労働生理80血液

衛生管理者 労働生理 問80:血液

血液の酸塩基平衡と緩衝系に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 正常な動脈血のpHは7.35〜7.45の弱アルカリ性に維持されており、7.35未満をアシドーシス、7.45を超えるをアルカローシスという。この狭いpH範囲の逸脱は酵素活性の大幅な変化・心臓の不整脈・神経機能障害を引き起こす。
  • 血液の最も重要な緩衝系は炭酸-重炭酸塩緩衝系(H₂CO₃/HCO₃⁻)であり、Henderson-Hasselbalchの方程式 pH = 6.1 + log([HCO₃⁻] / 0.03×PaCO₂)で表され、pH調節に肺(CO₂排出)と腎臓(HCO₃⁻の再吸収・排泄)が協調して関与する。
  • 呼吸性アシドーシスは肺換気の低下(低換気)によるCO₂の蓄積(PaCO₂上昇)が原因で生じ、腎臓が代償としてHCO₃⁻の再吸収を増加させてpHを正常化しようとする(腎性代償)。
  • 代謝性アシドーシスの代償反応として、腎臓が速やかに(数時間以内)HCO₃⁻を産生・増加させることで代謝性アシドーシスを正常化し、呼吸による代償(過換気によるCO₂排出増加)は数日以上かかるため実用的でない。正答
  • 呼吸性アルカローシスは過換気によるCO₂の過剰排出(PaCO₂低下)が原因で生じ、過換気症候群での手・足のしびれは低CO₂血症による血液pHの上昇→イオン化カルシウム(Ca²⁺)の低下→テタニーによる。
正答:代謝性アシドーシスの代償反応として、腎臓が速やかに(数時間以内)HCO₃⁻を産生・増加させることで代謝性アシドーシスを正常化し、呼吸による代償(過換気によるCO₂排出増加)は数日以上かかるため実用的でない。

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初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

誤りはエです。代謝性アシドーシスへの代償反応として「腎臓が速やかに(数時間以内)対応」「呼吸による代償は数日以上かかる」という速度が逆です。正しくは呼吸による代償(過換気によるCO₂排出増加)の方が速く(数分〜1時間以内に始まる)、腎性代償(HCO₃⁻再吸収増加・H⁺排泄増加)は完全な代償に数日(2〜5日)かかります。代謝性アシドーシスになると呼吸が深く速くなる(Kussmaul呼吸)のが速い呼吸代償の現れです。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 正常動脈血pH: 7.35〜7.45(平均7.40)。pH 7.35未満→アシドーシス(acidosis)、pH 7.45超→アルカローシス(alkalosis)。重大な逸脱: pH<7.2または>7.6では心室細動・心停止リスク急増。酵素の至適pH(多くは7.4付近)から外れると酵素活性が大きく変化します。この狭い範囲の維持に緩衝系・肺・腎臓の三つが協調します。
  • イ(正): Henderson-Hasselbalchの式: pH = 6.1 + log([HCO₃⁻] / 0.03×PaCO₂)。HCO₃⁻(腎臓が調節: 正常22〜26 mEq/L)とPaCO₂(肺が調節: 正常35〜45 mmHg)の比が pH を決定します。肺は素早く(分単位)CO₂を調整し、腎臓はゆっくり(数日)HCO₃⁻を調整します。他の緩衝系: ヘモグロビン緩衝(血中で第2位)、タンパク質緩衝(アルブミン等)、リン酸緩衝(細胞内・尿中)。
  • ウ(正): 呼吸性アシドーシスの例: COPD・睡眠時無呼吸・神経筋疾患(呼吸筋麻痺)・麻酔・中枢性呼吸抑制(麻薬・鎮静薬)→CO₂排出低下→PaCO₂上昇→H₂CO₃増加→H⁺増加→pH低下(アシドーシス)。腎性代償: 腎臓が数日かけてHCO₃⁻再吸収を増加・H⁺排泄増加→[HCO₃⁻]上昇→pH改善(ただし完全正常化はしない: 代償性のみ)。
  • エ(誤): 代謝性アシドーシス(例: 糖尿病性ケトアシドーシス・腎不全・激しい下痢)の代償速度の正しい対比: 呼吸性代償(速い): H⁺上昇を延髄の末梢化学受容器が感知→分単位で過換気開始→CO₂排出増加→PaCO₂低下→pH上昇(1〜2時間で最大代償)。腎性代償(遅い): HCO₃⁻再生・H⁺排泄増加→完全な代償に2〜5日必要。「腎臓が速やかに(数時間以内)・呼吸が数日以上」は完全に逆です。代謝性アシドーシスで深く速い特徴的な呼吸(Kussmaul呼吸)がすぐに現れる理由は「呼吸代償が速い」からです。
  • オ(正): 過換気→PaCO₂低下→H₂CO₃低下→H⁺低下→pH上昇(アルカローシス)→血液中のCa²⁺がアルブミンへの結合増加→イオン化Ca²⁺(活性型・遊離型)が低下→筋・神経の興奮性亢進→テタニー(不随意な筋収縮)・しびれ・感覚異常・痙攣。過換気症候群での応急処置として「ゆっくり腹式呼吸」でPaCO₂回復・pH正常化を図ります(旧来のペーパーバッグは窒息リスクで推奨されない)。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

#### 1. 酸塩基平衡障害の4類型と代償の速度

酸塩基平衡障害の体系的理解(一次性障害と代償反応):

| 障害 | 一次変化 | 代償反応 | 代償開始 | 予測代償量 |

|------|---------|---------|---------|-----------|

| 呼吸性アシドーシス | PaCO₂↑→pH↓ | 腎: HCO₃⁻↑ | 数時間〜数日 | PaCO₂が10mmHg上昇ごとにHCO₃⁻が約1mEq/L(急性)・約3.5mEq/L(慢性・腎代償完成)上昇 |

| 呼吸性アルカローシス | PaCO₂↓→pH↑ | 腎: HCO₃⁻↓ | 数時間〜数日 | PaCO₂が10mmHg低下ごとにHCO₃⁻が約2mEq/L(急性)・約4〜5mEq/L(慢性)低下 |

| 代謝性アシドーシス | HCO₃⁻↓→pH↓ | 呼吸: PaCO₂↓(過換気) | 数分〜1時間 | 期待PaCO₂ = 1.5×[HCO₃⁻]+8±2 (Winter公式) |

| 代謝性アルカローシス | HCO₃⁻↑→pH↑ | 呼吸: PaCO₂↑(低換気) | 数時間 | 期待PaCO₂ = 0.7×[HCO₃⁻]+21±2 |

代償の基本原則:

  • 呼吸性代償は速い(分〜時間)・腎性代償は遅い(日〜週)
  • 代償は一次障害の方向に働く(アシドーシスに対してはアルカリ化する代償)
  • 代償だけでは完全にpHを正常化しない(「代償性」は「正常化」とは違う)
  • 二重の代償が見られる場合は「混合性酸塩基障害」を疑う

#### 2. 炭酸-重炭酸塩緩衝系の詳細

CO₂-HCO₃⁻緩衝系の化学反応:

CO₂ + H₂O ⇌ H₂CO₃ ⇌ H⁺ + HCO₃⁻

この反応は赤血球内の炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)によって約1,000倍促進されます(CA阻害薬: アセタゾラミドは利尿・高山病予防に使用)。

緩衝系の特徴:

  • 炭酸-重炭酸塩系: pKa=6.1(pH7.4とは1.3離れているが、CO₂の呼吸による調整・HCO₃⁻の腎臓による調整が「オープンシステム」として機能するため生理的に最強の緩衝系)
  • ヘモグロビン緩衝: pKa≈7.4付近(生理的pHに近く効率的)。脱酸素化Hb(還元型)の方がO₂Hb(酸素化型)よりH⁺親和性が高い→組織でO₂を放出すると同時にH⁺を取り込む(ボーア効果と連動)

#### 3. 職業性暴露と酸塩基平衡障害

職場での酸塩基平衡障害:

代謝性アシドーシスの職業的原因:

  • メタノール中毒(ギ酸産生→アニオンギャップ増大性アシドーシス)
  • エチレングリコール中毒(シュウ酸産生)
  • サリチル酸中毒(薬物職業暴露・過剰摂取)
  • 一酸化炭素中毒(組織低酸素→乳酸産生→乳酸アシドーシス)
  • 重篤な熱中症(脱水・高体温→乳酸アシドーシス)

呼吸性アシドーシスの職業的原因:

  • 閉鎖空間での CO₂蓄積(換気不良のトンネル・倉庫等)
  • 麻酔・鎮静が必要な職場での事故
  • アスベスト・珪肺症による拘束性換気障害

過換気(呼吸性アルカローシス)の職業的原因:

  • パニック障害・過換気症候群(精神的ストレスの高い職場)
  • 高所作業・低酸素環境(末梢化学受容器刺激→過換気)

動脈血ガス分析(ABG)の読み方(衛生管理者として把握すべき知識):

  • pH→7.35〜7.45(正常)・アシドーシスorアルカローシスの判断
  • PaCO₂(35〜45 mmHg)→呼吸性の一次障害or代償を示す
  • HCO₃⁻(22〜26 mEq/L)→代謝性の一次障害or代償を示す
  • BE(base excess: 塩基過剰)→代謝性成分の定量的評価

#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用

試験では「正常動脈血pH=7.35〜7.45」「炭酸-重炭酸塩緩衝系とHenderson-Hasselbalch式」「代謝性アシドーシスの代償=呼吸が速い(数分で始まる)・腎性代償は数日かかる」「呼吸性アシドーシスの代償=腎性(数日)」「過換気→呼吸性アルカローシス→イオン化Ca²⁺低下→テタニー」が頻出です。エの誤りは代謝性アシドーシスへの呼吸代償と腎性代償の速度を逆にした典型的な引っかけです。

職場への応用として、化学物質中毒(有機溶剤・重金属・特殊化学品)による代謝性アシドーシスの緊急対応では、Kussmaul呼吸(深く速い呼吸)が重篤な代謝性アシドーシスの臨床サインであることを衛生管理者が認識し、速やかな救急要請・産業医連携を行うことが重要です。

【根拠】医学的事実(確立した酸塩基平衡生理学)。代謝性アシドーシスへの代償反応の速度(呼吸代償が先・腎性代償が遅い)・Henderson-Hasselbalch式・各酸塩基障害の代償機序は確立した知識。

【補足】エが誤り:代謝性アシドーシスの代償は呼吸(過換気によるCO₂排出)が速い(数分〜1時間)・腎性代償が遅い(2〜5日)。設問の「腎性が速い・呼吸が数日以上」は逆。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した酸塩基平衡生理学)。代謝性アシドーシスの代償として「呼吸による代償(過換気)」の方が速く(数分〜1時間で始まる)、腎性代償は数日かかる。エは代償の速度が逆である。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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