衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問33:救急処置
熱傷(やけど)の応急処置に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア熱傷の応急処置として、受傷直後は氷(アイスパック・冷凍食品等)を直接傷口に当てて素早く冷やすことが最も有効であり、水道水での冷却は不十分である。
- イⅡ度熱傷(真皮まで達する熱傷)で生じた水疱(水ぶくれ)は、内部に細菌が繁殖するリスクがあるため、清潔な針やハサミで速やかに破って中の液体を排出させることが応急処置として推奨されている。
- ウ熱傷の深度分類において、Ⅰ度熱傷は表皮のみの損傷で皮膚の発赤・疼痛があるが水疱は形成されず、通常は後遺症なく数日で治癒する。正答
- エ熱傷の応急処置として、衣服の上から熱傷を受けた場合でも、衣服を脱がせてから流水で冷却するよりも、衣服の上から流水をかけ続ける方が現場での迅速な対応として推奨されている。
- オ広範囲熱傷(体表面積30%以上)では、体液喪失(血漿の漏出)が少なく脱水症状を起こしにくいため、現場での水分補給が最も重要な応急処置である。
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正しいのはウです。Ⅰ度熱傷は皮膚の表皮のみの損傷で、発赤(赤くなる)・疼痛(痛み)がありますが水疱(水ぶくれ)は形成されません。日焼けがⅠ度熱傷の典型例です。通常は適切な処置をすれば後遺症なく数日で治癒します。
各誤りの要点: ア→氷による急激な冷却は凍傷リスクがあるため推奨されない(流水10〜20分が推奨)。イ→水疱を破ることは禁忌(感染リスクが高まる)。エ→衣服を脱がせてから冷却が基本だが、脱がせにくい場合は衣服の上から冷却も認められる(エの「衣服の上が常に推奨」という記述は誤り)。オ→広範囲熱傷では体液喪失が多く重大な脱水が生じる(「体液喪失が少ない」は誤り)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 熱傷の冷却は水道水(流水)による10〜20分間の冷却が推奨されています。氷・アイスパックを直接当てると、皮膚温が急激に下がりすぎて凍傷(組織の氷結損傷)を引き起こすリスクがあります。また冷え過ぎにより血管が過剰収縮し、組織への血流が減少して治癒が妨げられます。「流水冷却は不十分」は誤りです。
- イ(誤): 水疱は破ることが禁忌です。水疱の皮膚(水疱蓋)は損傷した真皮を外部の細菌・刺激から保護する重要なバリアです。水疱を破ると真皮が直接外気にさらされて感染リスクが大幅に増加し、治癒が遅れます。「速やかに破る」は完全な誤りです。
- ウ(正): Ⅰ度熱傷は表皮(皮膚の最表層)のみの損傷です。症状は発赤・疼痛であり、水疱は形成されません。日光熱傷(日焼け)がⅠ度熱傷の代表例です。適切な冷却と保湿で数日〜1週間で後遺症なく治癒します。
- エ(誤): 基本的には衣服を「脱がせてから」流水で冷却することが推奨されます。衣服が熱を保持して冷却効率を下げるためです。ただし「衣服が皮膚に貼りついている場合」は無理に脱がせると皮膚が剥離してしまうため、衣服の上から冷却します。「常に衣服の上から推奨される」という断定は誤りです。
- オ(誤): 広範囲熱傷では損傷した毛細血管から大量の血漿成分が漏出し(熱傷浮腫)、著明な体液喪失・脱水・ショックが生じます。「体液喪失が少ない」は誤りです。広範囲熱傷では医療機関での積極的な輸液療法(点滴)が必須であり、現場での経口水分補給は補助的・限定的です(意識・嘔吐の状態による)。
【理論的背景】
熱傷深度の分類は治療法・予後の予測において重要な評価です。日本では従来Ⅰ度・Ⅱ度・Ⅲ度の3段階分類が広く用いられていますが、国際的にはsuperficial(浅在性)からdeep(深在性)の連続体として捉えることも多く、Ⅱ度をさらに浅達性(SDB)と深達性(DDB)に分ける場合があります。
熱傷深度分類の詳細:
| 深度 | 損傷層 | 症状 | 水疱 | 治癒期間・後遺症 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ度 | 表皮のみ | 発赤・疼痛 | なし | 数日で後遺症なく治癒 |
| Ⅱ度浅達性(SDB) | 真皮浅層まで | 発赤・強い疼痛・水疱 | あり(内容液は透明・淡黄色) | 2〜3週間で治癒・瘢痕は少 |
| Ⅱ度深達性(DDB) | 真皮深層まで | 発赤・中程度疼痛・水疱 | あり(内容液は血性) | 4〜8週間・瘢痕・色素変化 |
| Ⅲ度 | 皮膚全層・皮下組織 | 白色〜炭化・疼痛なし(神経破壊)| なし | 手術(植皮)が必要・高度瘢痕 |
Ⅲ度熱傷で「疼痛がない」理由: 皮膚の神経が破壊されるほどの深い損傷のため、痛みを感じる神経終末が失われているためです。「痛くない熱傷は軽い」という誤解は危険です。
熱傷の重症度判定(九の法則・BSA基準):
- 体表面積(BSA)の推計: 成人では頭部=9%・体幹前面=18%・体幹後面=18%・各上肢=9%・各大腿=9%・各下腿=9%・会陰部=1%(計100%)
- BSA10%以上のⅡ度・Ⅲ度熱傷は「重症熱傷」として専門施設での治療が必要
- BSA15〜20%以上では体液喪失(熱傷ショック)のリスクが高まる
【実務・条文構造】
熱傷の応急処置の標準的な手順:
1. 安全を確認(炎・熱源から離れる)
2. 冷却: 衣服を脱がせて(貼りつきがなければ)流水で10〜20分間冷却
- 温度: 15〜25℃の水道水(冷たすぎない清潔な水)
- 時間: 10〜20分(広範囲の場合は体温低下に注意)
- 氷・アイスパックは避ける(凍傷リスク)
3. 保護: 清潔なガーゼ・ラップ等で保護(水疱を破らない)
4. 搬送: Ⅱ度以上(水疱あり)・顔面・手・会陰部・関節部は医療機関受診
5. 観察: 広範囲熱傷はショックサインに注意・救急搬送
冷却の禁忌:
- 氷・アイスパックの直接当て: 凍傷リスク
- 広範囲熱傷での長時間冷却: 低体温症のリスク(特に小児・高齢者)
- 油・バター・歯磨き粉等の塗布: 感染リスク・熱の保持で逆効果
【試験での位置づけ】
熱傷の問題では「Ⅰ度熱傷の定義(表皮のみ・水疱なし)」「冷却法(流水10〜20分・氷は避ける)」「水疱は破ることが禁忌」「広範囲熱傷での体液喪失の多さ」が最頻出です。ア・イの誤りパターン(「氷が有効」「水疱を破る」)は実際に誤った応急処置として行われることがある危険な誤りであり、試験でも繰り返し出題されます。ウの「Ⅰ度=水疱なし」という正確な知識が一意に特定できる正答です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 流水冷却は「15〜25℃の清潔な水で10〜20分」が推奨されますが、夏場の水道水は20〜25℃程度で適切な温度範囲にあります。冷たすぎる水(5℃以下)は血管を過剰収縮させるため、冷たすぎない水を使用します。野外での応急処置では、清潔なミネラルウォーター・ペットボトルの水でも可です。
- イ: 水疱内の液体(浸出液)は成長因子・免疫因子を含む治癒促進物質を含んでいます。水疱を破ることはこれらの治癒促進因子を除去することにもなり、治癒遅延の原因となります。医療機関でも、Ⅱ度浅達性の水疱は可能な限り保護し、自然破裂した場合のみ処置します。
- ウ: Ⅰ度熱傷(日焼けを含む)の治療は「冷却・保湿・遮光」が基本です。市販の保湿剤・アロエベラジェルが日焼けの緩和に有効であることが示されています。Ⅰ度熱傷は通常は医療機関受診不要ですが、広範囲・顔面・持続する強い疼痛の場合は受診を勧めます。
- エ: 衣服の上から冷却することが適切な状況は「衣服が皮膚に貼りついており、無理に脱がせると皮膚が剥離する場合」です。融けたプラスチック・ナイロン等の合成繊維が皮膚に溶着した場合も、無理に除去せずに冷却しながら医療機関に搬送します。
- オ: 広範囲熱傷での輸液量の計算にはParkland式(Baxter式)が用いられます:最初の24時間の輸液量(mL)= 4 × 体重(kg)× BSA(%)。体重60kg・BSA30%の場合: 4 × 60 × 30 = 7,200mL/24時間(うち半分を最初の8時間で投与)。この大量輸液が広範囲熱傷治療の根幹となります。
【根拠】医学的事実(確立した救急医学・熱傷医学)。熱傷深度分類・応急処置の推奨は日本熱傷学会・日本救急医学会ガイドライン準拠。
【補足】Ⅰ度熱傷=表皮のみ・水疱なし・後遺症なく数日で治癒。冷却は「流水10〜20分」(氷は禁忌)。水疱は「破ることが禁忌」(感染リスク増大)。広範囲熱傷は体液喪失が多く重大なショックが生じる。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した救急医学・熱傷医学)。Ⅰ度熱傷の定義(表皮のみ・水疱なし)は熱傷深度分類の基本事項。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。