登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問43:人体の働きと医薬品(薬物動態・分布)
薬物の体内分布に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア薬物は血中に吸収された後、すべてが等しく全臓器に分布するため、血液脳関門や胎盤関門のような「特定の組織への移行を制限するバリア」は存在しない。
- イ血漿タンパク(主にアルブミン)と結合した薬物(タンパク結合型)は薬理活性を示さず、遊離型(非結合型)のみが薬理作用を発揮できる。
- ウ血液脳関門(BBB)を通過しやすい薬物の性質として、水溶性が高い・分子量が大きい・強くイオン化されている、の3条件が挙げられる。
- エ脂溶性の高い薬物は、脂肪組織に蓄積する傾向があり、蓄積された薬物が後から血中に放出されることで薬物作用が長引くことがある。正答
- オ低アルブミン血症(血中アルブミン濃度の低下)の患者では、薬物のタンパク結合率が高くなり、遊離型薬物の濃度が低下して薬効が弱くなる。
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正答はエです。
脂溶性が高い薬物は脂肪に溶け込みやすく、体の脂肪組織に蓄積します。脂肪に蓄積した薬物は血中から取り除かれた後も少しずつ脂肪から血中へと放出されるため、薬の効果や副作用が長く続くことがあります。例えばジアゼパム(ベンゾジアゼピン系・処方薬)は脂溶性が高く脂肪組織に蓄積し、高齢者ではその影響が特に長引きやすいことが知られています。
アは誤りで、BBBや胎盤関門などのバリアは存在します。ウも誤りで、BBBを通過しやすいのは「脂溶性が高い・分子量が小さい・非イオン化型」です(ウは逆)。オも誤りで、低アルブミン血症ではタンパク結合率が下がり遊離型が増えて薬効が強まります。
薬物分布の規定因子:
| 因子 | BBBを通過しやすい | 組織移行しやすい |
|---|---|---|
| 脂溶性 | 高い | 高い |
| 分子量 | 小さい(<400〜500 Da) | 小さい |
| イオン化 | 非イオン化型 | 非イオン化型 |
| タンパク結合 | 非結合型(遊離型) | 非結合型(遊離型) |
タンパク結合と遊離型薬物(イの根拠):
血中の薬物は「血漿タンパク(アルブミン等)と結合した型(タンパク結合型)」と「遊離型(非結合型)」に分かれます。
- タンパク結合型: 大きな複合体→血管壁を通過しにくい→組織に移行しない→薬理活性なし
- 遊離型: 小分子→組織・臓器に自由に移行→薬理活性を発揮→代謝・排泄の対象
タンパク結合型は遊離型の「貯蔵庫」として機能し、遊離型が減ると結合型から解離して補われます(平衡関係)。
低アルブミン血症(オの誤りの根拠):
正常状態では、ある薬物の例えば90%がアルブミンに結合し10%が遊離型で活性を持つとします。低アルブミン血症(肝硬変・栄養不良・腎症等)でアルブミンが減ると:
- タンパクへの結合量が減る → 遊離型の割合が増加(例: 15%→20%へ上昇)
- 遊離型増加→薬理作用・副作用が増強→通常量でも過剰反応のリスク
つまり「タンパク結合率が高くなり遊離型が低下する」(オ)は逆で、「タンパク結合率が低下し遊離型が増加する」が正しいです。
各選択肢の解説:
- ア(誤): BBB・胎盤関門等のバリアは存在する(生体の重要な防御機構)。
- イ(正): タンパク結合型は活性なし・遊離型が活性を持つ。正しい(ただし正答はエ)。
- ウ(誤): BBB通過しやすい条件は「脂溶性高い・分子量小さい・非イオン化型」。ウは「水溶性・分子量大・イオン化」と逆。
- エ(正): 脂溶性薬物の脂肪組織蓄積→後から放出→効果の長引きは正しい。
- オ(誤): 低アルブミン血症では遊離型が増加し薬効が強まる(弱まるではない)。
【薬物分布の詳細な分子機構:BBBの構造・胎盤関門・組織特異的な分布の制御】
血液脳関門(BBB: Blood Brain Barrier)の構造的基盤:
BBBを構成する主要要素:
1. 脳毛細血管内皮細胞: タイトジャンクション(TJ)が発達しており、内皮細胞間隙を実質的に封鎖。末梢毛細血管には窓(fenestrae)があるがBBBにはない。
2. 周皮細胞(ペリサイト): 内皮細胞を包む支持細胞。血管透過性の調節・バリア誘導に関与。
3. アストロサイト足突起: 毛細血管を包み込み、内皮細胞のTJや排出ポンプの維持に関与。
BBBの機能的制御:
- 排出トランスポーター(P-gp・BCRP等): 脳内に入った一部の薬物を積極的に血中へ排出。多くの抗がん薬・抗ウイルス薬がBBBを通過しにくい理由の一つ。
- 流入トランスポーター(OATP・グルコーストランスポーター等): 特定の栄養素・薬物を選択的に脳内へ輸送。
BBBの成熟と小児への影響(ch1_35との接続):
新生児・乳児ではタイトジャンクションが未完成で排出ポンプも発達途上→BBBの機能が低い→成人では通過しにくい薬物も脳内へ移行しやすい→中枢神経系への影響が出やすい。第1世代抗ヒスタミン薬(乳幼児への使用に注意)・オピオイド(新生児への慎重な使用)はこの観点から特に注意が必要です。
胎盤関門(ch1_36との接続):
胎盤は絨毛膜絨毛を介した母体血と胎児血の接触により、栄養・酸素・老廃物の交換を行いますが、薬物も移行します。胎盤のバリア機能はBBBほど厳密ではなく、多くの薬物が受動拡散で移行します。胎盤にも排出トランスポーター(P-gp等)が存在し、一部の薬物の胎児側への移行を制限していますが完全ではありません。
分布容積(Vd: Volume of Distribution)の概念:
分布容積は「薬物が均一に分布した場合に必要となる仮想的な体液量」です。
```
Vd = 投与量 / 血中濃度(定常状態)
```
- Vd < 0.1 L/kg: 血漿にほぼ留まる(高分子量・高タンパク結合・水溶性)。例: ヘパリン(抗凝固薬)。
- Vd = 0.5〜1 L/kg: 全体液に均等分布(血漿+組織液)。
- Vd > 1 L/kg: 組織に広く分布・蓄積(脂溶性高い)。例: アミオダロン(心臓不整脈薬)のVd = 60 L/kg(主に脂肪・組織に蓄積)。
Vdが大きい薬物は体内からの消失が遅く(t1/2延長)、脂肪蓄積型の薬物は肥満者では分布容積がさらに増大します。
脂溶性薬物の脂肪蓄積と離脱症状(エの具体例):
ベンゾジアゼピン系薬(OTCには一部の催眠補助薬として第1世代抗ヒスタミン薬が使われるが、ベンゾジアゼピン自体はOTCにはない)は高い脂溶性・大きなVd→脂肪組織に蓄積→長期服用後に中止すると脂肪から緩やかに放出→血中濃度が維持される→離脱が緩やか(ただし依存形成あり)。
OTCで関連性があるのは:
- ブロムワレリル尿素(鎮静補助成分・催眠補助薬に含有): 脂溶性あり・蓄積リスク・連用で依存形成。
- 第1世代抗ヒスタミン薬: 比較的脂溶性が高くBBBを通過し中枢抑制(眠気)→連用注意。
タンパク置換相互作用の臨床的意義:
タンパク結合率が高い薬物(90%以上)を複数服用すると、同じアルブミン結合部位をめぐって競合が起き、一方の薬物がアルブミンから「外れて」遊離型が急増することがあります(タンパク置換:protein displacement)。
例: ワルファリン(処方抗凝固薬・アルブミン結合率99%)とOTC-NSAIDs(イブプロフェン等)の同時服用 → ワルファリンの遊離型が増加 → 抗凝固作用増強 → 出血リスク上昇。
これは「薬物相互作用の出血リスク」の代表的なメカニズムの一つです。登録販売者として、抗凝固薬を服用中の購入者へのOTC-NSAIDs販売は、この相互作用を念頭に慎重に対応する必要があります。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 設問・正答エ(脂溶性の高い薬物は脂肪組織に蓄積し後から血中に放出され作用が長引く)は一意性・事実ともOK。誤肢ア(BBB/胎盤関門が存在しない)・ウ(BBB通過しやすいのは水溶性高/分子量大/イオン化=逆)・オ(低アルブミン血症で結合率上昇し薬効減弱=逆)はいずれも明確な誤り。タンパク結合型は不活性・遊離型が活性、低アルブミン血症で遊離型増加し薬効増強、分布容積・タンパク置換相互作用等のYMYL記述も正確。修正不要。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第6節「薬の体内での働き(ADME)」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。