登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問42:人体の働きと医薬品(薬物動態・吸収)
経口薬の消化管吸収に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア小腸は表面積が非常に大きく(絨毛・微絨毛による拡大)、経口薬の吸収の主要な部位となっている。
- イ弱酸性の薬物は胃酸(pH1〜2)の環境下では非イオン化型の割合が多くなり、非イオン化型は脂溶性が高いため胃粘膜からも吸収されやすい。
- ウ食事は消化管内のpH・運動性・血流量に影響するため、薬物によっては食前・食後・食中での吸収量が異なる場合がある。
- エすべての経口薬は消化管から吸収された後、肝臓を介さずに直接全身循環に入るため、初回通過効果(肝臓初回通過代謝)の影響を受けない。正答
- オ脂溶性の高い薬物は消化管の細胞膜(リン脂質二重膜)を通過しやすく、吸収率が高くなる傾向がある。
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正答はエです。
経口薬は消化管から吸収された後、「門脈」→「肝臓」を経由してから全身の血液循環に入ります。肝臓を通過する際に代謝(分解・不活性化)される割合を初回通過効果(first-pass effect)といいます。「肝臓を介さずに直接全身循環に入る」というエは誤りです。
初回通過効果が大きい薬物は、内服すると大部分が肝臓で代謝されてしまうため、体内で働く有効な量(バイオアベイラビリティ)が低くなります。このような薬物は舌下錠・貼り薬・座薬などで投与されることがあります(肝臓を経由しない経路で投与することで初回通過効果を回避できるため)。
経口薬の吸収に影響する主な要因:
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 吸収面積 | 小腸(絨毛・微絨毛)の巨大な表面積が主要吸収部位 |
| pH | 弱酸性薬物は胃(pH 1〜2)で非イオン化→胃でも吸収。弱塩基性は小腸(pH 6〜8)で非イオン化→小腸で主に吸収 |
| 食事 | 食事で胃内容積増加・胃排出遅延・胃酸希釈・食事成分との相互作用→薬物吸収に影響(食前・食後・食中で異なる) |
| 溶解性 | 水溶性が低い(疎水性)薬物は溶解しにくく吸収が悪い場合がある(製剤工夫で改善) |
| 脂溶性 | 脂溶性が高いほど細胞膜通過が容易(受動拡散による吸収が促進) |
| 初回通過効果 | 消化管→門脈→肝臓での代謝→全身循環前に一部が除去される |
経口薬の吸収経路(エの誤りの根拠):
```
経口服用
↓
消化管(主に小腸)で吸収
↓
門脈(毛細血管→腸間膜静脈→門脈)
↓
肝臓(初回通過代謝が起こる)
↓
肝静脈→下大静脈→全身循環
```
小腸から吸収された薬物は門脈系を通じて必ず肝臓を経由します。この段階で代謝(CYP酵素等)により一部が分解・不活性化されます(初回通過効果)。初回通過効果が大きいほどバイオアベイラビリティ(全身に届く割合)が低くなります。
初回通過効果を回避する投与経路:
- 舌下錠・口腔粘膜吸収: 舌下から粘膜→静脈→全身循環(肝臓を経由しない)
- 貼り薬(経皮製剤): 皮膚→毛細血管→全身循環
- 座薬(直腸坐剤): 直腸下部→下腸間膜静脈→下大静脈→全身(一部は門脈を経由しない)
各選択肢の解説:
- ア(正): 小腸絨毛・微絨毛による表面積拡大→主要吸収部位は正しい。
- イ(正): 弱酸性薬物の胃での非イオン化→胃吸収は正しい(Henderson-Hasselbalch式)。
- ウ(正): 食事が薬物吸収に影響する(食前・食後・食中で違う)は正しい。
- エ(誤・正答): 経口薬は門脈→肝臓を必ず経由する。「肝臓を介さず」は誤り。
- オ(正): 脂溶性が高い薬物は細胞膜通過が容易で吸収されやすい。
【Henderson-Hasselbalch式と消化管pHが薬物吸収を決める機序】
薬物の吸収は受動拡散が主要メカニズムであり、「非イオン化型(脂溶性)の割合」が膜通過のしやすさを決定します。この関係を定量的に表すのがHenderson-Hasselbalch式です。
Henderson-Hasselbalch式(酸性薬物の例):
```
pH = pKa + log([イオン化型]/[非イオン化型])
```
- 弱酸性薬物(pKa = 4の例):
- 胃(pH 2): log([IA]/[NIA]) = 2 - 4 = -2 → [NIA]/[IA] = 100:1 → 99%が非イオン化型 → 吸収されやすい
- 小腸(pH 6): log([IA]/[NIA]) = 6 - 4 = 2 → [IA]/[NIA] = 100:1 → 99%がイオン化型 → 吸収されにくい
- 弱塩基性薬物(pKa = 8の例):
- 胃(pH 2): ほぼ100%がイオン化型 → 吸収されにくい
- 小腸(pH 7): [NIA]/[IA] = 10:1(pKa - pH = 1なので) → 非イオン化型が多い → 吸収される
消化管のpH分布:
| 部位 | 通常pH | 特徴 |
|---|---|---|
| 胃 | 1.5〜2(空腹時)/ 3〜5(食後) | 強酸性(塩酸分泌)。弱酸性薬物の吸収窓 |
| 十二指腸 | 6〜7(重炭酸塩で中和) | 胆汁・膵液の分泌で急速に中性に近づく |
| 空腸・回腸 | 6〜8 | 弱塩基性・中性薬物の主要吸収部位 |
| 大腸 | 5.5〜7 | 腸内細菌発酵で弱酸性。吸収面積は小腸より少ない |
食事の影響の詳細:
食事が薬物吸収に与える影響は複雑で、成分によって「食前のほうが吸収が良い」「食後のほうが吸収が良い」に分かれます:
1. 食後に吸収が増える(脂溶性薬物): 食事(特に脂肪)が胆汁酸分泌を促進→ミセル形成→脂溶性薬物のミセル可溶化→吸収促進。例: イトラコナゾール(抗真菌薬)は食後に吸収が著しく増加。
2. 食後に吸収が減る(一部の薬): 胃内容物が増えて薬物濃度が低下・胃排出が遅延→吸収速度低下。ただし吸収量(AUC)が減るとは限らない。
3. 特定食品との相互作用: グレープフルーツ(CYP3A4阻害)・牛乳(テトラサイクリンとのキレート形成→吸収阻害)・カルシウム強化食品(骨粗鬆症薬:ビスホスホネートとの吸収阻害)。
初回通過効果の定量的理解(バイオアベイラビリティとの関係):
バイオアベイラビリティ(F: bioavailability)= 実際に全身循環に到達した薬物量 / 投与量
F = Fa × Fg × Fh
- Fa: 消化管での吸収率
- Fg: 腸管壁での代謝による損失(腸管CYP3A4・P-gpの影響)
- Fh: 肝臓初回通過での損失(Fh = 1 - ER。ER = 肝抽出率)
例: アスピリン(サリチル酸)はFが高いが、プロプラノロール(β遮断薬)はFが約20〜30%で初回通過効果が大きい薬物です。ニトログリセリン(狭心症薬)はFが1〜20%と非常に低いため、舌下錠(初回通過効果を回避)として使用されます。
腸管P-糖タンパク(P-gp)の役割:
腸管の上皮細胞には排出トランスポーターP-gp(ABCB1遺伝子産物)が存在し、吸収された一部の薬物を腸管腔側へ「くみ出す」(efflux pump)機能を持ちます。P-gpはCYP3A4と同様にグレープフルーツで阻害され、一部の薬物の吸収を増加させます。P-gpを誘導するセントジョーンズワートは逆に薬物の吸収を減少させます。OTC薬でのP-gp基質の例はコデイン・抗ヒスタミン薬(一部)など。
登録販売者として「食前・食後」の説明責任:
添付文書に「食前」「食後」「食間」の指定がある場合は、その指定の根拠(吸収率・胃腸障害の軽減等)を理解したうえで購入者に正確に説明します。「なんとなく食後でいい」ではなく、「この薬は食前のほうが効きやすい理由があります」という説明が、購入者の服薬アドヒアランスを高め、より良い治療効果につながります。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 設問・正答エ(経口薬は消化管→門脈→肝臓を経由し初回通過効果を受けるので「肝臓を介さず直接全身循環」は誤り)は一意性・事実ともOK。小腸の吸収面積・弱酸性薬物の胃での非イオン化吸収・食事の吸収への影響・脂溶性と膜透過・舌下/経皮/坐剤での初回通過回避・P-gp等のYMYL記述も正確。Henderson-Hasselbalch式の数値例も整合。修正不要。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第6節「薬の体内での働き(ADME)」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。