社労士 労働保険料徴収法 問3:労働保険料徴収法
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-07)
労働保険の保険料の徴収等に関する法律における労災保険率およびメリット制に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア労災保険率は、事業の種類ごとに労災事故の発生率(被災率)を基礎として厚生労働大臣が定めるが、すべての業種に共通して一定の料率(一般拠出金率)が上乗せされている。
- イメリット制は、個々の事業の労働災害の多寡を保険料率に反映させる仕組みであり、過去3年間の保険収支率(収納保険料に対する保険給付額の比率)が一定以上または以下である場合に、保険料率を最大で±40%の範囲で増減させる。正答
- ウメリット制は、すべての継続事業に対して自動的に適用される制度であり、事業主の申請なしに次の年度更新時から保険料率が改定される。
- エ一括有期事業(建設業の小規模工事等)については、単独有期事業と異なり、メリット制の適用を受けることはできない。
- オ労災保険料率は雇用保険料率と同様に事業区分(一般事業・農林水産業・建設業)の3区分で定められており、建設業が最も高い料率となっている。
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正答はイ(正しい記述)です。
メリット制は過去3年間の収支率(保険給付額/収納保険料)に基づいて個々の事業の労災保険料率を±40%の範囲で増減させる仕組みです(徴収法第12条の2)。災害の少ない事業は保険料が下がり、多い事業は上がるため、事業主の安全衛生管理へのインセンティブとなります。
アは一部誤りです。一般拠出金(石綿健康被害救済法第31条)は労災保険率とは別に徴収される(上乗せではなく別々の徴収)ため、表現が不正確です。ウは誤りで、メリット制の適用には一定の規模要件があり、全ての事業に自動適用されるわけではありません。エは誤りで、一括有期事業にもメリット制の適用があります(要件を満たす場合)。オは誤りで、労災保険率は業種ごとに個別に定められており、雇用保険の3区分とは全く異なる区分(数十の業種区分)です。
労災保険率の特徴(雇用保険率との違い):
| 比較項目 | 労災保険率 | 雇用保険率 |
|---|---|---|
| 区分数 | 数十の業種別料率(詳細業種区分) | 3区分(一般/農林水産・清酒/建設) |
| 料率の範囲(令和6年度) | 2.5/1000〜88/1000(業種により大きく異なる) | 5.5/1000〜9/1000(労働者負担分のみ) |
| 決定方法 | 厚生労働大臣が業種別被災率で定める | 同左(ただし区分が粗い) |
| メリット制 | あり(個別事業の収支率で増減) | なし(業種全体で均一) |
メリット制の仕組み(第12条の2):
適用要件(3つ全て満たすこと):
1. 連続する3保険年度にわたって保険関係が成立していること
2. 3保険年度中の各保険年度における確定保険料の額がそれぞれ40万円以上(有期事業の一括の場合は基準が異なる)
3. 事業の規模等が厚生労働省令で定める基準を満たすこと
増減幅:
収支率(保険給付額÷収納保険料)に応じて、労災保険率を最大±40%の範囲で増減
```
収支率が低い(給付額が少ない・優良事業) → 保険料率を最大40%引下げ
収支率が高い(給付額が多い・災害頻発事業) → 保険料率を最大40%引上げ
```
各選択肢の解説:
- ア(誤): 一般拠出金(石綿救済法)は労災保険率とは別に徴収される(上乗せではなく別個の拠出金)。
- イ(正): メリット制の収支率・±40%の範囲は条文通り。正しい。
- ウ(誤): メリット制は規模要件・3年要件を満たす事業のみに適用。全事業への自動適用ではない。
- エ(誤): 一括有期事業も一定要件を満たす場合にメリット制の適用を受ける(徴収法第12条の2第2項)。
- オ(誤): 労災保険率は数十の業種区分(危険度に応じた細分化)。雇用保険の3区分とは全く異なる。
【労災保険率の業種別区分の設計思想】
労災保険率は、各業種の過去3年間の実際の災害率(被災率)と保険給付額を基に算出される「純保険料率」に、制度運営費用等を加味して厚生労働大臣が3年に1度のペースで改定します(直近は令和6年4月改定)。
業種別料率の高低の背景(例):
- 高い料率(88/1000等): 金属鉱業・石炭鉱業等の採掘業。地下作業・爆発・落盤等の危険が高く、被災率・給付額が大きい
- 低い料率(2.5/1000等): 金融・保険・不動産業・IT業等のオフィス系産業。身体的危険が低く、被災率も低い
- 建設業: 高所作業・重機使用・多数の下請業者が同一現場で作業するため、製造業よりも高い料率
この業種別料率の精度が、メリット制の「個別事業への反映」と組み合わさることで、保険財政の安定と事業主の安全衛生インセンティブが同時に実現されます。
【メリット制の上限±40%の意味と実務的影響】
メリット制の増減幅±40%は、業種の平均保険料率に対して最大40%増または40%減ということです。
具体例(建設業・業種平均料率を仮に10/1000とした場合):
- 収支率が良い(給付少ない)事業: 最大40%減→6/1000
- 収支率が悪い(給付多い)事業: 最大40%増→14/1000
この増減幅は相当に大きく、大規模な建設業者にとっては年間の保険料総額に数百万〜数千万円の差が生じることがあります。そのため安全衛生管理の費用対効果(安全管理コスト投資→事故減少→メリット料率引下げ→保険料節減)が成り立つ場合があり、企業の安全衛生管理への投資を促進するとされています。
【一般拠出金の別途徴収(石綿救済法)】
アが誤りである理由の詳細:
一般拠出金(石綿による健康被害の救済に関する法律第31条)は、石綿(アスベスト)による中皮腫等の健康被害者への補償財源として、すべての業種の事業主から徴収される拠出金です。
一般拠出金の性質:
- 労災保険料率とは別枠の拠出金(同じ申告書で申告するが、料率計算は完全に別)
- 現行の拠出金率: 0.02/1000(0.002%)(全業種均一・労働者数ではなく賃金総額ベース)
- 事業主のみ負担(労働者は負担しない)
- 賃金総額 × 一般拠出金率 = 一般拠出金額
この一般拠出金は「労災保険料に上乗せ」ではなく「別途徴収」であり、労災保険率の計算から除外して別に算出・申告する必要があります。年度更新の申告書では、確定保険料・概算保険料と並んで一般拠出金欄が設けられています。
【メリット制の適用判定と継続事業の3年間の計算】
メリット制の適用判定は「連続する3保険年度分の収支率」で行われます。
収支率の計算:
```
収支率 = 当該3保険年度中に発生した給付総額 ÷ 当該3保険年度に収納された確定保険料総額 × 100
```
メリット増減の計算(厚労省告示で定める増減表):
- 収支率75%未満: 最大引下げ(-40%)
- 収支率75%以上85%未満: 中程度引下げ
- 収支率85%以上115%未満: 変動なし(基準料率のまま)
- 収支率115%以上125%未満: 中程度引上げ
- 収支率125%以上: 最大引上げ(+40%)
【社労士実務:メリット制と労働安全衛生の一体管理】
社労士実務では、顧問先(特に建設業・製造業等の高危険業種)に対して、メリット制を活用した保険料最適化と安全衛生管理の両面からアドバイスを提供することが重要業務です。
1. 収支率の定期確認: 3年毎の収支率計算を事前に行い、メリット増減の見込みを伝える
2. 安全衛生管理計画の策定: 事故件数・給付件数の削減が保険料節減に直結することを顧問先に示す
3. 特別加入の活用: 一人親方・中小事業主等の特別加入で事故時の補償を確保しつつ、メリット制の恩恵を受けられる事業の規模管理
これらの一体管理が「社労士による労働保険管理サービス」の付加価値となります。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働保険の保険料の徴収等に関する法律第12条(保険料率・メリット制)、石綿による健康被害の救済に関する法律第38条(一般拠出金)、厚生労働省「令和6年度適用の労災保険率表」 <!-- 監修確定 2026-06-07 --> 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-07)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。