労働衛生(有害業務)11第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問11:職業性疾病

鉛(Pb)による健康障害に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 鉛は主として呼吸器(鉛ヒュームや鉛粉じんの吸入)および消化器(汚染した手から経口で摂取)の経路で体内に吸収され、一度体内に取り込まれた鉛は骨・歯に蓄積して長期間滞留する。
  • 鉛中毒の血液への影響として、鉛がヘム合成酵素(デルタアミノレブリン酸脱水酵素等)を阻害することによりへム合成が障害され、小球性低色素性貧血を引き起こす。また赤血球に好塩基性点彩が出現する。
  • 鉛中毒の消化器症状として、腹部の激しい疝痛(鉛コリック)・便秘・嘔吐・食欲不振が起こる。また歯肉に灰青色の「鉛縁(Burton's line)」が形成されることが特徴的な所見である。
  • 鉛中毒では末梢神経障害として手首下垂(橈骨神経麻痺様の垂れ手)や足下垂が起こるが、中枢神経系への影響は全くなく、鉛脳症(encephalopathy)は成人では発症しないとされている。正答
  • 鉛曝露の生物学的モニタリング指標として、血中鉛濃度・尿中デルタアミノレブリン酸(ALA)・尿中コプロポルフィリン等が用いられる。
正答:鉛中毒では末梢神経障害として手首下垂(橈骨神経麻痺様の垂れ手)や足下垂が起こるが、中枢神経系への影響は全くなく、鉛脳症(encephalopathy)は成人では発症しないとされている。

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誤りはエです。鉛中毒では末梢神経障害(手首下垂・足下垂)だけでなく、中枢神経系への影響(鉛脳症)も生じます。特に小児では著明ですが、高濃度曝露を受けた成人でも頭痛・記憶障害・性格変化・けいれん・意識障害等の鉛脳症が発症する可能性があります。「中枢神経への影響は全くない」「成人では鉛脳症は発症しない」はいずれも誤りです。

ア(吸収経路と骨への蓄積)・イ(ヘム合成障害による貧血・好塩基性点彩)・ウ(鉛コリック・鉛縁)・オ(生物学的モニタリング指標)はすべて正しい内容です。

標準試験対策の基準レベル

鉛中毒の主な症状と臓器別影響の整理:

| 臓器・系統 | 主な症状・所見 |

|---|---|

| 血液系 | ヘム合成障害による貧血(小球性低色素性)・好塩基性点彩赤血球 |

| 神経系(末梢) | 手首下垂(橈骨神経領域)・足下垂(腓骨神経領域)・多発性神経炎 |

| 神経系(中枢) | 頭痛・記憶力低下・性格変化・鉛脳症(高濃度曝露時) |

| 消化器系 | 鉛コリック(腹部疝痛)・便秘・嘔吐・食欲不振・歯肉の鉛縁 |

| 腎臓 | 近位尿細管障害・慢性間質性腎炎・高血圧 |

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 鉛の吸入(ヒューム・粉じん)と経口(手の汚染)が主な曝露経路。体内に取り込まれた鉛の約95%は骨・歯(リン酸カルシウムと置換)に蓄積し、長期間の内部曝露源となる。
  • イ(正): 鉛はδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)等のヘム合成酵素を阻害→ポルフィリン代謝異常→小球性低色素性貧血。好塩基性点彩(RNA残留によるもの)は鉛中毒の特徴的な血液所見。
  • ウ(正): 腹部疝痛(鉛コリック)・鉛縁(Burton's line)は鉛中毒の古典的・特徴的な所見として試験に頻出。鉛縁は歯肉・歯肉縁への鉛硫化物の沈着による灰青色線。
  • エ(誤): 中枢神経への影響がないとする記述が誤り。高濃度曝露時には鉛脳症(encephalopathy)が成人でも発症する。小児では特に中枢神経感受性が高いが、成人でも重症例では発症しうる。
  • オ(正): 血中鉛・尿中ALA・尿中コプロポルフィリンは鉛曝露の確立した生物学的モニタリング指標。血中鉛が最も直接的な指標として重視される。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

鉛は人類が最も古くから利用してきた重金属の一つであり、ローマ時代の鉛製水道管・食器からの慢性曝露が歴史的な健康問題として指摘されています。産業革命以降は鉛蓄電池製造・鉛白(塗料)・はんだ・弾薬製造等での職業曝露が問題となりました。日本では1970年代以降、有鉛ガソリン・鉛白塗料の廃止・作業環境規制の強化で職業曝露は大幅に減少しましたが、蓄電池製造・はんだ付け・鉛再生処理等の業種では依然として注意が必要です。

鉛の体内動態と毒性の特徴:

  • 吸入経路(主要): 鉛ヒューム(溶融・溶接・はんだ作業)・鉛粉じん(研磨・切断等)が肺から吸収(吸入量の30〜50%が血液に移行)
  • 経口経路: 汚染した手で食事・喫煙→消化管から吸収(吸収率は成人10〜15%・小児が高い)
  • 体内分布: 血液(無機鉛の90%が赤血球に結合)→骨・歯(95%が蓄積・半減期10〜30年)→軟組織(肝臓・腎臓・脳)
  • 生物学的半減期: 血液中鉛は30〜40日・骨鉛は数年〜数十年(曝露終了後も長期に放出が続く)

【実務・条文構造】

鉛中毒の毒性メカニズム(詳細):

血液系毒性:

  • 鉛がδ-ALAD(ポルフィリン合成の初期酵素)とヘム合成酵素(フェロキラターゼ等)を阻害
  • δ-アミノレブリン酸(ALA)の尿中増加・コプロポルフィリン尿症(モニタリング指標の根拠)
  • 最終的にヘモグロビン合成量が低下→貧血
  • 好塩基性点彩: リボソームRNAの分解が遅延し赤血球にRNA顆粒が残存するため

末梢神経毒性:

  • 軸索変性による脱髄(主に運動神経線維が障害されやすい)
  • 上肢の橈骨神経支配域の筋(手首の伸筋)が早期に障害→手首下垂(wrist drop)
  • 下肢では腓骨神経支配域(足の背屈筋)が障害→足下垂(foot drop)
  • 感覚神経より運動神経が優先して障害される点が特徴

中枢神経毒性(鉛脳症):

  • 小児(特に乳幼児): 脳の血液脳関門が未成熟で鉛が侵入しやすい→重篤な発達障害・知能低下・けいれん
  • 成人: 高濃度曝露では頭痛・易疲労・記憶力低下・性格変化が先行し、重症例では脳症(意識障害・けいれん)が発症
  • 「成人では絶対に発症しない」は医学的に誤り

腎毒性:

  • 近位尿細管障害(Fanconi症候群様:糖尿・アミノ酸尿・リン酸尿・尿酸再吸収低下→痛風)
  • 慢性曝露では進行性の間質性腎炎・腎機能低下
  • 高血圧との関連(鉛が血管壁に作用・レニン-アンジオテンシン系への影響)

生物学的モニタリングの活用:

  • 血中鉛: 最も直接的・現在の曝露量を反映
  • 尿中ALA(δ-アミノレブリン酸): ヘム合成阻害の程度を反映
  • 尿中コプロポルフィリン: ALA代謝異常を反映
  • 血中亜鉛プロトポルフィリン(ZPP): 鉄欠乏貧血との鑑別にも使用

【試験での位置づけ】

鉛中毒問題の最頻出は「鉛コリック(腹部疝痛)と鉛縁(Burton's line)という特徴的な所見」「手首下垂・足下垂(末梢神経障害)」「ヘム合成障害による貧血・好塩基性点彩」「中枢神経系への影響もある(鉛脳症)」「生物学的モニタリング指標(血中鉛・尿中ALA・コプロポルフィリン)」の5点です。エのような「中枢神経への影響が全くない」という否定文は典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 鉛蓄積が骨で長期に続くという特性は、鉛中毒管理の長期性を意味します。骨折・妊娠・閉経後の骨粗しょう症等で骨から鉛が再放出されると、曝露終了後長年経ってから血中鉛が再上昇することがあります(「モバイルプール」としての骨鉛の意義)。
  • イ: 好塩基性点彩の臨床的意義は、鉛中毒の存在を示唆する末梢血液検査の所見として有用です。ただし鉛中毒以外(溶血性貧血・骨髄異形成症候群等)でも見られる場合があるため、鉛特異的な所見とまでは言えません。血中鉛測定と組み合わせて診断します。
  • ウ: 鉛縁(Burton's line)は、口腔内の細菌による硫化水素と鉛が反応して鉛硫化物(PbS)が沈着したものです。現代の職場では口腔衛生が改善され観察されにくくなっていますが、鉛中毒の古典的診断所見として試験で引き続き重要です。
  • エ: 小児の鉛中毒(特に塗料・土壌からの経口摂取)は知能指数の低下・注意欠如・学習障害等の神経発達障害の原因として世界的に重要な公衆衛生問題です。職業曝露以外の経路(環境曝露・古い建物の塗料)でも起こる点が成人の職業性鉛中毒と異なります。
  • オ: 血中鉛管理基準値(日本): 職域での血中鉛の管理目標値(作業環境管理や健康管理の判断基準として設定)。定期的な血中鉛測定が鉛業務従事者の健康管理の根幹となります。尿中ALAは感度が高く、軽度の鉛曝露でも増加し早期の曝露モニタリングに適しています。

【根拠】医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。鉛の体内動態・症状(鉛コリック・Burton's line・手首下垂・鉛脳症)・生物学的モニタリング指標は職業医学の確立した知識。

【補足】鉛中毒では中枢神経系への影響(鉛脳症)も生じる(「影響なし」は誤り)。鉛縁(Burton's line)・鉛コリック・手首下垂・好塩基性点彩が4大特徴的所見。生物学的モニタリング=血中鉛・尿中ALA・コプロポルフィリン。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。鉛中毒の症状・機序・生物学的モニタリングは職業医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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