問題
労働者災害補償保険法における業務災害の認定に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正答はイ(誤っている記述)です。
イは「使用者の管理下=業務遂行性が認められる→一律に業務災害」と短絡している点が誤りです。業務遂行性が認められても、災害の原因が私的行為や、業務に特有でない天災・地変等で業務起因性が否定される場合は、業務災害とは認定されません(労災法第7条第1項第1号の「業務上」の判断では、業務遂行性と業務起因性の両方が必要とされています)。
アが正しく、業務遂行性と業務起因性の二要件が必要です。ウは脳・心臓疾患の認定基準(令和3年9月改正後も維持)の目安、エはパワハラの心理的負荷評価表への明示(令和2年6月)、オは天災地変でも業務に特有の危険が現実化したなら業務起因性ありとする行政解釈どおりで、すべて正しい記述です。
業務災害認定の2要件(必須整理):
| 要件 | 内容 | 認められやすい状態 | 認められない例 |
|---|---|---|---|
| 業務遂行性 | 労働者が使用者の支配下または管理下にある状態 | 所定労働時間中・就業場所内 | 無断離脱・完全な私用中 |
| 業務起因性 | 業務と傷病・死亡の間に相当因果関係がある | 作業行為・付帯行為による負傷 | 私的行為・天災地変(業務特有危険の現実化でない場合) |
業務遂行性は「場所・時間・指揮命令下」で判断され、業務起因性は「その業務に内在・随伴する危険が現実化したか」で判断されます。両要件を満たして初めて業務災害と認定されます。
脳・心臓疾患と精神障害の認定基準:
- 脳・心臓疾患(過労死・令和3年9月改定):
- 発症前1か月:時間外労働おおむね100時間超(業務と発症の関連性が強い目安)
- 発症前2〜6か月:月平均おおむね80時間超
- 労働時間以外の負荷要因(勤務間インターバルが短い勤務、心理的負荷を伴う業務等)も総合評価
- 精神障害(ストレス評価):
- 令和2年6月:「業務による心理的負荷評価表」に「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を明示
- 令和5年9月の認定基準改正:「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」などの出来事を追加し、パワハラ6類型すべての具体例を明記
各選択肢の解説:
- ア(正): 業務遂行性と業務起因性の二要件は労災認定の根幹。条文に明示はないが行政実務・判例で確立。
- イ(誤・正答): 業務遂行性が認められても、業務起因性(業務との相当因果関係)が否定される場合(私的行為・業務特有でない天災等)には業務災害にならない。「原因を問わず一律」が誤り。
- ウ(正): 時間外労働の目安(100時間・80時間)は改正前から示されており、令和3年9月の改正後も「業務と発症との関連性が強い」と評価できる目安として変わっていません。
- エ(正): パワーハラスメントが「業務による心理的負荷評価表」の出来事として明示されました(令和2年6月)。「強」である例も示されています。
- オ(正): 天災・地変による災害でも、業務に特有の危険が現実化したと認められる場合は業務起因性が認められます(行政解釈)。
【業務起因性の判断構造:「業務に内在する危険の現実化」理論】
業務起因性(ぎょうむきいんせい)の判断は、「業務と傷病等との間に相当因果関係があるか」という問いへの答えです。実務・裁判例では「業務に内在・随伴する危険が現実化したと評価できるか」という基準で判断されます。
危険の現実化が認められやすいケース:
1. 作業行為そのものによる負傷(切削作業中の切り傷・重量物運搬中の腰痛)
2. 作業環境による健康障害(粉じん・有機溶剤・騒音・振動)
3. 長時間労働・心理的負荷の蓄積による脳・心臓疾患・精神障害
4. 通常の作業行為に付帯する行為(トイレへの移動途中の負傷等)
危険の現実化が否定されやすいケース:
1. 純粋な私的行為(作業と無関係の行動中の負傷)
2. 業務と関係のない個人的な基礎疾患の自然増悪
3. 天災地変(ただし業務特有の危険が現実化した場合は別途認定)
【過労死認定基準の変遷と令和3年改定の重要ポイント】
脳・心臓疾患の労災認定基準は改正を重ねており、現行は令和3年9月14日付けの基準(令和5年10月18日改正)です。
令和3年改正の4つのポイント(厚労省リーフレット「改正に関する4つのポイント」):
1. 長期間の過重業務は労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価: 発症前1か月おおむね100時間・2〜6か月平均で月80時間を超える時間外労働の目安は変わらず、この水準に至らなくても「これに近い」時間外労働に一定の労働時間以外の負荷要因が加われば、業務と発症との関連が強いと評価できることを明確化
2. 労働時間以外の負荷要因の見直し: 「休日のない連続勤務」「勤務間インターバルが短い勤務」「その他事業場外における移動を伴う業務」「心理的負荷を伴う業務」「身体的負荷を伴う業務」を追加・拡充
3. 短期間の過重業務・異常な出来事の明確化: 業務と発症との関連性が強いと判断できる例(発症直前から前日までの特に過度の長時間労働等)を提示
4. 対象疾病に「重篤な心不全」を追加
【精神障害の認定基準と2020年パワハラ追加】
精神障害(うつ病等)の業務起因性は「業務による心理的負荷評価表」に基づいて判断されます。
認定要件(3要件):
1. 認定基準の対象となる精神障害(ICD-10第V章)を発病していること
2. 発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
令和2年6月にパワハラが明示された意義:
- 令和2年6月の改正労働施策総合推進法の施行でパワハラの定義が法律に規定されたことを踏まえ、評価表に「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」を明示
- それまで「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」で評価していたものを、優位性の有無で「パワーハラスメント」と「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に振り分けて評価する
- 「強」である例として、治療を要する程度の暴行、人格や人間性を否定する精神的攻撃が執拗に行われた場合などが示された
令和5年9月の認定基準改正のポイント:
- 「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)と「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を出来事として追加
- パワハラ6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことを明記
- 業務外で発病していた精神障害の悪化について、労災認定できる範囲を見直し
【上位接続:社労士の業務と労災請求の代理】
社会保険労務士は、労災保険の請求や審査請求・再審査請求について代理することができます(社労士法第2条第1項第1号の3。特定社労士に限られる業務ではありません)。実務上の重要ポイント:
1. 時効: 療養補償給付・休業補償給付は2年、障害補償給付・遺族補償給付は5年(労災保険法第42条第1項)
2. 不支給決定への不服申立: 労働者災害補償保険審査官への審査請求→労働保険審査会への再審査請求(労災保険法第38条)。処分の取消訴訟は審査官の決定を経た後であれば提起でき、再審査請求を経る必要はありません(同法第40条)
3. 第三者行為災害との調整: 交通事故等で第三者(加害者)から損害賠償を受ける場合、労災保険給付との調整(求償・控除)が行われる(rousai_06で扱う論点)
4. 弁護士との役割分担: 行政不服申立(審査請求)は社労士業務だが、民事訴訟(使用者責任・安全配慮義務違反)は弁護士業務
- 労働者災害補償保険法第7条・第42条・第38条e-Govで原文を読む
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律e-Govで原文を読む
- 社会保険労務士法第2条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第7条(業務災害)、厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準」(令和3年9月14日付け・令和5年10月18日改正)・リーフレット「改正に関する4つのポイント」(R3.9)、「精神障害の労災認定基準に『パワーハラスメント』を明示します」(R2.6)、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)・リーフレット(R5.9)、e-Gov 労災保険法 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

