衛生管理者 関係法令(有害業務) 問52:有機溶剤中毒予防規則(有機則)・衛生設備
有機溶剤中毒予防規則(有機則)が定める有機溶剤業務を行う作業場の衛生設備に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア有機溶剤業務を行う屋内作業場には、洗眼・洗身・うがいのための設備を設けなければならない。
- イ有機溶剤業務を行う作業場には、有機溶剤等の蒸気を排出するための全体換気装置または局所排気装置を設置しなければならないが、第3種有機溶剤等のみを使用する作業場では全体換気装置のみで足りる場合がある。
- ウ有機溶剤業務を行う屋内作業場において、労働者は休憩・食事を当該作業場内で行ってもよいが、飲食の際には保護具を着用しなければならない。正答
- エ有機溶剤業務を行う作業場内またはその近隣に、有機溶剤等に汚染された作業衣を着替えるための更衣設備を設けることが、事業者の努力義務とされている場合がある。
- オ有機溶剤業務を行う事業者は、当該有機溶剤等を入れてあった空容器で有機溶剤の蒸気が発散するおそれがあるものについて、その容器を密閉するか、または屋外の一定の場所に集積しておかなければならない。
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誤りはウです。有機溶剤業務を行う屋内作業場では、「保護具を着用すれば飲食してよい」のではなく、作業場内での飲食・喫煙は禁止されています(安衛則第628条)。有機溶剤は揮発して蒸気となり、飲食・喫煙によって体内に取り込まれる危険があるため、作業場内での飲食自体が禁止です。保護具を着用しても飲食の許可にはなりません。
各正しい記述: ア→洗眼・洗身・うがい設備等の設置(安衛則第625条の洗浄設備等)。イ→第3種有機溶剤のみの場合に全体換気で可となる例外あり。エ→更衣設備の設置(条件による)。オ→空容器の密閉または屋外集積義務は有機則第36条の規定。
有機溶剤業務における飲食・喫煙の禁止(最重要):
有機溶剤業務を行う作業場での飲食・喫煙の禁止は、有機溶剤の揮発性(蒸気の発生)と経口・吸入毒性に基づく規制です。有機溶剤蒸気は粘膜・消化管から吸収され、中枢神経系・肝臓・腎臓への毒性を示します。
| 禁止事項 | 根拠 | ポイント |
|---|---|---|
| 作業場内での飲食 | 安衛則第628条 | 保護具着用でも不可(飲食自体が禁止) |
| 作業場内での喫煙 | 同上 | 煙草を口にする行為は有機溶剤摂取リスクあり |
| 有機溶剤等が付着したまま作業場外へ | 保護具・保護衣の使用義務と連動 | 二次汚染防止 |
有機則の主要衛生設備(各選択肢の正誤と根拠):
- ア(正): 洗眼・洗身・うがい用の設備(流水設備)の設置は安衛則第625条(洗浄設備等)により求められます(皮膚・眼への有機溶剤飛散時の緊急洗浄に必要)。
- イ(正): 有機則の換気設備は有機溶剤の区分と作業場の種類によって要件が異なります。第3種有機溶剤(毒性が最も低い)のみを使用する場合は、一定の条件下で全体換気装置による対応が認められる場合があります。
- ウ(誤): 作業場内での飲食は「保護具着用でも禁止」であり、「保護具を着用すれば飲食可」という解釈は誤りです。
- エ(正): 有機溶剤に汚染された作業衣を作業場外に持ち出さないための更衣設備については、有機則・安衛則の要求事項があります(詳細は条件による)。
- オ(正): 有機則第36条により、有機溶剤等を入れてあった空容器で蒸気が発散するおそれのあるものは密閉するか屋外の一定の場所に集積する義務があります(空容器内の残留蒸気による中毒防止)。
【理論的背景】
有機溶剤業務における衛生設備の規定は、有機溶剤の曝露経路(吸入・経皮・経口)に対応した多層的な防護体制を実現するための法的枠組みです。工学的対策(局所排気装置・換気設備)が第一防護線、保護具(防毒マスク・保護手袋・保護衣)が第二防護線、そして飲食禁止・洗浄設備・更衣設備等の衛生管理が第三防護線として機能します。
有機溶剤の主要な曝露経路と衛生設備の対応:
- 吸入(最重要経路): 換気設備(局所排気・全体換気)・呼吸用保護具で対応
- 経皮吸収(有機溶剤の皮膚透過): 保護衣・保護手袋・洗浄設備(皮膚洗浄)で対応
- 経口(作業後の手洗いなしでの飲食): 飲食・喫煙禁止・洗身設備で対応
飲食禁止規定(安衛則第628条)の適用範囲:
- 禁止場所: 有機溶剤等を取り扱う屋内作業場またはその設備の周辺
- 禁止行為: 飲食・喫煙(保護具着用の有無にかかわらず禁止)
- 事業者の義務: 禁止の周知・禁止場所の明示(表示等)・休憩室の設置推奨
- 労働者の義務: 飲食前に作業場を離れる・手洗い・うがいの実施
【実務・条文構造】
有機則の主要衛生設備一覧:
局所排気装置・プッシュプル型換気装置(有機則第4〜5条):
- 第1・第2種有機溶剤使用の屋内作業場: 設置義務(原則)
- 第3種有機溶剤: 密閉設備または全体換気装置で代替可の場合あり
- 定期自主検査(1年以内ごとに1回)・点検記録3年間保存義務
洗浄設備(安衛則第625条):
- 設置場所: 有害物等を取り扱う作業場またはその付近
- 内容: 洗眼・洗身(シャワー等)・うがい用の設備
- 目的: 有機溶剤の皮膚・眼への接触時の迅速な洗浄(化学熱傷・吸収防止)
- 洗眼設備は眼への直接飛散リスクがある作業場で特に重要(容器注入・塗布等)
空容器の管理(有機則第36条):
- 対象: 有機溶剤等を入れてあった空容器で蒸気発散のおそれがあるもの
- 措置: 密閉(蓋・栓をして蒸気発散を防ぐ)または屋外の一定の場所に集積
- 禁止: 空容器を開放状態で作業場内に放置すること
更衣設備:
- 有機溶剤による汚染作業衣を着替えるための設備
- 設置義務・努力義務は使用する有機溶剤の区分・量・作業形態によって異なる
タンク内作業の追加規制(有機則第24〜26条):
- 密閉空間(タンク内・坑内等)での有機溶剤業務は特別に厳しい規制
- 送気マスクの使用義務(防毒マスク使用禁止)・内部の事前測定・立入禁止措置
【試験での位置づけ】
有機則の衛生設備問題では「飲食禁止(保護具着用でも不可)」「空容器の密閉または屋外集積義務」「洗眼・洗身・うがい設備の設置義務」が頻出です。特に「保護具着用で飲食可」という誤り選択肢は、「保護具=万能な対策」という誤解から生じる典型的なミスです。有機溶剤が食品・飲料に溶け込む可能性・経口摂取のリスクを理解すれば、飲食禁止の趣旨が明確になります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 洗眼設備は有機溶剤の眼への飛散時に15分間以上の連続洗浄ができる設計(ANSI基準等の国際基準では毎分1.5L以上の水量)が望ましいとされています。眼は皮膚よりも有機溶剤を吸収しやすく、一部の有機溶剤(例: ジメチルスルホキシド・DMSO)は眼からの全身吸収経路にもなります。
- ウ: 「保護具を着用すれば飲食可」という誤解を招く状況として、「作業場を離れず昼食を取るために保護具(手袋等)を付けたまま食べる」という行為があります。これは保護具の外側に付着した有機溶剤・その蒸気・二次汚染が食品に混入するリスクがあるため禁止です。飲食は作業場を離れ、保護具を外し、手洗い・うがいを行った後に実施する必要があります。
- エ: 更衣設備の整備は、有機溶剤に汚染された作業衣を通勤・家庭に持ち込む「職場から家庭への汚染移動」(テイクホーム汚染)を防ぐ目的もあります。鉛業務や石綿除去作業では、テイクホーム汚染による家族(特に子供)への二次被害が報告されています。
- オ: 有機溶剤の空容器管理は、残留蒸気による中毒事故防止の観点から重要です。一見「空」に見える有機溶剤容器でも、内壁に液体が付着していたり、密度の高い蒸気が充満していたりするため、開放放置は危険です。密閉容器での集積・廃棄処理が義務付けられています。
【根拠法令】有機溶剤中毒予防規則第36条(空容器の処理:密閉または屋外集積義務)、労働安全衛生規則第625条(洗眼・洗身・うがい等の洗浄設備)・第628条(作業場における飲食・喫煙の禁止:保護具着用でも不可)
【補足】有機溶剤作業場での飲食禁止は「保護具着用でも不可」。空容器は密閉または屋外集積が義務。洗眼・洗身・うがい設備の設置義務あり。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 有機溶剤中毒予防規則第36条(空容器の処理:密閉または屋外集積)、労働安全衛生規則第625条(洗浄設備等:洗眼・洗身・うがい等の設備)・第628条(作業場における飲食・喫煙の禁止)。※有機則第34条は「労働者の保護具使用義務」であり飲食禁止の条文ではない。作業場内の飲食・喫煙禁止の一般的根拠は安衛則第628条。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。