正しい根拠を確認します。最高裁は、加害行為と被害者がり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生し、加害者に全部を賠償させるのが公平を失するときは、722条2項の過失相殺の規定を「類推適用」して被害者の疾患をしんしゃく(減額)できるとしています(最判平成4年6月25日・民集46巻4号400頁=身体的素因)。また心因的要因が損害の発生・拡大に寄与した場合も同様の類推適用が認められます(最判昭和63年4月21日・民集42巻4号243頁)。これは「被害者の過失」(行為的過失)ではなく「被害者の素因(疾患・心因等)」を考慮して公平の観点から賠償額を調整する制度です。なお、被害者の身体的特徴が「疾患」にあたらず通常の個人差の範囲内にとどまる場合(例:首が長い等)は、原則として減額の対象にならない(最判平成8年10月29日・民集50巻9号2474頁)。アについて、722条2項は「裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」として裁量規定。「しなければならない」(義務)ではなく「できる」(裁量)。ウについて、生命保険金は払い込んだ保険料の対価であって損害を填補するものではないため損益相殺の対象とならず(最判昭和39年9月25日・民集18巻7号1528頁)、生命保険契約に付加された特約に基づく傷害給付金・入院給付金も同様に控除されないとされています(最判昭和55年5月1日・判例時報971号102頁)。したがって「控除されるのが原則」とするウは誤り。なお、損害を填補する性質の給付(労働者災害補償保険の保険給付など)は、填補された範囲で賠償額から差し引かれる扱いがあり、区別が必要です。イについて、722条2項で考慮するのは被害者Bの過失であり、Bの過失20%分を減額すれば800万円となるため、Aの過失80%分を控除した200万円とするのは誤り。オについて、710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず」財産以外の損害に対しても賠償をしなければならないと定めるため、身体侵害にとどまることを理由に慰謝料の賠償責任を否定するオは誤り。

【理論的背景】

過失相殺(民法722条2項)は、被害者にも過失がある場合に「損害の公平な分担」の観点から損害賠償額を減額する制度です。同条は「被害者の過失」を考慮して裁判所が裁量的に賠償額を定める旨を規定します。素因減額(判例法理)は、722条2項の類推適用として「被害者の行為的過失ではなく体質・既往症等の素因」が損害の発生・拡大に寄与した場合の減額を認めるものです。損益相殺は、不法行為によって被害者が損害を受けると同時に利益も受けた場合に、公平の観点から利益を損害から控除する制度です。どのような「利益」が損益相殺の対象となるかは判例によって精緻に判断されており、特に「生命保険金のように保険料の対価として定額で支払われる給付は控除しない・損害の填補を目的とする給付は填補された範囲で調整する」という区別が重要です。

【条文構造の精密な理解】

  • 722条1項: 417条(損害賠償の方法=金銭賠償)・417条の2(中間利息の控除)を不法行為による損害賠償に準用。
  • 722条2項: 過失相殺→「被害者に過失があったとき」に裁判所は賠償額を定める際に被害者の過失を考慮することができる(裁量規定・アの誤りの根拠)。
  • 素因減額(判例法理): 722条2項類推適用→被害者の素因が損害の発生・拡大に寄与した場合に減額可(エの根拠)。心因的要因=最判昭和63年4月21日、身体的素因(疾患)=最判平成4年6月25日で肯定。ただし疾患にあたらない通常の身体的特徴は原則減額不可(最判平成8年10月29日)。
  • 損益相殺の対象:
    • 控除しないもの: 被害者が保険料を負担して加入した生命保険の保険金(最判昭和39年9月25日)、生命保険契約の特約に基づく傷害給付金・入院給付金(最判昭和55年5月1日)、社会通念上相当な額の香典・見舞金等。労災保険の特別支給金も損害の填補を目的としないため控除されないとされる。
    • 調整するもの: 労働者災害補償保険の保険給付など損害の填補を目的とする給付は、填補された範囲で賠償額から差し引かれる。被害者が加入していた損害保険(人身傷害保険・車両保険など)から保険金が支払われた場合は、損益相殺ではなく、保険会社が支払った限度で被害者の加害者に対する権利を取得する保険代位(保険法25条)の問題として処理される。

慰謝料の算定(710条・711条):裁判所の裁量的判断によるが、実務上は後遺障害等級・通院期間・死亡事案の算定基準(逸失利益・慰謝料の相場)が参照される。

【試験での位置づけ】

行政書士試験における過失相殺・損益相殺の典型的な出題パターンは、(a)過失相殺の裁量性(「できる」=裁量・「しなければならない」=義務ではない・アのような問題)、(b)素因減額の判例(722条2項の類推適用・エのような問題)、(c)保険金・給付の損益相殺の取扱い(ウのような問題)、(d)慰謝料(710条・身体侵害でも財産以外の損害の賠償が必要・オのような問題)の4パターンです。特に(a)の「過失相殺は義務か裁量か」と(b)の「素因減額(判例法理)」は行政書士試験・法律系試験の重要論点として繰り返し出題されます。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 誤り。722条2項「裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」は裁量規定。被害者の過失が著しく少ない場合や損害の発生との因果関係が薄い場合には裁判所が減額しないこともある。「必ず…しなければならない」は誤り。
  • イ: 誤り。過失相殺は722条2項により被害者の過失を考慮して賠償額を定めるものであり、過失割合どおりに減額すれば「損害全額×(1−被害者過失割合)」=1,000万円×(1−0.2)=800万円となる。加害者Aの過失割合(80%)分を控除して200万円とするのは、控除の対象を取り違えている。
  • ウ: 誤り。生命保険契約の特約に基づく入院給付金は、被害者が払い込んだ保険料の対価としての性質を持ち、たまたま第三者の不法行為で入院した場合でも損益相殺として控除すべき利益に当たらない(最判昭和55年5月1日。生命保険金について最判昭和39年9月25日)。控除すると加害者が被害者の保険料負担の恩恵を受けることになり不公平だからである。なお、同じ「保険」でも、被害者自身の人身傷害保険などの損害保険から支払われた場合は保険代位(保険法25条)により保険会社が加害者への請求権を取得するため、被害者がAに請求できる額は結果として減る。設問の前提(どの保険のどの給付か)を必ず確認すること。
  • エ: 正しい(正答)。最判昭和63年4月21日(心因的要因)・最判平成4年6月25日(身体的素因=疾患)により、素因が損害の発生・拡大に寄与した場合に722条2項の類推適用による素因減額が認められる。素因減額の要件:(1)損害の発生・拡大への素因の寄与、(2)当該素因が「疾患」等であり、通常人が通常負うべき範囲を超えること。なお被害者の身体的特徴が疾患にあたらず通常の個人差の範囲内なら原則減額不可(最判平成8年10月29日)。
  • オ: 誤り。710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定める。身体を侵害されたBは、財産権の侵害がなくても精神的苦痛(慰謝料)の賠償を請求できる。なお慰謝料の額は、過失の程度・被害の程度等の諸事情を総合考慮して算定され、実務上は算定基準(交通事故の場合の赤い本等)が参照される。

【根拠条文】

民法 第722条第2項(過失相殺・裁量規定)

民法 第710条(財産以外の損害・慰謝料)

【参照判例】

心因的要因による素因減額(最判昭和63年4月21日・民集42巻4号243頁)

身体的素因(被害者がり患していた疾患)による素因減額(最判平成4年6月25日・民集46巻4号400頁)

疾患にあたらない通常の身体的特徴は原則減額不可(最判平成8年10月29日・民集50巻9号2474頁)

生命保険金は損益相殺の対象とならない(最判昭和39年9月25日・民集18巻7号1528頁)

生命保険契約の特約に基づく傷害給付金・入院給付金は保険代位(旧商法662条)の対象とならず、損害賠償額から控除されない(最判昭和55年5月1日・集民129号591頁)

【補足】

過失相殺は「裁量規定(できる)」であり義務(しなければならない)ではない。素因減額(722条2項の類推)は判例法理として確立(心因=最判昭63.4.21、身体的素因=最判平4.6.25。ただし疾患でない通常の身体的特徴は原則減額不可=最判平8.10.29)。生命保険金・生命保険の特約による入院給付金は損益相殺不可(保険料の対価)、損害の填補を目的とする給付は填補の範囲で調整、損害保険は保険代位(保険法25条)という区別を押さえること。

この問題の根拠条番号はe-Govの本文と機械で照合しています(2026-09-13)。照合の方法
訂正の記録この問題の訂正はありません(サイト全体の記録)
出典と作り方

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第722条第2項・最判昭和63年4月21日(心因的要因)・最判平成4年6月25日(身体的素因)等(過失相殺の類推適用・素因減額) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

この問題の関連トピック

  • 不法行為・過失相殺・損益相殺
  • 頻出度B

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