第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識36医薬品に共通する特性と基本的な知識(妊婦・授乳婦への配慮)

登録販売者 第1章 医薬品に共通する特性と基本的な知識 問36:医薬品に共通する特性と基本的な知識(妊婦・授乳婦への配慮)

妊娠・授乳中の医薬品使用に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 胎盤は完全なバリアとして機能するため、分子量の小さい薬物成分であっても母体から胎児へ移行することはない。
  • 妊娠初期(器官形成期)は胎児の臓器・四肢が形成される時期であり、この時期の医薬品暴露は催奇形性リスクが特に高いとされている。正答
  • 医薬品の成分が乳汁中へ移行することはなく、授乳中に内服した薬物が乳児に影響を与えることはない。
  • 妊娠中は母体の医薬品代謝が通常より遅くなるため、すべての医薬品について安全性が低下し、いかなる医薬品も使用してはならない。
  • 一般用医薬品は医療用医薬品と異なりすべて安全性が保証されているため、妊婦が添付文書の指示に従って使用すれば問題はない。
正答:妊娠初期(器官形成期)は胎児の臓器・四肢が形成される時期であり、この時期の医薬品暴露は催奇形性リスクが特に高いとされている。

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正答はイです。

妊娠初期(特に妊娠4〜8週ごろ)は胎児の臓器・手足などが作られる大事な時期(器官形成期)です。この時期に医薬品にさらされると催奇形性(生まれつきの異常が起きるリスク)が特に高くなります。サリドマイドが催奇形性を示した時期もこの器官形成期にあたります。

アは誤りで、胎盤を通じて薬物が胎児に移行することがあります。ウも誤りで、薬物成分が乳汁に移行して乳児に影響する場合があります。エも誤りで、妊娠中でも必要な薬は医師の指導のもとで使用することがあります。オも誤りで、一般用医薬品であっても妊婦への影響に注意が必要です。

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胎盤と母体-胎児間の薬物移行:

胎盤は栄養素・酸素の母児間交換を担う器官ですが、すべての物質を遮断する「完全バリア」ではありません。

薬物の胎盤通過を決める因子:

| 因子 | 胎盤通過しやすい | 通過しにくい |

|---|---|---|

| 分子量 | 小さい(600 Da以下) | 大きい(1000 Da超) |

| 脂溶性 | 高い | 低い |

| タンパク結合 | 遊離型(結合が低い) | 高タンパク結合型 |

| イオン化 | 非イオン化型 | イオン化型 |

器官形成期の重要性(イが正しい根拠):

  • 妊娠4週〜8週: 心臓・神経管・四肢・眼・耳の形成
  • この時期が最も催奇形性リスクが高い(critical window)
  • 妊娠12週以降(胎児期): 催奇形性リスクは低下するが、胎児の成長・機能発達(脳・生殖器等)への影響は引き続き懸念される

授乳中の薬物移行(ウの誤りの根拠):

多くの薬物は乳汁中に移行します。一般的に乳汁中濃度は血中濃度より低いですが、乳児は体重が小さく代謝能力も未熟なため、乳汁経由で摂取した薬物量が体重あたりで問題になる場合があります。アセトアミノフェン・イブプロフェン等は乳汁移行量が少なく比較的安全とされますが、「移行しない」とは言えません。

各選択肢の解説:

  • ア(誤): 胎盤を通じて薬物は胎児に移行する。完全バリアではない。
  • イ(正): 器官形成期の薬物暴露は催奇形性リスクが特に高い。正しい記述。
  • ウ(誤): 薬物は乳汁に移行し乳児に影響する可能性がある。
  • エ(誤): 「いかなる医薬品も使用してはならない」は誤り。必要な薬は医師の指導のもとで使用する。
  • オ(誤): 一般用医薬品でも妊婦への安全性は成分ごとに異なり、使用可否は添付文書・医師への相談に基づく必要がある。
上級誤答論破・根拠(手引き)まで深掘り

【妊娠期の薬物動態変化と胎盤の機能的特性】

妊娠中は母体の生理が大きく変化し、薬物動態(ADME)のすべての段階に影響を与えます。

妊娠による薬物動態変化:

| 段階 | 変化 | 影響 |

|---|---|---|

| 吸収 | 消化管運動低下(プロゲステロン作用)| 吸収速度低下・一部薬物の吸収量変化 |

| 分布 | 血漿量増加(約40〜50%増)・アルブミン低下 | 分布容積拡大・遊離型薬物増加 |

| 代謝 | 一部CYP酵素活性変化(CYP3A4上昇・CYP1A2低下等) | 薬物ごとに代謝速度が異なる方向に変化 |

| 排泄 | 腎血流量増加・GFR上昇(約50〜60%増) | 腎排泄型薬物の排泄促進・血中濃度低下の可能性 |

「妊娠中は代謝が遅くなる」というエの記述が誤りである理由はここにあります。実際には薬物によって代謝が速くなるものも遅くなるものもあり、一律に「代謝が遅くなる」とは言えません。

胎盤の構造と薬物輸送機構:

胎盤は絨毛を介して母体血液と胎児血液が接触(絨毛間腔で直接接触・ヒト型胎盤の特徴)します。薬物は以下の機構で移行します:

1. 受動拡散: 濃度勾配に従って移行(大多数の薬物の主要な移行経路)。脂溶性・低分子・非イオン化型薬物が移行しやすい。

2. 能動輸送: P糖タンパク(P-gp・ABCB1)等の薬物トランスポーターが胎盤に存在し、一部の薬物を母体側に「排出」するバリア機能を持つ。ただし、これも完全ではない。

3. 飲食作用(エンドサイトーシス): 高分子物質(一部のタンパク質薬物等)が取り込まれる経路。

妊娠中の医薬品リスク評価の考え方(国内の添付文書原則):

日本では、医療用医薬品の添付文書に「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する(有益性投与)」という原則が記載されています。一般用医薬品では「妊婦・妊娠していると思われる人は使用前に相談すること」が基本的な記載方針です。これは「使用禁止」ではなく「専門家への確認」を求めるものです。

(参考: かつて米国FDAが用いていたA/B/C/D/Xの5段階妊娠カテゴリーは、2015年に廃止され、添付文書に具体的なリスク情報を文章で記載する方式に移行しています。ただしこれは海外制度であり、日本の登録販売者試験で問われるのは上記の国内の添付文書原則です。)

器官形成期の「臓器別感受性期間」の理解:

催奇形性リスクは「妊娠初期全体」ではなく、各臓器の形成時期(感受性期間)に特に高くなります。

| 臓器・器官 | 最も感受性が高い妊娠週 |

|---|---|

| 中枢神経系 | 3〜16週(神経管閉鎖: 3〜4週) |

| 心臓 | 3〜6週 |

| 四肢 | 4〜8週 |

| 外耳・内耳 | 4〜9週 |

| 口蓋 | 6〜9週 |

| 性器 | 7〜12週 |

妊娠12週以降(胎児期)は催奇形性リスクは低下しますが、脳の発達(ニューロン移動・シナプス形成)は妊娠後期〜出生後も継続するため、中枢神経への影響が完全になくなるわけではありません。

乳汁移行の薬理学的理解:

乳汁は弱酸性(pH約6.8〜7.2)であり、血漿(pH7.4)より若干酸性です。弱塩基性薬物はイオントラッピング(弱酸性環境でイオン化して濃縮)により乳汁中に蓄積しやすく、母体血中濃度より乳汁中濃度が高くなることがあります(乳汁/血漿比>1)。登録販売者として「授乳中ですか?」と確認することで、乳汁移行リスクの高い成分を含む製品を避け、必要に応じて受診勧奨する対応が求められます。

一般用医薬品における妊婦対応の実際:

多くのOTC医薬品は「妊婦・妊娠していると思われる人は医師・薬剤師または登録販売者に相談すること」と添付文書に記載しています。これは「使用禁止」ではなく「専門家への確認」を求めるものです。登録販売者は症状・使用成分・妊娠週数等を確認し、「医師に相談してから使用してください」と案内するのが適切な対応です。自己判断で「一般用だから大丈夫」と断言してはなりません。

<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 設問・正答イ(器官形成期=妊娠初期の催奇形性リスク)は一意性・事実ともOK。FDA妊娠カテゴリーA/B/C/D/Xの解説を主役にしていた箇所を、海外制度の断定を避け国内の添付文書原則(有益性投与・相談すること)を主役に書き換え。FDA廃止(2015年・PLLR移行)は参考の括弧書きに格下げし「国内試験で問われるのは国内原則」と明示。臓器別感受性期間の表は教育的範囲として維持。 -->

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第1章 第2節「医薬品の効き目や安全性に影響を与える要因」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。

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