衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問15:職業性疾病
酸素欠乏症および硫化水素中毒に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア酸素欠乏症等防止規則では、空気中の酸素濃度が18%未満の状態を「酸素欠乏」と定義しており、この状態での作業は「酸素欠乏危険作業」として管理される。
- イ第2種酸素欠乏危険作業は、酸素欠乏だけでなく硫化水素の発生・滞留のおそれがある場所での作業を含み、酸素欠乏症と硫化水素中毒の両方のリスクを管理する必要がある。
- ウ硫化水素(H₂S)は腐敗臭(腐卵臭)を持つ可燃性ガスであり、高濃度(100ppm以上)では嗅覚が麻痺して臭いを感じなくなるため、臭いがしないからといって安全であると判断することは危険である。
- エ酸素欠乏危険場所での酸素欠乏症防止措置として、空気中の酸素濃度・硫化水素濃度の測定が義務付けられており、酸素濃度が18%以上であることを確認した後に作業を開始すればよく、作業中の濃度変化の確認は義務付けられていない。正答
- オ酸素欠乏危険場所でのレスキュー(救助)活動に際しては、レスキュー者も酸素欠乏症のリスクがあるため、必ず給気式(送気マスク・空気呼吸器等)の呼吸用保護具を着用し、防じん・防毒マスクのみでの救助活動は行ってはならない。
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誤りはエです。酸素欠乏危険場所での作業においては、作業前の測定だけでなく、作業中も継続して酸素濃度(および硫化水素濃度)を確認することが重要です。酸欠則では、作業前の測定に加えて、必要に応じて作業中の監視・測定が求められており、「作業開始前の確認だけで十分で作業中の変化確認は不要」という記述は誤りです。地下工事・タンク内等では作業開始後に酸素濃度が急変することがあります。
ア(酸素欠乏の定義18%未満)・イ(第2種危険作業の定義)・ウ(硫化水素の嗅覚麻痺)・オ(救助者も給気式保護具が必要)はすべて正しい内容です。
酸素欠乏危険作業の区分:
| 区分 | リスク | 作業主任者 | 測定対象 |
|---|---|---|---|
| 第1種危険作業 | 酸素欠乏のみ | 酸素欠乏危険作業主任者 | 酸素濃度(18%以上を確認) |
| 第2種危険作業 | 酸素欠乏+硫化水素中毒 | 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者 | 酸素濃度+硫化水素濃度(10ppm以下を確認) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 酸欠則第2条第1号の定義として正確。酸素濃度18%未満=酸素欠乏の法的定義。
- イ(正): 第2種危険作業(酸欠則第2条第8号)は酸素欠乏+硫化水素のリスクを含む。汚水槽・腐敗有機物がある場所・下水道等が対象。硫化水素の管理濃度は10ppm(酸欠則)。
- ウ(正): 硫化水素は低濃度(0.02〜0.2ppm)で「腐卵臭」を感じるが、高濃度(100ppm以上)では嗅神経が麻痺して臭いを感じなくなる。「臭いがないから安全」という誤解が事故の原因になる。即死レベルは1000ppm以上。
- エ(誤): 酸欠則では作業前の測定(第3条)のほか、作業中の換気・濃度変化への対応も求められています。「作業中の確認は義務付けられていない」は不正確です。特に酸素濃度は地下タンク・鉱山・密閉空間等では作業中に急変することがあり、継続的な監視が実務上の安全対策として不可欠です。
- オ(正): 酸欠危険場所での救助では救助者も酸欠になるリスクがあり、防じん・防毒マスクは酸素供給能がないため使用禁止。送気マスクまたは空気呼吸器が必須です。二次被害防止(救助者の連鎖中毒)のための重要な規則です。
【理論的背景】
酸素欠乏症は、密閉・半密閉空間での作業中に突然意識を失い転落・死亡するという重篤な労働災害を引き起こす疾患です。酸素欠乏症の恐ろしい特徴は「即時性と不可逆性」にあり、酸素濃度6%以下では数秒以内に意識を失うため、逃げる時間的余裕すらありません。また、酸欠危険場所で倒れた仲間を助けようとした救助者が次々と酸欠症で死亡するという「二次災害(連鎖死亡)」が多く発生しており、救助者の保護具着用が特に強調されています。
酸素濃度と症状の関係:
- 21%(通常大気): 正常
- 18%未満: 酸素欠乏(法的定義)・軽度症状の発現が始まる
- 16%: 頭痛・吐き気・初期症状
- 14%: 判断力低下・ふらつき・逃げられなくなる可能性
- 10%: 意識障害・けいれん
- 6%以下: 即時意識消失・数分で死亡
硫化水素(H₂S)の濃度と症状:
- 0.02〜0.2ppm: 腐卵臭を感じる(低濃度でも臭い)
- 1〜5ppm: 不快感・眼の刺激
- 50ppm: 気道刺激
- 100ppm以上: 嗅覚麻痺(臭いを感じなくなる)
- 500〜700ppm: 急速な意識消失・呼吸停止(Lightning knock-down)
- 1000ppm以上: 即時死亡
嗅覚麻痺の危険性: 低濃度では臭いで気づけるが、高濃度になるほど嗅神経が麻痺して臭いを感じなくなります。そのため「臭いがしなくなったら高濃度で危険」というパラドックスが生じます。
【実務・条文構造】
酸欠則の主要規定(詳細):
事前測定の義務(第3条):
- 作業開始前に酸素濃度(必要に応じ硫化水素濃度)を測定
- 測定結果の記録・3年間保存
作業中の措置:
- 換気(純酸素を使った換気は禁止・清浄な外気による換気)
- 酸素欠乏危険場所の出入り管理(入場者の氏名・人数の確認)
- 作業主任者による監視・連絡体制の確保
- 異常時の退避・救助体制の確立
作業主任者の選任義務(安衛令第6条第21号・第21号の2):
- 第1種危険作業: 酸素欠乏危険作業主任者技能講習修了者
- 第2種危険作業: 酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習修了者
- 職務: 濃度測定の指揮・保護具の点検・作業方法の決定・連絡体制の確保
給気式保護具の使用義務:
- 酸欠危険場所での作業・救助: 送気マスク(ホース・エアラインマスク)または自給式空気呼吸器(SCBA)
- 防じん・防毒マスク: 酸欠場所では使用禁止(酸素を補給できないため)
酸欠危険場所の例(酸欠則別表第6):
- 第1種: タンク・ボイラー・圧力容器の内部、暗きょ・マンホール、地下室・地下ピット等
- 第2種(硫化水素も管理): 腐敗・発酵有機物がある地下・下水道・汚水槽・浄化槽等
【試験での位置づけ】
酸欠問題の最頻出は「酸素欠乏の定義(18%未満)」「第1種(酸欠のみ)vs第2種(酸欠+硫化水素)の区分」「硫化水素の嗅覚麻痺(100ppm以上で臭いがしなくなる危険)」「救助者も給気式保護具が必須(防毒マスクは不可)」「硫化水素の管理水準(10ppm)」の5点です。エのような「作業前の確認だけで十分・作業中の監視は不要」という誤りは「測定義務は開始前のみ」という誤解を利用した引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 酸素濃度18%という閾値は、国際的にも広く採用されているOSHA(米国職業安全衛生局)等の基準値と一致しています。18%未満では頭痛・倦怠感・判断力低下が始まる可能性があります。なお「酸素欠乏」の対義語として「正常酸素濃度」は20.9%(大気中の酸素濃度)です。
- イ: 第2種危険作業の代表的な場所として下水道・汚水槽があります。有機物の嫌気性分解によって硫化水素が発生し、同時に酸素が消費されるため、酸欠と硫化水素中毒の複合リスクが生じます。下水道工事・浄化槽清掃等の業種では定期的な酸欠・硫化水素中毒防止の教育が重要です。
- ウ: 硫化水素の「嗅覚麻痺」による事故の典型例: マンホール内での作業中、最初は腐卵臭を感じていたが突然臭いがしなくなったため「安全になった」と判断して保護具を外した→実際は高濃度化していたため意識を失った。このような事例から「臭いがなくなったら危険」という逆説的な認識が重要です。
- エ: 酸素濃度の継続的監視の必要性: 作業開始前は18%以上でも、作業中に①有機物の分解(酸素消費)・②換気の停止・③地下水の湧出(酸素の追い出し)等により急速に濃度が低下することがあります。固定式ガス検知器の設置・定期的な携帯式検知器による確認が実務的な安全対策です。
- オ: 酸欠による二次災害(連鎖死亡)は全酸欠死亡災害の約半数に関係するというデータがあります。仲間が倒れるのを見て「急いで助けなければ」という心理から素手・無防備で救助に向かい、次々と倒れるという悲惨な事例が繰り返されています。「まず保護具を着用してから救助」という原則の徹底が最重要です。
【根拠】酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)第2条(定義)・第3条(測定)・別表第6(危険場所一覧)。医学的事実(硫化水素の嗅覚麻痺・酸素濃度と症状の関係)。
【補足】エ(誤): 作業中の濃度監視も必要(作業前測定のみでは不十分)。酸素欠乏=18%未満。第2種=酸欠+硫化水素(10ppm超)。救助者も給気式保護具必須。硫化水素高濃度で嗅覚麻痺→「臭いなし=安全」は危険な誤解。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)第2条・第3条・第5条等。酸素欠乏の定義・危険作業区分・測定義務は酸欠則に準拠。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。