登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問28:主な医薬品とその作用(胃腸に作用する薬)
胃腸鎮痛鎮痙薬の成分に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アブチルスコポラミン臭化物は抗コリン成分であり、消化管平滑筋のムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断することで痙攣を抑制し、胃腸の痛みを和らげる。
- イ抗コリン成分(ブチルスコポラミン・ロートエキス等)は散瞳(瞳孔散大)や眼圧上昇作用があるため、緑内障の人への使用は禁忌または要注意とされる。
- ウパパベリン塩酸塩はアヘン由来のアルカロイドであるが、依存性や鎮痛・催眠作用を持たない平滑筋直接弛緩薬として胃腸の痙攣性疼痛に用いられる。
- エロートエキス(アトロピン等含有)は妊娠中の女性に安全に使用できる成分であり、母乳への移行がないため授乳中でも問題なく使用できる。正答
- オ抗コリン成分を含む胃腸鎮痛鎮痙薬は、前立腺肥大による排尿困難がある人には使用を避けるべきとされる。
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正答はエ(誤っているもの)です。
ロートエキスはアトロピンなどの抗コリン成分を含み、母乳中に移行することが知られています。授乳中に使用すると乳児に口の渇き・心拍数増加・便秘などの抗コリン症状が現れるおそれがあります。「授乳中でも問題なく使用できる」という記述が誤りです。
ゴロ:「ロートエキスは授乳禁止(乳で抗コリンが乳児に移る)」
抗コリン成分の禁忌・注意を一気に覚えましょう:
1. 緑内障(眼圧上昇) 2. 前立腺肥大(排尿困難) 3. 授乳中(母乳移行)
ア・イ・ウ・オはいずれも正しい記述です。
胃腸鎮痛鎮痙薬の成分比較:
| 成分名 | 分類 | 作用機序 | 主な禁忌・注意 |
|---|---|---|---|
| ブチルスコポラミン臭化物 | 抗コリン薬(四級アンモニウム塩) | M受容体遮断→平滑筋弛緩 | 緑内障・前立腺肥大・授乳中・高齢者 |
| ロートエキス(アトロピン含有) | 抗コリン薬(生薬由来) | M受容体遮断→平滑筋弛緩 | 緑内障・前立腺肥大・授乳中(母乳移行) |
| パパベリン塩酸塩 | 平滑筋直接弛緩薬(非抗コリン) | PDE阻害→cAMP上昇→平滑筋弛緩 | 緑内障注意(抗コリン作用は弱い) |
各選択肢の解説:
- ア(正): ブチルスコポラミン(ブスコパン等の有効成分)は四級アンモニウム構造を持つ抗コリン薬で、消化管平滑筋の収縮を引き起こすムスカリン性M₃受容体を選択的に遮断します。血液脳関門を通過しにくい構造(四級アンモニウム)のため、中枢神経系への影響は少ないとされています。
- イ(正): 散瞳(瞳孔括約筋のM₃受容体遮断→散瞳)→前房隅角が狭くなる→閉塞隅角緑内障の眼圧急上昇リスク。緑内障(特に閉塞隅角型)の人への抗コリン成分投与は絶対禁忌に近い重要な禁忌です。
- ウ(正): パパベリンはアヘン(ケシの実)由来アルカロイドですが、モルヒネ・コデインとは異なり、オピオイド受容体に作用せず、依存性・鎮痛・催眠作用はほとんどありません。ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害によるcAMP上昇→平滑筋弛緩という独自の機序を持ちます。
- エ(誤・正答): ロートエキスに含まれるアトロピン・ヒオスチアミン等は脂溶性が高く、母乳中に移行します。授乳中の使用により乳児に頻脈・口渇・便秘・排尿困難等の抗コリン症状が現れるおそれがあります。「授乳中でも問題ない」は誤りで、授乳中は使用を避けるべきです。
- オ(正): 前立腺肥大症では膀胱出口が狭窄しており、抗コリン薬で膀胱排尿筋の収縮が抑制されると尿閉(急性尿閉)に至るリスクがあります。前立腺肥大による排尿困難がある人への抗コリン成分は禁忌とされます。
【抗コリン薬の受容体薬理と選択的作用】
ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)サブタイプと抗コリン薬の作用:
| サブタイプ | 発現部位 | 刺激効果 | 抗コリン薬による遮断効果 |
|---|---|---|---|
| M₁ | 胃壁細胞(補助)・神経節 | 胃酸分泌促進・神経伝達 | 胃酸分泌抑制(補助) |
| M₂ | 心筋・平滑筋 | 心拍数低下・平滑筋収縮 | 心拍数増加 |
| M₃ | 平滑筋・外分泌腺・眼 | 平滑筋収縮・分泌亢進・瞳孔収縮 | 平滑筋弛緩・口渇・散瞳・眼圧上昇 |
胃腸鎮痙に主に関与するのはM₃受容体であり、ブチルスコポラミンはM₃選択性が比較的高いとされています。
ブチルスコポラミンとスコポラミンの薬理的差異:
- スコポラミン(三級アミン): 脂溶性→BBB通過→中枢性抗コリン効果(鎮静・乗物酔い治療に利用、後述ch3_30)
- ブチルスコポラミン(四級アンモニウム): 水溶性(正電荷を持つ)→BBB通過困難→末梢作用に限定→中枢副作用が少ない
この「四級アンモニウム化による末梢選択化」は医薬品設計の重要概念です。類似例:ネオスチグミン(末梢性コリンエステラーゼ阻害薬・BBB通過しにくい)。
パパベリンの詳細薬理とPDE阻害の機序:
パパベリン(ベンジルイソキノリン系アルカロイド)の作用機序:
1. 非選択的PDE阻害: cAMP・cGMPを分解するホスホジエステラーゼを阻害→cAMP・cGMP蓄積
2. cAMP上昇: 平滑筋のミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)活性低下→ミオシン脱リン酸化→平滑筋弛緩
3. Ca²⁺チャネル阻害(補助機序): 電位依存性Ca²⁺チャネルを部分的に遮断→細胞内Ca²⁺低下→平滑筋弛緩
非オピオイド系のため依存性がなく、コデイン含有の胃腸薬と異なり習慣性の懸念がありません。ただし緑内障への注意(弱い抗コリン様作用の可能性)は一部の資料で指摘されており、注意が必要です。
ロートエキスの生薬薬理と母乳移行の詳細:
ロートエキス(Scopolia extract)はナス科植物(ハシリドコロ等)の根・根茎から抽出されたアルカロイド混合物で、主要成分:
- ヒオスチアミン(L-アトロピン、ムスカリン受容体の高親和性リガンド)
- スコポラミン(鎮静・抗嘔吐作用あり)
- アポアトロピン・ベラドンナアルカロイド類
母乳移行の薬物動態:
- アトロピン・ヒオスチアミンはlogP(脂溶性指標)≒1〜2で適度な脂溶性→乳腺細胞を通過して母乳へ
- 授乳中に母親が服用するとアトロピンが母乳中に移行
- 乳児(体重3〜5kg・肝代謝能未発達)では中毒症状が成人より少量で発現
授乳中の抗コリン中毒症状(乳児):
- 頻脈(心拍数>180/分)
- 顔面紅潮・体温上昇(発汗抑制による体温調節障害)
- 口腔・咽頭乾燥・哺乳困難
- 散瞳・光過敏
- 尿閉・腸蠕動抑制
乳児は体表面積/体重比が大きく体温調節が未熟なため、発汗抑制による高体温が特に危険です。
【抗コリン薬の禁忌・注意一覧と登録販売者の実務対応】
| 禁忌/注意疾患 | 機序 | 対応 |
|---|---|---|
| 緑内障(特に閉塞隅角型) | 散瞳→前房隅角狭小化→眼圧急上昇 | 使用禁忌・即時眼科受診勧奨 |
| 前立腺肥大(排尿困難) | 膀胱排尿筋弛緩→尿閉 | 使用禁忌・医師相談を勧める |
| 重篤な心疾患 | M₂遮断→頻脈・不整脈悪化 | 医師相談 |
| 授乳中 | 母乳移行→乳児に抗コリン症状 | 使用を避ける・医師相談 |
| 高齢者 | 認知機能低下(中枢抗コリン効果)・尿閉リスク増大 | 慎重投与・短期間 |
登録販売者が抗コリン薬を購入しようとする顧客に確認すべき事項(チェックリスト):
1. 緑内障の診断を受けていないか
2. 前立腺の病気・排尿困難があるか
3. 授乳中でないか
4. 他に抗コリン薬(花粉症治療薬・風邪薬の抗ヒスタミン成分等)を服用していないか(抗コリン作用の重複)
5. 心臓の病気・不整脈がないか
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 正答エ(ロートエキスは母乳移行→授乳中は使用回避。「授乳中でも問題なく使用できる」は誤り)一意・妥当。手引き(令和8年4月版)でロートエキスは乳児の脈が速くなるおそれ等から授乳中は使用前に相談(事実上回避)と整合。パパベリン塩酸塩は手引きでも「眼圧が上昇するおそれ→緑内障の診断を受けた人は相談」とされ、standard表の「緑内障注意」表現は妥当(修正不要)。抗コリン成分の緑内障・前立腺肥大への禁忌/注意も手引きと整合。修正不要。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第6節「胃腸に作用する薬」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。