登録販売者 第5章 医薬品の適正使用・安全対策 問12:医薬品の適正使用・安全対策(添付文書の「相談すること」)
一般用医薬品の添付文書における妊婦・授乳婦・高齢者・小児への注意記載に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア一般用医薬品の添付文書に「妊娠中の人は医師・薬剤師に相談すること」と記載される理由は、妊婦が薬を服用すると必ず胎児に奇形が生じるためであり、妊娠中は全ての一般用医薬品を使用禁止とする趣旨である。
- イ添付文書の「相談すること」の項に「高齢者」への記載がある場合、これは65歳以上の者が当該医薬品を絶対に使用してはならないことを意味する。
- ウ一般用医薬品において小児の使用制限(「15歳未満の小児は使用しないこと」等)が設けられるのは、小児は成人より体重が軽いため用量が過剰になりやすいという理由のみによる。
- エ添付文書における「妊娠または妊娠していると思われる人」への注意記載は、薬の成分が胎盤を通じて胎児に移行するリスクや、胎児・妊娠への影響が十分に評価されていないことへの予防的対応として設けられる。正答
- オ授乳婦への「相談すること」記載は、いかなる一般用医薬品においても一律に記載されており、成分の違いによる記載の有無の差はない。
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正答はエです。
妊婦への注意記載は、薬の成分が胎盤を通過して胎児に移行するリスクや、妊娠・胎児への影響が十分に評価されていない場合の予防的対応として設けられます。「必ず奇形が生じる」でも「全OTC使用禁止」でもありません(ア誤り)。
イは誤りで、「高齢者」への相談指示は絶対的な使用禁止ではなく、高齢者に多い基礎疾患・薬物代謝能の低下・ポリファーマシー等を考慮して医師・薬剤師への相談を促す記載です。ウは誤りで、小児の使用制限には体重以外にも肝臓・腎臓等の発達段階・成人とは異なる薬物動態・特定成分(コデイン等)の影響が含まれます。オは誤りで、授乳婦への相談記載は成分の母乳移行性等により有無が異なります。
妊婦・授乳婦・高齢者・小児への注意記載の比較:
| 対象 | 記載の性格 | 主な理由 |
|---|---|---|
| 妊婦・妊娠の可能性のある人 | 「相談すること」(原則)または「してはいけないこと」(一部重篤リスク成分) | 胎盤通過による胎児移行・催奇形性・妊娠経過への影響・安全性データ不足 |
| 授乳婦 | 「相談すること」または「してはいけないこと(服用中は授乳を避けること)」 | 母乳中への薬物移行・乳幼児への影響(昏睡・頻脈等) |
| 高齢者 | 「相談すること」 | 腎・肝機能低下による薬物代謝・排泄の遅延、複数疾患・複数薬剤使用、有害反応の出現しやすさ |
| 小児(年齢区分あり) | 「してはいけないこと」(〜歳未満は使用しないこと)または「相談すること」 | 体重・体格、臓器の発達段階、成人と異なる薬物動態、特定成分の有害反応リスク |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 妊婦への相談記載は予防的注意であり、「必ず奇形が生じる」という確定的表現は誤りです。また「全OTC使用禁止」という趣旨でもありません。成分・用量・妊娠週数によりリスクが大きく異なります。
- イ(誤): 「相談すること」は絶対使用禁止ではなく、医師・薬剤師への相談推奨です。高齢者は薬物動態の個人差が大きく一律禁止は不適切で、相談上で適切な使用方法・用量を確認することを求めます。
- ウ(誤): 小児への使用制限の理由は体重だけでなく、肝臓(グルクロン酸抱合等の代謝酵素の未成熟)・腎臓(糸球体濾過率)の発達段階、血液脳関門の透過性、コデイン等特定成分での呼吸抑制リスク等、多面的な理由があります。
- エ(正): 胎盤を通じた胎児移行リスクと安全性データ不足という2つの理由が正確に述べられています。これが妊婦への相談記載の根本的な理由です。
- オ(誤): 授乳婦への記載は成分ごとに異なります。母乳への移行性が低い成分には記載されない場合もあります。
【妊婦・授乳婦・高齢者・小児への注意記載の背景にある薬理学・倫理・法制度】
1. 妊婦への記載の背景:サリドマイド事件と予防原則
1950年代後半から1960年代にかけてのサリドマイド事件(睡眠薬サリドマイドの服用による四肢短縮症等の先天性奇形)は、妊婦への薬物投与リスクを世界に知らしめました。この反省から「妊婦・妊娠の可能性のある人への薬物使用は原則として慎重に」という予防原則が確立されました。
現在の添付文書における妊婦への記載は:
- 「してはいけないこと」(絶対禁忌レベル): アスピリン等のNSAIDs(特に妊娠後期・子宮収縮抑制作用・動脈管早期閉鎖リスク)、イブプロフェン等
- 「相談すること」(予防的注意): 安全性が完全には確立されていないが禁忌ではない成分
OTC薬の安全性評価において、倫理的理由から妊婦を対象とした臨床試験は実施困難なため、動物実験・市販後の自発報告等による限られたデータをもとに判断されます。これが「安全性が確立されていない」という表現の意味です。
2. 授乳婦への記載:母乳中への薬物移行の科学
薬物の母乳への移行は、脂溶性・分子量・タンパク結合率・イオン化度等の物理化学的特性により異なります。
- ジフェンヒドラミン塩酸塩: 脂溶性が高く中枢移行性も高い→母乳中に移行し乳児に昏睡を生じるリスク→「服用中は授乳を避けること」(してはいけないこと)
- ロートエキス(アルカロイド): 母乳中に移行し乳児の脈が速くなる(頻脈)おそれがあるため、「してはいけないこと」に「授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること」と記載される<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): ロートエキスは「してはいけないこと」(授乳中は服用しない/服用時は授乳を避ける)に該当し、乳児の頻脈が理由であることを手引き別表で確認。 -->
- 移行性が低い成分: 「授乳中は医師・薬剤師に相談すること」という記載(一般的注意として)はあっても「してはいけないこと」には至らない
3. 高齢者への記載:ポリファーマシーと薬物動態の変化
高齢者(概ね65歳以上)では複数の変化が起きています:
- 腎機能低下: クレアチニンクリアランスの低下→腎排泄型薬物の蓄積→過剰効果・副作用
- 肝機能低下: 薬物代謝(CYP酵素活性)の低下→半減期延長
- 体脂肪率増加・体水分量減少: 脂溶性薬物の分布容積増大、水溶性薬物の血中濃度上昇
- タンパク結合率変化: 低アルブミン血症→遊離型薬物濃度上昇
- ポリファーマシー: 多剤併用による薬物相互作用リスク
これらの理由から「相談すること」記載は「医師が処方している薬との相互作用・用量調整」を医療専門家と確認するよう促す意義があります。
4. 小児への記載:年齢区分の意味
小児の年齢区分別の使用制限:
- 新生児・乳児: 多くのOTC薬で使用禁止。血液脳関門の未成熟・薬物代謝酵素の未発達
- 15歳未満: コデインリン酸塩水和物(呼吸抑制リスク・欧米では12歳未満に拡大)、アスピリン等(Reye症候群)
- 7歳未満・5歳未満: 剤形・用量設定上の問題
コデインの12歳(15歳)未満禁止は、超高速代謝型(CYP2D6ウルトララピッドメタボライザー)の小児でモルヒネへの変換が急速に起こり致死的呼吸抑制を生じた事例を受けた規制強化です。
5. 登録販売者の実務的意義
妊婦・授乳婦・高齢者・小児を持つ顧客への対応は登録販売者の最重要スキルの一つです。「相談すること」記載があることを確認し、顧客の状況を把握した上で適切に医師・薬剤師への相談を勧めることが、健康被害防止の最前線となります。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第5章 第1節「添付文書等への記載事項」(使用上の注意「相談すること」の妊婦・授乳婦・高齢者・小児関連) 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。