衛生管理者 労働生理 問19:消化吸収・代謝
肝臓の機能に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア肝臓はグリコーゲンを合成・貯蔵し、血糖値が低下した際にグリコーゲンを分解してグルコースを血中に放出する機能を持つ。
- イ肝臓はアルブミンや血液凝固因子(フィブリノゲン・プロトロンビン等)を合成し、血漿タンパク質の主要な産生臓器である。
- ウ胆汁は肝臓で産生されるが、胆嚢で一時的に貯蔵・濃縮され、食事の刺激によって十二指腸へ分泌される。
- エ肝臓は薬物・アルコール・アンモニアなどの有害物質を解毒する機能を持つが、この解毒機能は肝細胞のミトコンドリア内ではなく主に小胞体(チトクロームP450系)で行われる。
- オ肝臓は脂質代謝において、コレステロールの全量を産生するとともに、不要なコレステロールを体外に排出する唯一の臓器であり、食事からコレステロールを摂取しても肝臓での産生量は変化しない。正答
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誤りはオです。肝臓は確かに体内コレステロールの大部分(約70〜80%)を自ら合成しますが、「全量」を産生するわけではなく、食事からのコレステロール摂取も寄与します。また食事からコレステロールを多く摂ると、肝臓ではコレステロール合成を減らす(フィードバック調節)働きがあります。「産生量は変化しない」という部分が誤りです。さらに「唯一の排出臓器」については、胆汁経由の排泄が主要ルートであり肝臓が中心的役割を担いますが、他の組織でも一部排泄されます。
その他の選択肢はすべて正確な内容です。グリコーゲン合成・貯蔵・血糖調節(ア)、血漿タンパク質合成(イ)、胆汁産生(肝臓)と貯蔵(胆嚢)(ウ)、薬物代謝の場所(チトクロームP450系・小胞体)(エ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): グリコーゲン代謝の肝臓中心的な役割の正確な記述です。インスリンが高血糖時に肝臓のグリコーゲン合成を促進し、グルカゴンが低血糖時にグリコーゲン分解(グリコゲノリシス)を促進します。骨格筋もグリコーゲンを貯蔵しますが、グルコース-6-ホスファターゼを持たないため血糖維持のためのグルコースを血中に放出できません(肝臓のみが血糖調節に使えるグリコーゲンを持つ)。
- イ(正): 血漿タンパク質産生臓器としての肝臓の正確な記述。アルブミン(血漿膠質浸透圧の維持・物質の運搬)・フィブリノゲン(凝固因子I)・プロトロンビン(凝固因子II)・凝固因子V・VII・IX・X・タンパクC・Sなどが肝臓で産生されます。肝不全ではこれらが低下して出血傾向・浮腫が生じます。
- ウ(正): 胆汁の産生と貯蔵の正確な記述。肝細胞で産生される胆汁(約500〜1000mL/日)は肝内胆管→総肝管→胆嚢管→胆嚢で貯蔵・濃縮(約5〜10倍)→食事(特に脂質)の刺激でコレシストキニン(CCK)が分泌→胆嚢が収縮→胆汁が総胆管→ファーター乳頭→十二指腸へ分泌。
- エ(正): 薬物代謝の正確な記述。チトクロームP450(CYP)ファミリーは小胞体膜に存在し、肝臓に最も豊富に発現します。薬物の水溶性を高めて(酸化・還元・加水分解・抱合などの化学修飾)腎臓や胆汁から排泄しやすくする相I・相II反応を担います。
- オ(誤): 肝臓は体内コレステロール合成の中心(約70〜80%)ですが、「全量」ではありません。食事からのコレステロール摂取は残りの約20〜30%を占めます。また食事性コレステロールが増えると、肝臓ではHMG-CoA還元酵素(コレステロール合成の律速酵素)の活性を低下させ、コレステロール産生量を減らすフィードバック調節が働きます(ただしこの調節は完全ではなく個人差も大きい)。
【理論的背景】
肝臓は「体の中央化学工場」と呼ばれ、代謝・解毒・合成・貯蔵・排泄のすべてに関わります。試験で問われる肝機能を体系的に理解するために4つの大分類で整理します。
肝機能の4大分類と具体的役割:
1. 代謝機能
- 糖代謝: グリコーゲン合成・貯蔵・分解(血糖調節)、糖新生(アミノ酸・乳酸・グリセロールからグルコース産生)
- 脂質代謝: コレステロール・リポタンパク合成・脂肪酸のβ酸化・ケトン体産生
- タンパク質代謝: アミノ酸の脱アミノ→アンモニア産生、アンモニア→尿素合成(オルニチン回路)、血漿タンパク質合成
2. 解毒・代謝機能
- チトクロームP450(CYP)系: 薬物・毒物・内因性化合物の酸化・還元・加水分解(相I反応)
- 抱合反応(相II反応): グルクロン酸・硫酸・グルタチオンなどとの結合→水溶性向上→排泄促進
- アルコール代謝: エタノール→アルコール脱水素酵素(ADH)→アセトアルデヒド→アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)→酢酸→CO₂+H₂O
- アンモニア解毒: 腸内細菌が産生するアンモニア→門脈→肝臓→オルニチン回路→尿素(無毒化)→腎臓排泄
3. 合成・分泌機能
- 胆汁産生: 胆汁酸塩・ビリルビン・コレステロール・リン脂質を含む胆汁を産生
- ビリルビン代謝: 赤血球が脾臓等で破壊→ヘム→ビリルビン(間接型)→肝臓でグルクロン酸抱合(直接型)→胆汁→腸管→ウロビリノーゲン→尿・糞便
4. 貯蔵機能
- グリコーゲン(血糖の緩衝)
- ビタミン(A・D・B₁₂・K・葉酸)
- 鉄(フェリチン・ヘモジデリン)
- 銅
【実務・条文構造】
コレステロール代謝の詳細とスタチン系薬剤:
コレステロール合成の律速酵素:
- HMG-CoA還元酵素(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAレダクターゼ)がコレステロール合成の律速段階を担う
- この酵素の阻害剤がスタチン系薬剤(アトルバスタチン・ロスバスタチン等)
- 食事性コレステロール摂取増加→LDL受容体を介した取り込みが増加→肝臓の細胞内コレステロール↑→HMG-CoA還元酵素活性↓(フィードバック抑制)→合成低下
職場の肝機能検査(定期健康診断で実施):
- AST(GOT)・ALT(GPT): 肝細胞障害のマーカー(肝炎・脂肪肝・アルコール性肝障害)
- γ-GTP: アルコール性肝障害・薬物性肝障害に鋭敏
- ALT > AST: 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に多い
- AST > ALT かつ AST/ALT比が2以上: アルコール性肝障害を示唆
- ビリルビン・アルブミン・プロトロンビン時間: 肝臓の合成能を評価(肝硬変・肝不全の指標)
薬物性肝障害と職業環境:
- 四塩化炭素・クロロホルム等の有機溶剤: 直接肝毒性(CYPで代謝されて活性酸素産生→肝細胞障害)
- アセトアミノフェン: 過剰摂取→CYPで毒性代謝物(NAPQI)産生→グルタチオン枯渇→肝細胞壊死
【試験での位置づけ】
肝臓問題では「グリコーゲン合成・貯蔵・血糖調節」「血漿タンパク質(アルブミン・凝固因子)の合成」「胆汁を産生(貯蔵は胆嚢)」「解毒の場所(小胞体のCYP系)」が最頻出です。オのような「肝臓がコレステロールを全量産生・食事の影響なし」という誤りは、コレステロール代謝の知識を問う引っかけです。肝臓は大部分を産生するが全量ではなく、食事の影響をフィードバック調節で受ける点が正確です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 肝不全(重症肝疾患)では糖新生能の低下→空腹時低血糖が起きます。また膵臓からのインスリン・グルカゴンの分解が肝臓で行われるため(肝臓は門脈血に含まれるインスリンの約50%を初回通過で代謝)、肝不全ではインスリン過剰状態になりやすく、低血糖のリスクが高まります。
- エ: チトクロームP450の薬物代謝と薬物相互作用(DDI): 同じCYP(例: CYP3A4)で代謝される薬剤を複数服用すると、代謝が競合して一方の血中濃度が上昇・副作用が出ることがあります。職場での薬物服用者(複数薬服用の高齢者)への配慮として重要です。グレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害するため、一部の薬剤(降圧薬・スタチン等)と飲み合わせが禁忌です。
- オ: なぜ食事によるコレステロール制限の効果が限定的かと言われるか: 体内のコレステロールの約70〜80%は肝臓で産生され、食事由来はわずか20〜30%。さらに肝臓のフィードバック調節により食事性コレステロールを減らしても合成が増えることがあります。このため食事療法のみで血中LDLを大幅に下げることは難しく、スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)が有効なのです。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・生化学)。肝臓のコレステロール合成は体内産生の主役だが全量ではなく食事性の寄与もある点、HMG-CoA還元酵素によるフィードバック調節が行われる点は代謝生化学の基礎概念として確立。
【補足】肝臓はコレステロールを大部分産生するが全量ではなく、食事性コレステロール摂取増加でHMG-CoA還元酵素活性がフィードバック抑制される。グリコーゲン貯蔵・血漿タンパク質合成・胆汁産生・解毒(CYP系)は肝臓の確立した機能。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。肝臓は体内コレステロールの大部分を産生するが「全量」ではなく食事からも摂取される。また食事性コレステロール摂取による肝臓での産生量のフィードバック調節(HMG-CoA還元酵素の調節)が行われる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。