労働衛生(有害業務)17第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問17:職業性疾病

金属による職業性疾病に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • マンガン(Mn)の慢性曝露は、中枢神経系(特に基底核)に影響を与え、パーキンソン病に類似した症状(振戦・筋固縮・仮面様顔貌・歩行障害等)を引き起こす。この病態はマンガニズムと呼ばれる。
  • クロム(Cr)化合物のうち、六価クロム(Cr⁶⁺)化合物は発がん性(肺がん・鼻中隔穿孔)が確認されており、六価クロムを取り扱う業務従事者では特殊健康診断が必要である。
  • 金属水銀(液体の水銀)の蒸気を慢性的に吸入すると、中枢神経障害(振戦・性格変化・記憶力低下・歯肉炎)が主な症状として現れる。水俣病は金属水銀の職業性曝露が原因である。正答
  • 亜鉛ヒューム(酸化亜鉛ヒューム)を大量に吸入すると、数時間後に「金属熱(Metal fever)」と呼ばれる発熱・倦怠感・関節痛が生じる。この症状は一般に1〜2日で自然に回復する。
  • ベリリウム(Be)の粉じん・ヒュームへの曝露は、急性ベリリウム症(急性肺炎様症状)および慢性ベリリウム症(肉芽腫性肺疾患)の原因となり、慢性ベリリウム症は難治性で長期の経過をたどる。
正答:金属水銀(液体の水銀)の蒸気を慢性的に吸入すると、中枢神経障害(振戦・性格変化・記憶力低下・歯肉炎)が主な症状として現れる。水俣病は金属水銀の職業性曝露が原因である。

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誤りはウです。ウの後半「水俣病は金属水銀の職業性曝露が原因」が誤りです。水俣病はメチル水銀(有機水銀)により汚染された魚介類を食べることで生じた食中毒型の環境汚染疾患であり、金属水銀の職業性曝露とは全く別の問題です。金属水銀の慢性吸入による症状(振戦・性格変化・記憶力低下)という前半の記述は概ね正しいですが、水俣病の原因の記述が誤りです。

ア(マンガニズム)・イ(六価クロムの発がん性)・エ(金属熱と亜鉛ヒューム)・オ(ベリリウム症)はすべて正しい内容です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): マンガン中毒(マンガニズム)は製鉄・合金製造・溶接・乾電池製造等での職業曝露で生じる。基底核(特に淡蒼球・線条体)へのマンガン蓄積→ドパミン系神経の障害→パーキンソン病様症状。ただしパーキンソン病とは病理・治療への反応が異なる(一般にレボドパ療法への反応が乏しい)。
  • イ(正): 六価クロム(Cr⁶⁺、クロム酸・重クロム酸等)は肺がん(確立した発がん性物質)・鼻中隔穿孔(皮膚・粘膜腐食性)の原因。クロムめっき・ステンレス溶接・顔料製造等での曝露が問題。三価クロム(Cr³⁺)は比較的毒性が低い(必須微量元素でもある)。
  • ウ(誤): 金属水銀の慢性吸入→中枢神経障害(振戦・性格変化・歯肉炎)は正しい。しかし「水俣病=金属水銀の職業性曝露が原因」は誤り。水俣病はチッソ株式会社が排水中に排出したメチル水銀(有機水銀)が魚介類に蓄積し、それを食した住民に神経障害を引き起こした環境公害病です。
  • エ(正): 金属熱(Metal fume fever)は亜鉛・銅・マグネシウム等のヒュームを吸入することで起こる一過性の発熱性反応(インフルエンザ様症状)。特に新鮮な酸化亜鉛ヒュームへの曝露で起こりやすい。週明け(月曜日)に症状が出る「月曜病」とも呼ばれる(週末で回復し月曜に再曝露で再発)。
  • オ(正): ベリリウムは核兵器・宇宙産業・電子部品製造等で使用。慢性ベリリウム症はCD4陽性Tリンパ球によるベリリウム感作が関与する肉芽腫性肺疾患で、長期にわたる慢性経過をたどり、難治性です。

水銀の種類と毒性の比較:

| 水銀の種類 | 代表的事例 | 主な毒性ターゲット |

|---|---|---|

| 金属水銀 | 体温計工場・蛍光灯処理 | 中枢神経(振戦・性格変化) |

| 無機水銀塩 | 防腐剤(廃止)・化学合成 | 腎臓(尿細管障害) |

| メチル水銀(有機水銀) | 水俣病(食物連鎖経由) | 中枢神経(重篤・小脳失調・求心性視野狭窄) |

上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

金属による職業性疾患は、金属ごとに毒性ターゲット・症状・機序が大きく異なります。「金属は全般的に毒性がある」という漠然とした理解ではなく、物質ごとの具体的な毒性プロファイルの把握が安全衛生管理の基礎となります。水俣病は「有機水銀(メチル水銀)による環境公害」として日本の産業公害の歴史で特に重要な事例であり、職業医学・公衆衛生の観点からも必須の知識です。

水銀の毒性比較(詳細):

金属水銀(Hg°):

  • 蒸気圧: 25℃で0.00185mmHg→低いが高温や密閉空間で蓄積
  • 主な吸収経路: 吸入(蒸気)
  • 毒性ターゲット: 中枢神経系(脳・小脳)・腎臓
  • 症状: 振戦(intentional tremor)・性格変化(「水銀に魅せられた帽子屋のような」行動変化)・歯肉炎・過剰唾液分泌
  • 歴史: 「マッドハッター病」(19世紀の帽子製造業者が水銀蒸気に曝露→振戦・精神症状)

メチル水銀(CH₃Hg⁺):

  • 主な吸収経路: 経口(汚染魚介類の摂取)
  • 毒性ターゲット: 中枢神経系(特に小脳・視覚皮質・感覚皮質)
  • 症状: 小脳失調(ふらつき・歩行障害)・求心性視野狭窄・難聴・手足のしびれ(Hunter-Russell syndrome)
  • 水俣病: 1956年に熊本県水俣市で集団発生が公式確認。チッソ株式会社のアセトアルデヒド製造工程でメチル水銀が生成・排水→水俣湾の魚介類に蓄積→住民・猫が摂取→神経障害。日本の四大公害病の一つ。

【実務・条文構造】

主要金属の職業性疾患管理:

マンガン(Mn)管理:

  • 曝露源: フェロマンガン製造・溶接(ステンレス溶接のマンガン含有電極)・電池製造
  • 管理: 管理濃度0.2mg/m³(呼吸性粉じんとして)・局所排気装置・呼吸用保護具
  • 鑑別: パーキンソン病との区別には職業歴・MRI所見(基底核のT1高信号・淡蒼球等への蓄積)が有用。レボドパへの反応性が乏しい点が典型的パーキンソン病と異なる。

六価クロム(Cr⁶⁺)管理(特化則第2類物質):

  • 曝露源: クロムめっき・クロム系顔料製造・ステンレス溶接・クロム鉱石精錬
  • 特殊健康診断: クロム酸等業務(肺がん・鼻中隔穿孔の検索)
  • 健康管理手帳: クロム酸塩製造・クロムメッキ等に従事した労働者が対象
  • Cr⁶⁺の発がん機序: 細胞内に取り込まれた後にCr³⁺に還元→DNAとの架橋形成→変異誘発

金属熱(Metal Fume Fever):

  • 原因金属: 亜鉛(最も多い)・銅・マグネシウム・クロム等のヒューム
  • 症状: 曝露から4〜8時間後に発症→発熱(39℃前後)・悪寒・筋肉痛・倦怠感
  • 経過: 24〜48時間で自然回復(恒常性獲得現象: 同じヒュームへの反復曝露で耐性が生じるが、週末の休養後に再曝露すると再び発症=月曜病)
  • 機序: ヒュームへの炎症反応(TNF-α等のサイトカイン放出)

【試験での位置づけ】

金属毒性問題の最頻出は「水俣病はメチル水銀(有機水銀)・金属水銀ではない」「マンガン中毒=パーキンソン病様症状(マンガニズム)」「六価クロムの発がん性(肺がん・鼻中隔穿孔)」「金属熱=亜鉛ヒューム・一過性・1〜2日で回復」の4点です。ウのような「水俣病=金属水銀」という誤りは水俣病の原因物質の混同という典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: マンガン中毒の予防では、溶接ヒューム規制の強化(2021年・特化則への追加)が重要な近年の動向です。特にステンレス溶接では溶接棒・母材にマンガンが含まれており、溶接ヒュームとしてマンガンを吸入するリスクがあります。送気マスクや電動ファン付き保護具の使用・局所排気装置の整備が求められます。
  • イ: 鼻中隔穿孔は六価クロムの特徴的な局所障害として重要な所見です。鼻中隔(鼻の左右を分ける軟骨・骨の隔壁)の粘膜が六価クロムの腐食性により潰瘍→穿孔(穴があく)という経過をたどります。クロムメッキ工場等での特殊健康診断で検索されます。
  • ウ: 水俣病の歴史的意義は日本初の公害病認定(1968年)として特に重要です。現在も認定問題・被害の全容解明が継続しており、環境汚染・化学物質管理の教訓として世界的に引用される事例です。職業医学の観点では「職業性曝露(工場従事者)」とは別に「周辺住民の環境曝露」として起きた点が特徴です。
  • エ: 金属熱の「月曜病」という通称は、週末の休養で亜鉛ヒュームへの耐性(免疫学的寛容)が消失し、月曜日の再曝露時に再び強い反応が出ることに由来します。経験的に知られる現象で、新入り作業員が最初に曝露したときに最も強い症状が出る理由でもあります。
  • オ: 慢性ベリリウム症はベリリウムに感作(アレルギー反応の素地が形成)したすべての人が発症するわけではなく、HLA-DP遺伝子型(特にHLA-DPB1 69-Glu等)との関連が確認されており、遺伝的感受性が重要な役割を果たします。初期は無症状のまま感作だけ成立し、後に肺機能低下が進行する場合があります。

【根拠】医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。水俣病はメチル水銀(有機水銀)による環境公害(金属水銀とは異なる)・マンガニズム・六価クロムの発がん性・金属熱・ベリリウム症は職業医学の確立した知識。

【補足】ウ(誤): 水俣病はメチル水銀(有機水銀)が原因(金属水銀の職業性曝露ではない)。マンガン=パーキンソン様症状(マンガニズム)。六価クロム=肺がん・鼻中隔穿孔。金属熱=亜鉛ヒューム吸入・一過性(1〜2日で回復)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した職業医学・毒性学)。水俣病はメチル水銀(有機水銀)が原因であり金属水銀とは異なる。マンガン・クロム・金属熱・ベリリウムの健康影響は職業医学の確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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