問題
労働者災害補償保険法における第三者行為災害(第三者の行為によって生じた業務災害または通勤災害)に関する次のア〜オの記述のうち、正しいものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
正答はア(正しい記述)です。
第三者行為災害では、被災者が先に第三者から損害賠償を受けた場合、政府は同一の事由(同じ損害項目)の範囲内で保険給付の額を控除できます(労災保険法第12条の4第2項)。これが「控除」の仕組みです。
イは誤りで、休業特別支給金(20%)は求償の対象外です。第12条の4が対象とするのは「保険給付」であり、特別支給金は社会復帰促進等事業(第29条)として支給されるものだからです。ウは誤りで、自賠責保険の支払額も同一事由の損害に対するものであれば控除対象になります。エは誤りで、政府が先に保険給付を行った場合も第三者への求償権を行使できます(法第12条の4第1項)。オは誤りで、保険給付を受けるべき者には第三者行為災害の届出義務(施行規則第22条)がありますが、届出がなければ保険給付を請求できないとする規定はありません。
第三者行為災害の調整メカニズム(2つのパターン):
パターン1:保険給付が先の場合(求償)
```
政府が保険給付(保険給付部分のみ)を実施
↓
政府は給付した額の限度で第三者に求償権を取得(法第12条の4第1項)
↓
第三者(加害者)←← 政府が求償
```
パターン2:損害賠償が先の場合(控除)
```
第三者が被災者に損害賠償を支払い
↓
政府は「同一事由の範囲内で」保険給付を控除(法第12条の4第2項)
↓
二重取りを防止(損害賠償と保険給付の合計が実損額を超えない)
```
特別支給金は求償・控除の対象外(第12条の4は「保険給付」が対象):
| 給付種別 | 第三者への求償対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 休業補償給付(60%) | 対象 | 保険給付(法第12条の4) |
| 障害補償給付・遺族補償給付 | 対象 | 保険給付 |
| 療養補償給付 | 対象 | 保険給付 |
| 休業特別支給金(20%) | 対象外 | 社会復帰促進等事業(第29条)= 保険給付ではない |
| 障害特別支給金 | 対象外 | 同上 |
各選択肢の解説:
- ア(正): 損害賠償が先の場合の「控除」の仕組みは法第12条の4第2項の通り。正しい。
- イ(誤): 特別支給金(20%部分)は保険給付でなく社会復帰促進等事業としての支給のため、第12条の4の求償対象外。
- ウ(誤): 自賠責保険の受取額も「同一事由」の損害賠償に該当すれば控除対象。保険の種別は問わない。
- エ(誤): 政府が先に給付した場合も第三者への求償権を持つ(法第12条の4第1項)。
- オ(誤): 保険給付を受けるべき者は、第三者行為災害の事実・第三者の氏名住所・被害の状況を遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければならない(施行規則第22条)が、届出が保険給付の請求の要件とされているわけではない。「届出なしに労災申請を行うことはできない」が誤り。なお厚生労働省は、正当な理由なく第三者行為災害届を提出しない場合は給付が一時差し止められることがあると説明しています(「労災保険給付の概要」)。
【第三者行為災害の法的構造:二重取り防止の仕組み】
第三者行為災害とは、業務上または通勤上の災害が、事業主以外の「第三者」(例:交通事故の加害者・同僚の故意行為等)の行為によって生じた場合です。この場合、被災者は次の2つの権利を同時に持ちます:
1. 労災保険給付を受ける権利(労働者として)
2. 民事損害賠償請求権(第三者に対して)
しかしこの二つを全額受け取ると、同一の損害が二重に填補されることになります。これを防止するため、法第12条の4が「求償(1項)・控除(2項)」の調整を規定しています。
【調整の「同一事由の範囲内」という限定の重要性】
調整(求償・控除)は「同一の事由」の損害に対するものに限定されます。
例えば交通事故の損害賠償では:
- 積極損害(治療費・入院費等)
- 休業損害(療養中の収入減少)
- 逸失利益(後遺障害・死亡により将来得られなくなった収入)
- 慰謝料(精神的苦痛)
このうち労災保険給付と「同一事由」で重なるのは治療費(療養補償給付)・休業損害(休業補償給付)・後遺障害や死亡による逸失利益(障害補償給付・遺族補償給付)等ですが、労災保険には慰謝料に相当する給付がないため、慰謝料は同一事由の調整対象から外れます。
示談交渉や損害賠償額の算定では、保険給付と同一事由の部分がどこかを確認したうえで残りの損害賠償額を決めることになります。
【求償権の性質】
政府が取得する求償権(法第12条の4第1項)は、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を「その給付の価額の限度で」取得するもの(代位取得)です。新たな権利を創設するのではなく、被災者の請求権が給付の価額の範囲で政府に移る点がポイントです。
【特別支給金が求償・控除の対象外とされる意義】
休業特別支給金は「社会復帰促進等事業」(法第29条)に基づく支給であり、保険給付ではないため、法第12条の4の求償・控除の対象に含まれません。判例も、特別支給金を損害賠償額から控除しないとしています。
実務上の影響:
1. 交通事故の示談金算定において、特別支給金(20%)は損害賠償から控除する必要がない
2. 被災者側は、労災保険給付60%を控除した残額を第三者に損害賠償として請求しつつ、特別支給金20%は別途受け取れる(実質80%相当の給付+慰謝料等)
3. 加害者の任意保険(対人賠償)との示談交渉では、特別支給金を除いた60%相当分のみが調整対象であることを明示することが重要
この区別は、社会保険労務士が交通事故による労災請求の手続を代理する(社労士法第2条第1項第1号の3)際の前提知識であり、損害賠償との調整計算の根幹をなします。
【第三者行為災害届と、労災保険・自賠責保険の先後】
第三者行為災害(特に交通事故)では、労災保険給付と自賠責保険等の支払のどちらを先に受けるかを被災労働者や遺族が選べ(厚生労働省「労災保険給付の概要」)、どちらを先に受けるかで適用される条文が変わります:
① 労災保険の給付が先:
政府が保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で被災者の損害賠償請求権を取得し、第三者(加害者)に求償します(法第12条の4第1項)。
② 自賠責保険・加害者からの賠償が先:
被災者が同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができます(同条第2項=控除)。
いずれの場合も、保険給付を受けるべき者は、その事実、第三者の氏名及び住所(わからないときはその旨)並びに被害の状況を、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(施行規則第22条)。
示談で損害賠償の内容を確定させると、同一事由の範囲で保険給付との調整(第12条の4第2項)に影響しうるため、示談の前に給付との関係を確認しておくことが重要です。
- 労働者災害補償保険法第12条の4e-Govで原文を読む
- 社会保険労務士法第2条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働者災害補償保険法第12条の4(第三者行為災害の求償・控除。対象は「保険給付」)・第29条(社会復帰促進等事業)、労働者災害補償保険法施行規則第22条(第三者行為災害の届出)、厚生労働省「労災保険給付の概要」(R8.7)「第三者行為災害について」 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和9年度(2027年度)試験に向けて2026年10月1日時点の現行法令の数値を反映(令和9年4月の法改正で変わる箇所は試験前に更新・数値確認日 2026-10-01)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。

