衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問5:局所排気装置・保護具
呼吸用保護具に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア防じんマスクは、空気中の粒子状物質(ダスト・ミスト・ヒューム等)をフィルターで捕集して除去する保護具であり、ガス・蒸気状の有害物質に対しては効果がない。
- イ防毒マスク(吸収缶付き)は、活性炭等の吸収剤によってガス・蒸気状有害物質を吸収・除去する保護具であり、対象とするガスの種類に応じた吸収缶を選定する必要がある。
- ウ酸素欠乏危険場所(酸素濃度18%未満のおそれがある場所)では、防じんマスクや防毒マスクを使用することはできず、送気マスクまたは空気呼吸器を使用しなければならない。
- エ電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)は、電動ファンによって空気を送り込みフィルターや吸収缶を通過させるタイプで、フィット感(密着性)への依存が小さく、高い防護性能が期待できる。
- オ防じんマスクのフィルター(ろ材)の種類はRS(捕集効率区分)とDS(同左)に分けられ、RSは使い捨てタイプ・DSは繰り返し使用可能タイプを意味する。正答
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誤りはオです。防じんマスクのろ材区分「RS」と「DS」は、RS=取替え式(ろ過材を交換して繰り返し使用できる型)・DS=使い捨て式(マスク本体ごと廃棄する型)を意味します。オの記述「RSは使い捨てタイプ・DSは繰り返し使用可能タイプ」は、この対応関係が完全に逆になっているため誤りです。正しくはRSが繰り返し使用型、DSが使い捨て型です(RはReplaceable/取替え式、DはDisposable/使い捨て式と覚えます)。
防じんマスク・防毒マスクの選択基準(ア・イ・ウ)と電動ファン付き保護具(エ)はすべて正しい重要知識です。
呼吸用保護具の種類と使用場面の整理:
| 種類 | 有効な有害物質 | 使用できない場面 |
|---|---|---|
| 防じんマスク | 粉じん・ミスト・ヒューム(粒子状) | ガス・蒸気・酸欠環境 |
| 防毒マスク | ガス・蒸気(吸収缶の種類に応じた物質) | 粒子のみの環境での使用は過剰 / 酸欠環境は不可 |
| 防毒防じん兼用マスク | ガス・蒸気+粒子(兼用缶) | 酸欠環境は不可 |
| 送気マスク・空気呼吸器 | 酸欠環境・高濃度有害ガス(フィルター式では対応不可の場合) | — |
| 電動ファン付き(PAPR) | ガス・蒸気+粒子(使用する缶の種類に応じて) | 大型・電力が必要 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 防じんマスクはフィルター(ろ材)で粒子を物理的に捕集するため、気体(ガス・蒸気)は通過してしまい、防護できません。有機溶剤蒸気には防毒マスク(有機ガス用吸収缶)が必要です。
- イ(正): 防毒マスクは活性炭等の吸収剤でガス・蒸気状の有害物質を除去する保護具です。吸収缶は対象ガスごとに種類が分かれており(有機ガス用・ハロゲンガス用・アンモニア用・一酸化炭素用等)、対象ガスに対応した吸収缶を選定しなければなりません。誤った吸収缶では防護できないため、SDS等で対象物質を確認して選定する必要があります。
- ウ(正): 酸欠環境(O₂ 18%未満)では、防じんマスク・防毒マスクのいずれも酸素供給能力がなく、使用は禁止されています。送気マスク(供給源から清浄空気を送る)または空気呼吸器(ボンベから圧縮空気を供給)が必要です。
- エ(正): PAPRは電動ファンで空気を強制的に送るため、顔面への密着性(フィット)が低くても高い防護性能を発揮します。フィット試験が困難な人(顎鬚・特殊な顔形状等)にも適用しやすいメリットがあります。
- オ(誤): RSはろ過材取替え型(Reusable/replaceable filter)・DSは使い捨て型(Disposable)。「RSは使い捨てタイプ」は逆です。DS3は使い捨て・最高性能・RS3は繰り返し使用型・最高性能という関係です。
【理論的背景】
呼吸用保護具は、局所排気装置等の工学的対策が困難な場面での最後の防衛線です。工学的対策を優先し(発生源の制御・換気)、それでも曝露が残る場合に保護具で補完するという「工業衛生の優先順位(代入・密閉・換気・保護具)」が基本原則です。
保護具選択の原則:
1. 有害物質の種類(粒子/ガス/蒸気/酸欠)に応じた保護具を選ぶ
2. 曝露濃度・管理区分に応じた性能レベル(FF2・FF3等)を選ぶ
3. 顔面への密着性(フィット)を確保する(フィットテストの実施)
4. 作業内容・作業時間・作業環境温湿度に応じた使用性を確認する
酸欠環境での保護具選択が厳格な理由:
- フィルター式(防じん・防毒)は「周囲の空気をろ過して清浄化する」仕組みであり、「酸素を補充する」機能はない
- 酸欠環境では酸素分圧が低下しているため、フィルターを通しても清浄な(十分な酸素を含む)空気は得られない
- したがって、外部から酸素を含む空気を供給する「送気マスク」または「空気呼吸器」が必須
【実務・条文構造】
防じんマスクの規格(JIS T8151 / 安衛則第593条等の適合品):
RS(ろ過材取替え型・Reusable/replaceable System):
- RS1・RS2・RS3(1→3に向かって捕集効率が高い)
- RS3が最高性能(捕集効率99%以上)
- ろ過材(フィルター)が交換可能→定期交換が必要
DS(使い捨て型・Disposable System):
- DS1・DS2・DS3
- DS3が最高性能(捕集効率99%以上)
- マスク本体ごと廃棄→衛生的・管理が容易
性能区分(1〜3の意味):
- 1: 捕集効率≥80%(粗いフィルター)
- 2: 捕集効率≥95%(標準フィルター)
- 3: 捕集効率≥99%(高性能フィルター)
防毒マスク(安衛則第593条等):
- 有機ガス用吸収缶(活性炭): トルエン・キシレン等の有機溶剤
- 一酸化炭素用吸収缶(触媒): CO(活性炭のみでは不可)
- ハロゲンガス用吸収缶: 塩素・フッ化水素等
- 亜硫酸ガス用吸収缶: 亜硫酸ガス(SO₂)・硫化水素(H₂S)の混合
- アンモニア用吸収缶: NH₃
吸収缶の破過(breakthrough):
- 吸収缶の寿命は有害ガスの種類・濃度・使用時間・温湿度に依存
- 破過後は有害物質が缶を通過して呼吸器に到達→適切なタイミングでの交換が必須
- 一酸化炭素は無臭・無味のため破過の自覚が難しい→特に注意
電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR: Powered Air-Purifying Respirator):
- 電動ファンで空気を強制送気→陽圧型(マスク内部が陽圧)になるタイプが多い
- フィットへの依存が小さい→顔面密着性が確保しにくい作業者に有効
- 騒音作業・密着型が苦手な作業者に適合
【試験での位置づけ】
呼吸用保護具問題の最頻出は「防じんマスク=粒子のみ(ガス・蒸気は防護不可)」「酸欠環境では防じん・防毒マスク使用禁止(送気マスク・空気呼吸器が必要)」「RS/DSの区分(RS=ろ過材取替え型・DS=使い捨て型・RSが繰り返し使用型)」の3点です。オのような「RS=使い捨て・DS=繰り返し使用」という逆の記述は典型的な引っかけです。酸欠環境での保護具制限(ウ)は毎回出題されます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 防じんマスクが粒子にのみ有効な理由は「フィルターの目の大きさが気体分子(原子レベル)より大幅に大きいため」です。活性炭を含む防毒防じん兼用マスクは粒子もガスも防護できますが、適切な吸収缶の選択が必要です。
- イ: 防毒マスクの吸収缶は「特定のガス・蒸気に対応する吸収剤」が入っており、対応する有害物質以外には効果がありません。例えば有機ガス用吸収缶は塩素やアンモニアには対応していないため、誤った吸収缶を使用することは重大な危険を招きます。SDSシート(安全データシート)を参照して適切な吸収缶を選択することが重要です。
- ウ: 酸欠環境での保護具制限は現場での事故(適切な保護具なしでの救助者の連鎖死亡)の予防のために設けられています。「防毒マスクをしているから安全」という誤解が事故につながるため、特に周知が重要です。
- エ: PAPRは建設現場での石綿除去作業・感染症予防(N95相当以上の保護が必要な場面)・化学物質取扱い等で活用が拡大しています。電池・電動ファンのメンテナンスが必要な点と、作業によっては装着感・動作性への影響がある点が課題です。
- オ: DS3(使い捨て型・最高性能)は一般的に「N95マスク」と呼ばれる欧米規格(NIOSH N95)に相当する性能を持ちます。コロナ禍でN95の認知度が上がりましたが、日本の規格ではDS2(RS2)が「粒子捕集効率95%以上」でN95相当、DS3(RS3)が「捕集効率99%以上」でより高い性能に対応します。
【根拠】医学的事実(確立した労働衛生工学)。防じんマスクのRS/DS規格区分(JIS T8151・旧規格)・防毒マスクの吸収缶の種類・酸欠環境でのフィルター式保護具の使用禁止は労働衛生工学の確立した知識。安衛則第593条等の保護具関連規定に準拠。
【補足】RS=ろ過材取替え型(繰り返し使用可能)・DS=使い捨て型(「RSは使い捨て」は逆)。酸欠環境→防じん・防毒マスク使用禁止→送気マスク・空気呼吸器のみ可。防じんマスクはガス・蒸気には無効。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した労働衛生工学)。防じんマスクの規格(RS・DS)はJIS T8151(防じんマスク)に準拠した規格区分。安衛則第593条等。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。