登録販売者 第3章 主な医薬品とその作用 問73:主な医薬品とその作用(生薬製剤・鎮咳去痰薬)
鎮咳去痰を目的とした生薬の基原と作用に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アキョウニン(杏仁)はバラ科植物ホンアンズ等の種子(核仁)を基原とし、アミグダリンが腸内細菌等によって分解されて微量の青酸(シアン化水素)が生じ、この作用が鎮咳・去痰に関わる。正答
- イナンテンジツ(南天実)はモクレン科植物ナンテンの果実を基原とし、アルカロイド成分が鎮咳作用を示す。
- ウセキサン(石蒜)はユリ科植物ヒガンバナ等の鱗茎を基原とし、主成分ガランタミンが去痰・鎮咳作用を示す。
- エオウヒ(桜皮)はバラ科植物ヤマザクラ等の樹皮を基原とし、強力な鎮咳作用によりコデインリン酸塩と同等の効果が期待できる。
- オキョウニン(杏仁)は過剰摂取しても安全であり、食用のアーモンドと全く同じ成分であるため、量を気にせず服用できる。
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正答はアです。
「キョウニン(杏仁)はバラ科植物ホンアンズ等の種子を基原とし、アミグダリンの分解で生じる微量の青酸(HCN)が鎮咳・去痰作用に関わる」という記述は正しいです。
主な誤りを確認しましょう。イのナンテンジツはモクレン科ではなくメギ科(ナンテン科)のナンテンの果実が基原です。ウのセキサンはユリ科ではなくヒガンバナ科(旧ユリ科)のヒガンバナ等の鱗茎が基原です。エのオウヒはコデインと同等ではなく、穏やかな鎮咳作用です。
暗記ポイント: 「キョウニン→バラ科・種子・アミグダリン・青酸(微量・鎮咳)」。
鎮咳去痰生薬の基原・成分・作用まとめ:
| 生薬名 | 基原植物(科名) | 薬用部位 | 主な有効成分 | 主作用 |
|---|---|---|---|---|
| キョウニン(杏仁) | バラ科ホンアンズ(Prunus armeniaca)等 | 種子(核仁) | アミグダリン(苦味配糖体) | 鎮咳・去痰(微量青酸産生を介した呼吸中枢抑制) |
| ナンテンジツ(南天実) | メギ科ナンテン(Nandina domestica) | 果実 | ナンジニン・ドメスチン等(アルカロイド) | 鎮咳 |
| セキサン(石蒜) | ヒガンバナ科(旧ユリ科)ヒガンバナ(Lycoris radiata)等 | 鱗茎 | リコリン・セキサニン等 | 去痰(嘔吐反射を介した気道分泌促進) |
| オウヒ(桜皮) | バラ科ヤマザクラ(Prunus jamasakura)等 | 樹皮 | プルナシン(アミグダリン類似)・タンニン等 | 鎮咳・去痰(穏やか) |
各選択肢の解説:
- ア(正・正答): キョウニン(杏仁)はバラ科植物ホンアンズ(Prunus armeniaca var. ansu)等の種子(核仁)が基原です。アミグダリン(amygdalin)は腸内細菌・体内酵素によって加水分解され、微量の青酸(HCN:シアン化水素)とベンズアルデヒドを生じます。この微量青酸が呼吸中枢を穏やかに抑制することで鎮咳・去痰効果を示します。
- イ(誤): ナンテンジツ(南天実)の基原はモクレン科ではなくメギ科植物ナンテン(Nandina domestica Thunb.)の果実です。ドメスチン・ナンジニン等のイソキノリンアルカロイドが鎮咳作用を示します。
- ウ(誤): セキサン(石蒜)の基原はユリ科ではなくヒガンバナ科(APG 分類体系では旧ユリ科から独立した科)のヒガンバナ(Lycoris radiata)等の鱗茎です。主成分リコリン(lycorine)が嘔吐反射を誘発することで気道分泌を促進する去痰作用を示します。ガランタミンはヒガンバナ科植物由来のコリンエステラーゼ阻害薬で、アルツハイマー病治療薬として開発されたものです(セキサンの去痰成分とは別)。
- エ(誤): オウヒ(桜皮)はバラ科ヤマザクラ等の樹皮が基原で、プルナシン(アミグダリン類似成分)・タンニン等を含み、穏やかな鎮咳・去痰作用を示します。コデインリン酸塩は麻薬性鎮咳成分で中枢抑制作用が強く、オウヒとは「作用機序も強度も全く異なります」。
- オ(誤): キョウニンのアミグダリンは加水分解で青酸(シアン化水素)を生じます。大量摂取では青酸中毒(頭痛・眩暈・嘔吐・呼吸抑制)のリスクがあります。食用アーモンドは「スイートアーモンド(Prunus dulcis var. dulcis)」でアミグダリン含量が極めて少なく、キョウニンの原料「ビターアーモンド(苦味種)」とは異なります。
【アミグダリンと青酸配糖体の安全性と毒性】
アミグダリン(amygdalin、D-amygdalin)はシアン含有配糖体の一種で、バラ科植物(アンズ・モモ・ウメ・リンゴ・サクラ等)の種子に広く含まれます。
加水分解の化学反応:
アミグダリン → (β-グルコシダーゼ・腸内細菌)→ ゲンチオビオース + マンデロニトリル → HCN(青酸) + ベンズアルデヒド
微量青酸の鎮咳機序:
- 呼吸中枢(延髄の咳反射弓)への軽度抑制
- 気道粘膜受容体(咳受容体:TRPV1・TRPA1)の脱感作
- 気道分泌腺への刺激(去痰)
青酸中毒の閾値と安全域(参考):
- 成人致死量: 1〜3mg/kg(HCN として約 60〜200mg)
- 一般用医薬品に配合されるキョウニンエキスの HCN 生成量はこの 1/100 以下(安全域内)
- ただし、生の苦味アーモンド(ビター種)を大量に食べることは危険
【セキサン(石蒜)のリコリンと去痰機序の詳細】
セキサン(石蒜)はヒガンバナ(Lycoris radiata)の鱗茎で、外観は彼岸花(赤い花)で知られる植物です。鱗茎には猛毒のリコリン(lycorine)を含み、古来から「田畑のモグラ・ネズミ除け」に利用されてきました(食べると下痢・嘔吐)。
医薬品への応用における利点と安全管理:
1. 用量依存性: 少量(鎮咳去痰薬配合量)では嘔吐反射を介した去痰(催吐性去痰作用)として機能
2. 大量では嘔吐誘発: 嘔吐誘発(emetic)作用が強いため配合量は厳格に管理
3. 抽出・精製品のみ使用: 生の鱗茎は毒性が高く、精製エキスのみが医薬品に配合
催吐性去痰の機序:
- リコリン → 胃粘膜刺激 → 嘔吐反射(迷走神経→延髄の嘔吐中枢)を亜閾値で刺激
- 嘔吐中枢近傍の「気道分泌反射中枢」が同時に活性化
- 気道分泌腺からの粘液分泌増加 → 痰の希釈・排出促進
【ガランタミンとヒガンバナ科植物の医薬品開発の歴史】
ガランタミン(galantamine)はヒガンバナ科植物(スノードロップ・ヒガンバナ)から1950年代にソ連の化学者が単離したアルカロイドで、1990年代に可逆的アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(コリンエステラーゼ阻害薬・ACHE 阻害薬)として再評価されました。
現在の使用:
- 医療用医薬品(処方箋薬): 軽度〜中等度アルツハイマー病の認知機能改善(レミニール®等)
- 作用機序: AChE 阻害によるシナプス間隙のアセチルコリン濃度増加 + ニコチン性 ACh 受容体へのアロステリック増強
- 一般用医薬品(登録販売者の扱う製品)には含まれない
セキサンのリコリン(去痰)とガランタミン(認知症薬)はいずれもヒガンバナ科植物由来ですが、全く別の成分・用途です。混同しないことが重要です。
【バラ科生薬の多様な用途と科全体の特性】
バラ科(Rosaceae)はキョウニン・オウヒの他に、サンザシ(果実・健胃)・トウニン(桃仁・活血)・モモの葉(ビワ葉と同様の皮膚用途)等を含む、医薬品に重要な植物の科です。
バラ科に多いシアン含有配糖体:
| 植物 | 含有部位 | 化合物 | 含量(目安) |
|---|---|---|---|
| アンズ(ホンアンズ) | 種子(核仁) | アミグダリン | 高い(キョウニンの原料) |
| ヤマザクラ | 樹皮 | プルナシン | 中程度(オウヒの原料) |
| ウメ | 種子 | アミグダリン | 高い(梅酒・梅干しの核は避ける) |
| スイートアーモンド | 種子 | アミグダリン | 極めて少ない(食用) |
登録販売者として「バラ科植物の種子には青酸配糖体が含まれる場合があるため、大量摂取・特に未熟な種子の摂取は避ける」という食品安全面の知識も、購入者への適切な情報提供に役立ちます。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 基原を一次ソースで突合。キョウニン=バラ科ホンアンズ(Prunus armeniaca)等の種子(アミグダリン→延髄の呼吸中枢・咳嗽中枢の鎮静)、ナンテンジツ=メギ科ナンテンの果実、セキサン=ヒガンバナ科ヒガンバナの鱗茎、オウヒ=バラ科ヤマザクラ等の樹皮、で確定(手引き準拠)。正答ア(キョウニンの基原・アミグダリン分解で生じる微量青酸の鎮咳機序)は妥当で、選択肢イ(モクレン科は誤り、正=メギ科)・ウ(ユリ科は誤り、正=ヒガンバナ科。ガランタミンは去痰成分ではない)・エ(オウヒはコデインと同等ではない)・オ(食用アーモンドと同一・量を気にせず服用は誤り)はいずれも誤りで、正答アが一意であることを確認。正答変更なし。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第3章 第3節「鎮咳去痰薬」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。