衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問34:局所排気装置・保護具
有害物質の拡散防止を目的とした換気装置(局所排気装置・全体換気装置)の選択と管理に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア全体換気装置は、有害物質の発生源から排出された物質を作業場全体の清浄な外気で希釈するものであり、毒性の強い物質・大量に発生する物質・作業者が発生源に密着して作業する場合にも、局所排気装置の代替として適切に使用することができる。
- イ局所排気装置は、有害物質が作業場全体に拡散する前に発生源でフードにより吸引・捕集する方式であり、全体換気装置に比べて少ない風量で効率よく有害物質を除去できる点が最大の特長である。正答
- ウ全体換気装置による必要換気量(Q)は、有害物質の単位時間当たりの発生量(W)を安全係数(K)で割り、さらにその値を作業環境中の許容濃度(C)で割ることで算出され、発生量が多いほど・許容濃度が低いほど換気量は少なくて済む。
- エ局所排気装置に設置する空気清浄装置は、排気口の最も上流側(フードに最も近い位置)に設置することで、汚染された空気を最初に清浄化してから排風機・排気口に送る構成が標準とされている。
- オ全体換気装置の排気口と給気口の配置において、給気口と排気口を作業場の対角線上に離して配置すると短絡(ショートサーキット)が生じて換気効率が著しく低下するため、給気口と排気口はできる限り隣接させて配置することが換気効率の観点から望ましい。
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正しいのはイです。局所排気装置は有害物質が発生源から作業場へ拡散する前にフードで捕集する方式であり、発生した有害物質を作業場全体に広げず発生源で除去できるため、全体換気装置と比べて少ない風量で効率よく有害物質を管理できます。これが局所排気装置の最大の利点です。
各誤りの要点:ア→全体換気は毒性の強い物質・大量発生・発生源密着作業には不適切(この条件では局所排気が義務)。ウ→必要換気量の計算は「発生量が多いほど・許容濃度が低いほど多く必要」(少ないは逆)。エ→空気清浄装置の設置位置は「フードに最も近い位置」ではなく排風機(ファン)の手前(上流)が正確。オ→短絡(ショートサーキット)を防ぐには給排気口を対角線上に離して配置するのが正しく、「隣接配置が望ましい」は逆の誤り。
局所排気装置と全体換気装置の特性比較:
| 比較項目 | 局所排気装置 | 全体換気装置 |
|---|---|---|
| 原理 | 発生源でフードが有害物質を捕集・排出 | 作業場全体の外気で有害物質を希釈 |
| 必要風量 | 少ない(発生源限定の捕集) | 多い(作業場全体を換気) |
| 毒性の強い物質 | 適切(使用義務がある場合が多い) | 不適切(高毒性物質は局所排気が義務) |
| 大量発生の場合 | 有利(発生源で除去できる) | 不利(換気量が膨大になる) |
| 発生源密着作業 | 適切(フードを密着配置) | 不適切(作業者が汚染空気を吸入する危険) |
| 設備コスト | 高い(ダクト・排風機・清浄装置等) | 低い(給排気ファンのみ) |
| 適用例 | 高毒性物質・局所発生源がある場合 | 低毒性物質・広範囲に発生する場合 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 全体換気の代替が不適切な条件は「毒性が強い物質・大量発生・発生源密着作業」の3つ。これらでは局所排気装置が義務(有機則・特化則で規定)。全体換気は低毒性・少量発生・広範囲に分散した発生源の場合に適用する。
- イ(正): 「少ない風量で効率よく有害物質を除去できる」という局所排気の特長として正確な記述。
- ウ(誤): 必要換気量Q = W×K÷C(W:発生量・K:安全係数・C:許容濃度)。発生量Wが多いほどQは多く必要・許容濃度Cが低いほどQは多く必要(分子が大→Q大、分母が小→Q大)。「少なくて済む」は逆。
- エ(誤): 局所排気装置の標準的な配置はフード→ダクト→空気清浄装置→排風機(ファン)→排気口の順。空気清浄装置は排風機の上流(手前)に設置する。これは汚染物質が排風機を通過して劣化・腐食するのを防ぐためと、汚染空気をきれいにしてから大気へ排出するため。「排気口の最も上流側(フードに最も近い位置)」という記述は正確ではなく「排風機の手前(上流)」が正確であるため、エは誤りです。
- オ(誤): 短絡(ショートサーキット)は給気がそのまま排気口に吸い込まれて作業場全体に行き渡らない現象であり、給気口と排気口を隣接させると起こりやすくなります。これを防ぐには給排気口を対角線上に離して配置するのが正しく、オの「対角線配置で短絡が生じるため隣接配置が望ましい」は因果が逆転した誤りです。
【理論的背景】
換気設計の基本原則は「有害物質を最短経路で作業者から引き離し、最小の風量で最大の除去効率を実現する」ことにあります。局所排気装置がこの原則の理想的な実現形であり、全体換気装置は「局所排気では対応できない広範囲の汚染」に対する次善策として位置付けられます。工業衛生の教育では「局所排気を優先し、全体換気は補助的に使用する」という設計の優先順位が基本原則です。
全体換気の必要換気量の算出(詳細):
理論式: Q = (W × K) / C
- Q: 必要換気量(m³/min)
- W: 有害物質の発生量(mg/minまたはmL/min)
- K: 安全係数(実際の換気がパーフェクトな希釈でないことを補正する係数: 通常K=3〜10)
- C: 許容濃度または管理濃度(mg/m³またはppm)
発生量が多い・K(不均一係数)が大きい・許容濃度が低い(つまりCが小さい)場合に必要換気量は増大します。例えば管理濃度20ppmのトルエン(分子量92・25℃換算すると1ppm=3.76mg/m³)が1L/時間蒸発する場合、許容濃度を使って換気量を計算すると膨大な換気量が必要になることが分かります。
局所排気装置の空気清浄装置の設置位置(詳細):
フード→ダクト→空気清浄装置→排風機(ファン)→排気口という順序の意味:
- 空気清浄装置を排風機の上流(手前)に置く理由①: 有害物質を含む汚染空気が排風機の羽根・ケーシングに接触して腐食・劣化するのを防ぐため
- 空気清浄装置を排風機の上流に置く理由②: 排風機の排気側(上流よりも圧力が高い側)の気密を保つ必要がなくなり、設計が容易になる
- 例外: 爆発の危険性がある有害物質(引火性ガス等)では、火花を生じる可能性があるモーター・排風機が汚染空気に接触しないよう「排風機を上流・清浄装置を下流」にする設計が安全上適切な場合がある(この例外は試験でも問われることがある)
【実務・条文構造】
全体換気装置の法令上の適用場面(有機溶剤中毒予防規則の例):
全体換気が認められる条件(有機則第3条ただし書等):
- 有機溶剤の消費量が少ない(労働省告示の換算消費量計算で一定量以下)
- タンク等の内部以外の屋外作業等
- 第3種有機溶剤のみを使用する業務の一部
局所排気装置が義務付けられる条件(有機則):
- 屋内作業場での第1種・第2種有機溶剤の取扱い(消費量が一定以上の場合)
- タンク・船倉等の内部での有機溶剤業務
局所排気装置の定期自主検査(有機則第20条・特化則第30条等):
- 局所排気装置・プッシュプル型換気装置は1年以内ごとに1回の定期自主検査が義務
- 検査結果の記録は3年間保存(特定化学物質は5年保存)
換気効率(ショートサーキットの防止):
換気の有効性は「完全混合モデル」と「実際の気流パターン」の差として評価されます。完全混合モデルは「換気量が同じなら有害物の濃度は均一に低下する」という理想モデルですが、実際には気流の短絡(ショートサーキット:給気が直接排気口に流れる)が生じると換気効率が低下します。短絡は給気口と排気口が近接している場合に起こりやすく、防止には「給排気口を対角線上に離して配置する」「気流を作業者の呼吸域を通過させる設計」が重要です。選択肢オはこの関係を逆に述べた誤りです。
【試験での位置づけ】
全体換気・局所排気の選択問題の最頻出は「局所排気の利点(少ない風量で効率的な除去)」「全体換気が不適切な3条件(高毒性・大量発生・発生源密着)」「必要換気量の計算式の方向性(発生量多い・許容濃度低い→換気量多い)」「空気清浄装置の位置(排風機の上流・前)」の4点です。アのような「全体換気でも代替できる」という誤りは「全体換気が手軽な代替手段に見える」という実務経験のない誤解を利用した引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 全体換気の限界が明確に現れる例: 有機溶剤(例:トルエン)消費量が1時間に500mL(中程度の塗装作業)の場合、管理濃度50ppm(許容値として使用)でK=5として必要換気量を計算すると数百m³/minという膨大な量になります。これは実際の工場換気で達成できる量をはるかに超えるため、局所排気装置が不可欠です。
- ウ: 必要換気量計算の実例: 発生量W=100mg/min・安全係数K=5・許容濃度C=20mg/m³の場合、Q=100×5÷20=25m³/minとなります。Cを半分(10mg/m³)にすると必要換気量は2倍の50m³/minになります。「許容濃度が低い(厳しい基準)の物質ほど換気量が多く必要」という直感的理解と計算式の対応を確認することが重要です。
- エ: 空気清浄装置の種類と適用: 排じん装置(サイクロン・バグフィルター・電気集じん器等)は粉じん系・ヒューム系の有害物質に適用し、ガス・蒸気系には吸収・吸着(スクラバー・活性炭吸着装置等)を使用します。使用する有害物質の形態(粒子かガスか)によって清浄装置の種類が選択されます。
- オ: 工場の換気設計における気流管理の実例: 熱加工(溶接・鋳造)では熱上昇気流を利用して上部から排気するキャノピー型設計が有効。化学品取扱いフロアでは「清浄区域から汚染区域への気流方向(清浄→汚染方向に気流を向ける)」という空気の流れの方向制御が重要です。
【根拠】工業衛生工学(確立した換気工学)・有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則。必要換気量の計算式(Q=W×K/C)・局所排気装置の構成要素の配置順序・ショートサーキット防止は工業衛生工学の確立した知識。
【補足】イ(正): 局所排気装置は少ない風量で効率よく有害物を除去できる(全体換気との最大の差)。ア(誤): 全体換気は高毒性・大量発生・発生源密着では不適切。ウ(誤): 発生量多い・許容濃度低い→換気量は多く必要(少なくて済むは逆)。エ(誤): 空気清浄装置は排風機の手前(上流)に設置(フードの最近傍ではない)。オ(誤): 短絡防止には給排気口を対角線上に離して配置するのが正しい(隣接配置は逆の誤り)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 工業衛生工学(確立した換気工学の知識)・有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則。局所排気装置の優位性・全体換気の必要換気量計算・空気清浄装置の位置(ファンの前)・ショートサーキット防止は確立した工業衛生工学の知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。