衛生管理者 関係法令(有害業務) 問17:特定化学物質・化学物質の表示・SDS(安衛法第57条・57条の2)
化学物質の表示・安全データシート(SDS)制度に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、安衛法第57条に基づき政令で定める危険または有害な物(表示対象物)を容器に入れ、または包装して譲渡・提供する場合は、当該容器・包装に一定の事項(名称・成分・危険有害性の旨・取扱い上の注意等)を表示しなければならない。
- イ安全データシート(SDS)は、化学物質を譲渡・提供する際に相手方に提供しなければならない文書であり、16の情報項目(GHS形式)で構成されている。
- ウ事業者は、安衛法第57条の2に基づきリスクアセスメント対象物(政令で指定された化学物質)について、リスクアセスメントの実施が義務付けられており、その結果に基づいてリスク低減措置を講じなければならない。
- エ表示対象物の成分のうち、その含有率が一定の割合(例: 1%)未満のものについては、表示を省略できる場合がある。
- オSDSの交付義務は、化学物質を購入した事業者に対し、その化学物質を社内で使用する際に自社の労働者へ交付することを義務付けるものである。正答
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誤りはオです。SDSの交付義務は「化学物質を譲渡または提供する者が、その相手方(購入した事業者)に対して交付する」義務です(安衛法第57条の2)。社内で使用する際に自社の労働者に交付することを義務付けるものではありません。SDSは取引先(化学品メーカー・卸業者から購入者)に提供されるものです。
購入した事業者は受け取ったSDSを活用して自社のリスクアセスメントを行い、その結果に基づく措置を取ることが求められますが、SDSを「自社の労働者に交付する」ことは義務の正確な説明ではありません(SDSの内容を労働者に周知する義務とは別の話です)。
表示・SDS・リスクアセスメントの関係(安衛法第57条〜第57条の3):
| 規制 | 根拠 | 義務の内容 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 表示義務 | 第57条 | 容器・包装への名称・危険有害性等の表示 | 譲渡・提供時の容器・包装 |
| SDS交付義務 | 第57条の2 | 安全データシートの相手方への提供 | 化学物質の譲渡・提供先 |
| リスクアセスメント | 第57条の3 | リスクの特定・評価・低減措置の実施 | 化学物質を使用する事業者 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 安衛法第57条の通り、容器・包装での表示義務。GHSの16要素に相当する情報(名称・危険有害性・取扱い上の注意・応急措置等)を表示します。
- イ(正): SDSは「16の情報項目(GHS形式)」で構成されます(化学品・危険物の国際調和表示:物質の識別・危険有害性・応急処置・取扱い・保管・廃棄等の情報)。
- ウ(正): 安衛法第57条の3のリスクアセスメント義務(2016年より努力義務から義務化)は、政令指定化学物質(表示対象物・通知対象物)を取り扱う事業者に適用されます。
- エ(正): GHSの表示においては、混合物中の各成分の含有率が一定の閾値(発がん性物質等で0.1%・その他は1%等)未満の場合、危険有害性情報の表示が省略できる場合があります(JIS Z 7253等参照)。
- オ(誤): SDSの交付義務(安衛法第57条の2)は「化学物質を他者に譲渡・提供する場合に、その相手方事業者にSDSを提供する義務」です。「社内の労働者へ交付する義務」ではありません(ただし交付を受けたSDSの内容を労働者に周知する義務は別途存在します)。
【理論的背景】
化学物質の表示・SDS制度は、GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類及び表示に関する世界調和システム)に基づく国際的な取り組みです。GHSは国連が2003年に採択した化学品の危険有害性の分類と表示を世界的に統一するシステムであり、日本では安衛法改正・JIS Z 7253(GHSに基づく化学品の分類及び表示)等で国内規制に組み込まれています。
化学物質管理の改革(2022〜2024年の安衛法改正):
近年、日本では化学物質管理の「自律的管理体制への転換」が進められており、従来の「規制対象物質のリスト管理(省令で規制物質を指定)」から「すべての化学物質についてリスクアセスメントを実施し、事業者が自律的にリスク管理する体制」への移行が政策方針となっています。これにより表示・SDS義務の対象物質が大幅に拡大(2022年の改正でGHS分類で危険有害性がある物質ほぼ全体が義務化)され、リスクアセスメントの義務化・記録保存も強化されています。
【実務・条文構造】
SDSの16情報項目(GHS形式・JIS Z 7253):
1. 化学品及び会社情報
2. 危険有害性の要約
3. 組成及び成分情報
4. 応急措置
5. 火災時の措置
6. 漏出時の措置
7. 取扱い及び保管上の注意
8. ばく露防止及び保護措置
9. 物理的及び化学的性質
10. 安定性及び反応性
11. 有害性情報
12. 環境影響情報
13. 廃棄上の注意
14. 輸送上の注意
15. 適用法令
16. その他の情報
表示対象物とSDS交付対象の関係:
- 表示対象物: 政令(安衛令別表第9)で指定された物質(2022年改正で約890種に拡大)
- SDS交付対象物: 表示対象物+通知対象物(安衛令別表第9・第9号の2)
- 2022年の改正で、GHSで危険有害性が確認された物質の多くが対象となった
リスクアセスメントの実施フロー(安衛法第57条の3):
1. 危険・有害性の同定(SDSの情報を活用)
2. リスクの評価(作業環境中の濃度・曝露時間・経路を考慮)
3. リスク低減措置の検討(代替物質・工程改善・局所排気・保護具等の優先順位)
4. リスク低減措置の実施
5. リスクアセスメント結果の記録・保存(3年間)・関係者への周知
【試験での位置づけ】
SDS・表示問題の頻出は「SDSは譲渡・提供する際に相手方(事業者)に提供するもの(自社労働者への交付義務とは別)」「表示義務の対象情報(名称・危険有害性・取扱い上の注意等)」「リスクアセスメント義務との連動(SDSを活用してリスクアセスメントを実施)」の3点です。オのような「SDSを社内労働者に交付する義務」という誤りは、SDSの義務の方向(取引先への提供)を誤って理解させる典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 表示が必要な情報(安衛法第57条第1項)には①名称、②成分及びその含有量、③危険有害性の旨、④取扱い上の注意、⑤表示をする者の氏名・住所・電話番号、⑥注意喚起語、⑦危険有害性情報、⑧安全対策、⑨応急措置、⑩輸送上の注意が含まれます(GHSのピクトグラム・信号語の表示が実務では一般的)。
- イ: SDSの16情報項目は2023年の改正で「リスクアセスメントに使用する情報(8.ばく露防止及び保護措置)」等が強化されました。SDSは最新の規制改正のたびに内容の更新が必要であり、事業者は最新のSDSを管理し、労働者の閲覧に供することが必要です。
- ウ: リスクアセスメントの義務化(2016年施行)は、化学物質による労働災害の防止に向けた重要な制度改正です。リスクアセスメント結果の記録(実施内容・評価・措置)は3年間保存が義務付けられています(2022年改正)。また結果は関係する労働者に周知する義務もあります。
- エ: 含有率の閾値は危険有害性のカテゴリーによって異なります。例えば発がん性物質(区分1・2)の混合物への表示閾値は0.1%、急性毒性物質(経口・区分1〜3)では1%等と物質・危険有害性の種類によって閾値が異なります(JIS Z 7253附属書)。閾値未満であっても危険有害性がゼロになるわけではない点は留意が必要です。
- オ: 受け取ったSDSの活用は義務ではありますが(リスクアセスメントの実施・措置)、SDSを「労働者に交付する」ことが義務化されているわけではなく、SDSの内容を「周知する・確認できる状態に置く」ことが求められています。また法改正により事業者はSDSをデジタル(電子ファイル等)で管理・閲覧可能な状態に保つことも認められています。
【根拠法令】労働安全衛生法 第57条(表示義務:容器・包装への危険有害性等の表示)・第57条の2(SDS交付義務:化学物質の譲渡・提供時に相手方事業者へ提供)・第57条の3(リスクアセスメントの義務)、GHS(国連勧告)・JIS Z 7253(SDSの16情報項目・表示要件)
【補足】SDSの交付義務は「譲渡・提供する際に相手方事業者へ提供する義務」(自社労働者への交付義務ではない)。表示対象物の表示義務(名称・危険有害性等)。リスクアセスメントはSDSを活用して実施。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第57条(表示)・第57条の2(SDS:安全データシートの交付義務)・第57条の3(リスクアセスメントの義務)、GHS(国連勧告・化学品の分類・表示に関する世界調和システム)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。