衛生管理者 労働生理 問61:循環器
心臓の刺激伝導系と興奮の伝わり方に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア洞房結節(洞結節)は右心房に位置し、自動的に興奮を発生させてペースメーカーとして機能する。通常の安静時心拍数(60〜80回/分)はここから発せられる興奮の頻度によって決まる。
- イ洞房結節からの興奮は心房筋に広がって心房収縮を起こした後、房室結節に到達する。房室結節では興奮伝導がわずかに遅延し(0.1秒程度)、心房収縮が完了してから心室収縮が起きるよう調整する。
- ウ房室結節からの興奮はヒス束を経て左右の脚(右脚・左脚)に分かれ、プルキンエ線維を通じて心室筋全体に速やかに伝わり、心室筋が協調して収縮する。
- エ心臓の収縮リズムは自律神経によってのみ調節され、交感神経が心拍数を増加させ副交感神経が心拍数を低下させる。ホルモン(アドレナリン等)は心拍数に影響しない。正答
- オ心電図(ECG)においてP波は心房の脱分極(興奮)を表し、QRS波群は心室の脱分極(収縮開始)を、T波は心室の再分極(弛緩への移行)を表す。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはエです。「ホルモン(アドレナリン等)は心拍数に影響しない」という部分が誤りです。アドレナリンは副腎髄質から分泌され、洞房結節に作用して心拍数を増加させます。心拍数の調節は自律神経だけでなく、アドレナリン・甲状腺ホルモン・体温・年齢などの影響も受けます。
その他の選択肢は正しい内容です。洞房結節がペースメーカーとして右心房に位置する(ア)。房室結節での伝導遅延により心房収縮後に心室収縮が起きる(イ)。ヒス束→脚→プルキンエ線維という興奮伝導の経路(ウ)。心電図のP波・QRS・T波の意味(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 洞房結節(SA node)は右心房の上部(上大静脈開口部付近)に位置します。自律的に脱分極(自動能)を起こし、毎分60〜100回の頻度で興奮を生成します。副交感神経(迷走神経)の影響で抑制、交感神経の影響で亢進します。洞房結節が正常に機能しない場合(洞不全症候群)は、下位のペースメーカー(房室結節・心室)が代替機能を発揮しますが、より遅い頻度(房室結節=40〜60回/分・心室=20〜40回/分)となります。
- イ(正): 房室結節(AV node)での0.1秒程度の伝導遅延は、心房と心室の収縮が重ならないようにする生理的な仕組みです。この遅延がないと心房・心室が同時に収縮し、心室への血液充填が不十分となり、心拍出量が低下します。
- ウ(正): プルキンエ線維は通常の心室筋よりも格段に速く(約4m/s)興奮を伝導し、心尖部から心基部へ向かって心室全体をほぼ同時に収縮させる役割を担います。
- エ(誤): 心拍数の調節因子は自律神経だけではありません。①アドレナリン・ノルアドレナリン(カテコールアミン): 洞房結節のβ1受容体を介して心拍数を増加させます。②甲状腺ホルモン(T3・T4): 洞房結節の感受性を高め、心拍数と心収縮力を増大させます(甲状腺機能亢進症では頻脈)。③体温: 1℃上昇で心拍数が約10〜15回/分増加します。④年齢: 加齢とともに最大心拍数が低下します(最大心拍数の目安: 220-年齢)。「ホルモンは心拍数に影響しない」は明確な誤りです。
- オ(正): 心電図の各波形は心臓の電気的活動を体表面から記録したものです。P波(心房脱分極)→PR間隔(房室伝導時間)→QRS波群(心室脱分極)→ST部分(心室全体が脱分極した状態)→T波(心室再分極)という順序で進行します。
#### 1. 刺激伝導系の解剖と自動能のメカニズム
心臓の刺激伝導系は「固有心筋(working cardiomyocyte)」とは異なる「特殊心筋」で構成されます。洞房結節(SA node)は自動能(automaticity)を持ち、これは「ペースメーカー電位」と呼ばれる特有のイオン電流によるものです。静止時にNa⁺(If電流=「funny current」)がゆっくり流入し、徐々に膜電位が脱分極して閾値に達すると活動電位が発生します(Ca²⁺チャネルが主役)。このIf電流の速度が洞房結節の発火頻度を決定します。
刺激伝導系の構成:
1. 洞房結節(SA node): 右心房上部。正常ペースメーカー。自動能60〜100回/分
2. 心房筋内伝導路: 洞房結節→房室結節へ興奮を伝達(0.04秒程度)
3. 房室結節(AV node): 右心房下部・心室中隔上部境界。0.12秒の遅延(心房充填の完了を待つ)
4. ヒス束(His bundle): 心室中隔内を下行。心室内での主幹道路
5. 左脚・右脚(bundle branches): ヒス束から左右に分岐
6. プルキンエ線維(Purkinje fibers): 心室内膜側に広がる高速伝導線維(伝導速度4m/s)
#### 2. 心電図各波形の生理的意味と職場での応用
心電図(ECG)は心臓の電気的活動を体表面電極で捉えたものです。
| 波形 | 生理的事象 | 正常持続時間 | 異常の意味 |
|------|-----------|-------------|-----------|
| P波 | 心房脱分極(洞房結節→心房筋) | <0.12秒 | 幅広→心房負荷、欠損→心房細動 |
| PR間隔 | 房室結節伝導時間 | 0.12〜0.20秒 | 延長→房室ブロック |
| QRS波群 | 心室脱分極 | <0.12秒 | 幅広→脚ブロック・心室性期外収縮 |
| ST部分 | 心室全脱分極状態 | 基線上 | 上昇→心筋梗塞、低下→虚血 |
| T波 | 心室再分極 | 正常は正方向 | 陰性化→虚血・心筋炎 |
#### 3. 心拍数の多因子調節と職場衛生の関連
心拍数(HR)は多くの因子によって調節されます。
自律神経系:
- 交感神経(β1受容体): ノルアドレナリン→洞房結節のIf電流増加→心拍数増加(頻脈)
- 副交感神経(迷走神経・M2受容体): アセチルコリン→K⁺電流増加→洞房結節の脱分極を遅延→心拍数低下(徐脈)
ホルモン系:
- アドレナリン(副腎髄質): β1・β2受容体刺激→強力な頻脈・心収縮力増大
- 甲状腺ホルモン(T3): 洞房結節のβ受容体感受性増強・洞房結節固有の自動能亢進→頻脈(甲状腺機能亢進症の特徴)
- コルチゾール(ストレス時): 間接的にカテコールアミン感受性を増大
その他:
- 体温: 発熱・高温環境では代謝亢進→心拍数増加(夏季熱中症予防の観点)
- 低酸素: 化学受容器刺激→反射性頻脈(高所・換気不全・一酸化炭素中毒で重要)
- 電解質異常: K⁺異常は心拍リズムを乱す(高K⁺→徐脈・心室細動リスク)
#### 4. 衛生管理者試験での頻出ポイントと職場への応用
試験では「洞房結節=右心房のペースメーカー」「房室結節での伝導遅延(心房→心室の順序を保つ)」「ヒス束→脚→プルキンエ線維の経路」「P波=心房・QRS=心室脱分極・T波=心室再分極」「心拍数はホルモン(アドレナリン・甲状腺ホルモン)・体温・自律神経の多因子調節」が出題されます。
職場への応用として、長時間労働・高温環境・精神的ストレス下では交感神経亢進とアドレナリン分泌で持続的な頻脈・血圧上昇が生じ、心血管疾患リスクが高まります。衛生管理者は心電図所見(12誘導ECG:年次健康診断)の判読の基礎知識を持ち、要精密検査(QRS幅広・ST変化・P波異常)の早期発見・産業医連携を担います。
【根拠】医学的事実(確立した循環器生理学)。刺激伝導系の経路・各波形の意味・心拍数の多因子調節は循環器生理学の基礎として確立。
【補足】エが誤り:ホルモン(アドレナリン・甲状腺ホルモン)は心拍数を増加させる。自律神経だけでなく、ホルモン・体温・電解質なども心拍数を調節する。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した循環器生理学)。心拍数はアドレナリン等のホルモンによっても調節される。「ホルモンは心拍数に影響しない」は誤りである。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。