衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問40:有害化学物質の分類と性状
化学物質の危険有害性の表示・通知制度(GHS・SDS・ラベル)および2022年(令和4年)の労働安全衛生法改正による化学物質管理の変更点に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は、化学物質の危険有害性(ハザード)の分類と表示を国際的に統一するための規格であり、日本では安衛法上の義務として、すべての化学品にGHSラベルの貼付が義務付けられている。
- イSDS(安全データシート)の交付義務は、労働安全衛生法・化学物質審査規制法・毒物及び劇物取締法等の複数の法令で規定されているが、安衛法上のSDSの交付義務対象は「安衛法第57条の2で指定されたリスクアセスメント対象物質」であり、任意の化学品すべてへの交付は義務ではない。
- ウ2022年(令和4年)の安衛法改正以前は、化学物質のリスクアセスメント(危険性・有害性の調査)は事業者の自主的な取り組みに任されており、法令上の義務はなかった。
- エ2022年(令和4年)の安衛法改正により、化学物質管理の方向性が「特定の物質について個別の規則で管理する規制型」から「すべての化学物質についてリスクアセスメントに基づき事業者が自律的に管理する自律管理型」へと転換され、リスクアセスメント対象物質数が大幅に拡大された。正答
- オGHSにおける「絵表示(ピクトグラム)」は、化学品の危険有害性の分類を視覚的に表す国際共通の記号であり、日本では赤い菱形(ダイヤモンド形)の枠の中にシンボルを入れる形式が採用されており、この絵表示は安衛法上の任意表示(努力義務)にとどまっている。
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正しいのはエです。2022年(令和4年)の安衛法改正の最大のポイントは、化学物質管理の方向性が「法令で決められた特定物質を個別の特別規則で管理する方式」から「すべての化学物質についてリスクアセスメントを実施し事業者が自主的に管理する自律管理方式」へと転換されたことです。同時にリスクアセスメント義務の対象物質数が従来の674物質から約2,900物質以上に大幅拡大されました。
各誤りの要点:ア→GHSラベル表示義務は「安衛法で指定された物質のみ」(すべての化学品への義務ではない)。イ→SDSの交付義務対象の説明自体は概ね正しいが、ウとオの誤りの方が明確。ウ→リスクアセスメントの義務化は2016年の改正から既に実施されていた(改正前から義務があった)。オ→GHS絵表示(赤菱形+シンボル)は安衛法上の義務(ラベル表示義務の一部)であり、任意表示ではない。
安衛法上の化学物質表示・通知義務の対象物質:
| 義務の種類 | 根拠条文 | 対象物質の範囲 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ラベル表示義務 | 安衛法第57条 | 安衛令別表第9に掲げる物質(約900物質・2022年改正後) | 容器・包装へのラベル貼付義務 |
| SDS交付義務 | 安衛法第57条の2 | 安衛令別表第9に掲げる物質(ラベル表示対象と同等) | 書面・電磁的方法での交付 |
| リスクアセスメント義務 | 安衛法第57条の3 | 安衛令別表第9の物質(約2,900物質・2022年改正後) | 取扱いに際し実施義務 |
2022年(令和4年)安衛法改正の主要変更点:
| 改正事項 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 管理の考え方 | 特定規則による管理(特化則・有機則等) | リスクアセスメントに基づく自律管理 |
| RA対象物質数 | 約674物質(旧義務化対象) | 約2,900物質以上に大幅拡大 |
| 化学物質管理者の選任 | 義務なし | 一定条件下で選任義務 |
| 保護具着用管理責任者 | 義務なし | 一定条件下で選任義務 |
| リスクアセスメント結果の記録保存 | 規定なし | 記録の保存義務化 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): GHSラベルの貼付義務は安衛令別表第9に掲げる物質のみ(すべての化学品が対象ではない)。掲示義務対象外の物質への表示は任意(義務ではない)。
- イ(正に近いが): SDSの交付義務対象は安衛法第57条の2に基づく指定物質。説明は概ね正確だが選択肢の中でエの方がより明確に正しい。
- ウ(誤): 化学物質リスクアセスメントの義務は2016年(平成28年)の安衛法改正から既に実施されていた(改正前の2016年から義務化)。「改正以前は義務がなかった」は誤り(2016年改正前から努力義務・2016年から義務化・2022年改正で対象拡大)。
- エ(正): 自律管理型への転換・対象物質数の大幅拡大という2022年改正の本質を正確に記述している。
- オ(誤): GHS絵表示(赤い菱形+シンボルの組み合わせ)は安衛法第57条の規定によりラベル表示義務の一部として義務付けられており、任意表示・努力義務ではない。
【理論的背景】
日本の化学物質管理規制は2010年代から大きく変容しています。従来は「特定化学物質・有機溶剤・鉛等の個別物質を特化則・有機則等の特別規則で縛る」という「物質リスト型規制」が中心でしたが、特別規則で管理されている物質は数百種類に過ぎず、実際に職場で使用される化学物質の数(数万種類)からすれば極めて限定的でした。2022年改正はこの構造的限界を突破するため「すべての化学物質について事業者自らがリスクを評価・管理する」という自律管理モデルへと転換した画期的な改正です。
GHSの概要と日本での導入:
GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム)は、国連経済社会理事会の勧告として2002年に策定された国際規格です。
- 開発の背景: 国・地域によって異なる化学物質の分類・表示基準が国際貿易・職場安全管理を複雑にしていたため、統一システムが求められた
- 主な構成要素: ①化学物質の危険有害性の分類基準(物理化学的危険性・健康有害性・環境有害性の3分野)・②ラベル(絵表示・注意書き等の表示様式)・③SDS(安全データシート:16項目の統一フォーマット)
- 日本での導入: 安衛法・化管法・毒劇法・農薬取締法等の複数の法令でGHSを参考にした表示・通知制度が段階的に整備
安衛法のラベル表示義務の変遷:
- 安衛法第57条(表示義務): 従来は特化則の特定化学物質等に限定 → 2016年改正で対象物質拡大 → 2022年改正でさらに安衛令別表第9の物質(約900物質)に拡大
- ラベルに記載する必須事項(安衛法第57条): ①名称・②人体に与える影響(GHSの絵表示・警告語・危険有害性情報)・③貯蔵・取扱い上の注意・④表示者の氏名・住所
【実務・条文構造】
2022年(令和4年)安衛法改正の主要施行スケジュール:
2023年4月施行(第1段階):
- リスクアセスメント対象物質の拡大(674→約2,900物質以上)
- 化学物質管理者の選任義務(リスクアセスメント義務対象物質を製造・取扱う事業場)
- 保護具着用管理責任者の選任義務(一定条件)
- リスクアセスメント結果・化学物質管理措置の記録・保存義務
2024年4月施行(第2段階):
- 特化則・有機則等の特別規則が適用されない物質について、ばく露濃度等の基準値(SY濃度基準値・管理濃度相当)の設定
- 自律管理に基づく保護具の選定・適正使用の義務
自律管理の核心(リスクアセスメントの実施方法):
事業者は化学物質の取扱いに際し、①危険有害性の特定(SDSの取得・GHS分類の確認)→②ばく露の可能性の評価(作業内容・使用量・換気状態等)→③リスクの見積もり(危険有害性×ばく露量のマトリクス等)→④リスク低減措置の検討・実施(工学的対策→保護具等の優先順位)→⑤記録・保存→⑥見直しのサイクルを自律的に実施することが求められます。リスクアセスメントのツールとして、「コントロール・バンディング」「CREATE-SIMPLE」等の簡易評価ツールが厚生労働省から提供されています。
【試験での位置づけ】
化学物質管理問題の最頻出は「2022年改正の自律管理型への転換(物質リスト型→自律管理型)」「GHSラベルの義務対象(安衛令別表第9の物質のみ・全化学品ではない)」「SDSの必須16項目(国際統一フォーマット)」「リスクアセスメントの義務化は2016年から(2022年で対象拡大)」「化学物質管理者・保護具着用管理責任者の新設義務(2023年施行)」の5点です。アのような「すべての化学品にGHSラベルが義務」という誤りは「GHSは全物質対象」という誤解から生じる引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: GHSラベルの義務対象外の化学品に対しても、事業者が任意でGHSラベルを貼付することは推奨されており、化学物質の自律管理の観点から積極的な表示が望まれます。「義務の範囲は限定的だが、自主的な取り組みを推奨する」というスタンスが日本の行政のアプローチです。
- ウ: リスクアセスメントの義務化の経緯: 2013年に義務対象物質(123物質)でのRA実施の努力義務化→2016年(平成28年)4月に義務化(674物質対象)→2022年(令和4年)改正で約2,900物質以上に拡大。「2016年以前は義務なし」という選択肢のウは部分的に正しい(「2016年以前は努力義務・義務化は2016年から」が正確)が、「改正以前は義務なし」という表現で2016年改正を無視している点が誤りです。
- エ: 自律管理型への転換の具体的な意味: 従来は「特化則の管理対象物質かどうかを確認→該当するなら特化則の規定通りに管理(局所排気・特殊健診等)」という受動的管理でしたが、改正後は「取り扱うすべての化学物質について自らリスクを評価し、適切な措置を選択・実施する」という能動的管理が求められます。特別規則(特化則・有機則等)は廃止されるわけではなく、より高い安全水準を保証するものとして維持されます。
- オ: GHSの絵表示(ピクトグラム)は9種類あり、「炎(引火性)」「感嘆符(急性毒性軽度・刺激性)」「ドクロ(急性毒性・高度)」「腐食性(容器が腐食する図)」「環境有害性(魚と木のシルエット)」等が代表的です。これらの絵表示を「赤い菱形の枠内に黒いシンボル・白い背景」で表示することがGHSの規格として定められており、安衛法のラベル表示義務でも要求されています。
【根拠】労働安全衛生法第57条(表示義務)・第57条の2(SDS交付義務)・第57条の3(リスクアセスメント義務)・安衛令別表第9・2022年(令和4年)安衛法改正・GHS(国連勧告)。
【補足】エ(正): 2022年改正=自律管理型転換+対象物質数大幅拡大(約2,900物質以上)。ア(誤): GHSラベル義務は安衛令別表第9の物質のみ(全化学品ではない)。ウ(誤): リスクアセスメント義務化は2016年から(2022年は拡大)。オ(誤): GHS絵表示は義務(任意・努力義務ではない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第57条・第57条の2(表示・SDS義務)・化学物質規制の2022年改正(令和4年法改正)・GHS(国連勧告)。リスクアセスメントの義務化(2016年・2022年改正)・SDSの交付義務対象・GHSラベル表示の義務範囲は安衛法の確立した規定。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。