衛生管理者 関係法令(有害業務) 問50:高気圧作業安全衛生規則(高圧則)・労働安全衛生法(有害業務の就業制限)
高気圧作業安全衛生規則(高圧則)に規定する高圧室内作業および潜水業務に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、高圧室内業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際または当該業務への配置替えの際、および6か月以内ごとに1回、定期に医師による健康診断を実施しなければならない。
- イ高圧室内業務における作業計画では、作業者の体内に溶け込む不活性ガスの量が過大にならないよう、作業気圧(深度)に応じて減圧に要する時間が長くなり、結果として高い気圧下では1日に行える高圧室内作業の時間が制約される。
- ウ事業者は、高圧室内業務に関する健康診断の結果に基づき、医師の意見を聴いた上で、当該業務への就業の可否を判断しなければならないが、当該医師が就業不適当と判断した者でも、本人の同意があれば就業させることができる。正答
- エ高圧室内業務を行う事業者は、作業室に送気する空気の圧力の調節のための弁またはコックの操作を行う専任の者を選任しなければならない。
- オ高圧室内業務(ゲージ圧力0.1MPa以上の気圧下で行う作業)は、労働基準法第36条の時間外労働協定(36協定)がある場合でも、高圧則の定める作業計画・減圧・ガス分圧等の規制は適用され、これらを36協定によって解除することはできない。
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誤りはウです。高圧則に基づく健康診断で医師が就業不適当と判断した場合は、本人の同意があっても当該業務に就かせることができません。就業制限は絶対的なものです(高圧則第41条)。
「本人同意があれば就業可」という構成は、高圧室内業務に限らず、多くの就業制限・就業禁止規定では認められていません。高圧環境は減圧症・窒息等の即死リスクがある業務であり、本人意思よりも安全確保が優先されます。
各正しい記述: ア→高圧則の特殊健診は6か月以内ごとに1回(高圧則第38条)。イ→気圧(深度)が高いほど体内に溶け込む不活性ガスが増え、減圧に時間を要するため、1日に行える作業時間が制約される。エ→送気の調節を行う者の配置・指揮に関する義務がある。オ→36協定による時間外延長があっても、高圧則の作業計画・減圧・分圧等の規制(安全衛生確保のための規制)は解除されない。
高圧室内作業の時間に関わる現行の規制枠組み(平成27年4月改正後):
| 規制項目 | 内容 |
|---|---|
| 作業計画(第12条の2) | 加圧・減圧の速度、作業気圧、作業時間等を定めた作業計画を作成し周知 |
| 呼吸用ガスの分圧の制限(第15条) | 酸素18〜160kPa(気こう室での減圧時は18〜220kPa)・窒素400kPa以下・炭酸ガス0.5kPa以下 |
| 酸素ばく露量の制限 | 体内に蓄積する酸素・不活性ガス量が過大にならないよう管理 |
| 減圧停止(減圧時間の管理) | 旧「標準減圧表(別表)」は削除され、計算により求めた減圧停止圧力・時間に従う |
※平成27年4月施行の改正で、旧高圧則の別表(気圧別の作業時間表・標準減圧表)は削除された。現在は「気圧が高いほど作業時間は◯時間まで」という一律の表ではなく、分圧制限・酸素ばく露量・減圧時間の管理で体内のガス蓄積を抑える仕組みになっている。その結果として、高い気圧下では減圧に要する時間が長くなり、実作業時間は制約される。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 高圧則第38条により、高圧室内業務の健康診断は「雇入れ時・配置替え時・6か月以内ごとに1回」が義務です(有機則・特化則の特殊健診と同様の頻度)。
- イ(正): 作業気圧(深度)が高くなるほど体内に溶け込む不活性ガスが増え、安全に減圧するための時間が長くなります。これにより1日に行える高圧室内作業の時間は制約されます(旧別表のような一律の作業時間表は廃止され、減圧時間・分圧の管理に置き換わっています)。
- ウ(誤): 高圧則第41条による就業禁止は、医師が必要と認める期間就業させてはならないもので、本人同意の有無にかかわらず就業させることができません。
- エ(正): 送気の調節を行う者を配置し、その者を高圧作業主任者の指揮下に置く体制が求められます(送気操作は加減圧の安全に直結するため)。
- オ(正): 労基法第36条の36協定による時間外労働延長は、高圧則に基づく作業計画・減圧・ガス分圧等の安全衛生規制を解除するものではありません。安全衛生法令の規制は、36協定があっても上限として機能します。
【理論的背景】
高圧室内業務の作業時間制限は、「窒素酔い」と「減圧症」の二つの生理的リスクに対応するために設計されています。高圧環境では、ヘンリーの法則(気体の溶解量は圧力に比例)により体内(血液・組織・脂肪等)への窒素の溶解量が増大します。作業気圧が高いほど単位時間当たりの溶解量が増え、同じ時間でもより多くの窒素が体内に蓄積します。急激な減圧によって蓄積した窒素が気泡化するのが減圧症(潜水病・ケーソン病)であり、関節痛・皮膚症状・肺症状・中枢神経症状等の重篤な障害を引き起こします。
作業時間制限の科学的根拠:
- 高圧環境での滞在時間が長いほど体内窒素量が増加
- 窒素蓄積量を一定の安全閾値以下に抑えるため、気圧に応じた最大作業時間が設定される
- 1日の作業回数・合計気圧時間・減圧手順の組み合わせが減圧症リスクを決定する
【実務・条文構造】
高圧則の主要規制体系(高圧室内業務に特有のもの・平成27年4月改正後):
作業計画の作成義務(高圧則第12条の2):
- 加圧・減圧の速度、作業気圧、作業時間、呼吸用ガスの組成等を定めた作業計画を作成
- 作業計画により作業を行い、関係労働者に周知する義務
呼吸用ガス・減圧方法の規制(高圧則第15条・第18条等):
- 呼吸用ガスの分圧の制限(第15条): 酸素18〜160kPa(気こう室での減圧時は18〜220kPa)・窒素400kPa以下・炭酸ガス0.5kPa以下
- 酸素ばく露量の制限: 体内に蓄積する酸素量が過大にならないよう管理
- 減圧停止(decompression stop): 旧「標準減圧表(別表)」は平成27年改正で削除され、計算により求めた減圧停止圧力・時間に従って減圧する方式に変更された
作業時間に関わる管理:
- 旧高圧則の「気圧別の最大作業時間表(別表第2)」は削除された
- 現在は分圧制限・酸素ばく露量・減圧時間の管理によって体内のガス蓄積を抑える
- 高い気圧下では減圧に要する時間が長くなるため、実作業時間が制約される(結果としての時間制約)
就業禁止(高圧則第41条):
- 医師が必要と認める期間、当該業務への就業を禁止する(病者の就業禁止)
- 対象となる疾患: 減圧症の既往・耳管機能障害・呼吸器疾患・循環器疾患等
- 禁止は本人同意・事業者判断では覆せない(医師の判断が拘束力を持つ)
健康診断の項目(高圧則第38条):
- 既往歴(減圧症・耳疾患・呼吸器疾患・循環器疾患等の既往)
- 自覚症状・他覚症状
- 耳鼻咽喉科的検査(聴力・耳管機能)
- 肺活量等の肺機能検査
- 心電図等の循環器検査
- 骨のX線検査(長期従事者・減圧症既往者)
【試験での位置づけ】
高圧作業の問題では「就業禁止(第41条)は本人同意でも解除できない」「気圧(深度)が高いほど減圧に時間を要し作業時間が制約される」「36協定があっても高圧則の安全衛生規制は解除されない(安衛法が上位)」の3点が頻出です。また「高圧室内作業主任者は技能講習ではなく免許(試験合格)が必要」(問W5-01の論点)との組み合わせ問題も出ます。なお平成27年改正で旧別表(気圧別の作業時間表・標準減圧表)が削除された点は、古い問題集の数値に注意が必要なポイントです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 高圧室内業務の健康診断が6か月ごとに1回という頻度は、特化則・有機則の特殊健診と同一です。高圧環境への慢性曝露による骨壊死(無菌性骨壊死)は、潜水作業者・ケーソン作業者で多く報告されており、特に股関節・膝関節の骨頭が障害されます。長期の健康フォローが必要です。
- イ: 平成27年改正前は別表第2の換算表で気圧別の作業時間が定められていましたが、改正後は計算による減圧管理に置き換わりました。例えば0.4MPaで2時間の作業と0.2MPaで4時間の作業では体内の不活性ガス蓄積量の評価が異なり、深い(高い気圧の)作業ほど安全な減圧に長い時間を要します。建設現場のケーソン工法・トンネル掘削等では、この減圧管理が実際の作業計画の根拠になります。
- ウ: 就業制限の絶対性は、個人の自己決定権(インフォームドコンセント)よりも集団的な安全確保が優先されることを意味します。高圧業務は重大事故(減圧症・気胸・窒息)が生命を直接脅かすため、医学的禁忌のある者を「本人が覚悟している」という理由で就業させることは許されません。
- エ: 送気調節弁操作者は高圧室内の生命線を管理する役職です。加圧・減圧の速度を誤ると、過加圧(耳・肺の損傷)や急減圧(減圧症の即発)が生じます。高圧作業主任者の指揮下で専任者が操作する体制は、この危険性に対応した組織的な安全管理です。
- オ: 「36協定があれば何でも許される」という誤解を防ぐための重要な論点です。労基法第36条の時間外労働は安衛法の規定する安全衛生基準を上書きするものではなく、両法が競合する場合は安全衛生規制が優先されます。これは労働安全衛生法が労基法の特別法として位置づけられる場面の典型例です。
【根拠法令】高気圧作業安全衛生規則第12条の2(作業計画)・第15条(呼吸用ガスの分圧の制限)・第38条(健康診断:6か月以内ごとに1回)・第41条(病者の就業禁止)。※平成27年4月施行改正で旧別表(気圧別の作業時間表・標準減圧表)は削除され、分圧制限・酸素ばく露量・減圧時間の管理に移行した。
【補足】高圧業務の就業禁止(第41条)は医師が必要と認める期間就業させてはならず、本人同意で解除不可。気圧(深度)が高いほど減圧に時間を要し作業時間が制約される(旧別表第2の一律表は廃止)。健診は6か月以内ごとに1回(第38条)。36協定があっても高圧則の安全衛生規制は解除されない。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 高気圧作業安全衛生規則第38条(健康診断:6月以内ごとに1回)・第41条(病者の就業禁止)、第15条(呼吸用ガスの分圧の制限)・減圧に関する規定(第18条等)、第12条の2(作業計画)。なお平成27年4月施行の改正で旧別表(気圧別の作業時間表・標準減圧表)は削除され、現在は分圧制限・酸素ばく露量・減圧時間の管理で規制している。就業禁止(第41条)は医師が必要と認める期間就業させてはならず、本人同意で解除できない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。