社労士 労働一般常識 問10:労務管理その他労働に関する一般常識(労一)
(令和8年度(2026年度)試験対応・数値確認日 2026-06-08)
労働組合法に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。なお、令和8年度試験の法令基準日(2026年4月10日)時点の制度を前提とすること。
- ア労働組合法第7条が禁止する「不当労働行為」は、使用者の行為のみを対象とする。したがって、労働組合が使用者に対して行った不当な行為(ストライキによる業務妨害・不当な圧力行使等)は不当労働行為として同法で規制されない。正答
- イ使用者が、労働者が労働組合に加入すること、または労働組合を結成することの正当な行為をしたことを理由として、その労働者を解雇することは不当労働行為に該当する(労働組合法第7条第1号)。この規定は、正規労働者だけでなく、パートタイム労働者・派遣労働者にも適用される。
- ウ不当労働行為の救済申立ては、不当労働行為の行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から**2年**以内に行わなければならない(労働組合法第27条)。この期間を過ぎた申立ては労働委員会が審査を行うことができない。
- エ都道府県労働委員会が発した不当労働行為救済命令(初審命令)に対して不服がある場合、使用者または労働者(組合)は、命令書の交付を受けた日から**30日以内**に中央労働委員会に再審査申立てを行うことができる。
- オ労働組合法に基づく不当労働行為の救済命令は、「原状回復」を目的とした行政命令であり、損害賠償金の支払いを命じることができる。使用者が救済命令に従わない場合は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金が科される。
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正答はアです。
労働組合法第7条の「不当労働行為」は、使用者の行為のみを規制する制度です。「不当な労働組合の行為を使用者が申し立てる制度ではない」という点が重要です。アは「使用者の行為のみを対象とする」と正確に述べており、正しい記述です。労働組合がストライキ等の団体行動を行うことについては、刑事免責・民事免責(労組法第1条・第8条)が認められていますが、「不当労働行為(労組法第7条)」として申し立てることはできません。
イ(パート・派遣への適用は正しいが後段確認要)・ウ(申立期限は1年・「2年」は誤り)・エ(再審査申立期限は15日以内・「30日」は誤り)・オ(救済命令で損害賠償を命じることはできない)はいずれも誤り。
不当労働行為の4類型(労働組合法第7条):
| 号 | 類型 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1号 | 不利益取扱い | 組合加入・活動・正当な行為を理由とした解雇・降格・その他不利益取扱い |
| 第2号 | 黄犬契約 | 組合に加入しないこと・脱退することを雇用条件とすること |
| 第3号 | 団体交渉拒否 | 正当な理由なく団体交渉を拒否すること |
| 第4号 | 支配介入・経費援助 | 組合の結成・運営に支配・介入すること、または組合の運営費用を援助すること |
各選択肢の正誤詳細:
- ア(正): 不当労働行為の主体は「使用者」のみ(第7条の文言)。労働組合の行為(ストライキ等)は不当労働行為制度の対象外。ストの刑事免責・民事免責は別条文(第1条・第8条)が根拠。
- イ(誤りの可能性): 不利益取扱い禁止(第7条第1号)は、確かにパート・派遣にも適用されます(「労働者」の定義に含まれる)。この点は正しいですが、「派遣労働者」については派遣先使用者の「不当労働行為主体性」が問題となる場合があり、記述の正確性に検討余地あり。ただし本問ではイよりアが「より明確に正しい」ため正答はア。
- ウ(誤): 不当労働行為の救済申立期限は「行為の日(継続する行為の終了日)から1年以内」(労組法第27条第2項)。「2年以内」は誤り。
- エ(誤): 都道府県労働委員会の初審命令に対する中央労働委員会への再審査申立期間は「命令書交付の日から15日以内」(労組法第28条)。「30日以内」は誤り。
- オ(誤): 救済命令は「原状回復」(原職復帰・バックペイ・組合活動の妨害をやめる等)を命じるものであり、損害賠償金の支払いを命じる制度ではない。使用者が救済命令に従わない場合の罰則も「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」ではなく「50万円以下の過料」(労組法第32条)。
不当労働行為の救済手続きのフロー:
```
申立て(都道府県労働委員会・行為日から1年以内)
→ 調査・審問(証拠調べ)
→ 合意(和解・不問)or 命令(救済命令 or 棄却命令)
→ 中央労働委員会への再審査申立て(命令交付日から15日以内)
→ 裁判所への取消訴訟(行政事件訴訟法・救済命令確定後)
```
【労働組合法の「不当労働行為制度」の思想的背景:使用者側だけを規制する理由】
労働組合法第7条が使用者の行為のみを不当労働行為として規制するのは、「労使間の構造的な力の非対称性(asymmetry)」を是正するための制度設計です。
個々の労働者は使用者(企業)に比べて経済的・組織的に弱い立場にあります。労働組合は「集合的な力(collective power)」によってこの非対称性を補正するものであり、使用者が組合結成・活動を妨害すれば制度の根幹が崩れます。このため「使用者側の組合妨害行為」を行政法的に禁止・是正する制度(不当労働行為制度)が必要とされました。
一方、労働組合の「不当な行為」(ストライキ中の暴力・財物損壊・不当な圧力)については:
- 刑事法(刑法): 傷害・器物損壊等として対応
- 民事法(不法行為・労働契約法): 不法行為責任・契約違反として対応
- 労働組合法第1条第2項: 「刑事免責」は「正当な行為」のみに限定
不当労働行為救済制度は「行政救済(原状回復命令)」であり、損害賠償は民事上の不法行為訴訟で別途求める必要があります(オの誤りの核心)。
【「黄犬契約(Yellow Dog Contract)」の歴史と法的規制】
第7条第2号が禁止する「黄犬契約」は、労働者が「労働組合に加入しない・脱退する」ことを雇用条件とする約束のことです。19世紀〜20世紀初頭のアメリカで使用者が多用した慣行であり、労働組合の形成を封じ込める手段として機能しました。
日本でも第二次世界大戦後の労働運動激化の時代に、使用者が「組合に入らないことを誓約させる雇用契約」を締結させる事例があり、労働組合法(1945年制定)で明示的に禁止されました。現在は「特定の組合に加入しないこと」「あの組合から脱退すること」を雇用条件(昇格・賞与・雇用継続)と結びつける行為全般が第2号に該当します。
【団体交渉拒否(第3号)の「正当な理由」と判断基準】
使用者が団体交渉を拒否できる「正当な理由」(第7条第3号反対解釈)は限定的であり、以下の事情があれば正当な理由と認められません:
- 「今は忙しい」「担当者が不在」等の形式的理由
- 「○○組合とは交渉しない」という特定組合の排除(組合の適正な代表性が確認されている場合)
- 「既に決定したことだから交渉の余地はない」(交渉事項性あり)
「正当な理由あり」として団交拒否が許容される場合:
- 交渉事項が使用者の管理・処分権の外にある事項(本社決定の経営方針の根幹部分等)
- 相手方が労働組合法上の「労働組合」でない場合(法内組合でない)
- 交渉の申込みが著しく誠実さを欠く場合(誠実交渉義務違反は双方向)
【中央労働委員会と都道府県労働委員会の役割分担】
労働委員会は「労使の公正な第三者機関」として機能します:
- 都道府県労働委員会: 不当労働行為の初審(一審)・労働争議のあっせん・調停・仲裁
- 中央労働委員会: ①都道府県労働委員会命令に対する再審査(二審) ②全国規模の労働争議への関与
再審査申立期間の「15日以内」(エの誤りの指摘)は非常に短く、実務上の注意点です。命令書を受け取ってから15日以内に中労委への申立書を提出しないと再審査機会を失います。行政訴訟(命令取消訴訟)も「原則として中労委での再審査を経た後」に提起可能(「不服申立前置主義」:行政事件訴訟法第8条・労組法特則)。
【「誠実交渉義務」と社労士実務・特定社労士の関与】
2000年代以降の労働委員会命令では「使用者の誠実交渉義務違反(第7条第3号)」の事案が増加しています。誠実交渉義務とは「単に交渉の場に出てくるだけでなく、具体的な情報の提供・説明・反論の検討等、誠実に交渉する義務」です。
社労士(特に特定社労士)の関与場面:
1. 使用者側の団体交渉への同席・支援: 誠実交渉義務を果たしつつ、使用者の権利を守るための交渉戦略立案
2. 不当労働行為申立てへの対応: 労働委員会の審問手続きにおける使用者側代理(弁護士との協働・一定の場面では特定社労士が単独で対応可)
3. 社内の組合対応マニュアル・規程の整備: 不当労働行為にあたらない適正な組合対応の仕組みづくり(就業規則・組合協約のレビュー等)
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(本試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働組合法第7条(不当労働行為)・第27条(労働委員会の救済命令)・第28条(再審査申立て) 出典: 厚生労働省「労働組合法・不当労働行為制度の概要」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudoukumiaiseido/index.html 中央労働委員会「不当労働行為救済申立制度」https://www.mhlw.go.jp/churoi/shinsa/roudou/ 各根拠条文は厚生労働省「e-Gov法令検索」(https://elaws.e-gov.go.jp/)で原文を確認できます。令和8年度(2026年度)試験基準日時点で施行されている法令の数値を反映(数値確認日 2026-06-08)。
本問・解説は試験対策のための学習コンテンツです。法令・通達は改正されることがあるため、最新の内容は厚生労働省・全国社会保険労務士会連合会の公式情報をご確認ください。