登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問27:主な医薬品とその作用(腸の薬)
整腸薬の成分に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア乳酸菌(ラクトバチルス属等)は腸内で乳酸を産生して腸内pHを低下させることで、腸内の有害菌の増殖を抑制し、腸内環境を整える。
- イビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属)は大腸に多く定着する偏性嫌気性菌であり、乳酸と酢酸を産生して腸内の有害菌の増殖を抑制する。
- ウトリメブチンは腸管の平滑筋に直接作用してオピオイド受容体を介した消化管運動の調節作用を持ち、過敏性腸症候群(IBS)に伴う腹痛・便通異常に有効とされる。
- エ酪酸菌(クロストリジウム・ブチリカム等)は大腸粘膜のエネルギー源となる酪酸を産生し、腸粘膜の修復・バリア機能維持に寄与する。
- オ整腸薬の生菌成分は製造過程での加熱殺菌処理によって全て死菌化されているため、体内で生存して腸内細菌叢を構成することはなく、腸管免疫刺激のみで効果を発揮する。正答
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正答はオ(誤っているもの)です。
整腸薬の「生菌(せいきん)成分」は、その名のとおり生きた菌を含む製剤です。製造過程で死菌化されているわけではなく、生菌が腸内で定着・増殖することで腸内細菌叢(フローラ)を改善します。「全て死菌化されている」という記述が誤りです。
ゴロ:「生菌は生きているから腸で働く(死んでいない)」
ア・イ・ウ・エはいずれも正しい記述です。乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌それぞれの産生物と働きの違いを押さえておきましょう。トリメブチンは生菌ではなく腸管運動調節薬です。
整腸薬の主要成分比較:
| 成分/菌種 | 分類 | 産生物・主な作用 | 定着部位 |
|---|---|---|---|
| ラクトバチルス属(乳酸菌) | 生菌(偏性/通性嫌気性) | 乳酸産生→腸内pH低下→有害菌抑制 | 小腸〜大腸 |
| ビフィドバクテリウム属(ビフィズス菌) | 生菌(偏性嫌気性) | 乳酸+酢酸産生→有害菌抑制 | 大腸 |
| クロストリジウム・ブチリカム(酪酸菌) | 生菌(偏性嫌気性・芽胞形成) | 酪酸産生→大腸粘膜エネルギー源・バリア強化 | 大腸 |
| トリメブチン | 合成薬(消化管運動調整薬) | 消化管平滑筋に直接作用→運動低下時は亢進的・亢進時は抑制的に調整 | 全消化管 |
各選択肢の解説:
- ア(正): 乳酸菌が糖(グルコース・ラクトース等)を発酵して乳酸を産生することで腸内pHが低下します。大腸菌・ウェルシュ菌等の有害菌は低pH環境では増殖しにくくなります。
- イ(正): ビフィズス菌は偏性嫌気性菌(酸素があると生育できない)で、大腸の嫌気的環境に特に適しています。乳酸だけでなく酢酸も産生する点が乳酸菌との違いです。酢酸も強い抗菌活性を持ちます。
- ウ(正): トリメブチン(マレイン酸塩)は消化管の平滑筋に直接作用して消化管運動を調整する薬で、運動が亢進しているとき(下痢型)には抑制的に、運動が低下しているとき(便秘型)には亢進的に作用する「双方向性調整」が特徴です。IBS(過敏性腸症候群)に伴う腹痛・便通異常に用いられます。なお選択肢ウは設問の中で「正しい記述」として扱われますが、手引き(令和8年4月版)はトリメブチンを「消化管の運動を調整する作用がある」とする記載にとどまり、オピオイド受容体を介した機序は試験範囲の必須知識ではありません。
- エ(正): 酪酸は大腸粘膜上皮細胞の主要エネルギー源(全エネルギーの約70%を賄う)です。酪酸菌の産生する酪酸が腸粘膜の修復・タイトジャンクション強化(バリア機能)に重要な役割を果たします。
- オ(誤・正答): 整腸薬の「生菌成分」は生きた菌を含む製剤です。製造工程で生菌の活性を保つよう管理され(冷蔵保管・芽胞形成菌の活用など)、服用後に腸管で定着・増殖して腸内細菌叢を直接改善します。「製造過程で全て死菌化」は完全な誤りです。
【腸内細菌叢(腸内フローラ)とプロバイオティクスの科学】
腸内細菌叢の概要:
ヒト腸管には約100兆個(重量約1.5kg)の細菌が生息し、ゲノム数はヒトゲノムの約100倍と言われます(腸内メタゲノム)。主要な門(phylum)の構成:
- フィルミクテス門(ラクトバチルス・クロストリジウム含む): 約60〜70%
- バクテロイデス門(バクテロイデス属等): 約20〜30%
- アクチノバクテリア門(ビフィズス菌含む): 約3〜10%
腸内細菌の機能:
1. 代謝: 食物繊維の短鎖脂肪酸(酪酸・プロピオン酸・酢酸)への変換、ビタミンK₂・B群合成
2. 免疫調節: Treg(制御性T細胞)誘導、IgA産生促進、自然免疫訓練
3. バリア機能: 粘液層形成支援、タイトジャンクション強化、病原菌の定着拒否(競合排除)
4. 神経-腸管軸: 腸内細菌が産生する神経伝達物質前駆体(セロトニン・GABA等)が脳-腸相関に関与
プロバイオティクス(生菌製剤)の種類と特性:
乳酸菌(ラクトバチルス属):
- 代表菌株: L. acidophilus, L. gasseri, L. casei(シロタ株=ヤクルト)
- 好気耐性(通性嫌気性)で小腸にも定着可能
- 乳酸産生(ホモ/ヘテロ発酵)でpH低下→有害菌(サルモネラ・リステリア等)のコロニー形成阻害
ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属):
- 代表菌株: B. longum, B. bifidum, B. infantis
- 偏性嫌気性で酸素に弱い→製剤化で酸素バリア包装が重要
- 乳酸:酢酸を約3:2の比率で産生(ヘテロ発酵独自の代謝経路「ビフィドシャント」)
- 免疫調節(IL-10産生誘導→抗炎症)
酪酸菌(クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ):
- 芽胞形成能→胃酸・熱に対して高い耐性(製剤安定性が高い)
- 大腸での酪酸産生→腸上皮細胞のATP産生(主要エネルギー)→粘膜修復
- 炎症性腸疾患(IBD)の動物モデルで腸炎軽減効果が示されている
トリメブチンの詳細薬理(手引き準拠):
トリメブチン(マレイン酸塩)の特性:
- 消化管(胃・腸)の平滑筋に直接作用し、消化管運動を調整する「消化管運動調整薬」
- 運動が低下しているときは亢進的に、亢進しているときは抑制的に働く双方向の調整作用
登録販売者試験での押さえどころ:
- 手引き(令和8年4月版)の記載は「消化管の運動を調整する作用がある」までで、整腸薬(生菌成分)とは別カテゴリの合成成分である点が要点
- IBS(過敏性腸症候群)に伴う腹痛・便通異常に用いられる
- まれな重篤副作用として肝機能障害が知られている
※双方向調整の詳細な受容体機序(オピオイド受容体への作動等)は研究レベルの解釈であり、試験で問われる必須知識ではないため、ここでは手引きの記載範囲(運動調整作用)に沿って理解しておけば十分です。
【登録販売者実務での整腸薬使い分けとカウンセリングポイント】
| 状況 | 推奨成分 | 理由 |
|---|---|---|
| 抗菌薬服用中の下痢予防 | 酪酸菌(芽胞形成で抗菌薬耐性あり) | ラクトバチルス・ビフィズスは抗菌薬で死滅するリスク |
| 乳糖不耐症(乳製品で下痢) | ラクトバチルス含有製剤で改善期待 | 乳糖分解酵素(ラクターゼ)を産生する菌株あり |
| IBS様症状(腹痛+便通異常) | トリメブチン含有製剤 | 消化管運動を調整し下痢型・便秘型両方に対応 |
| 乳幼児の下痢・軟便 | 小児用乳酸菌・ビフィズス菌製剤 | 安全性確立・乳幼児腸内フローラに適合 |
保管上の注意:
- 乳酸菌・ビフィズス菌製剤は高温・湿気で生菌が死滅するため冷暗所(一部は要冷蔵)保管
- 開封後は早期使用を指導
- 抗菌薬と同時服用する場合は時間差(2時間以上の間隔)を設けることが推奨される
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 正答オ(整腸薬の生菌成分は生菌であり「全て死菌化」は誤り)一意・妥当。乳酸菌・ビフィズス菌・酪酸菌の産生物(乳酸/酢酸/酪酸)記述も適切。【手引き逸脱の是正】選択肢ウのトリメブチンについて、設問は「正しい記述」扱いだが、standard表・解説・advancedの「オピオイドμ・κ・δ受容体作動」「κ受容体作動→平滑筋弛緩」等の機序断定は手引き(令和8年4月版)の記載範囲外のため、手引き準拠の「消化管平滑筋に直接作用し運動を調整(低下時は亢進的・亢進時は抑制的)/まれに肝機能障害」に置換。正答・段差性に影響なし。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第5節「腸の薬」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。