衛生管理者 労働生理 問23:腎臓・尿
腎臓における尿の生成に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア腎臓の糸球体では、血液中の水・電解質・グルコース・アミノ酸・尿素などの低分子物質が濾過されて原尿が生成される。タンパク質(アルブミン等)や血球成分は正常では糸球体を通過しない。
- イ健常者では、糸球体で濾過されたグルコースとアミノ酸はほぼ全量が尿細管で再吸収されるため、尿中にほとんど排泄されない。
- ウ1日に生成される原尿の量は約1.5〜2Lであり、そのほとんどが尿細管と集合管で再吸収されて最終的な尿量は約1.5L前後となる。正答
- エ腎臓はエリスロポエチン(EPO)を産生し、骨髄での赤血球産生を促進する内分泌機能を持つ。
- オ尿細管では、必要に応じてNa⁺の再吸収(アルドステロンによる調節)やK⁺の分泌・H⁺の分泌(酸塩基平衡の調節)が行われる。
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誤りはウです。1日の原尿量は約150〜180Lです(「約1.5〜2L」は最終的な尿量の数値であり、原尿量として誤りです)。腎臓は1日に約150〜180Lもの大量の血漿を濾過し(原尿)、その約99%が尿細管・集合管で再吸収されます。残り1%(約1.5〜2L)が最終的な尿として排泄されます。つまり原尿の約99%が再吸収されて尿になるのはわずか1%という驚くべき効率の臓器が腎臓です。「原尿1.5〜2L」という数値は最終尿の数値であり、原尿量(150〜180L)を誤っています。
その他の選択肢はすべて正確です。糸球体濾過の内容(ア)、グルコース・アミノ酸の完全再吸収(イ)、EPO産生(エ)、尿細管でのNa⁺・K⁺・H⁺調節(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 糸球体濾過の正確な記述です。糸球体の毛細血管壁(糸球体基底膜+足細胞のスリット膜)は、分子量約5万以下の物質を通過させます。グルコース(MW=180)・アミノ酸・尿素・クレアチニン・Na⁺・K⁺・水はほぼ自由に通過します。アルブミン(MW約6.6万)は正常では通過しない(微量は通過するが、尿細管で再吸収される)。
- イ(正): グルコースは糸球体で濾過された後、近位尿細管でNa⁺共輸送体(SGLT2)によってほぼ100%再吸収されます。血糖値が腎排泄閾値(約160〜180mg/dL)を超えると(糖尿病等)再吸収が追いつかず尿中にグルコースが現れます(尿糖)。アミノ酸も同様にほぼ100%近位尿細管で再吸収されます。
- ウ(誤): 1日の原尿量は約150〜180L(1分間約125mL/分 × 1440分/日)。最終的な尿量は約1〜1.5L(成人)。つまり原尿の99%以上が再吸収されます。「原尿が1.5〜2L」は最終尿と原尿を混同した誤りです。1日に心臓から腎臓に送られる血液量は約1,700Lで、腎動脈血流量(約1,200mL/分)のうち約20%(125mL/分)が原尿として濾過されます。
- エ(正): 腎臓の内分泌機能のうちエリスロポエチン(EPO)産生は重要です。腎臓の傍尿細管間質細胞がO₂分圧低下(貧血・低酸素)を感知してEPOを産生し、骨髄の赤血球系前駆細胞に作用して赤血球産生を促進します。慢性腎臓病(CKD)ではEPO産生が低下→腎性貧血が生じます。
- オ(正): 遠位尿細管・集合管での酸塩基平衡・電解質調節の正確な記述です。アルドステロン(副腎皮質ホルモン)→集合管のNa⁺チャネルを増加→Na⁺再吸収↑・K⁺分泌↑→循環血液量増加・血圧上昇。H⁺分泌→尿の酸性化→体液の酸塩基バランス維持。
【理論的背景】
腎臓は尿の生成(不要物の排泄)だけでなく、血液の恒常性(体液量・電解質組成・酸塩基平衡)の維持において中心的な臓器です。さらに内分泌臓器としての機能(EPO産生・ビタミンD活性化・レニン産生)も担います。
ネフロンの構造と機能の詳細:
| 部位 | 主な機能 |
|---|---|
| 糸球体(ボーマン嚢と糸球体毛細血管) | 血液の濾過→原尿生成(125mL/分=GFR) |
| 近位尿細管 | 原尿の約65〜70%を等張性に再吸収(Na⁺・Cl⁻・HCO₃⁻・グルコース・アミノ酸・水) |
| ヘンレのループ(Henle係蹄) | 髄質浸透圧勾配の形成(対向流倍増機構)→尿の濃縮に重要 |
| 遠位尿細管 | アルドステロンによるNa⁺再吸収・K⁺分泌の精密調節 |
| 集合管 | ADH(バソプレシン)による水の再吸収調節→尿量・尿浸透圧の最終調整 |
GFR(糸球体濾過量)の臨床的意義:
- 正常値: 約125mL/分(成人)= 180L/日(原尿量)
- GFRは腎機能の最重要指標(腎機能≒GFR)
- 推算GFR(eGFR): 血清クレアチニン・年齢・性別から算出(CKDステージ分類に使用)
- CKD(慢性腎臓病)の定義: GFRが60mL/分未満が3ヶ月以上持続 または 蛋白尿等の腎障害所見が3ヶ月以上持続
腎臓の内分泌機能(試験で問われる範囲):
1. エリスロポエチン(EPO): 低O₂→EPO産生↑→骨髄赤血球産生↑。CKDではEPO産生低下→腎性貧血
2. レニン: 腎血流低下・低Na→レニン分泌→RAAS活性化→AT-II→血管収縮・アルドステロン→血圧上昇
3. 活性型ビタミンD(カルシトリオール): 25-ヒドロキシビタミンD(肝臓で産生)→腎臓で1-α水酸化酵素→1,25-ジヒドロキシビタミンD₃(活性型)→腸管Ca吸収促進
【実務・条文構造】
職場と腎機能の実務的関係:
職業性腎障害リスク:
- 重金属(カドミウム・鉛・水銀): 近位尿細管の直接毒性→初期はβ₂-ミクログロブリン尿(尿細管障害のマーカー)→慢性曝露でイタイイタイ病(カドミウム)
- 有機溶剤(四塩化炭素・クロロホルム): 急性腎毒性・肝毒性
- 鎮痛薬(NSAIDs)の長期大量使用: 鎮痛薬腎症
- 脱水(高温環境での重労働・熱中症): 腎前性急性腎不全のリスク
健康診断での尿検査(腎機能の指標):
- 尿タンパク: 糸球体障害の早期指標(正常: 陰性)
- 尿糖: 高血糖(糖尿病)または腎性糖尿(腎排泄閾値の低下)
- 尿潜血: 腎臓・尿路の出血(腎炎・結石・癌等)
- 尿比重: 尿の濃縮能(腎機能・水分摂取量を反映)
熱中症と腎機能:
- 重症熱中症(熱射病)→横紋筋融解→ミオグロビン尿→急性尿細管壊死→急性腎不全
- 予防: 適切な水分・電解質補給・WBGT管理・作業強度制限
【試験での位置づけ】
腎臓問題では「原尿量は約150〜180L/日(1〜1.5Lは最終尿量)」「健常者の尿にはタンパク質・グルコースはほとんど含まれない(再吸収されるため)」「腎臓はEPOを産生・ビタミンDを活性化・レニンを分泌」が最頻出です。ウのように原尿量と最終尿量を混同した誤りは典型的な引っかけです。数値の対比(原尿:150〜180L、最終尿:1〜1.5L)を確実に記憶しましょう。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 糖尿病性腎症(慢性高血糖による糸球体障害)の進行: 初期→糸球体過剰濾過(GFR増加)→微量アルブミン尿→顕性蛋白尿→GFR低下→CKD→透析。日本の透析導入の第一原因が糖尿病性腎症です(約40%)。定期的な尿アルブミン検査が重要。
- イ: SGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体2)阻害薬は2型糖尿病の新しい治療薬で、近位尿細管でのグルコース再吸収を意図的に阻害して尿糖を増やし、血糖を下げる薬です。心臓保護・腎保護作用が注目されています。原尿中にグルコースがほぼ全量再吸収されるというメカニズムを逆手に取った治療戦略です。
- オ: アルドステロン過剰症(コン症候群)では、Na⁺過剰再吸収→高Na血症→高血圧・K⁺過剰分泌→低K血症→筋脱力・不整脈が生じます。職場で原因不明の高血圧・低K血症の組み合わせを見た場合、内分泌疾患(原発性アルドステロン症)を疑って医療機関に紹介することが衛生管理上重要です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・腎臓内科学)。原尿量が約150〜180L/日(最終尿1〜1.5Lの約99%以上が再吸収される)という糸球体濾過量・再吸収量の関係は腎臓生理学の基礎概念として確立。
【補足】原尿量は約150〜180L/日(「約1.5〜2L」は最終尿量で誤り)。健常者の尿にはグルコース・タンパク質はほとんど含まれない(再吸収される)。腎臓はEPO産生・ビタミンD活性化・レニン分泌の内分泌機能も担う。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。1日の原尿量は約1.5〜2Lではなく約150〜180Lが正しい(最終尿は約1〜1.5L)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。