衛生管理者 労働生理 問26:腎臓・尿
尿の性状と異常所見に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア正常尿のpHは約4.5〜8.0の範囲(平均約6.0前後)で変動し、食事内容(タンパク質が多いと酸性に、野菜・果物が多いとアルカリ性に)や体内の酸塩基状態によって変化する。
- イ健常者の尿には通常ケトン体は検出されないが、長時間の絶食・高強度の運動・糖尿病性ケトアシドーシス等では陽性となる。
- ウ尿中クレアチニン濃度は1日を通じてほぼ一定であり、随時尿(時点採取尿)での蛋白クレアチニン比(PCR)は1日尿蛋白量を推定する際に利用される。
- エ尿比重は正常では1.010〜1.030の範囲で変動し、大量飲水後には低く(尿が薄い)、脱水・水分制限後には高く(尿が濃い)なる。ただし糖尿病でも血糖のみが高い場合に尿比重が低下することがある。正答
- オ健常者の尿に血液(赤血球)は含まれず、尿潜血反応が陽性の場合は腎炎・尿路感染症・尿路結石・尿路腫瘍等の原因を精査する必要がある。
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誤りはエです。「糖尿病でも血糖のみが高い場合に尿比重が低下することがある」という部分が誤りです。糖尿病では血糖値が腎排泄閾値(約160〜180mg/dL)を超えると尿中にグルコースが排泄されます(尿糖)。グルコースは溶質であるため、尿中に多く含まれると尿比重は上昇します(低下ではなく増加する)。大量の尿糖がある糖尿病患者では尿量も増えて(浸透圧性利尿)尿比重は偽高値を示すことがあります。
その他の選択肢はすべて正確です。尿pHの変動範囲と影響因子(ア)、ケトン体の検出条件(イ)、クレアチニン比による尿蛋白推定(ウ)、尿潜血陽性の意義(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 尿のpHは食事・代謝状態・薬剤等によって変動します。高タンパク食→H⁺産生増加→尿が酸性に。野菜・果物→有機酸の代謝→重炭酸産生→尿がアルカリ性に。尿路感染症(特に尿素分解菌によるもの)では尿がアルカリ性になります(アンモニア産生でpH上昇→尿路結石のリスク増加)。
- イ(正): ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸・アセト酢酸・アセトン)は脂肪酸β酸化が亢進した状態で産生されます。健常者では通常検出されません(尿ケトン体陰性)。陽性となる場合: 長期絶食・糖質欠乏・激しい運動・妊娠悪阻・アルコール性ケトアシドーシス・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)等。
- ウ(正): クレアチニンは筋肉量に依存した一定速度で産生・排泄されるため、随時尿でのクレアチニン濃度はほぼ一定です。随時尿での「蛋白/クレアチニン比(g/gCr)」は24時間蓄尿での蛋白定量と良好に相関し、特にCKD患者のプロテインuriの定量的評価に有用です。
- エ(誤): 尿比重は溶存物質の量を反映します。糖尿病で尿糖が多い場合:尿中グルコース(溶質)が増加→尿比重は上昇(偽高値)します。「尿比重が低下することがある」は誤りです。また尿崩症(ADH欠乏・ADH感受性低下)では大量の希薄尿(尿量5〜20L/日)→尿比重が著しく低下(1.005以下)します。糖尿病とは逆の所見です。
- オ(正): 尿潜血(試験紙でのペルオキシダーゼ反応)の陽性は赤血球・ミオグロビン・ヘモグロビンに反応します。血尿(赤血球由来)と筋肉崩壊由来のミオグロビン尿を区別するには顕微鏡での尿沈渣検査が必要です。
【理論的背景】
尿の性状検査(定性・定量・沈渣)は腎臓・尿路・代謝・内分泌等の広範な疾患の最も基本的なスクリーニング検査です。各検査項目の正常値と異常を来す機序を理解することで、健康診断の尿検査結果を適切に評価できます。
尿検査の項目と異常時の意義:
| 項目 | 正常値 | 異常の意義(陽性時) |
|---|---|---|
| pH | 4.5〜8.0(平均約6.0) | 酸性:高タンパク食・アシドーシス・結核菌尿路感染。アルカリ性:野菜食・アルカリ化剤・尿素分解菌感染 |
| 比重 | 1.010〜1.030 | 高比重:脱水・糖尿病(尿糖↑)・造影剤(偽高値)。低比重:多飲・尿崩症・CKD(濃縮能低下) |
| タンパク | 陰性(通常<150mg/日) | 糸球体疾患・ネフローゼ症候群・高血圧性腎障害。偽陽性:高濃縮尿 |
| 糖 | 陰性 | 血糖≥160〜180mg/dL(糖尿病)または腎性糖尿(腎排泄閾値低下) |
| ケトン体 | 陰性 | 絶食・糖質制限・DKA・アルコール性ケトアシドーシス |
| 潜血 | 陰性 | 血尿(腎炎・結石・腫瘍)・ミオグロビン尿(横紋筋融解)・ヘモグロビン尿(溶血) |
| 白血球 | 陰性(<5/hpf) | 尿路感染症(細菌性)・間質性腎炎 |
| 亜硝酸塩 | 陰性 | 細菌性尿路感染症(グラム陰性菌が硝酸塩を亜硝酸塩に還元) |
尿沈渣の意義:
- 赤血球円柱: 糸球体腎炎(尿路系の出血との鑑別に有用)
- 顆粒円柱: 腎実質の障害
- 上皮円柱: 尿細管障害
【実務・条文構造】
職場での尿検査(定期健康診断・特殊健康診断):
定期健康診断における尿検査(安衛則第44条):
- 尿中の糖・蛋白の検査が必須項目(法定健診の必須項目)
- 異常所見者は医師の意見聴取・就業上の措置が必要
特殊健診での尿検査:
- 鉛健診: 尿中デルタアミノレブリン酸(ALA)・尿中コプロポルフィリン(鉛の造血への影響)
- 有機溶剤健診: 尿中代謝物測定(トルエン→馬尿酸、キシレン→メチル馬尿酸、N,N-ジメチルホルムアミド→N-メチルホルムアミド等)
- カドミウム健診: 尿中β₂-ミクログロブリン(近位尿細管障害の早期指標)・尿中カドミウム
横紋筋融解症と職場:
- 過重な筋肉労働・熱中症・電撃傷・外傷・薬物(スタチン系等)で筋肉が大量に崩壊
- ミオグロビン(筋肉中)が血中に漏出→ミオグロビン尿→尿が「コーラ色(茶褐色)」→急性腎不全リスク
- 尿潜血「陽性」だが顕微鏡で赤血球が少ない→ミオグロビン尿を疑う→血清CK(筋肉酵素)測定で確認
【試験での位置づけ】
尿の性状問題では「健常者の尿にはタンパク・糖・潜血は陰性」「糖尿病での尿比重は糖が増えて上昇(低下ではない)」「尿崩症では比重が著しく低下(1.005以下)」「ケトン体は絶食・DKAで陽性」が最頻出です。エのような「糖尿病で尿比重が低下」という誤りは、糖の溶質としての作用(比重を上昇させる)を逆に誤解させる引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 尿路感染症(UTI)において尿アルカリ化が問題になる例: ウレアプラーゼ産生菌(プロテウス菌・クレブシエラ等)が尿素を分解→アンモニア産生→尿pH上昇→リン酸マグネシウムアンモニウム(ストルバイト)結石が形成されやすくなります。職場での水分摂取推奨(尿を希薄に保つ)がUTI・結石の予防につながります。
- エ: 尿比重と尿浸透圧の関係: 尿比重は一般的なスクリーニング検査として簡便ですが、尿浸透圧(mOsm/kg)の方がより正確な測定法です。正常: 50〜1,400 mOsm/kg(変動幅が大きい)。ただし尿比重の偽高値(グルコース・造影剤・デキストラン含有時)や偽低値を理解した上で解釈することが重要です。
- オ: 血尿のスクリーニング(尿潜血)と確認(尿沈渣・顕微鏡): 試験紙法の尿潜血は感度が高いですが特異度が低く(ミオグロビン・ヘモグロビンにも反応)、偽陽性が多いため、必ず顕微鏡的尿沈渣検査で赤血球の有無を確認します。赤血球形態(変形赤血球=糸球体由来・正常形態=尿路出血由来)も鑑別の参考になります。
【根拠】医学的事実(確立した臨床医学・腎臓内科学)。尿比重が溶質(グルコース含む)の量を反映して上昇(糖尿病では上昇、低下ではない)すること、各尿検査項目の正常値と意義は臨床検査学の基礎概念として確立。
【補足】糖尿病で尿糖が増えると尿比重は「上昇」(低下は誤り)。尿崩症では比重が著しく低下。健常者の尿にはタンパク・糖・潜血は陰性。ケトン体は絶食・DKAで陽性。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した臨床医学・腎臓内科学)。糖尿病では高血糖→尿糖が増加するため尿比重は「低下」ではなく「上昇」する。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。