衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問13:職業性疾病
一酸化炭素(CO)中毒に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア一酸化炭素はヘモグロビンとの親和性が酸素の200倍以上あるため、低濃度のCOが存在する環境でも優先的にヘモグロビンと結合し、酸素の運搬を妨げる。
- イCO中毒ではカルボキシヘモグロビン(COHb)が増加し、組織への酸素供給が低下するが、COHbは赤色を呈するため、皮膚や口唇は青紫色(チアノーゼ)ではなく、桜紅色(鮮紅色)を示す傾向がある。
- ウCO中毒の症状は血中COHb濃度に概ね対応しており、軽症(COHb 10〜20%)では頭痛・倦怠感、中等症(20〜40%)ではめまい・嘔吐、重症(40〜60%以上)では意識障害・けいれん・死亡がみられる。
- エCO中毒の治療として、まず新鮮な空気または純酸素を吸入させることが重要であり、重症例では高気圧酸素療法(HBO)が用いられる。
- オCO中毒が回復した後に、数週間以内に再び神経精神症状(記憶障害・性格変化・パーキンソン症状等)が出現する「遅発性脳症」が生じることがあるが、この症状は一般に1〜2日以内に完全に消失する。正答
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはオです。CO中毒の「遅発性脳症(遅発性神経精神症状)」は、意識回復後に数日〜数週間の「見かけ上の回復期」を経てから再び神経精神症状(記憶障害・性格変化・パーキンソン症候群様症状等)が出現する症候群です。「1〜2日以内に完全に消失する」という記述は誤りで、症状は数か月以上持続する場合があり、一部では後遺症が残ります。
ア(COとHbの親和性が酸素の200倍以上)・イ(桜紅色・チアノーゼではない)・ウ(COHb濃度と症状の対応)・エ(酸素吸入・高気圧酸素療法)はすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): COのヘモグロビンへの親和性は酸素の200〜250倍。低濃度のCOでも長時間曝露されると血中COHb濃度が上昇し、酸素運搬能が著しく低下します。無色無臭のため気づかないうちに中毒が進行する危険性があります。
- イ(正): COHbは酸素化ヘモグロビン(オキシヘモグロビン)と同様に赤い色調を持つため、通常の低酸素状態(還元ヘモグロビン増加によるチアノーゼ=青紫)とは逆に、皮膚・口唇・爪床が赤みを帯びる(桜紅色)という特徴的な所見を示します。
- ウ(正): COHb-症状の対応は試験の頻出知識。軽症(10〜20%)=頭痛・倦怠感。中等症(20〜40%)=激しい頭痛・めまい・嘔吐。重症(40〜60%)=意識障害・けいれん。致死(60%超)=呼吸停止・死亡。
- エ(正): 治療の原則は(1)CO源から離れる・新鮮空気または純酸素の吸入で半減期を短縮(通常大気: 約5時間・純酸素: 約60〜90分)・(2)重症例: 高気圧酸素療法(HBO、2〜3気圧)でCOHbの解離をさらに促進・遅発性脳症の予防効果もあるとされる。
- オ(誤): 遅発性脳症は「1〜2日以内に完全に消失する」ことはなく、症状は数週間〜数か月持続することが多く、完全回復しない例もあります。見かけの回復後(偽清明期)から再発した神経症状が長期化する点が重要です。
CO中毒の遅発性脳症:
- 出現時期: 急性中毒からの見かけ上の回復(数日〜数週間の無症状期)後に再発
- 症状: 記憶障害・見当識障害・性格変化・パーキンソン症候群様(無動・振戦)・尿失禁
- 機序: 大脳白質の脱髄・基底核(淡蒼球)の壊死が関与
- 予後: 数か月で改善することもあるが、後遺症が残る例も一定数あり
【理論的背景】
一酸化炭素(CO)中毒は職業性疾患だけでなく、ガス・石油ストーブの不完全燃焼・自動車の排気ガス・火災等による一般的な中毒としても重要な疾患です。職場では溶鉱炉作業・溶接・エンジンを使う密閉空間での作業(フォークリフト等)・ガス製造工場等での曝露が問題となります。COは無色・無臭であり、感覚的に気づくことができない点が最大の危険性です。
CO中毒の生理学的影響(詳細):
1. ヘモグロビンとの結合阻害: COHbによる酸素運搬能の直接的な低下
2. 酸素解離曲線の左方移動: 残りのオキシヘモグロビンが組織に酸素を放出しにくくなる(Haldane効果)→単純なCOHb値以上に組織低酸素が深刻化
3. 細胞内ミトコンドリアへの直接毒性: COがシトクロームcオキシダーゼ(電子伝達系の最終酵素)と結合→細胞レベルでの酸素利用障害→「ヒストトキシック低酸素症」の成分
4. 活性酸素産生の増加: 再酸素化時の過酸化反応→組織傷害(特に大脳白質・基底核)
【実務・条文構造】
CO中毒の臨床管理(詳細):
COHb測定の注意点:
- パルスオキシメーター(SpO₂計)ではCOHbを正常のオキシヘモグロビンと区別できない(偽高値を示す)
- 正確なCOHb測定には「CO-Oximetry(多波長分光光度計)」が必要
- 現場での簡易確認としては症状の確認・露出環境からの問診が重要
高気圧酸素療法(HBO)の適応:
- 重症CO中毒(COHb 25%以上・意識障害・神経症状等)
- 妊婦(胎児ヘモグロビンのCO親和性が高い)
- 心筋症状を伴う場合
- 実施: 2〜3気圧の純酸素環境→COHb解離時間を大幅に短縮(半減期約20〜30分)
遅発性脳症の病理(詳細):
- MRI所見: 大脳白質(特に半卵円中心)のT2高信号・淡蒼球の壊死
- 偽清明期(lucid interval): 急性中毒の回復から遅発症状発現まで通常2〜40日
- 発症リスク因子: 高齢・高濃度曝露・意識消失の既往・高気圧酸素療法が行われなかった場合
- 予後: 50〜75%は数か月で自然回復するが、25〜50%は何らかの後遺症が残るという報告がある
作業環境管理(CO測定と換気):
- 管理濃度: CO 20ppm(現行)
- 特定の職場(坑内・密閉空間・フォークリフト使用屋内)では定期的なCO測定が重要
- 密閉空間でのエンジン使用禁止・強制換気の徹底・携帯式CO検知器の装備
【試験での位置づけ】
CO中毒問題の最頻出は「COHbによる桜紅色(チアノーゼではない)」「COとHbの親和性が酸素の200倍以上」「COHb濃度と症状の対応(軽・中・重症の目安)」「遅発性脳症の存在(回復後に再発・長期化する可能性)」の4点です。オのような「遅発性脳症が1〜2日で消失する」という誤りは、遅発性脳症の「遅発・長期」という本質を否定した典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: COとHbの親和性の差(200〜250倍)は、低濃度のCO(例: 200ppm程度)でも血中COHbが急速に上昇する理由です。密閉ガレージでのエンジンアイドリングによる死亡事故の多くは、比較的短時間でのCOHb致死濃度への到達によって起こります。
- イ: 桜紅色は救急医療現場での診断的所見ですが、実際には観察しにくい(特に皮膚色素が濃い人・循環が低下した重症例)ことがあります。パルスオキシメーターが偽高値を示す点とともに、臨床的な落とし穴として知られています。
- ウ: COHb濃度-症状の対応表は暗記必須の知識ですが、実際の症状発現は「COHb濃度」だけでなく「曝露の速さ・身体活動量・基礎疾患(貧血・心疾患)」によって大きく変動します。同じCOHb値でも安静時と労働時では症状の重さが異なります。
- エ: 高気圧酸素療法(HBO)は「潜水医学」由来の治療法で、CO中毒以外にも空気塞栓・壊疽性感染症(ガス壊疽)・難治性創傷等に応用されています。CO中毒でのHBO実施は最寄りの高気圧治療施設への緊急搬送が必要であり、時間的制約から全例に実施できる訳ではありません。
- オ: 遅発性脳症の社会的影響: 一見回復したにも関わらず、数週間後に記憶障害・性格変化が出現することで、患者本人・家族が急性期との関連に気づかない場合があります。また職場では「事故から回復した」と判断した後に遅発性症状が出現するため、急性CO中毒後の数か月間の経過観察が医学的に重要です。
【根拠】医学的事実(確立した臨床医学・職業医学)。CO中毒の機序(COHb・酸素解離曲線・ミトコンドリア毒性)・桜紅色・COHb濃度と症状・遅発性脳症の経過(長期化・後遺症)は医学の確立した知識。
【補足】オ(誤): 遅発性脳症は1〜2日で消失せず数か月以上続く場合があり後遺症が残ることもある。CO中毒=桜紅色(チアノーゼ=青紫は誤り)。COとHbの親和性は酸素の200倍以上。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した臨床医学・職業医学)。CO中毒の機序・症状・遅発性脳症は医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。