衛生管理者 関係法令(有害業務) 問38:労働安全衛生法(安衛法)・化学物質管理の自律的管理体制(2022年改正)
化学物質の危険性・有害性のリスクアセスメントおよび自律的管理体制(労働安全衛生法第57条の3等・令和4年(2022年)改正関連)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、危険性または有害性が確認された化学物質(安衛法第57条の3が適用される物質)を製造し、取り扱い、または譲渡提供する際には、リスクアセスメントを実施しなければならない。
- イ令和4年(2022年)の安衛法改正により、化学物質の自律的管理体制の推進として「化学物質管理者」の選任義務が新設され、一定の条件を満たす事業場において化学物質管理者を置かなければならないこととされた。
- ウリスクアセスメントを実施した結果として、「リスクが許容できるレベルまで低減された」と判断された場合には、局所排気装置等の設備的措置を一切講じなくてよい。正答
- エGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく危険有害性の分類・表示は、安衛法第57条(ラベル表示の義務)および第57条の2(SDS(安全データシート)の交付義務)の制度と密接に連動している。
- オ令和4年(2022年)の安衛法改正において導入された「化学物質の自律的な管理」の考え方では、GHS分類で危険有害性が確認されたすべての化学物質について、事業者が自らリスクアセスメントを実施して適切な管理措置をとることが求められる。
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誤りはウです。リスクアセスメントで「リスクが許容できるレベルまで低減された」と判断された場合でも、局所排気装置等の設備的措置が一切不要になるわけではありません。リスクの低減は「最優先は設備的措置(工学的対策)」を講じた上で達成することが基本であり、リスクアセスメントは「現在の管理措置の妥当性を評価するプロセス」です。設備的措置を省略してリスクが許容されると判断することはできません。
ア(リスクアセスメント義務の対象物質)・イ(化学物質管理者の選任義務)・エ(GHSとラベル表示・SDSの連動)・オ(GHS分類物質全体へのリスクアセスメント拡大)はすべて正しい記述です。
化学物質の自律的管理体制(令和4年改正)の主要な変更点:
| 変更事項 | 内容 | 施行時期 |
|---|---|---|
| リスクアセスメント対象の拡大 | 安衛法第57条の3の対象物質(約670種)→GHSで危険有害性が確認された全物質(約2,900種)へ拡大 | 令和6年(2024年)4月〜 |
| 化学物質管理者の選任義務 | リスクアセスメント対象物質を製造・取扱いする事業場に選任義務 | 令和6年(2024年)4月〜 |
| 保護具着用管理責任者の選任 | 化学物質管理者とは別に保護具の適正使用を管理する責任者の選任義務 | 令和6年(2024年)4月〜 |
| リスクアセスメントに基づく健康診断の実施 | リスクアセスメントの結果に基づき、必要な労働者に健康診断を実施する義務 | 令和6年(2024年)4月〜 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 安衛法第57条の3により、リスクアセスメント対象物質を製造・取扱い・譲渡提供する際のリスクアセスメント実施義務は従前から存在しています。
- イ(正): 令和4年改正により、化学物質管理者の選任義務が新設されました(令和6年施行)。化学物質管理者はリスクアセスメント・ラベル表示・SDS作成・教育訓練の管理を担います。
- ウ(誤): リスクアセスメントで「許容可能なリスク」と判断された場合でも、「設備的措置(局所排気装置等)が不要になる」わけではありません。許容可能なリスクとは「適切な管理措置(設備・保護具等)を講じた状態でのリスクが低い」という意味であり、措置を撤廃する根拠にはなりません。
- エ(正): GHSの危険有害性分類が安衛法第57条(ラベル表示)・第57条の2(SDS交付)の対象物質の判定基準と連動しており、国際的な化学品管理の枠組みを国内法に取り込んでいます。
- オ(正): 令和4年改正の核心はリスクアセスメント対象を「法令で個別に指定された物質」から「GHSで危険有害性が確認されたすべての物質」へ拡大し、事業者が自律的に管理する体制への移行です。
【理論的背景】
日本の化学物質管理は、従来「個別規則(特化則・有機則・鉛則等)で法令が個別に指定した物質を個別に規制する」という「個別規制型」でした。しかしこの体系には「法令で指定されていない物質については規制の網がかからない」「新しい化学物質への対応が遅れる」という構造的な問題がありました。令和4年(2022年)の安衛法改正は、この体系を「事業者が自らGHSに基づいて危険有害性を評価し、自律的にリスク管理措置をとる」という「自律的管理型」に転換する大改革です。
国際的な背景(GHSと日本の法整備):
GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は国連が策定した化学品の危険有害性の分類・表示の国際統一基準です。日本は安衛法第57条(ラベル表示)・第57条の2(SDS)にGHSの枠組みを取り込み、企業間の化学品情報の伝達(川上から川下への危険性情報の流通)を義務化しています。令和4年改正では、このGHS分類情報を活用してリスクアセスメントを行う「GHSベースのリスクアセスメント」が事実上すべての危険有害化学物質に拡大されました。
【実務・条文構造】
令和4年(2022年)改正の主要内容(安衛法・安衛則の改正):
1. リスクアセスメント対象物質の拡大(令和6年4月施行):
- 従来: 安衛法第57条の3対象の約670物質(国が特に指定したもの)
- 改正後: GHSで危険有害性が確認されたすべての化学物質(約2,900種・物理化学的危険性または健康有害性があるもの)
- リスクアセスメントの結果に基づく管理措置の実施・記録の義務化
2. 化学物質管理者の選任義務(安衛則第12条の5・令和6年4月施行):
- 対象: リスクアセスメント対象物質を製造・取り扱う事業場(業種・規模を問わない)
- 役割: ①リスクアセスメントの実施管理②ラベル表示・SDS交付の確認③特定化学物質・有機溶剤等の特別規則(個別規制)との整合④教育訓練の実施管理⑤事故発生時の緊急措置
- 資格要件: 厚生労働大臣が定める化学物質管理に係る講習の修了者(化学物質管理者講習)
3. 保護具着用管理責任者の選任義務(安衛則第12条の6・令和6年4月施行):
- 役割: リスクアセスメントの結果として「保護具の使用」が必要とされた場合、適切な保護具(種類・規格・使用方法)の選定・管理を専担する者
4. リスクアセスメント実施記録の保存:
- 保存期間: 3年間(安衛則第34条の2の8)
リスク低減措置の優先順位(化学物質のリスクアセスメント指針):
1. 危険有害化学物質の製造・使用をやめる(代替化・廃止)
2. よりリスクの低い物質への代替(低毒性・低揮発性への切り替え)
3. 設備的対策(密閉化・局所排気装置・全体換気装置)
4. 管理的対策(曝露時間の短縮・作業手順の改善)
5. 個人用保護具の使用(防毒マスク・保護手袋等)
ウの誤りの根拠: 上記の優先順位を見れば明らかなように、「設備的対策(局所排気装置等)」は高優先順位の措置です。リスクアセスメントで「許容できる」と判断された状態は「設備的措置を適切に実施した結果」であり、「設備的措置が不要だから許容できる」と逆向きに解釈することは誤りです。
【試験での位置づけ】
令和4年(2022年)の化学物質管理の大改革は衛生管理者試験でも頻出の最新論点です。「自律的管理体制への転換(個別規制型→GHSベースのリスクアセスメント型)」「化学物質管理者・保護具着用管理責任者の新設」「GHSとラベル表示・SDSの連動」「リスク低減措置の優先順位(設備的措置が高優先位)」の4点が重要です。ウのような「リスクが許容できれば設備措置不要」という誤りは、リスクアセスメントの目的(リスクを低減するための措置の妥当性評価)を「リスクが低ければ措置を省略できる根拠」と誤解させる典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 安衛法第57条の3のリスクアセスメント義務は「製造・取扱い・譲渡提供」の3種類の行為に適用されます。「譲渡提供」が含まれる点は、化学品の川上(製造者・販売者)から川下(使用者)へのリスク情報伝達(SDS・ラベル)が義務化されていることと連動しています。
- イ: 化学物質管理者の講習内容は「化学物質の危険性・有害性の基礎知識」「GHSの分類・表示の理解」「リスクアセスメントの方法(定性的・定量的)」「ばく露防止措置(設備・保護具)の選定方法」「緊急事態時の対応」等です。衛生管理者・産業医との役割分担も重要であり、化学物質管理者は「化学物質管理の専門担当者」として機能します。
- ウ: リスクアセスメントの正しい活用は「現在の管理措置(設備・保護具等)が適切かどうかを評価し、不十分なら措置を追加・改善するプロセス」です。「リスクが低い=現在の管理措置が有効に機能している」という解釈が正しく、「リスクが低いから措置を撤廃できる」という解釈は誤りです。
- エ: GHSのSDS(Safety Data Sheet・安全データシート)は16項目からなる化学品の危険有害性情報の集約文書です(旧称MSDS・Material Safety Data Sheet)。日本の安衛法第57条の2(SDS交付義務)もGHSの16セクション構成に準拠しており、「物質の危険有害性を記載したSDSを取引先(川下事業者)に交付する」という義務を通じて、化学品情報が供給チェーン全体に流通する仕組みになっています。
- オ: GHS分類で「危険有害性なし(非該当・分類不能)」とされた物質については、令和4年改正後もリスクアセスメントの強制義務の対象外です。事業者はGHSの分類結果を確認してリスクアセスメートの実施要否を判断する必要があります。GHS分類情報はSDS・ラベル・国立環境研究所のデータベース等から入手できます。
【根拠法令】労働安全衛生法 第57条(ラベル表示:GHS対応)・第57条の2(SDS交付義務)・第57条の3(リスクアセスメントの義務)、労働安全衛生規則 第12条の5(化学物質管理者の選任義務:令和4年改正・令和6年4月施行)・第12条の6(保護具着用管理責任者の選任義務)・第34条の2の8(リスクアセスメント実施記録:3年保存)、化学物質等による危険性または有害性の調査等に関する指針(リスク低減措置の優先順位)
【補足】令和4年改正の核心=個別規制型→自律的管理型への転換(GHSベースで全危険有害化学物質にリスクアセスメント義務拡大)。化学物質管理者・保護具着用管理責任者が新設。リスク低減措置の優先順位=設備的措置が保護具より高優先位。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第57条の3(リスクアセスメントの義務)・令和4年(2022年)改正による自律的管理体制の導入(化学物質管理者の選任義務・GHSラベルに基づくリスクアセスメントの拡大)・化学物質等による危険性または有害性の調査等に関する指針(厚生労働省告示)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。