衛生管理者 労働生理 問63:血液
赤血球の産生・寿命・破壊に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア赤血球は骨髄(成人では主に扁平骨・短骨の赤色骨髄)で産生され、エリスロポエチン(腎臓から分泌されるホルモン)が産生を促進する。
- イ成熟した赤血球は核・ミトコンドリア・リボソームを持たないため、DNA複製・タンパク質合成・有酸素代謝(ミトコンドリアによる酸化的リン酸化)を行うことができない。
- ウ赤血球の寿命は約120日であり、老化した赤血球は主に脾臓と肝臓で破壊(溶血)される。
- エ赤血球が破壊されるとヘモグロビンが放出され、グロビン(タンパク質部分)はアミノ酸に分解されて再利用されるが、ヘム(鉄含有部分)は尿中に直接排泄され体外に失われる。正答
- オヘムの鉄は再利用されてトランスフェリンによって骨髄に運ばれ新しい赤血球の産生に用いられる一方、ヘムのポルフィリン環はビリルビン(黄疸の原因物質)として肝臓で代謝され、胆汁中に排泄される。
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誤りはエです。赤血球が破壊されてヘモグロビンが遊離すると、ヘムの鉄(Fe²⁺)は回収されて再利用されます。鉄はトランスフェリンというタンパク質に結合して血液中を運ばれ、骨髄に届いて新しい赤血球のヘモグロビン合成に再び使われます。「ヘムが尿中に直接排泄される」は誤りです。代わりに、ヘムのポルフィリン環部分がビリルビンになり、胆汁中に排泄されます。黄疸はビリルビンが体内に蓄積したときに起きます。
その他の選択肢は正しい内容です。骨髄での赤血球産生とエリスロポエチン(ア)、成熟赤血球は核なし・有酸素代謝なし(イ)、寿命120日・脾臓と肝臓で破壊(ウ)、鉄の再利用とビリルビンの胆汁排泄(オ)はすべて正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 赤血球産生(造血)の場所は年齢によって変化します。胎児期は肝臓・脾臓が主体、出生後は骨髄(最初は全ての骨)、成人では主に扁平骨(胸骨・肋骨・骨盤・頭蓋骨)と短骨(椎骨)の赤色骨髄(脂肪で置換された黄色骨髄ではなく活性型の赤色骨髄)で産生されます。エリスロポエチン(EPO)は主に腎臓(傍尿細管間質細胞)から分泌され、低酸素状態(高地・腎不全など)で産生が増加します。腎不全では EPO が産生されず、腎性貧血が生じます。
- イ(正): 成熟赤血球は脱核・細胞小器官の消失という特殊な成熟過程を経ています。核がないためDNA複製・転写ができず、リボソームがないためタンパク質を合成できず、ミトコンドリアがないため有酸素代謝(酸化的リン酸化)を行えません。エネルギーはグルコースの解糖系(嫌気性)のみで産生します(乳酸が生成される)。酸素を運ぶ細胞自身が酸素を消費しない、という効率的な設計です。
- ウ(正): 赤血球の平均寿命は約120日(正常範囲: 110〜130日)です。老化した赤血球は変形能が低下し、脾臓の細い血管を通過できずマクロファージに捕捉・貪食されます(主に脾臓・一部は肝臓の網内系で)。これを「血管外溶血」といいます。
- エ(誤): 赤血球破壊後のヘムの代謝経路: ヘム→ヘムオキシゲナーゼ(脾臓・肝臓)→鉄(Fe²⁺)+ ビリベルジン。鉄はフェリチン(貯蔵)またはトランスフェリン(輸送)として骨髄に運ばれ、新しい赤血球のヘモグロビン合成に再利用されます。「ヘムが尿中に直接排泄される」は明確な誤りです。
- オ(正): ビリベルジン→ビリベルジン還元酵素→ビリルビン(間接ビリルビン=非抱合型)。間接ビリルビンは肝臓に運ばれ、グルクロン酸抱合を受けて直接ビリルビン(抱合型)となり、胆汁中に排泄されます。腸内でウロビリノーゲンに変換され、一部は再吸収・再排泄(腸肝循環)され、残りは便とともに排泄(ステルコビリン=便の茶色の原因)または一部は尿中に排泄(ウロビリン=尿の黄色の原因)されます。
#### 1. 赤血球産生の調節機構と造血の異常
造血幹細胞から赤血球が産生される過程(赤血球系前駆細胞の分化):
- 多能性造血幹細胞(HSC)→赤芽球系前駆細胞(BFU-E→CFU-E)→前赤芽球→塩基性赤芽球→多染性赤芽球→正染性赤芽球→脱核→網赤血球→成熟赤血球
エリスロポエチン(EPO)の作用:
- CFU-Eから前赤芽球への分化・増殖を促進
- 成熟促進・アポトーシス抑制
- 低酸素センサー(HIF-1α:低酸素誘導因子)→EPO遺伝子の転写活性化
臨床的応用:
- 腎性貧血: 慢性腎疾患→EPO産生低下→赤血球産生低下→正球性正色素性貧血。治療: 遺伝子組換えEPO(エポエチン)の投与
- ドーピング問題: EPO投与で赤血球増加→VO₂max向上。世界アンチドーピング機構(WADA)禁止物質
- 多血症(真性赤血球増加症): JAK2遺伝子変異→EPO非依存的な赤血球過剰産生→血液粘稠度増加→血栓リスク
#### 2. ヘモグロビン代謝とビリルビン代謝の詳細経路
ヘモグロビン(Hb)の構成:
- 4本のグロビン鎖(α2β2)+ 4個のヘム(鉄ポルフィリン)
- 各ヘムに1個のFe²⁺が結合し、酸素1分子を可逆的に結合
赤血球破壊後の代謝経路の詳細:
グロビン部分: アミノ酸に分解→アミノ酸プールに再利用(タンパク質合成の材料)
ヘム部分(鉄): Fe²⁺は以下の経路で回収・再利用される
1. 脾臓・肝臓のマクロファージがFe²⁺を回収
2. フェリチン(intracellular storage)として細胞内に一時貯蔵
3. フェロポルチン(鉄輸送タンパク)でマクロファージから放出
4. トランスフェリン(血中鉄輸送タンパク)と結合→骨髄へ輸送
5. 赤芽球のトランスフェリン受容体が取り込み→ヘモグロビン合成に利用
(鉄は体内で99%以上が再利用される=鉄の節約機構)
ヘム部分(ポルフィリン環): ビリルビン生成経路
- ヘム+O₂ → ヘムオキシゲナーゼ(HMOX1)→ ビリベルジン(緑色)+ Fe²⁺ + CO
- ビリベルジン → ビリベルジン還元酵素 → 間接ビリルビン(非抱合型ビリルビン・水不溶性)
- 間接ビリルビン + アルブミン(血中輸送)→ 肝臓
- 肝細胞でグルクロン酸抱合 → 直接ビリルビン(抱合型・水溶性)
- 胆汁中に排泄 → 小腸
#### 3. 黄疸の分類とビリルビンの臨床意義
| 黄疸の種類 | 原因 | 上昇するビリルビン | 特徴 |
|-----------|------|-------------------|------|
| 溶血性黄疸(肝前性) | 過剰な赤血球破壊(溶血性貧血など) | 間接ビリルビン↑ | 肝臓の処理能力を超えた産生量 |
| 肝細胞性黄疸(肝性) | 肝炎・肝硬変など | 間接+直接ビリルビン↑ | 抱合・排泄機能の障害 |
| 閉塞性黄疸(肝後性) | 胆道閉塞(胆石・膵頭部癌等) | 直接ビリルビン↑ | 胆汁排泄障害→直接Bilが血液に逆流 |
| 新生児黄疸(生理的) | 出生後の大量溶血+肝のグルクロン酸抱合能未熟 | 間接ビリルビン↑ | 過剰蓄積→核黄疸(脳損傷)リスク |
職場での黄疸関連リスク:化学性肝炎(有機溶剤・重金属)・薬剤性肝障害による黄疸は、定期健診の肝機能検査(AST・ALT・ALP・γ-GTP・総ビリルビン)で早期発見します。
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「赤血球産生=骨髄(赤色骨髄)・エリスロポエチン(腎臓)が促進」「成熟赤血球は核なし・ミトコンドリアなし→解糖系のみでエネルギー産生」「赤血球寿命約120日・脾臓・肝臓で破壊」「ヘムの鉄は再利用(トランスフェリンで骨髄へ)・ポルフィリン環はビリルビンになり胆汁排泄」が頻出です。エのような「ヘムが尿中に直接排泄される」という誤りは鉄代謝の知識を問う典型的な引っかけです。
職場への応用として、鉛中毒(ヘム合成酵素阻害→ヘム合成障害→溶血性貧血・尿中コプロポルフィリン増加)は特定業務健診の重要項目です。また溶剤暴露による溶血性貧血は職業性疾病として重要です。
【根拠】医学的事実(確立した血液学・生化学)。赤血球の産生・寿命・ヘモグロビン代謝・ビリルビン生成経路は血液生化学の基礎として確立。
【補足】エが誤り:ヘムの鉄は尿中排泄ではなく、トランスフェリンで骨髄に輸送・再利用される。ポルフィリン環→ビリルビン→胆汁排泄が正しい経路。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した血液学・生化学)。ヘムの鉄は再利用されてトランスフェリンで骨髄に輸送される。「ヘムが尿中に直接排泄される」は誤りである。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。