衛生管理者 関係法令(有害業務) 問16:健康管理手帳(安衛法第67条・安衛則別表第4)
健康管理手帳(安衛法第67条)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア健康管理手帳は、所定の有害業務に従事していた事業者が、事業廃止の際に当該事業場の労働者全員に交付するものである。
- イ健康管理手帳の交付を受けた者は、手帳に記載された期日に都道府県労働局の指定する医療機関で無料の定期健康診断を受けることができる。
- ウ健康管理手帳の交付申請先は、所轄の労働基準監督署長であり、都道府県労働局長ではない。
- エ健康管理手帳の対象となる業務には、ベンゼンを取り扱う業務や石綿等を製造・取り扱う業務等が含まれるが、粉じん業務(珪肺リスクのある業務)は含まれない。
- オ石綿等の業務に係る健康管理手帳の交付対象者は、在職中は申請できず、離職の際または離職後に自ら都道府県労働局長に申請して交付を受けるものである。正答
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正しいのはオです。健康管理手帳は、対象業務に従事していた者が離職の際または離職後に自ら都道府県労働局長に申請して交付を受けるものです(安衛法第67条)。在職中は事業者が実施する特殊健康診断でカバーされているため、在職中の申請は対象外です。
各誤りの要点: ア→事業者が交付するものではなく、本人が都道府県労働局長に申請して交付を受けるものです。イ→健診費用が無料という点は正しいが、「手帳に記載された期日に」という部分は誤りです(期日は都道府県労働局から通知される形です)。ウ→申請先は都道府県労働局長であり、労働基準監督署長ではありません。エ→粉じん業務(じん肺管理区分2以上等の者)も健康管理手帳の対象業務に含まれています。
健康管理手帳の主要な対象業務(安衛則別表第4の例):
| 業務 | 主な対象物質・作業 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 粉じん業務 | 遊離けい酸含有粉じん等 | じん肺管理区分2以上等 |
| 石綿等の業務 | 石綿製品の製造・解体等 | 一定期間以上の従事 |
| ベンゼン取扱い業務 | ベンゼン含有製品の製造等 | 一定期間以上の従事 |
| クロム酸・重クロム酸等 | クロム酸等の製造・取扱い | 一定期間以上の従事 |
| 塩化ビニル業務 | 塩化ビニルモノマー等 | 一定期間以上の従事 |
| コールタール業務 | コールタールを取り扱う業務 | 一定期間以上の従事 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 健康管理手帳は事業者が交付するものではなく、対象業務に従事した労働者本人が都道府県労働局長へ申請して取得するものです。
- イ(誤): 健康管理手帳による健康診断は無料で受けられますが、「手帳に記載された期日に」という表現は正確ではありません。都道府県労働局から検診機関・期日の案内がある形で実施されます。
- ウ(誤): 健康管理手帳の申請先は都道府県労働局長(安衛法第67条)です。所轄の労働基準監督署長ではありません。
- エ(誤): 粉じん業務(じん肺管理区分2以上の者等)は健康管理手帳の対象業務に含まれています(安衛則別表第4第4号)。「粉じん業務は含まれない」は誤りです。
- オ(正): 石綿等の業務を含む健康管理手帳の対象業務は、離職の際または離職後に本人が申請するものです(在職中は事業者実施の特殊健診が優先)。
【理論的背景】
健康管理手帳制度は、遅発性職業病(発症まで数十年を要する職業性疾患)に対応するために、離職後も国費で継続的な健康診断を実施する仕組みです。在職中は事業者が特殊健康診断を6か月ごとに実施しますが、離職後は事業者との関係が切れるため、個人で健診を受けることが困難になります。特に石綿(中皮腫・肺がん:潜伏期間15〜50年)やベンゼン(白血病:潜伏期間数年〜20年)のように、曝露から発症まで長期間を要する疾患については、離職後の長期追跡が不可欠です。
健康管理手帳の制度設計の特徴:
1. 申請主体: 労働者本人(在職中の事業者ではなく、離職後の個人が申請)
2. 申請先: 都道府県労働局長(厚生労働省の地方組織・労働基準監督署ではない)
3. 交付時期: 離職の際または離職後(在職中の交付は原則なし)
4. 検診内容: 対象物質に応じた特定の検査(胸部エックス線・喀痰検査・血液検査等)
5. 検診費用: 無料(国費負担)
6. 検診頻度: 年2回(対象業務・物質に応じて変わる場合あり)
【実務・条文構造】
健康管理手帳の法的根拠と手続き:
法的根拠(安衛法第67条):
- 「事業者は、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事した労働者が離職する場合に、都道府県労働局長に対して健康管理手帳の交付を申請することができる旨(実際は労働者本人の申請権を付与)」を規定
対象業務の要件(安衛則別表第4):
- 粉じん業務(じん肺管理区分2以上、または珪肺リスク業務に3年以上従事等)
- 石綿等の製造・使用業務(一定期間以上従事)
- ベンゼンを取り扱う業務(6か月以上・一定条件)
- クロム酸・重クロム酸等の製造業務(4年以上・一定条件)
- 塩化ビニルモノマーを含む製品の製造業務(4年以上)
- コールタールを取り扱う業務(5年以上)
- その他(ビス(クロロメチル)エーテル・β-ナフチルアミン等の製造業務等)
申請手続きの流れ:
1. 離職予定者(または離職後の者)が都道府県労働局長(申請先)へ申請書を提出
2. 従事業務の確認(事業者の証明・労働者名簿等の書類)
3. 都道府県労働局長が審査・健康管理手帳を交付
4. 手帳を持参して指定検診機関で定期健康診断(年2回等)を受診
5. 検診費用は公費負担(受診者の自己負担なし)
【試験での位置づけ】
健康管理手帳問題の頻出は「申請主体(本人が申請・事業者が交付するものではない)」「申請先(都道府県労働局長・労働基準監督署ではない)」「申請時期(離職の際または離職後・在職中は不可)」「対象業務(粉じん業務も含む)」の4点です。ウのような「申請先を労働基準監督署長とする」誤りは、労働基準監督署(監督官庁)と都道府県労働局(申請先)を混同した典型的な引っかけです。また「在職中は申請できない(事業者の特殊健診が代わりを担う)」という制度の趣旨も理解しておくと応用問題に対応できます。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 健康管理手帳の交付が「事業者からの交付」と誤解される原因の一つは、在職中の特殊健康診断(事業者が実施・費用負担)との混同です。特殊健診は在職中の事業者による健康管理措置であり、健康管理手帳は離職後の国による健康追跡措置という位置づけで別制度です。
- イ: 健康管理手帳による検診では、胸部エックス線検査(直接撮影)が中心で、対象物質によっては喀痰細胞診・肺機能検査・特定の血液検査等が加わります。石綿の場合は中皮腫・肺がんの早期発見が目標であり、画像診断(CT等)が追加される場合もあります。無料で質の高い検診が受けられることが、制度への参加を促すインセンティブになっています。
- ウ: 都道府県労働局と労働基準監督署の違いは行政上重要です。都道府県労働局は各都道府県に1か所、労働基準監督署は各地域(市区町村レベル)に複数あります。健康管理手帳・作業環境測定士等の資格・許可申請は都道府県労働局長が管轄し、日常的な監督・指導・申請受付は労働基準監督署(労働基準監督官)が担当するという役割分担があります。
- エ: 粉じん業務の健康管理手帳対象者は「じん肺管理区分の決定を受けた者のうち管理2以上のもの」等の要件があります(安衛則別表第4第4号)。じん肺は現時点で治癒が不可能な疾患であり、退職後も定期的な健診(合併症の早期発見等)が必要です。珪肺・石綿肺に続発する肺結核・肺がんの早期発見が特に重要です。
- オ: 石綿の健康管理手帳では、中皮腫(悪性胸膜中皮腫)の早期発見が主目的の1つです。中皮腫は現在の医療では根治が極めて困難であり、早期発見・早期治療でも予後が不良なケースが多いです。しかし早期発見により治療選択肢が増え、QOLの維持や生存期間の延長に寄与する場合があります。
【根拠法令】労働安全衛生法 第67条(健康管理手帳:離職後の国費健康診断)、安衛則別表第4(健康管理手帳対象業務一覧:粉じん業務・石綿業務・ベンゼン業務等を含む)・第52条の2〜5(申請手続き・交付・検診実施機関)
【補足】健康管理手帳は本人が都道府県労働局長に申請(事業者が交付するものではない)。申請は離職の際または離職後(在職中は不可)。粉じん業務も対象に含まれる(除外されない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第67条(健康管理手帳)・安衛則別表第4(健康管理手帳対象業務一覧)・安衛則第52条の2〜5(申請方法・実施機関)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。