第3章 主な医薬品とその作用52主な医薬品とその作用(公衆衛生用薬・殺虫剤)

登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問52:主な医薬品とその作用(公衆衛生用薬・殺虫剤)

殺虫剤の成分・分類・作用機序に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 有機リン系殺虫剤(ジクロルボス・フェニトロチオン等)はコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンを蓄積させ、昆虫の神経を過剰興奮状態にして殺虫するが、ヒトのコリンエステラーゼにも影響を与えるため、使用上の注意が必要である。正答
  • ピレスロイド系殺虫剤(ペルメトリン・フェノトリン等)は天然除虫菊の有効成分ピレトリンの人工合成誘導体であり、昆虫の電位依存性Naチャネルを持続的に開口させることで神経を過剰興奮させるが、哺乳類に対しては毒性がほとんどなく安全性が高い。
  • カーバメイト系殺虫剤(プロポキシュール等)は有機リン系と同じくコリンエステラーゼを阻害するが、有機リン系は「不可逆的(共有結合)」に阻害するのに対し、カーバメイト系は「可逆的(一時的)」に阻害するため、有機リン系より毒性が低い。
  • ピレスロイド系殺虫剤は光・熱に対して非常に安定であり、屋外での残留性が高く、散布後も長期間(数週間〜数ヶ月)の殺虫効果が持続する。
  • 有機リン系殺虫剤のヒトへの急性中毒症状として、縮瞳・流涎・嘔吐・発汗・気管支攣縮等のコリン作動性症状(SLUDGE症状)が出現し、重症例では横紋筋麻痺・呼吸筋麻痺が生じる。ただし有機リン中毒の解毒剤は存在しない。
正答:有機リン系殺虫剤(ジクロルボス・フェニトロチオン等)はコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンを蓄積させ、昆虫の神経を過剰興奮状態にして殺虫するが、ヒトのコリンエステラーゼにも影響を与えるため、使用上の注意が必要である。

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正答はアです。

有機リン系殺虫剤はコリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンを蓄積させ、昆虫の神経を過剰興奮状態にして殺虫します。同じ機序でヒトのコリンエステラーゼにも影響するため、使用時の安全対策(手袋・換気・直接吸入しない等)が必要です。

イは「哺乳類に対しては毒性がほとんどなく安全性が高い」と断定している点が誤りです。ピレスロイドは哺乳類の体内で比較的速やかに分解されるため毒性は生じにくいものの、「ほとんどない」とまでは言えず、大量曝露や猫(代謝が遅い)では中毒を起こします。ウは「カーバメイト系が可逆的・有機リン系が不可逆的」という機序の対比は概ね正しいものの、「有機リン系より毒性が低い」と一律に断定する点に瑕疵があり、確実に正しい選択肢とは言えません。エはピレスロイド系は「光・熱に不安定(分解されやすい)」であり、残留性が高いという記述が誤りです。オは「解毒剤が存在しない」が誤りで、有機リン中毒にはアトロピン(コリン作動性症状の拮抗)やPAM(プラリドキシム: コリンエステラーゼの再活性化)が解毒剤として使用されます。したがって明確に正しいのはアのみで、正答は一意に定まります。

標準試験対策の基準レベル

殺虫剤の主な分類と作用機序まとめ:

| 系統 | 代表成分 | 標的酵素/受容体 | 作用 | ヒトへの毒性 |

|---|---|---|---|---|

| 有機リン系 | ジクロルボス・フェニトロチオン・マラチオン | コリンエステラーゼ(不可逆的阻害) | ACh蓄積→神経過剰興奮→殺虫 | 中〜高(ヒトにも影響) |

| カーバメイト系 | プロポキシュール・カルバリル | コリンエステラーゼ(可逆的阻害) | ACh蓄積(有機リンより緩和) | 中(有機リンより低い) |

| ピレスロイド系 | ペルメトリン・フェノトリン・ビフェントリン | 電位依存性Naチャネル(持続開口) | Na⁺流入持続→神経持続興奮→殺虫 | 低い(哺乳類で代謝分解) |

| 有機塩素系 | DDT・BHC | Naチャネル・GABAチャネル | 神経過剰興奮 | 高い(環境残留性・使用禁止) |

各選択肢の解説:

  • ア(正): 有機リン系殺虫剤はコリンエステラーゼ(アセチルコリンを分解する酵素)にリン酸化という共有結合で結合して不活性化(不可逆的阻害)します。アセチルコリン(ACh)が蓄積→神経接合部の持続興奮→痙攣・麻痺→昆虫死亡。ヒトの神経系も同じコリンエステラーゼを持つため、皮膚吸収・吸入で中毒を起こします。
  • イ(ほぼ正だが弱点あり): ピレスロイドは哺乳類の体内で速やかにエステラーゼにより加水分解・代謝されるため、低毒性です。ただし「ほとんど毒性がない」は言い過ぎで、猫科動物(イエネコ等)はピレスロイドの代謝が遅く毒性が高く出ます。ペットの猫に使用する際の注意が必要です。
  • ウ(一部正・一部説明不足): カーバメイト系が「可逆的」に阻害するという記述は概ね正確です。自然加水分解でコリンエステラーゼが再活性化するためPAM(プラリドキシム)解毒剤は無効で、アトロピンのみを使用します(有機リンと治療が一部異なる点)。
  • エ(誤): ピレスロイド系殺虫剤は光・紫外線・熱に対して分解されやすく(不安定)、残留性は低い(環境負荷が少ない)特性があります。これが環境に優しい殺虫剤として普及している理由の一つです。「残留性が高く数週間〜数ヶ月効果持続」という記述は誤りです。
  • オ(一部誤): 有機リン中毒の症状の記述(SLUDGE症状)は正確です。ただし「解毒剤が存在しない」は誤りで、アトロピン(ムスカリン受容体の競合阻害→コリン作動性症状を拮抗)とPAM(プラリドキシム・2-PAM)(コリンエステラーゼのリン酸化を解除→再活性化)が解毒剤として存在します。
上級誤答論破・根拠(手引き)まで深掘り

【有機リン系殺虫剤の作用機序と中毒管理の詳細】

有機リン(Organophosphates)によるコリンエステラーゼ阻害のメカニズム:

```

正常:

アセチルコリン(ACh)→ コリンエステラーゼ → コリン + 酢酸(不活性化)

有機リン中毒:

有機リン化合物(R₂P(O)X)

→ コリンエステラーゼの活性部位セリン残基のOH基と共有結合(リン酸化)

→ コリンエステラーゼ不活性化(不可逆的)

→ ACh蓄積 → 受容体の持続刺激

```

ムスカリン受容体(副交感神経支配臓器)への過剰刺激症状(SLUDGE症状):

  • Salivation(唾液分泌増加)
  • Lacrimation(流涙)
  • Urination(頻尿・尿失禁)
  • Defecation(下痢・便意亢進)
  • GI cramps(腹部痙攣)
  • Emesis(嘔吐)

加えて: 縮瞳(瞳孔収縮)・気管支攣縮・徐脈・血圧低下

ニコチン受容体(神経筋接合部・交感神経節)への過剰刺激症状:

  • 骨格筋の線維束攣縮→脱力→麻痺(呼吸筋麻痺が致死的)
  • 交感神経亢進(頻脈・高血圧の場合もある)

解毒治療:

1. アトロピン(Atropine): ムスカリン受容体の競合的拮抗薬。SLUDGE症状・気管支攣縮を拮抗。縮瞳→散瞳でアトロピン効果を判定。大量・繰り返し投与が必要な場合がある。

2. PAM(2-PAM・プラリドキシム): コリンエステラーゼのリン酸基を除去(脱リン酸化)して酵素を再活性化。時間が経つと「エージング(aging)」と呼ばれる安定化が起きてPAMが無効になるため、中毒後できるだけ早期(理想は数時間以内)の投与が必要。

3. カーバメイト中毒にはPAMは無効(カーバメイトは可逆的阻害で自然回復)。アトロピンのみ使用。

【ピレスロイド系の分子標的と哺乳類における代謝の差】

ピレスロイド(Pyrethroids)は天然除虫菊成分(ピレトリン)の安定化・効力増強した合成誘導体です。

電位依存性Naチャネルへの作用機序:

```

通常の神経伝達:

Naチャネル開口(活動電位発生)→ 不活性化(数ms)→ 閉口(再分極)

ピレスロイド存在下:

ピレスロイド → Naチャネルの不活性化ゲートに結合

→ チャネルが開口したまま維持される(数10ms〜数100ms)

→ Na⁺が持続的に流入 → 膜電位が持続的に脱分極 → 神経の連続放電・最終的に伝達不能

→ 昆虫の麻痺・死亡(KO効果:knock-down effect)

```

哺乳類(ヒト・犬等)での低毒性の理由:

1. 体温: 哺乳類は恒温(37℃)のため、ピレスロイドのNaチャネル結合が昆虫(変温・より低い体温)より弱い

2. 代謝: 哺乳類はエステラーゼ・モノオキシゲナーゼ(CYP3A4等)によりピレスロイドを速やかに加水分解・代謝

3. 神経系の差異: 哺乳類のNaチャネルは昆虫のそれよりもピレスロイドへの感受性がやや低い

猫科動物の感受性が高い理由:

ネコ・ライオン等の猫科動物はUGT1A(UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ)の活性が低く、ピレスロイドの抱合・排泄が遅延します。そのため一般的なペット用ノミ駆除製品(犬用ピレスロイド含有製剤)をネコに使用すると重篤な中毒(振戦・痙攣・死亡)が生じることがあります。これは登録販売者がペット用殺虫剤を販売する際に必ず確認すべき重要事項です。

【殺虫剤の環境残留性と安全規制の歴史】

| 系統 | 環境残留性 | 現在の規制状況 |

|---|---|---|

| 有機塩素系(DDT・BHC等) | 非常に高い(脂溶性・生物蓄積) | 日本・世界的に農薬・殺虫剤としての使用禁止 |

| 有機リン系 | 中程度(加水分解で分解) | 農薬・家庭用殺虫剤として使用継続(注意要) |

| カーバメイト系 | 中程度 | 一部は農薬・家庭用殺虫剤として使用継続 |

| ピレスロイド系 | 低い(光・熱で分解・生物蓄積なし) | 家庭用殺虫剤・ペット用製品として最も広く使用 |

DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の禁止(日本では1971年)はレイチェル・カーソンの「沈黙の春(1962)」が啓発した環境汚染問題が契機です。DDTは土壌・水中で分解されず(残留性)、食物連鎖で高次捕食動物(鷹・ワシ)に高濃度蓄積→卵の殻が薄くなる繁殖障害が生じました。

このような殺虫剤の歴史は、「化学物質の有効性と安全性のトレードオフ」を象徴する事例として、公衆衛生の観点から登録販売者も理解しておくべき背景知識です。

【根拠】厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章第19節

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第19節「公衆衛生用薬(殺虫剤・忌避剤)」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。

関連論点

公衆衛生用薬・殺虫剤=有機リン/ピレスロイド/カーバメイトと作用機序頻出度A

第3章 主な医薬品とその作用の他の問題

1
主な医薬品とその作用(かぜ薬・解熱鎮痛薬)
2
主な医薬品とその作用(アレルギー薬・抗ヒスタミン薬)
3
主な医薬品とその作用(漢方処方・生薬)
4
主な医薬品とその作用(かぜ薬)
5
主な医薬品とその作用(鎮咳去痰薬)
6
主な医薬品とその作用(胃腸薬・制酸薬)

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