衛生管理者 関係法令(有害業務) 問19:鉛中毒予防規則(鉛則)
鉛中毒予防規則(鉛則)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア鉛業務(鉛またはその化合物を製造・取り扱う業務等)を行う屋内作業場では、鉛作業主任者を選任しなければならない。鉛作業主任者は、鉛作業主任者技能講習を修了した者のうちから選任する。
- イ鉛業務に常時従事する労働者に対しては、6か月以内ごとに1回、定期の鉛健康診断を実施しなければならない。
- ウ鉛健康診断の主な検査項目には、血液中の鉛の量の検査および尿中のデルタアミノレブリン酸(ALA)の量の検査が含まれる。
- エ鉛業務に従事する労働者が鉛中毒と診断された場合、事業者は当該労働者を鉛業務に引き続き従事させてはならず、直ちに配置転換等の就業制限措置を講じなければならない。
- オ鉛は常温では固体であり、鉛ヒューム(鉛の溶融・鋳造時に発生する酸化鉛の微細粒子)は発生しないため、鉛溶融作業では局所排気装置の設置が免除される。正答
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誤りはオです。鉛は常温では固体ですが、加熱・溶融の過程で鉛ヒューム(鉛の蒸気が冷えて固体微粒子になったもの)が発生します。鉛ヒュームは吸入により肺から体内に吸収され、鉛中毒の主要な曝露経路となります。「鉛ヒュームは発生しない」という記述が誤りであり、鉛溶融作業には局所排気装置の設置が義務付けられています。
鉛ヒュームは可視光では見えにくく、作業者が気づかない間に大量に吸入してしまう危険があります。このため局所排気装置による発生源制御が不可欠です。
アの鉛作業主任者の選任義務、イの健診6か月ごと、ウの血中鉛・尿中ALA検査、エの配置転換義務はすべて正しい内容です。
鉛則の主な規制の整理:
| 規制事項 | 内容 |
|---|---|
| 作業主任者の選任 | 鉛作業主任者技能講習修了者から選任(安衛令第6条) |
| 局所排気装置等 | 鉛ヒューム・鉛粉じんの発生作業場に設置義務 |
| 健康診断の頻度 | 6か月以内ごとに1回(鉛則第52条) |
| 主な健診項目 | 血液中の鉛量・尿中ALA(デルタアミノレブリン酸)・神経症状等 |
| 健診記録保存 | 5年間 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 鉛業務(鉛または鉛化合物を製造・取り扱う作業等)には鉛作業主任者の選任が必要(安衛法第14条・安衛令第6条第20号・鉛則第33条)。選任要件は鉛作業主任者技能講習修了者です。
- イ(正): 鉛則第52条の通り、鉛業務に常時従事する労働者への健康診断は6か月以内ごとに1回(特化則・有機則の特殊健診と同じ頻度)。
- ウ(正): 鉛健康診断の検査項目(鉛則第53条)には血液中の鉛の量・尿中デルタアミノレブリン酸(ALA)・神経症状・腹部症状等が含まれます。ALAは鉛によるヘム合成障害の生物学的マーカーです。
- エ(正): 鉛中毒と診断された場合の就業制限(鉛業務からの配置転換等)は、法令上の義務として事業者に課されています(鉛則第60条)。
- オ(誤): 鉛は加熱・溶融により蒸気→冷却→固体微粒子(鉛ヒューム)が発生します。鉛ヒュームの吸入は鉛中毒の主要経路であり、局所排気装置の設置は義務です。「鉛ヒュームは発生しない」は事実に反します。
【理論的背景】
鉛(Pb)は原子番号82の重金属であり、産業的には蓄電池製造・印刷(活字鋳造)・鉛管・はんだ・鉛ガラス・鉛系顔料等に使用されてきました。鉛の毒性は複合的であり、造血系(ヘム合成阻害→貧血)・神経系(末梢神経障害・脳症)・腎臓(近位尿細管障害)・生殖系(男性精子数減少・女性の流産リスク増加)等に広範な影響を与えます。
鉛ヒュームの発生と吸入経路:
鉛の融点は327℃であり、溶融状態の鉛(溶鉛)が空気と接触すると酸化鉛(PbO等)の蒸気が発生します。この蒸気が冷却されると微細な固体粒子(ヒューム)になります。ヒュームの粒径は0.001〜1μmと非常に細かく、呼吸により肺の深部(肺胞)まで到達して高効率に吸収されます。粒径が小さいほど重力沈降が遅く、作業場内に長時間浮遊し続けます。
鉛の生物学的モニタリング:
- 血液中の鉛濃度(血中Pb): 現在の曝露状況・体内鉛貯蔵量を反映。健康成人の血中Pb濃度は通常10μg/dL未満。職業的限界値は40〜50μg/dL(産業衛生学会の許容基準)。
- 尿中デルタアミノレブリン酸(ALA): 鉛がδ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)を阻害することで、ALA(ヘム合成の中間体)が尿中に排泄される。血中Pbが上昇するとALA尿排泄が増加するため、鉛曝露の早期指標となる。
- FEP(血液中の亜鉛プロトポルフィリン): 鉛によるヘム合成最終段階の阻害を反映。貧血の早期指標。
【実務・条文構造】
鉛則の主要規制体系:
設備規制(鉛則第1章〜第4章):
- 鉛ヒューム・鉛粉じんが発生する作業場: 局所排気装置・プッシュプル型換気装置の設置義務
- 鉛蓄電池の解体・組立作業場: 特定の設備規制
- 鉛ヒューム発生作業場の密閉化・湿潤化等の代替措置
作業主任者(鉛則第33条・安衛令第6条):
- 選任義務: 鉛業務(安衛令第6条第20号)
- 資格要件: 鉛作業主任者技能講習修了者
- 主な職務: 作業方法の決定・指揮、保護具の使用状況監視、設備点検等
特殊健康診断(鉛則第52条〜第55条):
- 実施頻度: 6か月以内ごとに1回
- 主な検査項目: ①業務経歴調査②鉛による自覚症状(腹部症状・関節痛・神経症状等)③他覚症状④血中鉛・ALA・FEP等の生物学的モニタリング⑤医師が必要と認める検査
- 記録保存: 5年間
鉛中毒者の就業制限(鉛則第60条):
- 医師の意見(鉛中毒と診断)に基づき、事業者は当該労働者を鉛業務から除外する就業制限措置を講じなければならない
【試験での位置づけ】
鉛則問題の頻出は「鉛ヒュームは鉛の溶融等で発生する(常温固体でもヒュームが発生する)」「健康診断の頻度(6か月ごと)」「血中鉛・尿中ALAが主要な生物学的モニタリング指標」「鉛作業主任者の選任義務」の4点です。オのような「常温固体なのでヒュームは発生しない」という誤りは、「固体の金属=蒸気・ヒュームが出ない」という誤った常識的判断を利用した典型的な引っかけです。類似例として水銀(常温液体でも蒸気圧が高い)も重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 鉛作業主任者技能講習の内容は「鉛中毒の原因・症状・予防方法、鉛業務に関する安全衛生の知識、保護具の選定・使用方法」等です。技能講習修了者の中から事業者が「選任」するという形(試験合格の免許とは異なる)も押さえてください。
- イ: 鉛の特殊健康診断では6か月ごとの定期健診が原則ですが、血中鉛濃度が高値(医師が指定する値以上)の場合は、より頻繁な検査(3か月ごと等)が推奨されることもあります。鉛の体内半減期は血液中で30〜35日・骨には数十年と非常に長期間残留するため、長期的な追跡が重要です。
- ウ: 尿中ALAは鉛曝露の早期かつ感度の高い生物学的指標です。鉛曝露がなくても尿中ALAはわずかに排泄されますが、血中鉛が上昇するにつれてALA尿排泄量が急増します。ALAはヘモグロビンの合成に必要なポルフィリン合成の前駆体であり、鉛がALAD(ALAデヒドラターゼ)を阻害することで血中に蓄積し尿中に排泄されます。
- エ: 鉛中毒の就業制限(鉛業務からの配置転換)は一時的な措置であり、血中鉛濃度が正常範囲に回復すれば再度鉛業務に就くことが認められます。医師の意見に基づいて就業制限の解除判断が行われます。
- オ: 鉛ヒュームは金属加工・鉛蓄電池製造・はんだ付け等の多くの作業で発生します。現代では鉛フリーはんだへの移行が進んでいますが、一部の工業用途では引き続き鉛はんだが使用されており、ヒューム対策が継続的に必要です。鉛の融点(327℃)はかなり低く、一般的な工業炉やはんだゴテで十分に達する温度であることも覚えておくべきポイントです。
【根拠法令】鉛中毒予防規則(鉛則)第33条(鉛作業主任者の選任:鉛作業主任者技能講習修了者から)・第52条(健康診断:6か月以内ごとに1回)・第53条(健康診断の項目:血中鉛・尿中ALA等)・第60条(鉛中毒者の就業制限)、安衛法第14条・安衛令第6条(鉛業務の作業主任者選任義務)
【補足】鉛溶融作業では鉛ヒュームが発生する(常温固体でも加熱でヒュームが発生・局所排気装置の設置義務あり)。鉛の健康診断は6か月ごと。血中鉛・尿中ALAが生物学的モニタリングの主要指標。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 鉛中毒予防規則(鉛則)第1条〜第37条全体、安衛法第14条・安衛令第6条(鉛作業主任者の選任義務)、鉛則第52条(健康診断:6か月以内ごとに1回)、鉛則第53条(健康診断の項目)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。