衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問35:職業性疾病
じん肺に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アじん肺は、粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とした疾病であり、じん肺の種類には珪肺(石英含有粉じんによる)・石綿肺(石綿繊維による)・炭素肺(炭素粉じんによる)等がある。
- イじん肺管理区分は管理1(じん肺所見なし)から管理4(高度のじん肺所見・合併症あり等)まで分類され、管理4と判定された労働者は療養を要するものとして、就業の継続が原則として制限される。
- ウじん肺の合併症としてじん肺法施行規則で定められているものには、肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸・原発性肺がんの6種類がある。
- エじん肺管理区分が管理3に指定された労働者には、じん肺法に基づき1年以内ごとに1回の定期健康診断(じん肺健診)の実施が義務付けられている。
- オじん肺は粉じん曝露を中止しても病変が進行する場合があるが、適切な治療と管理によって完全に回復(寛解)させることが可能であり、就業禁止措置を継続する必要はない。正答
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誤りはオです。じん肺は「一度発症すると粉じん曝露を中止しても病変が進行し続ける不可逆性の疾病」であり、「適切な治療で完全に回復(寛解)させることが可能」という記述は誤りです。現在の医学ではじん肺を根治する治療法は存在せず、酸素療法・呼吸リハビリテーション等の対症療法のみが行われます。じん肺の進行性・不可逆性は最重要の医学的事実です。
ア(じん肺の定義と種類)・イ(管理4の療養)・ウ(合併症6種類)・エ(管理3は年1回健診)はすべて正しい内容です。
じん肺管理区分別の定期健診頻度:
| じん肺管理区分 | 内容 | 定期健診の頻度 |
|---|---|---|
| 管理1 | じん肺所見が認められない | 3年以内ごとに1回(粉じん業務従事中) |
| 管理2 | じん肺所見あり・経過観察でよい | 3年以内ごとに1回 |
| 管理3イ | じん肺所見あり・軽度(軽快の見込みあり) | 1年以内ごとに1回 |
| 管理3ロ | じん肺所見あり・中程度 | 1年以内ごとに1回 |
| 管理4 | 著しいじん肺所見・合併症がある場合等 | 随時(状態に応じた健診) |
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): じん肺法第2条の定義に基づく。珪肺(石英粉じん)・石綿肺(アスベスト)・炭素肺(コークス・炭素)のほか、溶接工肺(溶接ヒューム)も含まれる。「線維増殖性変化を主体とした疾病」という定義が重要。
- イ(正): 管理4(高度じん肺所見)と判定された者はじん肺法第22条等に基づき「療養を要する者」として管理される。粉じん業務からの配置転換・療養が求められる。
- ウ(正): じん肺の合併症はじん肺法施行規則第1条として6種類が定められている: 肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸・原発性肺がん。これらが「合併症」として認められると、別途補償の対象となる。なお、じん肺法第2条第1項第2号は合併症を「厚生労働省令で定めるもの」と委任しており、具体的な6疾病は同施行規則第1条で列挙されている。
- エ(正): 管理3(イまたはロ)は1年以内ごとに1回の定期健診が義務付けられる(管理1・2は3年以内ごと)。
- オ(誤): じん肺の不可逆性・非治癒性は確立した医学的事実。粉じん曝露中止後も肺内に残存した粉じん粒子により慢性的な炎症・線維化が持続する。「完全に回復させることが可能」は誤り。
【理論的背景】
じん肺(pneumoconiosis)は「粉じん吸入による肺の線維化」を本態とする職業性疾病の代表です。じん肺が不可逆性である根本的な理由は、吸入された粉じん粒子(特に遊離珪酸:石英SiO₂)が肺マクロファージに貪食された後もマクロファージを傷害・壊死させ、粒子が遊離して次のマクロファージに貪食されるというサイクルが延々と継続するためです。このサイクルによる慢性炎症が肺の線維化を引き起こし続け、曝露が終わっても肺内に残存した粒子が炎症を持続させます。
じん肺の種類と原因粉じんの詳細:
- 珪肺(silicosis): 最も重要・最も多い。遊離珪酸(石英SiO₂)を10%以上含む粉じんへの曝露が原因。採石・採掘・トンネル工事・陶磁器製造・鋳型造型等が高リスク作業。急速進行型(暴露濃度が極めて高い場合に数年で発症する珪肺)と慢性型(長期低濃度曝露)がある。
- 石綿肺(asbestosis): 石綿繊維の吸入による。珪肺より潜伏期が長い。悪性中皮腫・肺がんとの合併が問題。
- 溶接工肺(siderosis): 酸化鉄・マンガン等の金属酸化物ヒュームへの曝露。画像上の変化は目立つが、純粋な鉄粉じんによる線維化は比較的軽度とされる。
- 炭素肺(anthracosis): 石炭粉じんへの曝露。炭鉱夫肺炎とも呼ばれる。
珪肺と結核の関連:
珪肺と肺結核の合併(珪肺結核)は特に注意が必要です。珪肺患者は肺マクロファージ機能が低下しているため結核菌への抵抗性が低く、健常者より数倍高い結核発症リスクを持ちます。この「合併症」としての肺結核がじん肺法で規定されている理由です。
【実務・条文構造】
じん肺法の主要条文構造:
じん肺の定義(じん肺法第2条):
- 第1項第1号: じん肺の定義(粉じんを吸入して生じた線維増殖性変化を主体とした疾病)
- 第1項第2号: 合併症の定義(厚生労働省令で定めるもの=じん肺法施行規則第1条の6種類)
健診の種類(じん肺法第3〜7条):
- 就業時健診(第3条): 粉じん業務に就業させようとする際(採用時・配置転換時)
- 定期健診(第4条): 現に粉じん業務に従事する者(管理区分別の頻度)
- 定期外健診(第5条): 管理区分3以上の者が転勤・配置転換する場合等
- 離職時健診(第6条): 粉じん業務に一定期間従事して離職する際(申請による)
- 行政機関指示健診(第7条): 都道府県労働局長等が必要と認める場合
管理区分と就業制限・措置:
- 管理1・2: 粉じん業務への就業継続可(管理1は制限なし・管理2は健康管理の強化)
- 管理3: 「粉じん障害防止のための措置」として配置転換等が望まれるが義務ではない
- 管理4: 療養を要するとして、粉じん業務からの配置転換・療養が事業者に義務付けられる
補償制度(労災保険・じん肺法):
じん肺の補償は「じん肺法」と「労働者災害補償保険法(労災法)」の両方が関与します。じん肺管理区分に応じた「療養補償給付」「傷病補償年金」「障害補償給付」等が適用されます。合併症(6種類)を発症した場合は、じん肺法上の合併症として追加補償の対象となります。
【試験での位置づけ】
じん肺問題の最頻出は「じん肺の不可逆性・非治癒性(完治しない・曝露中止後も進行する)」「管理区分(1〜4)と定期健診頻度(管理1・2=3年ごと・管理3=1年ごと)」「合併症6種類(肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・気管支拡張症・気胸・肺がん)」「珪肺が最も多い(遊離珪酸が主要原因)」の4点です。オのような「完全に回復可能」という誤りは、「じん肺は治る」という誤解を誘発する最重要の引っかけパターンです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: じん肺の特異的な画像所見として「粒状影(小粒状影・大陰影)」「不整形陰影」が挙げられ、胸部X線写真・CT検査で診断されます。じん肺管理区分の判定もX線所見(ILO分類またはじん肺法分類)に基づいて行われます。「じん肺所見」の客観的評価のためにX線写真の読影が重要です。
- イ: 管理4に該当するとじん肺補償給付の対象となります。事業者は管理4と判定された労働者を粉じん業務に就業させてはならず(じん肺法第22条)、療養のための配置転換・休業が義務付けられます。管理4は「療養を要する状態」として最も重篤な区分です。
- ウ: 原発性肺がんが合併症に追加されたのは比較的近年(2003年のじん肺法施行規則改正・2003年6月施行)で、じん肺(特に石綿肺・珪肺)と肺がんとの関連が主な理由です。合併症の6種類は「感染系(肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症)」「気胸(続発性気胸)」「悪性疾患(原発性肺がん)」と分類すると記憶しやすいです。
- エ: じん肺の定期健診の頻度は「管理区分が悪いほど頻繁」という原則です。管理3(軽度〜中程度のじん肺所見あり)の1年ごと健診は、病変の進行・合併症の早期発見が目的です。管理4は「随時」(状態に応じて必要な健診)とされていますが、実際には療養中の継続的な医療管理の中で行われます。
- オ: 不可逆性疾患の管理において最も重要なのは「1次予防(曝露防止)」であり、発症後の治療は根治を目指すものではなく「症状管理・QOLの維持」が目標となります。じん肺患者の予後は合併症の有無・重篤度に大きく依存し、珪肺結核・肺がん等の合併症が生命予後を大きく悪化させます。
【根拠】じん肺法(昭和35年法律第30号)第2条(定義)・第3〜7条(健診の種類と頻度)・第22条(管理4の就業制限)・じん肺法施行規則第1条(合併症の6種類)。じん肺の不可逆性・非治癒性は確立した医学的事実(職業医学的事実)。
【補足】オ(誤): じん肺は完治しない(不可逆進行性疾患・根治療法なし)。管理3=1年以内ごと健診・管理1・2=3年以内ごと健診。合併症6種類(じん肺法施行規則第1条)=肺結核・結核性胸膜炎・続発性気管支炎・続発性気管支拡張症・続発性気胸・原発性肺がん。管理4=療養・粉じん業務就業禁止。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: じん肺法(昭和35年法律第30号)第2条・第3条〜第7条・第22条等・じん肺法施行規則第1条(合併症の6種類)。じん肺の定義・管理区分・定期健診区分はじん肺法に、合併症の6種類はじん肺法施行規則第1条に規定。じん肺の不可逆性は確立した医学的事実。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。