問題
有害物質の拡散防止を目的とした換気装置(局所排気装置・全体換気装置)の選択と管理に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
キーボード:1〜5で選択・Enterで次へ
答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正しいのはイです。局所排気装置は有害物質が発生源から作業場へ拡散する前にフードで捕集する方式であり、発生した有害物質を作業場全体に広げず発生源で除去できるため、全体換気装置と比べて少ない風量で効率よく有害物質を管理できます。これが局所排気装置の最大の利点です。
各誤りの要点:ア→全体換気は毒性の強い物質・大量発生・発生源密着作業には不適切(例: 有機則第5条は第一種・第二種有機溶剤等の屋内作業に密閉設備・局所排気装置・プッシュプル型換気装置を求め、全体換気装置を認めていない)。ウ→必要換気量の計算は「発生量が多いほど・許容濃度が低いほど多く必要」(少ないは逆)。エ→空気清浄装置の設置位置は「フードに最も近い位置」ではなく排風機(ファン)の手前(上流)が正確。オ→短絡(ショートサーキット)を防ぐには給排気口を対角線上に離して配置するのが正しく、「隣接配置が望ましい」は逆の誤り。
局所排気装置と全体換気装置の特性比較:
| 比較項目 | 局所排気装置 | 全体換気装置 |
|---|---|---|
| 原理 | 発生源でフードが有害物質を捕集・排出 | 作業場全体の外気で有害物質を希釈 |
| 必要風量 | 少ない(発生源限定の捕集) | 多い(作業場全体を換気) |
| 毒性の強い物質 | 適切(設置義務がある場合が多い) | 不適切(有機則第5条等は密閉設備・局所排気装置・プッシュプル型換気装置を求める) |
| 大量発生の場合 | 有利(発生源で除去できる) | 不利(換気量が膨大になる) |
| 発生源密着作業 | 適切(フードを密着配置) | 不適切(作業者が汚染空気を吸入する危険) |
| 設備コスト | 高い(ダクト・排風機・清浄装置等) | 低い(給排気ファンのみ) |
| 適用例 | 高毒性物質・局所発生源がある場合 | 低毒性物質・広範囲に発生する場合 |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 全体換気の代替が不適切な条件は「毒性が強い物質・大量発生・発生源密着作業」の3つ。法令でも、有機則第5条は屋内作業場等の第一種・第二種有機溶剤等の業務に、発散源を密閉する設備・局所排気装置・プッシュプル型換気装置のいずれかを求めている。全体換気は低毒性・少量発生・広範囲に分散した発生源の場合に適用する。
- イ(正): 「少ない風量で効率よく有害物質を除去できる」という局所排気の特長として正確な記述。
- ウ(誤): 必要換気量Q = W×K÷C(W:発生量・K:安全係数・C:許容濃度)。発生量Wが多いほどQは多く必要・許容濃度Cが低いほどQは多く必要(分子が大→Q大、分母が小→Q大)。「少なくて済む」は逆。
- エ(誤): 局所排気装置の標準的な配置はフード→ダクト→空気清浄装置→排風機(ファン)→排気口の順。空気清浄装置は排風機の上流(手前)に設置する。これは汚染物質が排風機を通過して劣化・腐食するのを防ぐためと、汚染空気をきれいにしてから大気へ排出するため。「排気口の最も上流側(フードに最も近い位置)」という記述は正確ではなく「排風機の手前(上流)」が正確であるため、エは誤りです。
- オ(誤): 短絡(ショートサーキット)は給気がそのまま排気口に吸い込まれて作業場全体に行き渡らない現象であり、給気口と排気口を隣接させると起こりやすくなります。これを防ぐには給排気口を対角線上に離して配置するのが正しく、オの「対角線配置で短絡が生じるため隣接配置が望ましい」は因果が逆転した誤りです。
【理論的背景】
換気設計の基本原則は「有害物質を最短経路で作業者から引き離し、最小の風量で最大の除去効率を実現する」ことにあります。局所排気装置がこの原則の理想的な実現形であり、全体換気装置は「局所排気では対応できない広範囲の汚染」に対する次善策として位置付けられます。工業衛生の教育では「局所排気を優先し、全体換気は補助的に使用する」という設計の優先順位が基本原則です。
全体換気の必要換気量の算出(詳細):
理論式: Q = (W × K) / C
- Q: 必要換気量(m³/min)
- W: 有害物質の発生量(mg/minまたはmL/min)
- K: 安全係数(実際の換気がパーフェクトな希釈でないことを補正する係数: 通常K=3〜10)
- C: 許容濃度または管理濃度(mg/m³またはppm)
発生量が多い・K(不均一係数)が大きい・許容濃度が低い(つまりCが小さい)場合に必要換気量は増大します。例えばトルエン(管理濃度20ppm、日本産業衛生学会の許容濃度50ppm=188mg/m³)が1L/時間蒸発する場合、許容濃度を使って換気量を計算すると大きな換気量が必要になることが分かります(試算は下の【各選択肢の発展補足】ア)。
局所排気装置の空気清浄装置の設置位置(詳細):
フード→ダクト→空気清浄装置→排風機(ファン)→排気口という順序の意味:
- 空気清浄装置を排風機の上流(手前)に置く理由①: 有害物質を含む汚染空気が排風機の羽根・ケーシングに接触して腐食・劣化するのを防ぐため
- 法令上の規定: 有機則第15条第1項は、局所排気装置に空気清浄装置が設けられているときは、排風機を「清浄後の空気が通る位置」に設けなければならないとしています。ただし、吸引された有機溶剤の蒸気等による爆発のおそれがなく、かつ、ファンの腐食のおそれがないときは、この限りでないとされています(特化則第7条第3号も同趣旨)。
【実務・条文構造】
全体換気装置の法令上の適用場面(有機溶剤中毒予防規則の例):
有機則の設備の規定:
- 第5条: 屋内作業場等で第一種有機溶剤等又は第二種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行うときは、発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設ける(全体換気装置は含まれない)
- 第6条第1項: タンク等の内部で第三種有機溶剤等に係る有機溶剤業務(吹付けによるもの等を除く)を行うときは、密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を設ける
- 第6条第2項: タンク等の内部で吹付けによる第三種有機溶剤等に係る有機溶剤業務を行うときは、密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設ける
局所排気装置の定期自主検査(有機則第20条・特化則第30条等):
- 局所排気装置・プッシュプル型換気装置は1年以内ごとに1回の定期自主検査が義務
- 検査結果の記録は3年間保存(有機則第21条・特化則第32条)
換気効率(ショートサーキットの防止):
換気の有効性は「完全混合モデル」と「実際の気流パターン」の差として評価されます。完全混合モデルは「換気量が同じなら有害物の濃度は均一に低下する」という理想モデルですが、実際には気流の短絡(ショートサーキット:給気が直接排気口に流れる)が生じると換気効率が低下します。短絡は給気口と排気口が近接している場合に起こりやすく、防止には「給排気口を対角線上に離して配置する」「気流を作業者の呼吸域を通過させる設計」が重要です。選択肢オはこの関係を逆に述べた誤りです。
【試験での位置づけ】
全体換気・局所排気の選択問題の最頻出は「局所排気の利点(少ない風量で効率的な除去)」「全体換気が不適切な3条件(高毒性・大量発生・発生源密着)」「必要換気量の計算式の方向性(発生量多い・許容濃度低い→換気量多い)」「空気清浄装置の位置(排風機の上流・前)」の4点です。アのような「全体換気でも代替できる」という誤りは「全体換気が手軽な代替手段に見える」という実務経験のない誤解を利用した引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 全体換気の必要換気量の試算例: トルエン(比重0.866)を1時間に500mL消費する場合、発生量は約7,200mg/minです。日本産業衛生学会の許容濃度50ppm(188mg/m³)を許容値として使い、K=5とすると、Q=7,200×5÷188≒190m³/minとなります。なお、トルエンの管理濃度(作業環境測定結果の評価に用いる値)は20ppmで、許容濃度とは別の値です。
- ウ: 必要換気量計算の実例: 発生量W=100mg/min・安全係数K=5・許容濃度C=20mg/m³の場合、Q=100×5÷20=25m³/minとなります。Cを半分(10mg/m³)にすると必要換気量は2倍の50m³/minになります。「許容濃度が低い(厳しい基準)の物質ほど換気量が多く必要」という直感的理解と計算式の対応を確認することが重要です。
- エ: 空気清浄装置の種類と適用: 排じん装置(サイクロン・バグフィルター・電気集じん器等)は粉じん系・ヒューム系の有害物質に適用し、ガス・蒸気系には吸収・吸着(スクラバー・活性炭吸着装置等)を使用します。使用する有害物質の形態(粒子かガスか)によって清浄装置の種類が選択されます。
- オ: 工場の換気設計における気流管理の実例: 熱加工(溶接・鋳造)では熱上昇気流を利用して上部から排気するキャノピー型設計が有効。化学品取扱いフロアでは「清浄区域から汚染区域への気流方向(清浄→汚染方向に気流を向ける)」という空気の流れの方向制御が重要です。
【根拠】工業衛生工学(確立した換気工学)・有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則。必要換気量の計算式(Q=W×K/C)・局所排気装置の構成要素の配置順序・ショートサーキット防止は工業衛生工学の確立した知識。
【補足】イ(正): 局所排気装置は少ない風量で効率よく有害物を除去できる(全体換気との最大の差)。ア(誤): 全体換気は高毒性・大量発生・発生源密着では不適切。ウ(誤): 発生量多い・許容濃度低い→換気量は多く必要(少なくて済むは逆)。エ(誤): 空気清浄装置は排風機の手前(上流)に設置(フードの最近傍ではない)。オ(誤): 短絡防止には給排気口を対角線上に離して配置するのが正しい(隣接配置は逆の誤り)。
- 有機溶剤中毒予防規則第5条・第15条・第20条・第21条e-Govで原文を読む
- 特定化学物質障害予防規則第7条・第30条・第32条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 工業衛生工学(確立した換気工学の知識)・有機溶剤中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則。局所排気装置の優位性・全体換気の必要換気量計算・空気清浄装置の位置(ファンの前)・ショートサーキット防止は確立した工業衛生工学の知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

