行政書士 民法 問105:民法債権各論
雇用契約に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- ア雇用契約は、当事者の一方が相手方のために労務に服する義務を負う契約であり、委任と異なり、受任者(労働者)に裁量が一切なく、使用者の指揮命令に完全に服する義務を負う。
- イ雇用において、使用者は労働者の承諾を得ることなく、その雇用上の地位を第三者に譲渡することができる。
- ウ期間を定めた雇用契約は、やむを得ない事由がある場合であっても、期間が満了するまでは当事者のいずれからも解除することができない。
- エ期間の定めのない雇用契約は、いかなる場合も2週間以上前の予告なしに解除することができない。
- オ雇用において、労働者は使用者の指示に従い誠実に労務を提供する義務を負うが、自己の代わりに他人を労務に服させることができるかどうかは、特段の約定がない限り、使用者の同意を必要とする。正答
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オが正しいです。雇用契約は労務提供が一身専属的であるため、労働者が使用者の同意なく他人を自己の代わりに労務に服させることはできません(民625条2項)。アは誤りで、雇用と委任の区別は「指揮命令下にあるか否か」ですが、「裁量が一切ない」と断言するのは不正確です。イは誤りで、使用者は労働者の承諾を得なければ雇用上の地位を第三者に譲渡できません(民625条1項)。ウは誤りで、民628条により「やむを得ない事由があるとき」は期間の定めのある雇用であっても当事者は直ちに契約を解除できます。「やむを得ない事由があっても期間満了まで一切解除できない」というウは誤りです。エは誤りで、期間の定めのない雇用は2週間前の予告で解除できますが(民627条1項)、やむを得ない事由がある場合は即時解除ができます(民628条)。
オが正解です。民法625条2項は「労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない」と規定しています。雇用は労働者の人的信頼を基礎とする契約(一身専属性)であり、使用者の同意なく他人を代替させることはできません。
アは不正確です。雇用と委任の違いは指揮命令関係の有無にありますが、雇用においても労働者に「職務の遂行方法に関する裁量」がある場合があります。「裁量が一切ない」という絶対的表現は正確ではありません。
イは誤りです。民法625条1項は「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲渡することができない」と規定しています。雇用上の地位の譲渡には労働者の承諾が必要です(使用者変更にも労働者の保護が必要なため)。
ウは誤りです。民628条は「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」と規定しており、期間の定めのある雇用でも、やむを得ない事由があれば期間満了を待たず即時解除できます。「やむを得ない事由があっても期間満了まで一切解除できない」というウは628条に反し、誤りです。
エは誤りです。民627条1項では「やむを得ない事由」がある場合、直ちに解除できます(民628条の規定が適用される)。「いかなる場合も2週間前の予告が必要」は誤りです。
【理論的背景】
民法の雇用(民623条〜631条)は、労務の提供を目的とする契約です。現代の労働法(労働基準法・労働契約法等)は民法の特別法として多くの規律を設けており、実際の雇用関係には民法よりも労働法が優先適用されます。しかし、行政書士試験では民法の雇用規定の基本的な理解が問われます。雇用の特質として、労務提供が一身専属的(労働者個人の人的信頼に基づく)であること、双方向的な信頼関係が基礎となっていることが重要です。委任(民643条以下)は法律行為の処理(より自律的・裁量的)、請負(民632条以下)は仕事の完成(成果主義)であるのに対し、雇用は指揮命令下での継続的労務提供(継続的・従属的)として類型化されます。
【条文構造】
民法の雇用規定の核心を整理します。
民623条:雇用の成立(諾成契約・書面不要)。
民624条:報酬の請求(後払い原則・期間による報酬は期間経過後)。
民625条1項:使用者の権利の譲渡制限(労働者の承諾が必要)。
民625条2項:労働者の代替使用の制限(使用者の承諾が必要)。
民626条:期間の定めのある雇用(5年超の場合:5年経過後は解除可・1年前の予告)。
民627条:期間の定めのない雇用(いつでも解除可・2週間前予告)。期間によって予告期間が異なる(月給等の場合は当期後半に申し出→次期で解除)。
民628条:やむを得ない事由による即時解除(期間の有無を問わず)。
民630条〜631条:委任規定の準用・解除の効果(報酬の按分等)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における雇用の民法規定からの出題は頻度が低め(頻出度C)ですが、①使用者の地位の譲渡には労働者の承諾が必要(民625条1項)、②労働者は使用者の承諾なく他人を代替使用できない(民625条2項・一身専属性)、③期間の定めのない雇用は2週間前予告で解除可(民627条1項)だがやむを得ない事由がある場合は即時解除可(民628条)、という3点が基本論点です。雇用・委任・請負の三類型の比較(指揮命令・裁量・成果報酬の有無)も整理しておくとよいでしょう。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 不正確。雇用は指揮命令下での労務提供(従属性)が特徴だが、「裁量が一切ない」は現実の雇用関係と一致しない。例えば、医師・弁護士等の専門職は雇用契約下でも高度な職務裁量を持つ。委任との区別は「使用者の指示の有無・強度」で判断される。
- イ: 誤り。民625条1項により使用者の権利の譲渡(例:会社の事業を他社に売却した場合の従業員の引き受け)には労働者の承諾が必要。労働契約法上も同様の保護がある(労契法10条等参照)。
- ウ: 誤り(民628条)。期間の定めのある雇用でも「やむを得ない事由」(事業の廃止・天災・当事者の重大な義務違反等)がある場合は期間の途中でも各当事者が即時解除できる。「やむを得ない事由があっても期間満了まで一切解除できない」とするウは誤り。なお、その事由が当事者の一方の過失によって生じたときは、相手方に対し損害賠償責任を負う(民628条後段)。
- エ: 誤り。「いかなる場合も2週間前の予告が必要」は誤り。民628条の「やむを得ない事由」がある場合は即時解除できる。また、月末・毎月一定日に報酬を支払う場合(月給)は解除の申し出のタイミングによって解除時期が変わる(民627条2項)。
- オ: 正答。民625条2項の明文規定。雇用は個人の技能・人格への信頼に基づくため、他人への代替使用には使用者の同意が必要。これは請負(民632条・請負人は補助者を使っても可)と異なる雇用の一身専属性の現れ。
【根拠条文】
民法 第623条(雇用の成立)、第625条第1項(使用者の権利の譲渡制限)、第625条第2項(労働者の代替使用の制限)、第627条第1項(期間の定めのない雇用の解除)、第628条(やむを得ない事由による即時解除)
【補足】
民625条の一身専属性規定(使用者の地位譲渡には労働者の承諾・労働者が他人を代替させるには使用者の承諾)は基本論点。民法の雇用規定は労働基準法・労働契約法の特別法によって実務上補完される。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第623条(雇用の成立)、第625条(使用者の権利の譲渡の制限等)、第626条(期間の定めのある雇用の解除)、第627条(期間の定めのない雇用の解除) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。