行政書士 民法 問94:民法物権
物権的請求権に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア所有者は、自己の所有物を無権限で占有している者に対して、その返還を請求することができる(所有物返還請求権)。
- イ所有者は、隣地の崩落のおそれがある工作物など、現に所有権の円満な実現が妨害される客観的なおそれがある場合に、その妨害の予防(予防措置)を請求することができる(妨害予防請求権)。
- ウ物権的妨害排除請求権は、現在の妨害状態を排除することを内容とするものであり、妨害の原因を作出した者がすでに死亡している場合でも、現在の妨害状態を維持している者に対して行使できる。
- エ物権的請求権は物権に基づく効力であるから、消滅時効の対象とはならず、物権が存続する限り永続して行使することができる。
- オ所有権に基づく返還請求権は、相手方が不法占拠者であっても、所有者はその相手方に対して占有侵害に基づく不法行為損害賠償請求のみを行うことができ、返還請求権を行使することはできない。正答
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オが誤りです。所有権に基づく物権的請求権(返還請求権)は、相手方が不法占拠者であっても当然に行使することができます。不法行為損害賠償請求と物権的請求権は競合して行使でき、「返還請求権は行使できない」という選択肢は誤りです。アは正しく(所有物返還請求権は物権的請求権の典型)、イは正しく(妨害予防請求権も認められる)、ウは正しく(現在の妨害維持者に対して行使できる)、エは正しく(物権的請求権は物権の存続する間は消滅時効にかからないというのが通説・判例の立場です)。
オが誤りです。物権的請求権(所有権に基づく返還請求権)は、所有権を根拠に物の返還を求める権利であり、相手方が不法占拠者であっても行使することができます。不法行為に基づく損害賠償請求(民709条)と物権的返還請求権は請求の根拠が異なる別個の権利であり、どちらを行使するか、あるいは両方行使するかは権利者の選択に委ねられています。
アは正しいです。所有物返還請求権(返還請求権)は「所有者が占有をすべき権利を持たない者に対して占有の回復を求める」権利として認められています(民206条・所有権の内容から当然に導かれる)。
イは正しいです。妨害予防請求権は「現に客観的な妨害のおそれがある状態」(例:隣地の崩落しそうな工作物)に対して予防措置を求める権利で、物権の円満な支配を守るために認められています。なお、単に第三者が口頭で所有権を争う・観念的に対抗を主張するだけでは物理的・客観的な妨害のおそれとはいえず、妨害予防請求権の対象とはなりません。
ウは正しいです。妨害排除請求権の相手方は「現に妨害状態を維持している者」であり、妨害の原因を作った者がすでに死亡していても、現在の妨害維持者に請求することができます。
エは正しいです(通説・判例)。物権的請求権は物権それ自体に付随する効力であり、消滅時効の対象とはならないと解されています。
【理論的背景】
物権的請求権(物上請求権)は、物権の完全な実現・支配が侵害された場合または侵害されるおそれがある場合に、その回復・防止を求める権利です。物権法定主義(民175条)により物権は法律に定められたものしか存在しませんが、物権的請求権は明文規定がない場合でも所有権等の物権的効力として認められています。物権的請求権には、①返還請求権(占有を奪われた場合の返還要求)、②妨害排除請求権(占有の妨害の除去要求)、③妨害予防請求権(将来の妨害のおそれへの予防措置要求)の3類型があります。
【条文構造】
物権的請求権に関する民法の規定を整理します。占有権については明文規定があります(民198条・占有保持の訴え、民199条・占有保全の訴え、民200条・占有回収の訴え)。しかし所有権に基づく物権的請求権については民法に明文規定がなく、民206条(所有者は法令の制限内において自由にその所有物の使用・収益・処分をする権利を有する)の解釈として認められています。通説・判例は、物権の本質から物権的請求権を当然に導くとしています。物権的請求権と債権的請求権(不法行為の損害賠償請求等)は法的根拠が異なり、競合的に行使することが可能です。また、物権的請求権は「物権の延長・付随」であるため、物権が消滅した後は物権的請求権も行使できなくなります。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における物権的請求権の典型論点は、①3類型(返還・妨害排除・妨害予防)の区別と行使要件、②相手方(現在の妨害維持者が相手方であり、妨害原因者ではなく現状維持者が対象)、③消滅時効の不適用(物権存続中は時効にかからない)、④不法行為損害賠償請求との競合(両方行使可能)です。特に「妨害排除の相手方は現在の妨害状態を作出した者か維持している者か」という問いは、現在の維持者(例:侵害的な工作物を相続した者)が相手方となるという点で出題されます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。所有物返還請求権の典型は不法占拠者からの土地建物の明渡し請求。所有者は占有権原のない占有者に対して返還を請求できる。なお、占有者が留置権(民295条)を有する場合は占有権原があるとして返還拒絶ができる。
- イ: 正しい。妨害予防請求権の典型は境界線近くに崩落のおそれのある工作物を設置している場合に、将来的な土地への侵害を防ぐための工事を求める請求。民工作物責任(民717条)とも関連。
- ウ: 正しい。妨害排除請求の相手方は「現在妨害状態を維持している者」。例:甲が乙の土地に無断で廃棄物を置き、甲が死亡して相続人丙がその廃棄物を放置している場合、丙が妨害排除の相手方となる。妨害状態の作出者(甲)への損害賠償請求(不法行為)と、妨害排除請求(丙への請求)は別個の問題。
- エ: 正しい(通説・判例)。物権的請求権は物権の付随的権能として消滅時効の対象とならないと解されている。ただし所有権自体(取得時効・消滅時効の問題)とは区別が必要。所有権は消滅時効の対象とならない(民166条・所有権は消滅時効に服しない)ことも関連する重要論点。
- オ: 誤り(正答)。物権的返還請求権と不法行為損害賠償請求は競合して行使できる。不法占拠者に対して、所有者は①返還請求(物権的請求)、②損害賠償(不法行為)、③不当利得返還(民703条)の3種類の請求を選択的・累積的に行使できる。
【根拠条文】
民法 第206条(所有権の内容)、第198条(占有保持の訴え)、第199条(占有保全の訴え)、第200条(占有回収の訴え)
【補足】
所有権に基づく物権的請求権には明文規定がないが(民206条の解釈から導出)、占有権の物権的請求権(民198条〜200条)には明文規定がある。この点の違いも整理しておくこと。物権的請求権は消滅時効の対象とならない(通説・判例)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第198条(占有保持の訴え)、第199条(占有保全の訴え)、第200条(占有回収の訴え)、第206条(所有権の内容) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。