労働衛生(有害業務)37第一種職業性疾病

衛生管理者 労働衛生(有害業務) 問37:職業性疾病

振動による健康障害(振動障害)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 局所振動障害(手腕振動症候群)は、チェーンソー・削岩機・グラインダー等の振動工具の使用により手や腕に振動が伝達されて生じる職業性疾患であり、末梢循環障害・末梢神経障害・運動機能障害を主な症状とする。
  • レイノー現象(白ろう病の症状の一つ)は、寒冷または振動刺激によって手指の末梢血管が強く収縮し、手指が白くなる(蒼白化)発作的な症状であり、振動障害の特徴的な所見として特殊健康診断でも重視される。
  • 振動障害(白ろう病)は、振動工具の使用を中止することによって症状が急速に改善・消失し、数か月以内に完全に回復する可逆性の疾患として知られている。正答
  • 全身振動障害は、運転席・立ち作業台等で全身が振動に曝露される作業(建設機械・農業機械・トラックの運転等)と関連し、腰痛・脊椎障害・内臓への影響が主な健康障害として報告されている。
  • 振動障害に係る特殊健康診断の検査項目には、振動感覚閾値測定(手指の振動に対する感覚の敏感度評価)が含まれており、末梢神経障害の早期発見に活用される。
正答:振動障害(白ろう病)は、振動工具の使用を中止することによって症状が急速に改善・消失し、数か月以内に完全に回復する可逆性の疾患として知られている。

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誤りはウです。振動障害(白ろう病・手腕振動症候群)は、振動工具の使用を中止しても症状が「急速に改善・数か月以内に完全回復する」とは言えません。振動障害は進行性で治癒困難な疾患であり、特に末梢循環障害(レイノー現象)や神経障害の重篤なものは振動曝露中止後も改善が限定的・不完全なことが多く、完全回復が困難な場合があります。「急速に改善・数か月で完全回復」という表現は誤りです。

ア(局所振動障害の症状三主徴)・イ(レイノー現象の定義)・エ(全身振動障害と腰痛・脊椎障害)・オ(振動感覚閾値測定)はすべて正しい内容です。

標準試験対策の基準レベル

振動障害の分類と健康影響:

| 種類 | 振動の伝達経路 | 対象作業 | 主な健康障害 |

|---|---|---|---|

| 局所振動障害(手腕振動症候群) | 手・腕→局所 | チェーンソー・削岩機・インパクトドライバー・グラインダー等 | レイノー現象・末梢神経障害・骨関節障害 |

| 全身振動障害 | 足底・臀部・腰→全身 | 建設機械・農業機械・トラック・バス運転等 | 腰痛・脊椎障害・内臓への影響(消化器等) |

白ろう病(職業性レイノー症候群)の症状段階:

| 段階 | 症状 | 特徴 |

|---|---|---|

| 初期 | 振動工具使用後のしびれ・冷感のみ | 自覚症状軽微 |

| 中期 | レイノー現象(白化発作)が寒冷時に出現 | 手袋・防寒対策が必要 |

| 進行期 | レイノー発作が頻繁・長時間化 | 日常生活への支障が出始める |

| 重篤期 | 振動がなくても発作・末梢神経障害が固定 | 回復困難・就労不能の場合も |

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 手腕振動症候群の三主徴(末梢循環障害・末梢神経障害・運動機能障害)として確立した知識。
  • イ(正): レイノー現象は寒冷または振動刺激が誘発因子となり、手指末梢動脈のスパズム(痙攣収縮)によって手指の蒼白化→チアノーゼ→発赤(回復)という三色変化が特徴的。白ろう病の最も重要な客観的所見。
  • ウ(誤): 振動障害は曝露中止後の回復が不確実。初期(しびれ・冷感のみ)は中止後に改善の余地があるが、進行した末梢循環・神経障害は回復が困難。「急速改善・数か月で完全回復」は誤り。
  • エ(正): 全身振動(WBV: Whole Body Vibration)の主要な健康影響は「慢性腰痛・椎間板障害」。建設機械・農業機械の操縦者・長距離トラック運転者での腰痛発生率の高さが疫学的に確認されている。
  • オ(正): 振動感覚閾値(VPT: Vibration Perception Threshold)は手指の振動に対する感覚閾値を測定し、末梢神経障害の程度を客観的に評価する。振動業務の特殊健診の必須検査項目の一つ。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

振動障害は日本では「白ろう病(はくろうびょう)」という通称で知られ、1960〜70年代の林業・土木業・採石業等で多数の患者が認定されました。チェーンソーや削岩機を長時間使用する作業者に集団的に発症したため、社会的に大きな問題となり、振動工具の規制・特殊健診義務付け等の対策が整備されました。現在でも建設業・製造業・造船業等での散発的発生が見られますが、過去と比較すれば減少しています。

局所振動が末梢血管を障害する機序:

  • 直接的機械的影響: 振動が血管壁に反復的な機械的ストレスを与え、血管内皮細胞の機能障害・平滑筋の過剰反応性を引き起こす
  • 交感神経系への影響: 振動刺激によって交感神経系が過活性化し、末梢血管収縮反応が亢進(寒冷刺激に対する過剰反応としてレイノー現象が生じる)
  • 内皮由来因子の変化: 血管拡張因子(NO等)と収縮因子(エンドセリン等)のバランスが崩れ、血管収縮優位の状態になる

レイノー現象の三色変化の生理学的説明:

  • 蒼白化(白): 末梢動脈のスパズムによる血流遮断→皮膚への酸素供給ゼロ→蒼白
  • チアノーゼ(紫・青): スパズム後に静脈血(脱酸素化血液)が停滞する段階→皮膚が紫〜青みがかった色
  • 発赤(赤): スパズムが解除されると血流が再開し、反応性充血(毛細血管拡張)→皮膚が赤くなる(回復相)

この三色変化は「レイノー三相」として知られており、診断的価値が高い特徴的な所見です。

振動障害の回復困難性(進行性の背景):

白ろう病が「完全回復が困難な疾患」である理由として、末梢血管壁の器質的変化(線維化・内膜肥厚等)と末梢神経軸索の変性が慢性化するためと考えられています。血管壁の器質的変化は振動曝露を中止しても「元の状態には戻らない」不可逆的な変化です。これはじん肺・騒音性難聴と同様に、慢性的な職業性疾患の共通した特徴(1次予防の重要性)を示しています。

【実務・条文構造】

振動業務の管理(振動障害予防に関する行政指導・安衛則):

振動業務の特殊健康診断(安衛則第590〜592条等・振動業務健康診断の実施):

  • 振動業務(チェーンソー・削岩機等の振動工具を使用する業務)に常時従事する労働者に対する健診
  • 雇入れ時・配置替え時・その後6か月以内ごとに1回
  • 必須検査項目: ①業務歴・既往歴・自覚症状(手指のしびれ・冷感等)・②末梢循環機能検査(寒冷負荷試験等)・③末梢神経機能検査(振動感覚閾値・痛覚閾値等)・④運動機能検査(握力等)・⑤上肢の骨・関節のX線検査等

振動工具使用時の管理基準:

  • 1日の振動工具使用時間(日振動暴露量)の管理:EAV(日振動暴露量の行動値)= 2.5m/s²・ELV(限界値)= 5.0m/s²(EUの基準を参考にした管理が推奨)
  • 休憩の確保:長時間連続使用を避け、定期的な休憩を設ける
  • 防振手袋の使用:振動を減衰させる防振手袋の使用が推奨(ただし全ての振動を遮断はできない)

業務上疾病認定基準(白ろう病):

労働基準法施行規則別表第1の2の「業務上の疾病」として振動障害が規定されており、認定に際しては「振動工具の使用業務への相当期間の従事」「末梢循環障害(レイノー現象等)または末梢神経障害・骨関節障害の所見」等が要件とされています。

【試験での位置づけ】

振動障害問題の最頻出は「レイノー現象(白ろう病)の定義(寒冷・振動刺激で手指が白くなる発作)」「局所振動vs全身振動の区別(局所=手腕・チェーンソー等・全身=建設機械・トラック等)」「振動障害の進行性(回復困難・不可逆性)」「三主徴(末梢循環障害・末梢神経障害・運動機能障害)」「振動感覚閾値測定が特殊健診の検査項目」の5点です。ウのような「数か月以内に完全回復」という誤りは、「振動工具の使用中止で症状が改善する(完全回復する)」という誤った楽観的イメージを利用した引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: チェーンソーが最も重要な振動源として知られているのは、国産チェーンソーの普及とともに日本の林業・造材業で多数の白ろう病患者が発生したことに由来します。1960〜70年代の林業労働者の訴訟(白ろう病訴訟)が多数提起され、国・企業の安全管理責任が問われた歴史があります。現在は防振設計のチェーンソー・使用時間管理・健診義務化等の対策が普及しています。
  • イ: レイノー現象の「寒冷誘発」という特徴が、温暖な季節には症状が出にくく・冬季に悪化するという季節性変動を生みます。このため「夏の検診では異常所見が出にくい」という問題があり、寒冷負荷試験(冷水に手を浸けてレイノー発作を誘発する検査)が診断補助として用いられます。ただし寒冷負荷試験は患者に苦痛を与えるため、倫理的・安全的配慮が必要です。
  • エ: 全身振動の健康影響を軽視する向きもありますが、建設機械オペレーターの慢性腰痛は職業性腰痛として重要な問題です。EU指令(物理的因子指令2002/44/EC)では全身振動の限界値(ELV: 1.15m/s²・8時間等価加速度)が設定されており、日本でも「振動障害防止対策」の観点から全身振動の管理が求められています。
  • オ: 振動感覚閾値(VPT)測定は「末梢神経の振動に対する感覚の鋭敏さ」を定量的に評価します。振動刺激を段階的に増加させて「感じ始める閾値」を測定し、正常値と比較して末梢神経障害の程度を判定します。VPTは年齢・指先の皮膚状態によっても変動するため、年齢補正した基準値との比較が重要です。

【根拠】職業医学的事実(確立した振動障害の知識)・安衛則第590〜592条(振動業務の健康診断)・振動障害の業務上の疾病認定基準(労働省通達)。レイノー現象・白ろう病の進行性・局所振動と全身振動の区別は職業医学の確立した知識。

【補足】ウ(誤): 振動障害は回復困難・不可逆性が強い(数か月で完全回復は誤り)。レイノー現象=寒冷・振動刺激で手指蒼白化発作。局所振動=手腕(チェーンソー等)・全身振動=腰椎・脊椎(建設機械等)。振動感覚閾値測定が特殊健診の検査項目。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 職業医学的事実(確立した振動障害の知識)・振動障害の業務上の疾病認定基準(労働省通達)・安衛則第590条等(振動業務の健康診断)。レイノー現象・振動障害の進行性・局所振動と全身振動の区別は確立した職業医学的事実。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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