登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問53:主な医薬品とその作用(公衆衛生用薬・忌避剤)
殺虫剤・忌避剤の剤形・使用方法および衛生害虫に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アディート(N,N-ジエチル-m-トルアミド)は忌避剤の代表的成分であり、蚊・ブユ・ダニ・ノミ等の吸血昆虫が皮膚に近づくことを防ぐ(接触忌避・嗅覚忌避)作用があるが、生後6ヶ月未満の乳児への使用は禁忌とされている。
- イ燻蒸型(くんえん型)殺虫剤は薬剤を加熱・煙状に揮散させる剤形であり、密閉した室内に蚊・ゴキブリ等の害虫がいる場合に有効であるが、使用中は人・ペット・食器類は室外に出し、使用後は十分な換気を行う必要がある。
- ウ乳剤型殺虫剤は原液を水で希釈して散布する剤形であり、残留噴霧型として害虫が潜む場所の壁面・床等に散布することで、接触した害虫を長時間にわたって殺虫できる。
- エゴキブリの幼虫・成虫の駆除には燻蒸型殺虫剤が最も有効であり、1回の使用で卵の孵化後も継続して効果が持続するため、繰り返し使用する必要はない。正答
- オ蚊(カ)の幼虫(ボウフラ)は水中に生息するため、ボウフラ対策には幼虫発生源となる水(雨水・たまり水等)の除去・排水が基本であり、殺虫剤を用いる場合はボウフラに効果のある水面散布型製剤が使用される。
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正答はエです。
燻蒸型殺虫剤は成虫・幼虫には有効ですが、ゴキブリの「卵鞘(らんしょう)」に対しては効果が限定的です。ゴキブリの卵は卵鞘(固い殻)に守られており、燻蒸型殺虫剤の薬剤成分が浸透しにくい構造になっています。そのため卵が孵化して幼虫が出てきた後には再び殺虫処理(追加使用)が必要です。「1回の使用で卵の孵化後も継続して効果が持続する」という記述は誤りです。
ア(ディートの乳児禁忌)、イ(燻蒸型の注意事項・換気)、ウ(乳剤型の残留噴霧)、オ(ボウフラ対策・幼虫発生源除去)はすべて正しい内容です。
暗記ポイント: 「ゴキブリ卵鞘は燻蒸では死なない→孵化後に追加処理が必要」
殺虫剤・忌避剤の主な剤形と用途まとめ:
| 剤形 | 特徴 | 主な用途 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 燻蒸型(煙剤・加熱式) | 薬剤を煙・霧として室内全体に充満 | 蚊・ゴキブリ・ノミの成虫・幼虫の一斉駆除 | 使用中は人・ペット室外・換気必須 |
| 乳剤(希釈散布) | 原液を水希釈して残留噴霧 | 害虫の潜伏場所・侵入経路への処置 | 環境汚染・食品汚染に注意 |
| 粉剤 | 粉末を散布 | 床下・壁の隙間・土壌中の害虫 | 粉の吸入を避ける |
| エアゾール | 加圧スプレー | 直接害虫に噴霧・空間散布 | 直接目・口への噴霧禁止 |
| 毒餌(ベイト剤) | 殺虫成分を餌に混入 | ゴキブリ・アリの誘引殺虫 | ペット・子供が食べないよう設置場所に注意 |
| 水面散布型 | 水面に散布・溶出 | ボウフラ(蚊の幼虫)駆除 | 水生生物への影響注意 |
各選択肢の解説:
- ア(正): ディート(DEET: N,N-Diethyl-m-toluamide)は虫の嗅覚・接触センサーを妨害することで、昆虫が近づかないよう忌避する成分です。生後6ヶ月未満の乳児には禁忌(皮膚吸収・神経毒性リスク)で、12歳未満の小児への使用も制限(1日あたりの使用回数制限等)があります。顔への直接塗布・衣類への内側への使用も避けます。
- イ(正): 燻蒸型殺虫剤は有機リン・ピレスロイド系薬剤を煙・霧で室内に充満させる剤形です。使用中は必ず人・ペット(特に魚類・鳥類は感受性が高い)・食器類・食品を室外に出し、使用後30分〜2時間(製品によって異なる)の換気が必要です。
- ウ(正): 乳剤は有機溶媒・乳化剤に溶解した原液を水で希釈して使用します。害虫が潜む壁面・床下・排水溝周辺等に散布すると、薬剤が表面に残留して接触した害虫を殺虫します(残留噴霧)。
- エ(誤・正答): ゴキブリは卵を「卵鞘(oothecae)」という固い殻に包んで産卵します。卵鞘はタンパク質でできた頑丈な保護殻であり、燻蒸型殺虫剤の薬剤が浸透しにくい構造です。そのため燻蒸処理で成虫・幼虫が駆除された後でも、残存する卵鞘から幼虫が孵化してきます。「1回の使用で完全解決」は不可能で、孵化サイクル(約2〜4週間)に合わせた追加処理が推奨されます。
- オ(正): 蚊の生活環は「卵(水面)→ボウフラ(幼虫・水中)→サナギ(水中)→成虫(空中)」です。ボウフラ対策の根本は発生源(雨水桶・植木鉢の受け皿・側溝のたまり水等)の除去・排水です。水面散布型殺虫剤(テミホス等の有機リン系・モノスプライン等)は水中のボウフラに直接作用して駆除します。
【ディート(DEET)の忌避メカニズムの科学的解明】
ディートの忌避機序は長らく「匂いを嗅いだ虫が嫌がって逃げる」と単純に考えられていましたが、近年より詳細な分子機構が解明されています。
主な仮説・知見(研究段階):
1. 嗅覚受容体の直接阻害: 蚊はヒトの体臭(1-オクテン-3-オール・ジメチルスルフィド・乳酸等)を感知して吸血対象を探します。ディートは蚊の嗅覚受容体(特にOr(Odorant receptor)経路)を阻害して「ヒトの匂いが検出できない状態」にします。
2. 直接的な嫌悪反応: 蚊の第III神経節細胞(Ir(Ionotropic receptor)経路)がディートに直接反応し、「不快・危険」のシグナルを発生させて逃避行動を誘発。
3. 接触忌避: ディートが皮膚表面にある場合、蚊が着地した際の接触でも忌避反応が誘発される(嗅覚だけでなく接触でも効く)。
小児・乳児への使用制限の根拠:
- 乳幼児の皮膚は角質層が薄く体重あたりの皮膚面積が大きいため、経皮吸収量が相対的に多い
- ディートの神経毒性(高用量での中枢神経影響)は乳幼児で問題になりやすい
- 報告された副作用: 頻度は低いが、過剰使用・広範囲塗布での脳症(痙攣・意識障害)例が海外でいくつか報告されている
日本の使用基準(2016年厚労省通知):
- 6ヶ月未満: 使用禁忌
- 6ヶ月〜2歳未満: 1日1回まで
- 2〜12歳未満: 1日1〜3回まで(製品濃度に依存)
- 12歳以上: 回数制限なし(ただし顔・粘膜・傷口への使用は禁忌)
【ゴキブリの生態と効果的な防除戦略】
ゴキブリの種類と生態:
| 種 | 主な生息場所 | 体長 | 繁殖速度 |
|---|---|---|---|
| チャバネゴキブリ | 室内(飲食店・家庭の暖かい場所) | 10〜15mm | 早い(年数回・卵鞘内40〜50個) |
| クロゴキブリ | 屋外(下水溝)・屋内 | 30〜40mm | やや遅い(卵鞘内22〜28個) |
| ワモンゴキブリ | 下水溝・温暖地域 | 35〜40mm | 遅い |
卵鞘(oothecae)の特性と燻蒸限界:
- 卵鞘はキチン質+タンパク質の二重構造で非常に頑丈
- 燻蒸剤の有効成分(ピレスロイド等)は卵鞘に浸透不可
- 卵は15〜50日で孵化(温度依存性)
総合的なゴキブリ防除戦略(IPM: Integrated Pest Management):
1. 環境整備: 食べ物・生ゴミの密閉管理・水まわりの乾燥・侵入経路(排水管・壁の隙間)の封鎖
2. 燻蒸処理: 成虫・幼虫の一斉駆除(第1弾)
3. 卵鞘孵化後の追加処理: 2〜3週間後に再度燻蒸または毒餌(ベイト)で幼虫を駆除
4. 毒餌(ベイト剤)の継続配置: 燻蒸後の生き残り・再侵入個体への長期的対策
【衛生害虫の分類と伝播する疾患】
日本の登録販売者試験で頻出の衛生害虫と疾患:
| 衛生害虫 | 伝播・媒介する疾患 | 防除のポイント |
|---|---|---|
| 蚊(カ)| デング熱・日本脳炎・マラリア(外来)・ウエストナイル熱 | 幼虫発生源(たまり水)除去・成虫忌避(ディート) |
| ハエ | 赤痢・コレラ・チフス・食中毒菌の機械的伝播 | 食品の密閉・ゴミの適切管理 |
| ゴキブリ | 食中毒菌・腸炎ビブリオ・サルモネラの機械的伝播 | 侵入防止・燻蒸・ベイト |
| ノミ | ペスト(ネズミノミ)・猫ひっかき病・サナダムシ卵の伝播 | ペットの定期的ノミ駆除 |
| マダニ | ライム病・SFTS(重症熱性血小板減少症候群)・ツツガムシ病 | 草地での肌露出を避ける・ディート |
| シラミ | 発疹チフス(コロモジラミ)・頭ジラミ症 | 集団感染対策・専用シャンプー |
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)のポイント: 2013年に日本で初確認・マダニを介するウイルス感染症(フレボウイルス属)。致死率が10〜30%と高く、有効な治療薬・ワクチンがないため、「予防(マダニに刺されない)」が最重要です。
登録販売者がこれらの知識を持つことで、顧客に「単なる不快害虫」を超えた「公衆衛生上の重大リスク」として適切な対処法を案内できます。
【根拠】厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章第19節
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第19節「公衆衛生用薬(殺虫剤・忌避剤)」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。