衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問49:労働基準法
賃金の支払いに関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア使用者は、労働者の同意があれば、当該労働者の賃金から社会保険料・税金以外の金額(例:社内貸付金の返済額)を控除することができる。
- イ労基法第24条の全額払いの原則には例外がなく、いかなる場合も賃金から控除することは認められない。
- ウ使用者は、過半数組合(または過半数代表者)との書面による労使協定を締結した場合、社宅費・購買代金・社内預金のための控除など、法令で定めた以外の金額を賃金から控除することができる。正答
- エ賃金は通貨で支払わなければならないが、労働者の同意を得れば、現物給付(米・衣服等)で支払うことも法令上認められている。
- オ賃金は本人に直接支払わなければならないが、本人の書面による委任状があれば、代理人(配偶者等)に支払うことも認められる。
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正しいのはウです。労基法第24条の「全額払いの原則」には、法令に別段の定めがある場合(社会保険料・税金の源泉控除等)と、労使協定がある場合の2つの例外があります。選択肢ウの「労使協定を締結した場合、社宅費・購買代金・社内預金のための控除ができる」は、この労使協定による例外を正確に述べており正しい記述です。
各誤りの要点: ア→個人の同意だけでは(労使協定なしに)社会保険・税金以外の金額を控除することはできません。「個人同意=控除可」は誤りです。イ→全額払いの原則には「法令の別段の定め」と「労使協定」の2つの例外があり、「例外がない」は誤りです。エ→通貨払いの原則の例外(現物支給)は、法令・労使協定があれば認められる場合もありますが(農業の食事提供等)、「労働者の個人同意で現物給付」が認められるわけではなく、不正確です。オ→「直接払いの原則」には委任状による代理受領も認められません(判例も代理人への支払いは原則として認めない)。
賃金の支払い5原則と例外(労基法第24条):
| 原則 | 内容 | 例外 |
|---|---|---|
| 通貨払い | 現金・日本円で支払う | 法令・労使協定(銀行振込等)・労働者同意(一部)|
| 直接払い | 本人に直接支払う | 法令(差押命令等)・使者(本人の使いは可・代理人は不可) |
| 全額払い | 控除なしに全額支払う | 法令(社会保険料・税金等)・労使協定(社宅費・購買代金等) |
| 毎月払い | 少なくとも毎月1回支払う | 年俸制の場合も毎月払いが必要(年1回は不可) |
| 一定期日払い | 毎月特定の日(給与日)に支払う | 臨時の賃金・賞与等は除外 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 全額払いの例外は「法令の別段の定め」か「労使協定」であり、個人の同意だけでは控除できません。「個人同意=控除可」という誤解は労基法第24条の最頻出の引っかけです。
- イ(誤): 全額払いの原則には例外が2つ(法令+労使協定)あります。「例外なし」は誤りです。
- ウ(正): 労使協定(書面・過半数組合または代表者との締結)がある場合に控除が可能。社宅費・社内食堂代・社内購買代・社内預金等が典型例。
- エ(誤): 通貨払いの原則(日本円での支払い)の例外は、「法令に別段の定め」または「労使協定」で認められた場合に限られます。個人の同意だけでは現物支給は認められません(農業労基法の例外等がある)。
- オ(誤): 直接払いの原則の例外は法令(差押命令等)のみ。委任状(書面での代理人指定)があっても代理人への支払いは認められません(判例:民法上の代理と労基法の直接払いは別概念)。
【理論的背景】
賃金の支払い5原則(労基法第24条)は、「使用者が賃金の支払いを操作することで労働者を経済的に支配・拘束する」という歴史的弊害(前近代的な中間搾取・現物支給による物価差別等)を防止するために設けられた強行規定です。
「全額払いの原則」の核心的な意義: 使用者が一方的に損害賠償額・貸付金返済額等を賃金から差し引く行為を禁止することで、労働者の生活賃金を確実に受領させること。使用者と労働者の対等性を確保するための法的枠組みです。
【実務・条文構造】
5原則の詳細と例外の整理:
1. 通貨払い(第24条第1項本文):
- 原則: 日本円の現金で支払う
- 例外: ①法令に別段の定め(船員法の食費・宿泊費控除等)②労使協定(銀行振込・証券での支払い等)③労働者同意(金融機関の口座振込・デビットカード・スマートフォン決済への拡大=2023年4月施行の資金移動業者口座への振込解禁)
2. 直接払い(第24条第1項本文):
- 原則: 本人に直接支払う(使者を通じた支払いは可能・代理人への支払いは不可)
- 使者と代理人の区別: 使者は本人の「手足」として受け取るだけの者。代理人は意思決定権限を持つ。賃金受領において代理人への支払いは直接払いの原則違反。
- 例外: 法令(債権差押命令により裁判所から第三者への支払い命令がある場合等)
3. 全額払い(第24条第1項本文):
- 原則: 税金・社会保険料等の法令控除を除き全額支払う
- 例外①(法令): 所得税(源泉徴収)・住民税(特別徴収)・健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・介護保険料の控除
- 例外②(労使協定): 書面による協定で定めた範囲での控除(社宅費・社員寮費・食堂代・購買代金・社内預金・組合費等)
- 「相殺」の禁止: 使用者が一方的に労働者への損害賠償債権と賃金を相殺することは全額払い違反(判例)
4. 毎月払い(第24条第2項):
- 原則: 毎月1回以上支払う
- 例外: 臨時に支払われる賃金(結婚手当・解雇予告手当等)・賞与(ボーナス)
- 年俸制の場合も月払いが必要(年1回払いは不可)
5. 一定期日払い(第24条第2項):
- 原則: 毎月特定の日(例:25日・末日)に支払う
- 例外: 臨時の賃金・賞与
通貨払いの2023年改正(資金移動業者口座への振込解禁):
2023年4月から、労働者の同意を前提に資金移動業者(スマートフォン決済事業者等)の口座に振り込む形での賃金支払いが解禁されました(「デジタル払い」)。ただし、残高上限・保全措置・換金性の確保等の要件があります。これはキャッシュレス社会への対応と外国人労働者支援等を目的とした改正です。
【試験での位置づけ】
賃金の5原則で最も出題されるポイント:
- 「全額払いの例外は法令+労使協定のみ(個人同意だけでは不可)」
- 「直接払いの原則(委任状があっても代理人受領は不可)」
- 「通貨払いの例外(銀行振込は労使協定で可・2023年からデジタル払いも可)」
- 「社会保険料・税金の控除は法令上当然可(労使協定不要)」
引っかけパターン:
- 「個人の同意があれば賃金から貸付金返済額を控除できる」(誤り・労使協定が必要)
- 「委任状があれば配偶者が代理で受け取れる」(誤り・直接払い原則違反)
- 「全額払いの原則には例外がない」(誤り・法令+労使協定の例外あり)
【各選択肢の発展補足】
- ア: 判例(最高裁)は「使用者が労働者に対する損害賠償債権を一方的に賃金と相殺することは全額払い違反」と明確に判断しています。個人の同意(個別合意)があっても、使用者から誘導・強制された場合は当然無効となります。社内貸付金の返済控除には必ず労使協定が必要です。
- イ: 全額払いの原則の「例外なし」という誤りは、試験で「法令控除(税金・社会保険)はどう説明するのか」という矛盾から発見できます。社会保険料・税金の控除は毎月行われており、これは法令の別段の定めによる当然の例外です。
- ウ: 労使協定の控除項目として認められる代表例: ①社宅・寮費 ②社員食堂の食事代 ③社内購買所での購買代金 ④社内預金のための積立額 ⑤労働組合費(チェックオフ)⑥財形貯蓄 ⑦社内共済会費等。これらを「賃金から引いてから手取りで渡す」運用が実務上広く行われています。
- エ: 現物支給は農業・工業・商業等の分野で歴史的に行われてきた慣行ですが、現在の労基法は通貨払い原則を採用しており、現物支給を認める法令・労使協定がない限り認められません。特に食料品・衣料品・商品等を「賃金として」支給することは原則禁止です。
- オ: 「使者」と「代理人」の区別は法理上重要です。病気で来られない本人の代わりに家族が「受け取りに来る」のは使者(本人の使い)として認められる場合があります(判例も一部認容)。しかし、本人が「代理人に受け取る権限を与える」という委任状による代理人受領は直接払い原則違反とする判例が定着しています。
【根拠法令】労働基準法 第24条(賃金の支払い5原則:通貨払い・直接払い・全額払い・毎月払い・一定期日払い)。全額払いの例外:①法令(社会保険・税金)②書面による労使協定(社宅費・購買代金等)。個人同意のみでは控除不可。
【補足】全額払いの例外は法令+労使協定(個人同意だけでは不可)。直接払いの原則は委任状による代理人受領も禁止。社会保険・税金の控除は法令上当然可(労使協定不要)。労使協定で控除可の典型例は社宅費・購買代金等。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働基準法(労基法)第24条(賃金の支払い5原則:通貨払い・直接払い・全額払い・毎月払い・一定期日払い)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。