衛生管理者 労働生理 問16:呼吸
呼吸器の構造と機能に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア気道は鼻腔・咽頭・喉頭・気管・気管支・細気管支・終末細気管支・呼吸細気管支・肺胞管・肺胞嚢・肺胞の順に構成されており、鼻腔から終末細気管支までの部分は解剖学的死腔を形成する。
- イ肺胞の表面には界面活性物質(サーファクタント:主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン)が存在し、肺胞の表面張力を低下させて肺胞が潰れるのを防いでいる。
- ウ横隔膜は吸気の主要な呼吸筋であり、収縮すると胸腔容積が増大して肺に空気が流入する。外肋間筋も吸気に働き、吸気時に肋骨を挙上して胸郭を拡張させる。
- エ呼気は通常の安静呼吸では横隔膜・外肋間筋の弛緩と肺の弾性収縮力によって受動的に行われるが、強制呼気では内肋間筋・腹筋群などの呼気筋が積極的に収縮して胸郭を縮小させる。
- オ肺サーファクタントは生後直ちに産生が開始され、在胎22週以前の未熟児でも十分な量が産生されているため、呼吸窮迫症候群(RDS)は発症しない。正答
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誤りはオです。肺サーファクタントは妊娠後期(在胎34〜36週頃)から十分な量が産生されるようになります。在胎22週以前の極早産児ではサーファクタントが著しく不足しており、出生後に肺胞が潰れやすくなります(表面張力が高いまま)。これが新生児呼吸窮迫症候群(RDS:Respiratory Distress Syndrome)の主な原因です。「在胎22週以前でも十分」「RDSは発症しない」はともに誤りです。
その他の選択肢はすべて正確です。気道の構造と解剖学的死腔の範囲(ア)、サーファクタントの役割(イ)、横隔膜・外肋間筋が吸気筋(ウ)、安静呼気は受動的・強制呼気では内肋間筋・腹筋が活動(エ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 気道の構成は正確な記述です。解剖学的死腔は「ガス交換が行われない気道部分」であり、鼻腔から終末細気管支まで(約150mL)です。呼吸細気管支以降に肺胞が付属し始め、ここからガス交換が行われます。
- イ(正): 肺サーファクタント(肺表面活性物質)の主成分はDPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)であり、Ⅱ型肺胞上皮細胞(pneumocyte type II)が産生します。ラプラス法則により小さい肺胞ほど内圧が高く潰れやすいですが、サーファクタントが表面張力を低下させることで肺胞の安定性を維持します。
- ウ(正): 横隔膜収縮→下降→胸腔容積増大→肺が受動的に拡張→陰圧が生じて空気が流入。外肋間筋収縮→肋骨が上・前方に挙上→胸郭の前後径・横径が拡大→吸気に貢献。両者が主要な吸気筋です。
- エ(正): 安静呼気は「吸気筋の弛緩 + 肺の弾性収縮(バネが元に戻ろうとする力)」の受動的なプロセスです。強制呼気(スパイロメトリーの努力呼気・咳・くしゃみ等)では内肋間筋・腹直筋・腹斜筋等の呼気筋が収縮して胸郭を積極的に縮小させます。
- オ(誤): 肺サーファクタントは妊娠24〜28週から少量産生され、34〜36週以降に十分な量となります。在胎22週以前の極早産児では著しく不足しています。出生後にサーファクタント不足→表面張力が高い→肺胞が潰れやすい→ガス交換不全→呼吸困難という病態がRDSです。現在は人工サーファクタントの気管内投与で治療されます。
【理論的背景】
呼吸器の構造は「伝導気道(解剖学的死腔)」と「呼吸区域(ガス交換部)」の二つに大別され、その境界は呼吸細気管支の始まりです。各構造の機能を理解することが、じん肺・職業性肺疾患の病態理解に直結します。
気道の構造と機能(伝導気道の役割):
1. フィルタリング: 鼻毛・鼻粘膜・気道粘液で粒子を捕捉
2. 加温・加湿: 気道粘膜で吸入気を体温(37℃)・100%相対湿度に調整
3. 繊毛輸送: 気道の繊毛上皮が粘液(ムチン)とともに異物を咽頭側へ輸送(毎分1〜2cm)→痰として排出
4. 死腔: ガス交換に寄与しない換気量(約150mL)
サーファクタントの物理化学的機序(ラプラス法則):
- ラプラス法則: P = 2T/r(P=内圧、T=表面張力、r=半径)
- 肺胞が小さいほど(rが小)→内圧P が大きい→潰れようとする力が大きい
- サーファクタントが表面張力Tを低下させることでPを下げ、小さい肺胞が潰れるのを防ぐ
- サーファクタント不足(早産児)→表面張力高い→肺胞が萎縮(無気肺)→血液が通っても換気されない→V/Q=0のシャント→低酸素血症
【実務・条文構造】
職業性呼吸器疾患と気道・肺胞の関係:
じん肺(粉じん性肺疾患):
- 粉じんが吸入→上気道でのフィルタリングを通過した細かい粉じん(5μm以下)が肺胞に到達
- マクロファージが粉じんを貪食→炎症・線維化→肺胞の正常構造が破壊→拘束性換気障害
- 珪肺(シリカ)・石綿肺(アスベスト)・溶接工肺等がある
閉塞性肺疾患(COPD・気管支喘息):
- 気道の慢性炎症・リモデリング→気道内腔の狭窄→閉塞性換気障害(FEV₁/VC低下)
- COPDは主として喫煙・有機溶剤・粉じん等の長期曝露が原因
- 喘息は職業性喘息(感作物質: TDI、無水フタル酸、木材粉等)として労災認定の対象
サーファクタント関連の職業性疾患:
- 有機溶剤の吸入(特にパラコート・ジクロロプロパン等)で肺胞上皮(Ⅱ型細胞)が障害→サーファクタント産生低下→肺線維化
- 石綿曝露→間質性肺炎・石綿肺→Ⅱ型肺胞上皮の増殖とサーファクタント産生変化
【試験での位置づけ】
呼吸器構造問題では「解剖学的死腔の範囲(鼻腔〜終末細気管支)」「サーファクタントの役割(表面張力低下・肺胞の安定化)」「横隔膜・外肋間筋=吸気筋、内肋間筋・腹筋=強制呼気筋」「安静呼気は受動的(筋肉を使わない)」が最頻出です。オのような「早産児でもサーファクタント十分」という誤りは、サーファクタントの発達時期の知識を問う引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 解剖学的死腔(約150mL)はとても重要な概念です。1回換気量500mLのうち実際に肺胞でガス交換に使われるのは350mLだけです。呼吸が浅くなると(例: 1回換気量250mL)、肺胞換気量は100mLに激減(250-150=100mL)し、ガス交換効率が急落します。「浅くて速い呼吸は効率が悪い、深い呼吸が有効」の理由です。
- イ: サーファクタント産生細胞はⅡ型肺胞上皮細胞(タイプ2肺胞上皮細胞・Clara細胞ともいう)です。喫煙・酸素毒性・放射線・多くの薬物がⅡ型細胞を傷害し、サーファクタント産生低下→肺胞の安定性低下→急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の病態に関与します。
- ウ: 頸髄損傷(C4以上)では横隔神経が切断されて横隔膜が麻痺し、自発呼吸が不能になります。人工呼吸器が必要です。横隔膜が呼吸の主役であることを示す極端な例です。
- オ: 新生児RDSの治療として確立した「肺サーファクタント補充療法(気管内投与)」は、在胎週数が少ないほど有効性が高く、現代の新生児集中治療(NICU)の核心技術の一つです。この治療が確立する以前は極早産児の死亡率が非常に高かった歴史的背景があります。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・産科医学)。肺サーファクタントの産生開始時期(妊娠後期)・早産児のRDSのリスク・呼吸筋の分類は生理学・産科医学の基礎概念として確立。
【補足】肺サーファクタントは妊娠後期(34〜36週)から十分産生される。早産児(特に在胎22週以前)では著しく不足し、RDSの主因となる。「在胎22週以前でも十分」は誤り。横隔膜・外肋間筋=吸気筋。安静呼気は受動的(弛緩+弾性収縮)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・産科医学)。肺サーファクタントは妊娠後期に産生が増加し、早産児では不足するためRDSが生じる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。